2008-11-12 〔第55話〕災害とコミュニティ放送について その10

これまで災害調査に現れなかった「コミュニティ放送局」は、新潟県三条市の水害「7.13災害」の調査においてその役割をはっきりと示しました。その後に発生した新潟県の二つの地震でも「コミュニティ放送局」は大活躍します。その反響を地震後行われた調査に見ることができます。前回に続き調査レポートします。
■ 新潟中越地震の調査に見るCFM局の活躍
◇ 「新潟中越地震」についての在京民放ラジオ8社合同調査から
東京にあるラジオ局8社が地震発生後約半年に行った調査があります。調査場所は被害の大きかった小千谷市と十日町市。調査方法は調査専門会社15名による対面によるアンケート調査。対象は20歳以上の男女、サンプル数211人。この調査によると次のような結果が出ています。
(a)テレビ 15.6% (b)ラジオ 71.6% (c)市・町の防災無線 0%
(b)テレビ 56.9% (b)ラジオ 71.6% (c)新聞 57.8%
このような結果がでいてます。地震発生前のラジオ聴取(ほぼ毎日聴取 36.0%)に対して地震発生後のラジオ聴取(ほぼ毎日聴取 71.6%)と2倍の聴取頻度となっています。また「どのようなラジオで聴取したか」については携帯型ラジオが46.3%、自分または家族の車のカーラジオが55.3%となっていることも注目に値します。中越地震は車の中で過ごす被災者が多いことで話題をまきましたが、調査でもそれを示しています。この調査は一般ラジオの接触ですが、「FMながおか」の臨時災害放送局が地震発生3日目、「十日町市災害FM」が5日目にそれぞれ放送開始していますので、この数字のなかには十分含まれていると受け止めていいと思います。
◇ 平成16年に新潟県中越地震に関する住民アンケート調査
これは、関係省庁、学識経験者がプロジェクトを編成して実施した「中山間地等の集落散在地域における地震防災対策に関する検討会」が住民アンケート調査を実施したもので、そのなかに災害情報の接触について調べています。この調査は地震後9ヶ月、小千谷市と川口町、山古志村(仮設住宅)に住む20歳以上の男女1000人(山古志調査は18歳以上)の世帯主、世帯主に準ずる人が対象としています。
- 〔地震が起こった日の夜、あなたはその知りたい情報を主に何から得ましたか〕
(a) カーラジオ 52.9%(小千谷市) 52.2%(川口町)
(b) 携帯ラジオ 32.8%(小千谷市) 25.5%(川口町)
(c) 近所の人たち43.6%(小千谷市) 52.9%(川口町)
- 〔地震が起こった夜、あなたは翌朝まで主にどこで過ごしましたか〕
(a) 車の中 68.2%(小千谷市) 57.5%(川口町)
(b) 市・町が指定した避難所の建物の中 6.3%(同) 3.0%(同)
(c) その他 17.9%(同) 35.9%(同)
かなり大きな調査ですが、特色はラジオ聴取は「カーラジオ」と「携帯ラジオ」が圧倒的に多い結果です。地震後は「車の中」の避難生活がいかに多いかをも示しています。
◇ 大震災における情報通信のあり方に関する検討会アンケート調査この調査は、総務省信越総合通信局が専門家を対象に行ったもので、座長を新潟大学工学部長の仙石正和教授が勤めています。標題の検討会の委員会には通信放送関係の人々で、CFM局ではFM雪国の山本安幸局長が参加しています。当検討会の調査は中越地震における運用実態を把握することを目的に実施され、CFM業界にとってもその実態と専門家の意見を伺うことができ注目されます。調査方法は2005年2月、放送通信に携わっている専門家、自治体、広域消防、放送事業者、電気通信/公共業務用免許人、など106人が対象です。一般生活者対象でない、専門家であるところが特色です。
当調査は専門家の立ち場から、災害発生時の連絡手段、情報収集手段、住民避難住民への広報手段などを調べたもので、CFMの立場からは住民避難民への広報手段に専門家は何を優先しているのか、が分ります。
- 〔住民・避難住民または利用者(電気・ガス・水道等への広報・連絡等に主に何を利用したか〕
(1)広報車 27% (2)防災行政無線 23% (3)コミュニティFM 11% (4)ラジオ 7% (5)テレビ 7% (6)ケーブルTV 7%
- 〔避難住民に対する広報手段として、(今後)どのような方法が良いとおもいますか〕
(1)防災行政無線 43% (2)コミュニティFM 16% (3)ラジオ 14% (4) テレビ 6% (5)ケーブルTV 5%
放送通信の従事者は、中越地震で住民・避難住民に活用したメディアは「広報車」が最も多く、次に「防災行政無線」3番目に「コミュニティFM」をあげています。また、今回の経験を通して今後取るべき方法としては「防災行政無線」が最も多く、2番目に「コミュニティFM」をあげています。中越地震における臨時災害放送局「FMながおか」「十日町市災害FM」の影響力がいかに大きかったか、専門家の受け止め方からも分ります。こうした調査から判断できることは、日頃CFM局が住民であるリスナーと放送を通じて交流を図り、その繋がりが「臨時災害放送局」の聴取に結びつき、災害情報をいち早く伝達できる、このあり方が貴重であることを証明しているといえます。
■ 検討会が提示した「臨時災害放送局のあり方」について
当検討会はまた次のような提示をしているところも注目されます。「災害時の円滑な情報流通を確保するために」という項目では、調査に基づいた問題課題の解決のために放送通信のあり方を提示しているなかに、CFM局に触れている箇所があります。
「新潟県中越地震で、自治体が臨時災害用FM放送局を開設、既存のコミュニティFM放送局と併せ、被災住民の貴重な情報源となった。特に発災当初は余震の続く中で、車への避難者が多かったことから、カーラジオで聴取できるラジオ放送が大きな役割を果たした。安否情報から避難場所、ライフラインの復旧状況や支援物資に関する情報などの生活関連情報まで市町村単位できめ細かな情報提供が実施された。」また「放送機材は特殊な設備であり調達には時間を要することから、被災地の自治体に貸与するための簡易型の臨時災害用FM放送局の放送機材を備蓄することは有効な防災対策だと考えられる。また、高齢者等の情報弱者の情報入手手段を確保する必要から、ラジオの備蓄も望まれる。」として次の点をあげています。
- 可搬型臨時災害用FM放送局設備
- 文字多重サービスに係る多重化装置等
- 受信機(AM/FM・テレビ)
- 備蓄主体:都道府県又は国の備蓄が望ましい なお、受信機は比較的安価であり、市町村や コミュニティFM局での対応も可能。
- 活用主体:市町村 運用操作についてはボランティアとして参加の、コミュニティFM放送局等経験者や市町村職員等。文字放送の番組制作は、情報については市町村、加工は放送事業者又はボランティア等。
「臨時災害用FM放送局設備貸与」に当たっての課題については、電波の免許にあたり、割当可能な周波数や出力が開設場所によって異なるため、自治体は早い時期に総務省総合通信局と打合せを行う必要性があること、また備蓄する受信機は周波数をセットした上で配布するといった準備が必要、としています。災害時のCFM局活用について、ここまで具体的な提示していることは、これまでなかったことで、臨時災害放送局あるいはCFM局の災害時における役割をはっきり示しているに注目したいと思います。ただし、CFM局の最大の課題である「災害放送」の運営に関する費用については全く触れていないのが残念です。
■ 「FMピッカラ」の活躍は調査以上の実例を示した!
新潟中越沖地震にける調査は新潟大学、長岡技術大学、京都大学、あるいは官公庁によるものなど沢山ありますが、災害発生時、住民が何を情報源として生命財産を守ったか、その情報ツールに関する調査はあまり見当たりあません。これから発表されるのかも知れませんが・・・。
さて、中越沖地震では、当ブログ〔第53話〕で紹介したように、柏崎市の「FMピッカラ」が「24時間」体制で41日間の「災害放送」を続け、市民から“命の綱”として頼りにされたほどです。この評価は、「FMピッカラ」で放送されたアーティストKOKIAさんの応援歌「私にできること」がCD化され数千枚販売されたこと(販売の窓口は「FMピッカラ」)、また自衛隊の協力があったとはいえ、「FMピッカラ」主催によるKOKIAさん出演の復興支援コンサートに3000人以上の市民が集まったという事実は、いかに「FMピッカラ」の「災害放送」が被災者に“心の支え”として聴かれたかを物語っています。
放送メディアであれ、活字メディアであれ、メディアは影響力がなければメディアではありません。影響録のないメディアはメディアではない、といえるでしょう。この中越沖地震では、「FMピッカラ」が中心となり、新潟県内のCFM局が協力し合って「災害放送」を実施しました。その成果が上述のように現われたことは、調査という手段よりも実際に聴いている人々が行動を起こしたという事実、このことこそメディアの影響力といえないでしょうか。
現在広域ラジオ・メディアが岐路に立たされています。レーティングという聴取率調査の低迷と提供スポンサーの減少です。今年の経営状況はかなり低迷し、赤字局が大幅に増えるものと予想されています。そういう現実にあって、放送した番組を聴き、放送局に問い合わせ、CD販売やコンサートに数千人が集まるという現象は、10万都市の柏崎市にあって、いかに大きな出来事か想像に難くありません。それがコミュニティ放送という地域メディアが成し遂げたのです。この成果は、CFM局にとって大きな財産であるとともに、コミュニティ放送時代を創り上げるためにも、多くのことを教えてくれるのではないでしょうか。(了)
2008-11-05 〔第54話〕災害とコミュニティ放送について その9

□ 調査にみる2つの新潟地震とCFM局の活躍そして課題
これまで、2つの新潟県内地震の「災害放送」行ったCFM局の活躍をレポートしてきました。この「災害放送」が被災者にどれだけ役立ったかについては、明確な判断材料がありません。NHKラジオ、民放広域ラジオなども「災害放送」を行っていますので、CFMに特化した資料はなかなか見出せません。そこで、今回はそれぞれの団体が行った災害調査資料をもとに、広域ラジオを含めた「ラジオ」の必要性、なかでもCFMの存在価値を見出せる資料を探ってみたいと思います。
10数年を経た阪神淡路の市街地はすでに再建されていますが、被災者の深い傷を思う時、震災の恐ろしさとともに減災に果たす情報伝達の不可欠なことを改めて思い知らされます。そして「ラジオ」が、災害の情報源として改めて必要不可欠な存在と認識されたのも、この大地震からではなかったでしょうか。民放連の音声放送委員会は大震災半年後「阪神大震災とラジオ〜震災放送の検証と提言」という冊子を発行しています。そのなかに各メディアの調査資料が掲載しています。
- 日本新聞協会調査〔震災後2ヶ月、男女300サンプル、場所は神戸市芦屋市〕によると「地震直後、一番最初に接触したメディア」では民放ラジオ37.3%、NHKラジオ30.3%、合計で68%に及ぶ。テレビは民放・NHK併せて18.6%と比べるといかにラジオを情報源にしていたかが分る。
- 毎日放送調査〔震災40日後、415人、阪急西宮駅ほか3ヶ所、街頭面接方法〕によると「地震後初めて接した情報ルート」ではラジオからが61.2%。
- 文化放送調査〔地震12日後、300人、神戸市内13ヶ所、個別面接法〕によると「地震後の情報源」では当日ラジオからが68.4%、2〜3日後ラジオからが78.9%、1週間後ラジオからが70.9%とほとんどの人はラジオから情報を得ている様子が分る。
- 朝日放送調査〔地震1ヶ月後、600サンプル、場所は神戸市芦屋市西宮市〕によると「地震に関する情報を一番最初に何から知ったか」では避難所でラジオ70.3%、被災地・自宅で68.8%となっている。ラジオの存在が高い。
- NHK調査〔地震26日後、498サンプル、神戸市ほか17ヶ所個人面接法〕によるとテレビ・ラジオの災害報道への評価をプラス/マイナス方法で調べたところ、「被災者が知りたいこと」項目でラジオのプラス評価37%、マイナス評価19%、それに比べてテレビのプラス評価22%、マイナス評価29%、ラジオ評価の高さを示している。
この時、兵庫県にコミュニティ放送局はなく、「臨時災害放送局〜FMフェニックス」が兵庫県に初めて免許され、被災者に放送されました。地震後1ヶ月の放送開始で、45日間の放送でした。この放送がどれほど利用されたかのデータはありませんが、番組編成をみると、被災地の各自治体情報、県掲載本部情報、避難所レポート、復旧関係者など各市、各町単位で情報が放送されていて、被災者に大きな役割を果たしたことが分
ります。広域ラジオの神戸放送は被災しながらの災害放送活動を高く評価されました。この時以来、災害におけるコミュニティ放送局の重要性が認識され、全国でコミュニティ放送開局ラッシュへと繋がります。
「災害とコミュニティ放送」に関する調査資料は非常に少なく、また発表されていないといっていい段階です。そのなかで、CFM局としてはじめての調査ではないか、と思われる資料があります。阪神大震災の後3ヶ月足らずで発生した「新潟北部地震」、その地域にあったのはCFM局「FM新津」です。そして2004年発生した新潟県の2つの災害(水害と地震)そして2007年の地震に関する調査資料、これらを取上げてみることにします。
1995年4月1日に発生した直下型地震「新潟北部地震」は、震源地を新津市東北約15キロ、地震規模は震源地付近が震度6の列震、新津市でも震度4強の揺れに襲われます。FM新津と新津市は連携を取り、災害情報を提供し、市民に高く評価されました。
市役所は地震直後電話による市民100人調査を実施しました。サンプルは無作為抽出で一般市民(5人)、ラジオ配布者(30人)、市役所職員(20人)、20才以上の男女が対象です。この調査によると、〔地震直後つけたメディア〕?テレビ43% ?ラジオ21% ?両方 35%、〔ラジオまたはTV・ラジオ両方と答えた内放送局の内訳〕?NHK4% 民放2% ?FM新津36% ?複数局13%となっています。また〔FM新津を選んだ理由〕では?いつも聞いているから21% ?地域の情報が分りそうだから19%で最も多くなっています。〔FM新津の地震情報は役に立ったか〕では?大変役立った36% まあ役立った12%で両方を併せると48%にのぼります。
「FM新津」は、新津市(現在新潟市と合併)の主導により開設されたCFM局だけに、当災害に関してすべての面で迅速に対応できたことが大きな効果をもたらしたものと思われます。ここで注目しておきたいのは、CFM局が放送開始した1992年12月、FM新津の放送開始は1994年7月で実質1年半後のこと、また電波出力の1Wという時期(現在上限20W)を考慮に入れると、FM新津と新津市の大変な努力が伺われます。100サンプルという調査ではありますが、災害時のCFM局の存在が評価された最初の調査ではないでしょうか。
この水害は通称「7.13水害」と呼ばれている災害で、2004年7月12日の夜から翌日にかけて新潟県中部から福島県会津地方を記録的集中豪雨をもたらしました。この豪雨により信濃川水系の5河川11箇所で決壊し、死亡者が出る大きな被害でした。災害発生2ヶ月半、廣井脩東大教授ら7名の専門家がプロジェクトを編成し、当災害の事態を明らかにするため調査を実施。そのなかに、災害情報伝達の分野に地元CFM局である「FMはーと」(燕三条FM放送株式会社)が、住民から高い評価を得ています。
調査名〔2004年7月新潟・福島豪雨水害における住民行動と災害情報の伝達〕です。
調査地域:三条市、見附市、中之島町のうち、床上浸水を受けた町丁。対象:20歳以上の男女900人。調査方法:個別面接聴取法。調査期間:2004年10月1日より。当調査は災害概要と問題の所在、災害状況、非難、情報ニーズ、通信、災害に対する意見など10項目に及んでいますが、そのなかで「情報」という項目に「災害当日に役立ったメディア」「災害発生から数日後に役立ったメディア」があり、注目に値する結果が記載されています。当ブログ「第49話」では、この調査について詳しく紹介していますので、ここでは主なことに留めます。
(a)NHKテレビ 32.5% 31.5% 58.2% 43.7%
(b)民放テレビ 24.7% 16.3% 42.3% 13.8%
(c)NHKラジオ 8.3% 8.1% 11.0% 3.4%
(d)民放ラジオ 5.4% 6.3% 4.9% 3.4%
(e)コミュニティ放送 9.9% 18.9% 0.5% 1.1%
(a)NHKテレビ 54.7% 44.4% 69.2% 56.3%
(b)民放テレビ 36.7% 31.1% 51.6% 22.0%
(c)NHKラジオ 8.3% 11.1% 7.1% 2.3%
(d)民放ラジオ 5.4% 7.8% 3.8% 1.1%
(e)コミュニティ放送19.1% 37.0% 0.5% 2.3%
豪雨災害と地震災害とは、災害の進行状況が異なります。それによって災害情報の入手方法も異なります。この豪雨災害で見ると、NHK、民放の両テレビの情報摂取が高く出ています。地震災害が突然発生、停電という経過を取る場合との違いでしょうか。そのなかで、ラジオからの情報摂取において、特徴的な状況が生まれていることは注目に値します。それは「コミュニティ放送局」のある地域とない地域の差が歴然としているとともに、自治体と連携した「コミュニティ放送局」のある地域と「コミュニティ放送局」のない地域では、情報摂取の違いが明確に生まれる結果となっています。
当調査では高く現れた三条市の「コミュニティ放送局」について、1つの項目を割いて分析しています。そのなかから引用しておきます。「この災害の調査で注目すべきなのは『コミュニティFMが役に立った』と回答した人が多かったことである。三条市で30.4%を占めている。」と前置きして〔FMはーと〕へのヒアリングから検証し、次のようにまとめています。
- 燕三条エフエム放送が市とあらかじめ防災協定を結んでいたので、市との協力体制や対応が迅速に行われたということ。
- スタッフが市の災害対策本部から直接情報を伝えたこと。それにより迅速かつ正確な情報を放送をすることができたのであろう。
- 市が割り込み放送を行うことができたこと。市が市民に対して緊急に伝えたい情報を速やかに伝えることができたからである。
- 燕三条エフエム放送聴取専用ラジオを配布したこと、専用ラジオを配布することで、日頃ラジオの接触率が低い人々に、ラジオへ接する機会を増やしたという効果がある。
また、当項目に「これまで東京大学の廣井研究室(災害と情報研究会)が行った近年の災害に関する調査において『役立ったメディア』について、たびたび質問を行っているが、これまで、『コミュニティFM放送が役立った』と回答した人が多かった例はほとんどなかったのである。」と記しています。災害時には地域メディア、特にCFM局の役割がどれほど大きいかを客観的に示された調査資料といえるでしょう。(了)
2008-10-30 〔第53話〕災害とコミュニティ放送について その8

阪神淡路大震災からラジオによる「臨時災害放送局」が設置され、被災者に直接被災情報を伝えることができるようになりました。それから10数年、地域密着ラジオである「コミュニティ放送」が急速に増加し、災害時の情報伝達手段として脚光を集め始めています。「コミュニティ放送」誕生以来、災害情報の伝え役として行政機関や研究者に注目を集めていましたが、ここ数年に起きた水害や震災に対する災害情報の伝達実績が、全国的に認められ始めています。そのCFMの実力は・・・。2007年起きた新潟中越沖地震と「FMピッカラ」の活躍を通して現状をレポートします。
■ 柏崎市の「FMピッカラ」が果たしたCFMの実力
2007年7月16日に発生した新潟中越沖地震から11日目、産経新聞はこう伝えています。「不安におののく被災者の心に、安心感を与えたのは、ラジオから流れてくる、いつものパーソナリティの声だった。地震発生直後から今月25日まで41日間にわたり、24時間体勢で災害放送を続けた柏崎コミュニティ放送『FMピッカラ』は、改めて災害時のコミュニティ放送局の大切さを教えてくれた。『FMピッカラ』の奮闘ぶりは、今後の日本の防災行政にも大きな教訓を残している。」
「FMピッカラ」は1995年6月、阪神淡路大震災後まもなく、柏崎市の有志と商工会議所が中心となり「自然災害や原発事故に対応できる情報の発信拠点をつくろう」との趣旨で開局したCFM局です。開局3週間目、大洪水の洗礼を受けます。当時の大矢局長は、避難勧告が出ている豪雨の地区にある川沿いを自転車で走り、携帯電話を片手に中継し、柏崎市が伝える「防災無線」より正確な情報を伝えました。柏崎市民はもとより自治体や市議会など、市内の多くの人から注目されるところになります。その後も度々災害情報を伝える機会があり、その経験が現在の災害情報をきめ細かく伝える体制に繋がりました。新潟中越地震では、自局の災害放送の傍ら「FMながおか」「十日町臨時災害放送局」に協力し、実践的災害放送を経験しました。中越沖地震ではその当事者として大きな役割を果したです。
まず、「FMピッカラ」が41日間24時間の災害放送を続けた体制について触れましょう。当局が災害発生から即座に災害放送を実施したことは、当ブログ「第50話」でご紹介した通りですが、スタッフ7名でこの期間放送を続けることはすべての面で難しいことでした。しかし、それができたのはこうした経験を積んでいたからでしょう。今回の災害放送ができた環境は、まず、これまでの柏崎市と連携が生き、災害対策本部からの情報を的確に伝えることができたこと、日頃連携を取っているライフラインの組織、企業からの情報提供、そして避難所の市民から情報収集できたこと、その上、自宅生活の一般市民からの貴重な情報も役立ちました。スタッフ全員被災者でありながら、不眠不休で放送に携わった姿勢は、やはり日頃から災害放送の体制と取り組んでいたからこそできた姿勢でしょう。放送局と市民であるリスナーとの交流、そして地域内の組織、団体との接触が図られていないと緊急体制に即応することはできません。「FMピッカラ」は、CFM局としてのあり方を実践してきた典型的な局です。もう一つは、CFM局の難しい課題をCFM局同士で協力し合い、解決したことも今回の災害放送の特色で、大きな意義を残しました。こうした事例を取上げて、「FMピッカラ」と協力CFM局の果たした役割を幾つかに分けてご紹介しましょう。
■ 少数スタッフを乗り越えた「FMピッカラ」の災害放送
「FMピッカラ」の成り立ちは、上述したように、柏崎市の有志と商工会議所を中心に開設した手作り放送局です。日本一小さな放送局と自認している局です。運営も番組制作ボランティア、営業ボランティア、広報ボランティアなど市民のボランティア活動により放送を継続されてきています。そうした10数年の実績が、少人数スタッフで“いざカマクラ”という災害時を乗り切る体制づくりできていたといえます。一方CFM局の必然ともいえる少人数スタッフの災害時対策も、CFM局間の協力によってか解決しています。こうした運営の事例を幾つかあります。
・中越地区CFM10局の協力による災害放送実現
「FMピッカラ」自身のこれまでの実績に加えて、中越地区10局の協力が中越沖地震の災害放送を可能にしたといえるほど具体的成果がありました。その協力の基本となった「緊急災害放送における相互支援協定書」ですが、それについては後述するとして、具体的な支援協力は次のようなものでした。
(a)臨時災害放送局の開設と放送実施
まず、「FMピッカラ」は、柏崎市における「臨時災害放送局」を開設しています。当ブログ〔第51話〕で詳しく取上げた通りですが、この開設には「FMながおか」スタッフによる全面的な協力がありました。「FMピッカラ」難聴地区である西山地区の解消のため、また刈羽原子力発電所も近隣にあり、情報伝達の必要性が高い場所でした。
この場所に「臨時災害放送局」を設置するための「電波の申請」「送信機、アンテナの設置」「電波強度の測定」など総務省総合通信局との手間のかかる作業があり、この分野を「FMながおか」の専門家が主に協力し、「柏崎市災害FM局」として開設できました。送信所は「FMながおか」所有の山頂にある小木の域無線局、周波数80.7Mz、出力10W、呼び出し名称は「柏崎市災害エフエム」でした。
(b)「災害放送」継続のためのCFM局連携
今回24時間災害放送を続ける体制として、上越地区のCFM局スタッフの協力がありました。地震発生より5日目以降11日間、「FMピッカラ」スタッフ7名に加え、FM上越、FMとおかまち、FMしばた、燕三条FM、FM雪国、FM新津など延べ17名の派遣スタッフがローテーションを組んで放送に参加し継続しました。災害時の情報提供は、災害から復興へ向けた被災地域全体の動きが活発となる時期が最も多忙な期間です。その時期を各局が最大限協力したわけです。当時の新潟日報の記事はこうに記載しています。「『FMピッカラ』を支援しようと南魚沼市『FMゆきぐに』など県内の地域FM局各局は21日、スタッフ派遣を始めた。FMピッカラによると、現在七人の社員が休むことなく地震関係の取材や放送を担い、体力的に限界にきているという。リスナーからの電話も殺到し、応対に手が離せなくなっている。今回の支援は、県内の地域FM局十局が三年前の中越地震を受けて結んだ相互支援協定に基づく処置。」
(c)ラジオ受信機の提供呼びかけと配布
「FM雪国」は協力協定でラジオ受信機の保管を担当していましたが、今回の地震ではこれまでの備蓄200台に加え、各局が呼びかけて集まった約1000台の提供に協力しました。日頃ラジオを聴いていない人々や聴いていても避難所に持ちさせなかった被災者には、大きな力となっています。またCFM局で構成されているJCBA(日本コミュニティ放送協会)も総力をあげて協力、参加局にラジオ拠出や義捐金などの呼びかけを行い、その成果を提供しています。
■ 上越地区10局による協定書について
「FMピッカラ」が中越地区CFM局の支援協力協定に基づいて「災害放送」を実施した主な内容は上記のようなものですが、この支援協力の基となったのが協力協定書です。これは2004年の「新潟中越地震」に遡ります。「FMながおか」が中心となり、各局の支援協力した「災害放送」のノウハウを、今後の災害放送に生かしていこうとJCBAの「信越地区協議会」が検討し、協定書として実を結んだものです。参加局は10局。最初は「FM雪国」「FMながおか」「FMながおか」「ラヂオは〜と」「FMしばた」「FMにいつ」「FM KENTO」「FM−J」「ほかほかラジオ」の9局でしたが、その後開局した「FMとおかまち」が加わり10局となります。協定書の内容は7条から成っていて、要点は次の3点です。
- 緊急事態に備えての放送機器の余力調査。これは各局から余力機材の登録一覧を作成し、災害時に役立てようというもの。
- 人的支援に基づく人材派遣。少数運営のCFM局の少数運営をサポートし、継続的災害放送を可能にしようというもの。これに伴う費用は支援局が負担。
- 携帯ラジオの備蓄体制で被災地への支援。災害対策本部からの緊急な情報を被災者に伝える伝手であるラジオは必要不可欠な存在、それに対する対応。
以上が主な内容で、H17年9月1日発効したものです。新潟中越沖地震では、この協定書に基づいて各局が支援協力を実践したわけです。協定が結ばれた時の日経新聞新潟県内版にはこう記載されています。「新潟県内のコミュニティFMの九局が災害時に人的支援や機材、技術協力を相互に行う『緊急災害放送における相互支援協定』を結んだ。一県のコミュニティFMが災害時の支援協定を結ぶのは全国で初めて。日本コミュニティ放送協会信越地区協議会会長の山本安幸エフエム雪国放送局長は『水害、地震ではコミュニティFMの有効性が評価されたが、別の地域でもうまくいくとは限らない。被災地FM局が得た経験を他地域にも共有してもらうのが協定の狙い』と話している。」経験、体験は得がたい財産であることを物語っているといえましょう。
■「FMピッカラ」このほかの価値ある災害放送と活動
(a)災害応援歌「私にできること」の誕生と大コンサート実施
被災者のリスナーから寄せられた楽曲が「FMピッカラ」から放送され、大きな反響を呼び、CD制作と市民3000人コンサートへ発展する「災害応援歌」が誕生しています。経緯はこうでした。「FMピッカラ」のリスナーYさんが被災時からシンガー・ソングライター「KOKIA」さんの歌を携帯電話の着信音に使っていました。友人からの安否確認がある度に「KOKIA」さんの歌が流れ励まされました。そのことを感謝の気持ちで「KOKIA」さんにメールしたところ、「KOKIA」さんは困難な状況にもかかわらず、人を気遣うメールの内容に感動し、Yさんのために早速楽曲を書きYさんに送ったといいます。災害発生から4日後のこと。Yさんは一人でも多くの被災者に励ましとなるよう「FMピッカラ」の送り、リクエストしたのです。そして6日目から放送で取上げられ、リスナーに届くことになりました。これがきっかけとなって、多くのリスナーに聴かれ、開局以来の大きな反響となって現れました。
災害発生から20日、復興支援に尽力していた陸上自衛隊などが企画し「被災地を元気にしよう」という呼びかけでコンサートを開く準備か進められました。KOKIAさんも快く引き受けて、8月6日、市民プラザ前特設ステージで、自衛隊音楽隊とジョイントして午後2時半から3000人の被災者を集めた大コンサートが開催されました。その後、応援歌「私にできること」のCD化が多くの被災者から求められ、2ヵ月後に柏崎市中心に発売されました。予約と販売は「FMピッカラ」が担当し、1500枚が予約だけで完売したといいます。
(b)災害復旧に関した道路交通情報(VICS)の放送
VICSはご存知の方も多いでしょうが、NHK−FMのサブキャリア(電波の隙間)を使用して放送している道路交通情報です。これを運営する(財)道路交通情報通信システムセンターの要請もあり、柏崎市や長岡市の山間部向けにVICS信号を付加する追加申請し、8月10日よりサービスを開始しています。これは救援物資搬送の車両や復旧工事にあたる車両に道路交通情報を放送しています。実施した局は「FMピッカラ」「柏崎市災害FM局」「FMながおか」の3局でした。この技術的協力も、上越CFM局間で結ばれた協定に基づくものでした。
(c)国土交通省復旧対応調査の番組報告
国土交通省北陸地方整備局では、大きな被害を受けた柏崎市の公共土木施設の早期復旧のため、被害状況の調査を全国の整備局に応援を仰ぎ、延べ2,450人の職員を動員して行いました。この調査は災害復旧事業費申請のためのの現地調査で非常に地味な活動です。この地道な活動状況を「FMピッカラ」はじめ県内CFM局が協力し、番組制作、放送をしています。専門家による被害現状と調査内容について2度に渡って詳しく伝えています。2回目の放送は例えば、5日間にわたりそれぞれの事務所(地区)を対象に番組編成しました。災害後4ヶ月後の放送です。災害時には災害地復旧工事の地道な作業者や病院従事者などの表には出ない人びとがいます。そうした分野にも「FMピッカラ」はじめ上越地区のCFM局が協力して番組制作と放送に努力している姿勢は高く評価されるものです。
(d)日経地域情報化大賞「特別賞」の受賞
日経新聞社では、情報通信技術を利用して、地域活性化に先進的に取り組む先進的事例を2002年より表彰しています。第5回目になる2007年度で「FMピッカラ」は「日経地域情報大賞2007年特別賞」を受賞しました。表彰の趣旨は「FMピッカラは7月の中越沖地震の発生から通常番組やCMを取りやめて被害状況や非難・復旧に関する情報を24時間体制で放送を続け、市民に頼みの綱となり、コミュニティFM局の特性を発揮した」というものでした。CFM局が災害時の放送や被災地復旧活動に寄与したとしてこの表彰を受けたのは「FMピッカラ」が初めてのことでしょう。
以上が「FMピッカラ」が果たした災害放送の主な活動です。CFM局にとって初めてという成果が幾つもあり、その成果の裏には近隣のCFM局の支援協力があり、放送として地域メディアに課せられた役割と責任を果たしたものでした。その実績は今後の災害とCFM局に多大な貢献と影響を果たすことは間違いありません。広域ラジオに頼ることなく「コミュニティ放送局」自身で成し遂げた今回の「災害放送」は、さまざまな角度からコミュニティ放送の歴史に、大きな足跡を残すことになるのではないでしょうか。(了)
2008-10-24 〔第52話〕災害とコミュニティ放送について その7

新潟中越地震の時「臨時災害FM放送局」が免許されました。さて、この放送局とはどういう放送局でしょうか。「新潟中越地震」では長岡市に〔新潟県中越地震災害対策用FM放送局〕と十日町市には〔十日町市災害FM放送局〕(十日町市)が免許されています。この臨時災害FM放送局とコミュニティFM放送局はどのように違い、どのように運営されたのでしょうか。まずは〔臨時災害FM放送局〕について触れましょう。
■ CFM局と臨時災害放送局の新たな協働について
災害情報の伝達であるメディア、それはCFMと臨時災害FM放送が最も有効な手段であることは、被災者にとって揺るぎない存在となっています。この臨時災害放送は1995年阪神淡路大震災の折りに開設されて、被災者に大きな役割を果たしました。その結果、コミュニティ放送が災害には有効な伝達メディアであるという認識が全国的に広まり、日本各地にCFM局の設立ラッシュに繋がりました。災害が起こった時に情報を伝達するCFMと臨時災害FM放送は基本的に異なります。では、どのように違うのでしょうか。
まず臨時災害FM放送について、正式には「臨時災害放送局」といいます。放送法第三条の五に規定されているもので「臨時かつ一時の目的のための放送」(臨時目的放送)と記載されています。放送法施行規則(第一条の五第二項第二号)には「暴風、豪雨、洪水、地震、大規模な火災他による大害が発生した場合にその被害を軽減するために役立つことを目的とする放送を行なう放送局」となっています。この「臨時災害放送局」を開設するには、災害地の自治体長(県知事、市区町村長)が総務省「(各地の総合通信局)にまず申請し、通信局ではその地域で使用可能なFM波の周波数を検討し、免許します。こうした目的に沿って、これまで免許された放送局は次の通りです。
- 「FM796フェニックス」(兵庫県臨時災害FM放送)1995年 兵庫県
- 「FMレイクトピア」(虻田町災害FM放送局)2000年 虻田町
- 「FMながおか」(新潟県中越地震災害対策用FM放送局)2004年 長岡市
- 「十日町市災害FM」(十日町市災害FM放送局)2004年 十日町市
- 「FMピッカラ」(柏崎市災害FM局)2007年 柏崎市
なお、年度の後の自治体名は免許された行政組織です。 また、新潟中越地震では、臨時災害放送局ではありませんが、AM放送のNHK新潟放送局には「小千谷臨時中継局」が免許され、災害放送を行なっています。
上記のようにこれまで5局が開設されています。いずれにしても災害放送として大きな役割を果たしていますが、「十日町市災害対策FM放送局」と「FMながおか」「FMピッカラ」の運営に協力した「臨時災害放送局」には、多少異なった面がありますので、その点を取上げましょう。(以下FMを取り「臨時災害放送局」と記す。)
■ 新潟中越地震「2つの臨時災害放送局」はどう開設運営されたか?
新潟中越地震では、「FMながおか」が災害発生と同時に災害放送を行っていますが、電波の出力が20ワットで、長岡市近隣には届き難い地域があります。このため「FMながおか」と信越総合通信局、長岡市が検討し、「新潟県中越地震災害対策用FM放送局」として長岡市が申請し免許されたものです。震災後3日という短期間に放送が開始されています。
では「FMながおか」と開設された「臨時災害放送局」とはどう違うのでしょう。臨時災害放送局の場合、普通新たな周波数が免許されます。しかし長岡市では「FMながおか」と同じ周波数80.7Mz、出力50ワットとして免許されています。この理由は、すでに「FMながおか」が災害放送を行なっていたので、この姿勢と努力を尊重し、さらに広いエリアにして被災者に情報提供ができるよう配慮したものです。では「FMながおか」は増力されて放送を続けたのか、というとそうではなく、放送形態からいうと、通常の「FMながおか」は放送休止、そして長岡市に免許された臨時災害放送局を、市から運営を委託され、「FMながおか」が開設し運営したということです。同じ周波数であれば市民に馴染みのあるラジオであること、すでにスタッフがいて速やかに災害放送を開始していたこと、など条件が整っていたからこそ実現できた「臨時災害放送局」で、やはり日頃の放送と、リスナーへの浸透がどれだけ大切かを示しています。
阪神淡路大震災時の「臨時災害放送局」は発生から29日後の放送開始でした。これと比べると「FMながおか」が協力した「臨時災害放送局」は3日後でした。前回で触れましたが、「FMながおか」が総務省の指定点検事業者(電波測定など実測できる事業者)であったことも開設を促進させました。こうして放送された「臨時災害放送局」は、被害の大きかった小千谷市地域もサービスエリアに入り、「FMながおか」小千谷市は小千谷市役所と相談、一室をサタライトスタジオに構築して、小千谷市の災害情報を地元から臨時災害放送局「FMながおか」の放送で伝えたのでした。
中越地方を襲った大地震では、小千谷市と十日町市、その近隣地区に大きな被害が集中しました。災害情報空白地域の十日町市では「FM雪国」の提案に対して「臨時災害放送局」を検討し、申請して免許されました。申請、開設、運営については「FM雪国」が全面的に協力し、災害発生から5日目に開局しました。「臨時災害放送局」のあり方としてはこれまでの方法と同じです。しかし、開設、運営には放送技術、番組編成、スタッフなど「FM雪国」の優れたスタッフがいたからこそ短期間に開局できたといえるでしょう。
十日町市の周波数は76.6Mz、出力10Wでした。放送局開設には、免許された周波数に適合した送信機とアンテナが必要です。「FM雪国」と「FMながおか」が協力し合い、福島にある技術専門会社MTSの協力を仰ぎ、準備しました。スタジオ機材とスタッフはこの2局のほか「FMピッカラ」を含めて多くのCFM局が協力し開局に漕ぎつけました。そして多くのCFM局スタッフのボランティア協力によって放送の継続ができました。各CFM局の協力は注目に値するもので、「FM雪国」は7人中3人を派遣のほか、近県、関東圏のCFM局がスタッフ派遣し協力、沼田エフエム放送、湘南平塚コミュニティ放送、おおたコミュニティ放送、長野コミュニティ放送などの制作スタッフです。このCFM局同士の協力関係は、2007年に起こる「新潟中越沖地震」に生かされていくことになりました。
■ 新潟中越沖地震の「臨時災害放送局」はどう開設運営されたか?
中越地震から3年目、2007年7月新潟柏崎市沖の日本海に発生した中越沖地震は記憶に新しいところですが、この時にも「臨時災害放送局」が免許されています。災害の中心となった柏崎市にはCFM局「FMピッカラ」があり、災害発生時から災害放送を編成し放送しています。「FMピッカラ」は柏崎市をほぼカバーするサービスエリアですが、市町村合併で柏崎市となった西山地区(旧西山町)はエリア外でした。この地区は刈羽原子力発電所にも近いこともあり、情報伝達の必要性が高く、この地区に伝えるメディアとして「臨時災害放送局」が提案されました。柏崎市と「FMピッカラ」は信越総合通信局と相談し、技術的には「FMながおか」の協力を得て柏崎市は「臨時災害放送局」を開設することになり、周波数80.7Mz、出力10W、局名「柏崎市災害エフエム」として免許され、地震発生後9日目、41日間の災害放送を開始します。
この放送局の開設と運営には「FMながおか」の存在が欠かせません。「FMながおか」脇屋社長は、中越地震では自宅が全壊、今回は半壊と大きな被害を被りながら「臨時災害放送局」開設に尽力します。認定点検事業者でもある「FMながおか」は、電波申請とそれに伴う技術面を協力、申請から1日で免許され、送信所は「FMながおか」所有の山頂にある小木域無線基地局を提供、放送番組は「FMピッカラ」「FMながおか」も制作協力して実現していきます。柏崎市の「臨時災害放送局」の特色は、CFM局「FMピッカラ」の災害放送をそのまま放送し、「FMながおか」の番組もそこに加わるという形で実現しています。言い方を変えると柏崎市「臨時災害放送局」は主に「FMピッカラ」の中継局として役割を果たしたということになります。
■ 「臨時災害放送局」と「コミュニティ放送局」は実質的に胴体化!
総務省が「臨時災害放送局」を免許するにあたり、災害現場の状況に合わせて、柔軟な体制を取っています。一方、開設運営にはCFM局の存在が欠かせないことも立証しています。もう一度振り返ると、中越地震の「臨時災害放送局」は「FMながおか」の電波を出力アップして対応し、被害の大きかった小千谷市をカバーしたこと、十日町市「臨時災害放送局」は「FM雪国」の全面的な協力を得て放送ができたこと、柏崎市「臨時災害放送局」は「FMピッカラ」の中継局として役割を果たしたという事実です。
「臨時災害放送局」は阪神淡路大震災より免許され、被災者に大きな役割を果たしてきています。被災者のための災害放送は欠かせない存在になっています。その役割を果たすための「コミュニティ放送」の存在が欠かせないことも、新潟県の2つの地震の災害放送が実証しています。「日本コミュニティ放送協会10年史」第3章は「災害とコミュニティ放送」を取上げていますが、そのなかで災害情報伝達について次のような指摘が注目されますので引用しておきます。
「災害時の情報システムの構築に関しては、まだ課題を抱えた状態である。自治体等と災害情報伝達の締結をしたコミュニティ放送局も多いが、行政が定める地域防災計画の多くは『災害が発生した後の救援、救助および市民生活の建て直し』に対するプランであり、災害情報を詳細・迅速に伝達することは距離を置いている。これは災害情報の中にはその後の災害補償に係るものが多く、行政の情報発信には慎重さが要求されるためだ。コミュニティ放送は、自治体のこのような傾向を考慮し、独自の方法論を見つけることが必要といえる。」(下線は著者)
「臨時災害放送局」も「コミュニティ放送局」も、災害時に最も必要なことは、時々刻々と変わる情報をどのように早く伝えて、減災に努力するかです。そのためには、行政の災害対策本部の情報のほかに、日頃放送活動で繋がっている組織、団体、リスナーなど被災地の方々からの情報収集とそのシステムを作り上げておくことが求められます。(了)
2008-10-15 〔第51話〕災害とコミュニティ放送について その6

新潟中越地震で明確になったことは、これまで災害放送、むしろ災害報道といった方がいいかもしれませんが、広域放送(ラジオ・TV)とNHKが主に対応していました。もちろん今回もそれぞれ対応しているのですが、地域に密着した情報、言い換えると被災地の人々に対して被災情報を提供することに限界があります。その点、CFM局、CATV局、地域新聞は地域メディアであるため、情報の収集や伝達に、広域放送、大新聞より有利な立場にあり、その実力を見せたのが中越地震、中越沖地震とコミュニティ放送局であったのです。
ラジオはリスナーの耳へ届いた瞬間に消えてしまいます。これは音声放送の特色で、強さでもあり弱さでもあります。地域メディアであるCFM局がどんな放送をしたのか、この点について「FMながおか」の脇屋社長は被災地の真ん中にある放送局、被災したスタッフたちが伝えた被災情報を次のように記しています。
- 避難所情報 → 開設されている避難所の紹介、様子が分ればその状況。
- 小中学校、幼稚園、保育園に関する情報 → 災害後、各学校と連絡を取り、休校、再開等の情報。
- 避難勧告の情報 → 各地域によって被災状況が異なり、それに対応した情報。
- ライフライン情報 → 電気・ガス・電話などの被害状況、復旧見通しの情報。
- 被害情報 → 火災情報、道路情報、河川情報などの情報。
- ごも収集情報 → これまでの定期的収集は困難になっているため、詳細情報。
- 各種減免処置情報 → 各種安否確認サービスの紹介を含む。
- 風呂・美容室情報 → 時間が経つと開いている店の情報を求める。
- その他以下の通り → ガソリンスタンド情報、スーパー情報、食料、生活用品供給情報、給水情報、健康管理情報、各種相談窓口紹介、各種被災者向けサービス情報、民間企業等の業務連絡等。
地震直後に求められたものは「正確な情報」と「家族の安否」でした。そして必要な情報は時間により変化し、1分後、10分後、1時間後、10時間後、1日後、2日後、10日後と、必要な情報は刻々と変化していきます。その変化する情報を伝えることができるのは、やはり地元のCFM局でした。
また、災害放送を続ける間、地域でなければできないリスナーの協力にもありました。脇屋社長はいいます。「情報収集は日頃のリスナーからの情報、これは本当に助かりました。いま目の前で起こっている事を直ちに報告していただき、時には現場から生中継にも参加してもらいました。リスナークラブも大活躍でした。地域の放送局は、地域の人々の災害時でも、支えてもらえる事を実感しました。取材体制は少人数でも避難所の人たちは知り合いが多く、地域のラジオへの協力には頭が下がりました。」地域と密着しているからこそできるCFM局の放送ではありませんか。
■ 〔FMながおか〕が行った災害放送とその対応について
〔FMながおか〕は、地震発生時から少ないスタッフで、睡眠を削って放送を続けたのですが、長岡市隣接地域にもこの災害放送を聞いてもらうべく、脇屋社長は長岡市および総務省(信越総合通信局)と相談し、「臨時災害放送局」呼称「長岡災害FM」JOYZ4M―FMを開設したのです(20Wから50Wへ)。これによって災害の大きかった隣町小千谷市はじめ、長岡市周辺地区にサービスエリアが広がりました。特に小千谷市役所にはサテライトスタジオを設け、小千谷地域の災害情報を直接放送したのです。因みに、〔FMながおか〕は無線局の開設に必要な総務省認定の「認定点検事業者」であり、各種測定器が揃っていたこともあり、災害発生時から3日目にして「臨時災害放送局」が放送開始できたといいます。
・CFM局初の災害文字多重放送を実施
「FMながおか」は広域放送の「FM新潟」の協力を得て、長岡市はじめ小千谷市などの避難所に「見えるラジオ」(文字多重放送)を放送しています。「見えるラジオ」は、よくタクシーのフロントガラスの左上に「ニュース」など表示している文字放送です。FM電波の隙間を利用した放送です。高齢化社会を迎えている現在、災害時には音声と文字で情報を伝達し確認できることは必要不可欠です。現在「見えるラジオ」は全国の広域FM放送が実施(CFM局でも数局採用)、新潟県では「FM新潟」が放送、しかし、災害時に活用するのは広域FMもCFMも今回がはじめてです。「FM新潟」より避難所にこの「見えるラジオ」を設置してはどうかという依頼があり、キー局の「T0KYO FM」、FMネットワーク組織の「JFN」そして「FMながおか」が協働して設置、放送したものです。地震発生から10日目にして12箇所の避難所に「パパラビジョン」(大型電光板)を設置し、多くの被災者に利用してもらい、大変よろこばれました。
・〔外国語放送〕への対応
〔FMながおか〕は外国人向けの番組をすでに放送していました。開局当初からの放送で、そのまま番組を拡充して対応することができ、災害があった1週間後から4ヶ国語(ゆっくり話す日本語、英語、中国語、ポルトガル語)を毎日夕方4時と7時に放送しています。内容は(地震時の避難に関する情報)(翌日の天気予報)(入国管理局情報)(交通情報、生活情報)などでした。これも多くの人々の協力があり、地元の長岡市国際交流センター、阪神淡路大震災に活躍したCFM局「FMわいわい」(当時はミニ放送)、その他多くの機関が協力してくれたそうです。
「FM雪国」は地元南魚沼市と周辺地区の被害情報を放送する傍ら、隣町である十日町市の大きな被災に対して、いち早く「臨時災害放送局」の開設と放送を、十日町市と総務省(信越総合通信局)に提案し、取り掛かります。本来、自局と同じ周波数での対応を考えて、送信機やアンテナを準備したようですが、総務省では、他局との関係で十日町市の「臨時災害放送局」は独自の周波数76.6Mzと決まり、再度送信機とアンテナを手配するという苦労をされたようです。FM放送は周波数によって送信機とアンテナの仕様が異なります。周波数によって、予備の送信機とアンテナが使えるとは限らないのです。「臨時災害放送局」は自治体の長が総務省に申請し、放送電波を免許されるもので、主体は自治体となります。放送局開設から運営まで、全面的に協力しようと申し出たのが塩谷社長はじめ山本安幸局長、平賀部長、スタッフの「FM雪国」です。放送という専門分野の人でないと難しい支援です。
・中越地区CFM局窓口として「FM雪国」が活躍
JCBA(全国コミュニティ放送協会)は、乾電池がなくても使用できるラジオ、手回し発電機ラジオ、太陽電池ラジオなど約800台を寄贈、「FM雪国」は中越地域CFM局の窓口となり、被災地にこれらを運ぶ役割も担っています。十日町市の放送局立ち上げと共に、放送を聴くラジオが早急に必要でした。十日町市災害対策本部は「(臨時災害放送局で)災害情報を共有して、迅速かつ的確な救援対策を行なうために」として、すべての現場指揮者にラジオを持たせる一方、避難所はじめ多くの人々に配り、情報の共有化を図っていきました。また「FM雪国」は十日町市の情報を自局の放送はじめ広域放送などに提供し、首都圏側から被災地に入る人々に伝え、被災地の混乱緩和に努力しています。
・CFM各局に「災害放送局」への支援要請
十日町市の臨時災害放送局運営に関して、「FM雪国」は支援可能な地域のCFM局に応援を要請し、支援していきました。自局7人のスタッフ中3人を投下すると共に、各局のスタッフが協力し、放送しています。協力したCFM局は以下の通りです。
沼田エフエム(沼田市)、湘南平塚コミュニティ放送(平塚市)、おおたコミュニティ(太田市)、ながのコミュニティ(長野市)などです。特に湘南平塚コミュニティ放送は3名のスタッフを提供しています。こうしたCFM局ボランティア・スタッフと十日町市職員とが協力して災害放送を行っています。
「FM雪国」は、山本局長が中心になり、ご自身も出演して地震発生1週間後に、災害特別番組「ラジオに何ができるか!」を全国へ発信しています。第2弾は1ヵ月後「被災地からの伝言!」を、そして第3弾は「「被災地からの伝言?」を2ヵ月後に、長時間番組を制作、石井彰氏(放送作家)や音好宏氏(上智大学助教授)など専門家をゲストに迎え、地震直後の状況から、時間を追って発生するさまざまな問題や現状を取上げ、マスメディアでは伝えられない情報を「虫の目、虫の耳」となって伝えました。また災害地でなければ分らない問題や支援者、協力者へ理解を深める内容、地震ばかりではなく水害による問題も取上げるなど、多岐にわたりました。この番組は、3回とも衛星デジタルラジオ放送「ミュージックバード」の放送を介して約80局のCFM局で放送されました。山本局長はNHKラジオ第1放送や文化放送の番組にも出演し、被災地からの報告をしています。今回の地震で、社会的役割を果たしたコミュニティ放送がこれほど注目されたことはありません。「FM雪国」は世間にコミュニティ放送の存在を高める大きな役割を果たしたといえるでしょう。
■ 独自の「災害放送」はCFM局の存在を顕在化!
「災害放送」が独自で制作できるようになったCFM局。これはCFM局に大きな自信となり、後に発生する新潟中越沖地震で「FMピッカラ」が大きな活躍をします。コミュニティ放送が開設されて10数年、CFM局はのあり方を確かなものにしたといえます。コミュニティ放送とは、ある地域(広域に対して狭域)において、自治体と商工団体と地域住民が一体となって構築される新たなラジオメディアですが、そこに求められるCFM局の役割は「地域社会への貢献」の姿勢です。小規模なラジオ局だけに、経営上も運営スタッフも最小限に止められるなかでの貢献です。
一時的ながら地域住民の生命と財産がかかっているような災害時こそ、CFM局が社会的貢献を果たす好機会です。小規模なラジオ局がどれだけのことができるかが、今回は問われていたわけです。10数年の歴史が、各局の制作能力の高さを培ってきているとともに、スタッフ不足という弱点を各局の積極的な協力により、乗り越えたのです。阪神淡路大震災の時、まだCFM局は誕生していませんでしたが、「臨時災害放送局」は兵庫県庁に降り、NHK大阪放送局が支援し、ボランティアと共に1ヵ月半放送しました。今回の新潟中越地震では「FMながおか」にしても「FM雪国」にしても、広域放送の助けを借りず、独自で放送を続けたのです。それだけでなくこの2局は、災害情報を広域放送に提供しています。こうしたCFM局の実力と社会への貢献は、コミュニティ放送業界にとって大きな実績と自信を与え、その存在を示して行く機会になりました。その成果は新潟中越沖地震の「FMピッカラ」の活躍に現れます。(了)
参考資料
2008-10-08 〔第50話〕災害とコミュニティ放送について その5

これまで4回にわたり地域災害とCFMの対応についてレポートしてきましたが、最大の災害報道である「大地震」に対して、CFM局はどのように対応したでしょうか。阪神淡路大震災以降急速に誕生したCFMの災害放送、そのなかでも「新潟中越地震」「新潟沖中越地震」の中心となった「FMながおか」(長岡市)「FM雪国」(南魚沼市)そして「FMピッカラ」(柏崎市)が直面した災害放送を例に、今回は焦点を当てます。
■ 新潟中越地震の時、〔FMながおか〕〔FM雪国〕はどう取り組んだか!
2004年10月23日(土)17時56分、新潟県中越地方を襲ったマグニチュード6.8の地震は、各地に震度6〜7の激震をもたらし、死者68人、重軽傷者4,800人余、 倒壊家屋(全壊半壊併せ)15,600余を数える大災害となりました。この地震は新潟県中越地方にある長岡市、小千谷市、十日町市、川口町、そして山間部の山古志村(現在長岡市と合併)周辺を襲った大地震でした。この被災地区のCFM局は、長岡市に「FMながおか」、川口町、十日町市を近隣に持つ南魚沼市の「FM雪国」があり、これらのCFM局の“その時”の対応はどのようなものだったのでしょう。
・ その時「FMながおか」はどのように対応したか?
長岡市は震度6弱、隣接の小国町、山古志村、小千谷市は震度6強という強震に襲われました。地震発生の夕方5時56分「FMながおか」脇屋雄介社長はスタジオより1.5kmの市役所近くを車で走行中でした。揺れが収まるのを見はからってスタジオに引き返す。走行中ラジオのスイッチ、すでにスタジオで佐野護パーソナリティが「先ほど中越地方に大きな地震がありました。長岡では震度6の地震でした。スタジオも先ほどから大きな揺れを感じました。皆さん落ち着いて行動してください」と伝えていました。あたりは真っ暗で街中停電、消防車、救急車などがひっきりなしにサイレンを鳴らして往来している状況。脇屋社長は送信所とスタジオの稼動状況を確かめ、間もなくスタジオに到着、午後6時15分のことでした。「FMながおか」の第一声の佐野護さんも、車で帰宅中烈しい揺れに遭遇、すぐスタジオに引き返し、第一報をアナウンスしたのです。脇屋社長はスタジオのある事務所へ入ると、ガラスの破片、茶碗の散乱、書籍棚,CDラック、機材棚、椅子と机などがそこここに散乱。幸いに停電を免れていて、スタジオは稼動し、地震情報はFAXで入ってきています。(常備してある2台の発電機は待機状態でした。)6時34分頃震度6の余震があり、スタジオもミシミシ音を立てながら天井から白いものが落ちてくる、そんな状況の中で、脇屋社長自ら「落ち着いた行動を」と呼びかけました。日頃異常事態には落ち着いた行動を取るようとスタッフに指導してきた自分が、つい興奮気味に放送してしまった、と語っています。
地震発生後約45分、次々にスタッフが集まり始め6〜7人の体制ができました。早速役割分担を決め、直ちに取材用400メガヘルツ携帯ラジオマイクを技術スタッフ1名にもたせて、市役所の対策本部へ、車は危険のため自転車で向かわせました。情報収集チームは行政や各種団体、鉄道、道路、通信などライフラインの被害状況、各メディアからの情報、それにリスナーからの電話受付をすべて電話受付処理票に記入し、放送の可否の判断材料にしました。電話は輻輳している中、5台中2台が稼動し、FAXでの情報収集ができました。
脇屋社長は「災害放送の一応の体制を作り、暗闇の長岡の街、周辺の市町村へ、地震直後の状況を1人で取材に出かけました。真っ暗の長岡の町。ゴーストタウン化した町はこれまで見た事もない姿がヘッドライトの中に浮かびあがってきました」と。道路の陥没、全壊半壊の家マンホールの隆起、橋と段差などなど、通行不能な場所がありあちこちにあり、被害の大きさを改めて確認。そのなかで訪問した市内の避難所で聞かれた質問が胸を刺しました。「長岡の中心部のビルは倒壊しているのですか?」。被災の方々に被災状況の情報が全く届いていないのだ、被災者に重要な情報は生活地域の情報を詳しく伝えてあげるだ。改めて被災した地域情報の通達の重要性を痛感したそうです。平常時はテレビ・ラジオや新聞・雑誌で伝えられる情報が、災害時には全く届かないという現実、被災地は情報空白地帯がったのです。この点について南魚沼市被災しながら、災害放送を続けた「FM雪国」の山本安幸局長も同じ私的を指摘しています。
被災者に対して必要な情報発信は、被災地にある小さな地域放送局「FMながおか」の役割であり、自分たちも被災者である以上、被災者の目線で情報を伝えることが我々の役目だと痛切に感じ、放送を続ける心の柱になった、と脇屋社長は言っています。大きな災害が発生し、大手のメディアが取材し報道するその姿勢と地元のメディアの取材報道は基本的に違います。災害発生の事実を広範囲の人々に伝える役目はマスメディア、災害発生地域の被災者へ伝達する役目は地域メディアです。なかでも直接速報できるCFMこそ、最も大切なメディアだと実体験しています。
・ その時「FM雪国」はそのように対応したか?
南魚沼市は長岡市と同様震度6弱に見舞われました。“その時”「FM雪国」は山本安幸局長中心に営業会議を開いていました。スタッフ全員揃っていたという幸運に恵まれ、初動体制が迅速に敷かれました。まず行なったことは、午後5時56分地震発生と同時に停電となる、自家発電機を結線し備えの燃料をセット、送信所は電源が自家発電に切換わっていることを確認して緊急放送に切り替えて放送しています。発生直後、放送は夕食時間であるため「火の取り扱い」、あるいは「交差点の信号機が消えているため車の徐行運転の呼びかけ」、「余震の呼びかけなど地震直後に取るべき大切な事柄を呼びかけ」など続ける一方、電池で稼動する携帯用中継器ラジオマイクをスタッフ1人に持たせ、六日町役場へ派遣。役場は停電のため機能せず、役場前の対策本部は車2〜3台のヘッドランプで職員・警察・消防スタッフが打合せ、その様子をレポート。また2人の女性スタッフに塩沢町、大和町の役場に派遣し情報の収集、夜9時3分から取材を終えたスタッフが集まり、全員で災害情報を整理しつつ山本局長を交えて「特別災害放送」放送していきました。
一方、自家発電に切り変っている送信所は、給油をしなければならない。そのため2人のスタッフを送信所のある山に派遣し、24日0時半送信所に到着、発電機の準備と稼動を確認して離れたが、暗闇の下山は危険にて翌朝の給油兼ねて一夜山頂で過ごし、朝帰社。街は1日近くの停電が解除されたが、送信所はまだ停電中。午前10時ごろ再びガソリンを携行缶で運び上げ、給油を続け、午後7時半送信所は通電し、正常な放送が復帰したということです。
ここで停電と通電について触れましたのは、第47話で取上げたように、スタジオと送信所の回線が切断した場合にどうするか、という問題と回線は通じても停電の場合どうするか、という事例が「FM雪国」に見られるからです。「FM雪国」では送信機への回線は切断を逃れたが、送信機稼動するための燃料補給が重要でした。その後8時間継続可能な発電機を購入したそうです。送信所が遠い場合、こうした異常事態への対応を平時から検討しておく大切さを教えてくれます。ネットメディア「JaPRIDE」(http://www.japride.com/)は緊急レポート「新潟中越地震〜あるメディアマンの警告」として山本局長にビデオ・インタビューをした番組が掲載しされています。リアル感が伝わる話はとても参考となります。
地震発生時、CFM局の対応は、小人数で運営している放送局にとって非常に参考となります。“いざその時”の重要性については後記するとして、今度は中越沖地震での「FMピッカラ」(柏崎市)の状況を報告いたしましょう。
■ 再度の「新潟中越沖地震」に〔FMピッカラ〕はどう取り組んだか!
2007年7月16日(月)10時13分、新潟県柏崎市方面を襲ったマグニチュード6.8の地震は、各地に震度5〜6の激震をもたらし、死者15人、重軽傷者2,315人余、 倒壊家屋(全壊半壊併せ)41,000余を数える大きな被害を与えました。この地震の特色は、自然災害に加えて、原子力発電所を巻き込んだ震災として、被災地の住民に大きな動揺を与える一方、世界の注目を集めた災害でもありました。その時、柏崎市のCFM局〔FMピッカラ〕はどのように災害放送に取り組んだのでしょう。
・ その時「FMピッカラ」はどのように対応したか?
大矢良太郎社長は長岡市の病院内を歩いていました。家族を見舞うためです。突然の大きな揺れに驚き、病院を飛び出して急ぎスタジオへ向かいました。スタジオでは、阿部洋一パーソナリティが地震発生1分45秒後に第一報を放送。「お聞きの放送は76.3Mz、FMピッカラです。只今柏崎市で大きな揺れがありました。皆さん落ち着いて行動してください。」というコメントで災害放送がスタートしました。「FMピッカラ」では、日頃から緊急時のスタッフの配置が決められていて、スタジオに張ってあります。スタッフの1人は地震発生17分後に市役所の災害対策本部へ、ほぼ同じ時間にもう1人が市役所の緊急割り込み装置のマイクの前に、またスタジオでは緊急出社したスタッフが電話・FAXなどの対応をする、といった具合に、速やかに災害放送の体制を調えています。「FMピッカラ」では、15分以内で緊急時の人員配置ができたことは朝も10時台の地震発生という時期が好環境をつくり得たといえます。
間もなく、市役所の防災無線が第一報を報じます。「こちらは広報柏崎市です。ただいま津波注意報が発令されました。海岸付近の方々は海岸から至急離れてください。」津波注意報は間もなく解除されます。柏崎市では、市内の全戸に防災無線が設置されています。「FMピッカラ」は市の防災無線設備の端末と繋がっていて、防災無線が放送で流れるようになっています。各家庭では防災無線でも「FMピッカラ」でも災害情報が受信できるわけです。また、ドライバーなど野外にいる人々にも防災無線が「FMピッカラ」の放送を通してきくことができます。
大矢社長は長岡から局舎に到着したのは正午ごろ、すでに前田統括部長の采配で、災害放送のスタッフ体制はできていました。散乱している事務所内にスペースを確保し、幸い停電は免れていたので、24時間の災害放送体制をつくるため、食料の確保、飲料水の確保、雨天に備えた処置など、緊急を要する準備に奔走したといいます。被災した局舎は地面から浮き上がり、周囲は亀裂が口を空け、スタジオの窓ガラスは今にも落下しそうな状況になっていました。こうした状況下で、柏崎市民の心の糧となる「FMピッカラ」の活躍が始まるのです。
■ “その時”という災害発生時の放送局体制が、なぜ大切か!
新潟中越地震と新潟中越沖地震は、地方都市と山間地における災害として、また原子力発電所のある地域災害として、大きな教訓を残しました。また、ここで詳しく取上げた理由は、CFM局にとって〔FMながおか〕〔FM雪国〕そして〔FMピッカラ〕が災害発生時にとった体制が、CFM各局にとって得がたい体験として多くのことを教えてくれるからです。大きな災害はいま全国どこの地域で起こって不思議はないのですが、起こる曜日と時間帯によってその対応策が大きく異なります。平日か土・日曜日、また早朝か、朝か午前中か、午後か夕方か、夜か深夜か、時間帯が重要です。13年前の阪神淡路大震災は午前5時46分でした。2007年能登半島地震は9時1分、2003年十勝沖地震は午後4時50分、当ブログ第49回で取上げた岡崎市水害警報が出されたのは夜11時台でした。このように災害発生の時刻は、人々の生活ステージの違いとともに、各放送局の体制づくりに大きく違いが生まれます。〔FMながおか〕や〔FM雪国〕のように、夕方の場合市民の活動時間であり、避難する市民も情報伝達するメディア側も、速やかな対応が可能です。しかし、水害に遭った〔FM岡崎〕のように、深夜の場合、自治体側も局側も体制のつくり方に困難を要します。特に震災の場合は、対策本部設置の自治体側、情報を伝えるメディア側、避難する市民側にも大きな困難が強いられます。
災害は何時やってくるか分かりません。そこで大切なのが日頃の準備と訓練です。いつもいわれる当たり前のことですが、なかなか実行できないのが現実です。日中の場合、深夜の場合など、起こる災害を想定した事前の準備が重要になるのですが、これは、自治体、メディア、市民すべての人々が理解し、認識し、訓練していても、“いざその時”がくるとままならないものです。新潟中越地震ではこんな例がありました。自治体には災害時のために、県と市町村が連絡を取るために特別連絡網を設置しているところがあります。県防災行政無線といって、衛星回線を使った無線システムです。今回の被災した7つの市町村の内、2市町村が導入していて、1つは故障のため使用できず、もう1つは衛星電話を導入していたことを忘れていた、といいます。また地震発生時は導入していたことを忘れていたが、その後気づき使用した、という市町村もあったようです。
このように、市民の生命と財産を守る自治体でさえ、いざという時にこうした事態が起ります。いざその時の速やかな対応は、日頃の心がけと訓練しかないのです。それだけに全国で行われている毎年の9月防災訓練は、自治体とCFM局と市民(リスナー)が一緒になって体験するほかないのです。できれば年1回の儀礼的訓練ではなく、冬場の2月頃にも実施し、年2回の経験、体験を通じて災害時の身近な対応を身につけて行きたいものです。(了)
参考資料
- 「ドキュメント〔FMゆきぎに〕〔FMながおか〕は新潟中越地震をどう伝えたか」(発行はJCBA信越地区協議会)
- 「ドキュメント〔FMながおか〕〔FMピッカラ〕は新潟中越沖地震をどう伝えか」(発行はJCBA信越地区協議会)
- 「災害とコミュニティ放送」シンポジュウムから(放送レポート194号)総合メディア研究所発行
- 「大災害における情報通信のあり方に関する検討会報告書」総務省2005年発行
- 「中山間地の集落散在地域における地震防災対策に関する検討会報告書」内閣府ほか関係省庁と学識経験者による検討会(ホームページより)
以 上
2008-09-24 第49話 災害とコミュニティ放送について その4

前回豪雨災害に対して岡崎市の「FMおかざき」と三条市の「ラヂオはーと」がどのように対応したか、をレポートしました。特に「ラヂオはーと」の活躍はコミュニティ放送局のモデルといえる活躍でした。さて、この「ラヂオはーと」の活躍を客観的に調べた調査資料がありますので、レポートします。この調査は、これから災害に対応していくCFM局にとって、貴重な資料となりますのでご紹介します。
このレポートの最初(前回)に、三条市では役立ったメディアとして「民間放送テレビ」より「コミュニティFM」の方が多かったと書きました。この調査資料を取上げます。調査は2004年7月13日災害発生から2ヵ月半後の10月1日から3被災地〔三条市、見附市、中ノ島町の床上浸水を受けた地〕で実施されたもので、対象者は20歳以上男女900人(回収率71%)、個別面接聴取法(聞き取り調査方法)、調査は東京大学大学院教授廣井脩氏ほか6名の専門家が当たりました。(以下調査資料の引用とコメントではCFMをコミュニティFMと記載していますので従います。)
調査では、被災者が知りたい情報をどのような手段で得ようとし、有効だったのかというメディア質問に対して、全体では1位が「NHKテレビ」42.5%、2位「直接の会話」30.2%、3位24.7%、「民間放送テレビ」24.7%、4位「コミュニティFM」9.8%と成っており、「役に立つものはなかった」が22.3%を占めています。しかし、コミュニティFM局の「ラヂオはーと」のサービスエリアである三条市では、1位のNHKテレビ(31.5%)についでコミュニティFM(18.9%)が2位にランクされています。民間放送テレビ(16.3%)、NHKラジオ(8.1%)、民間放送ラジオ(6.3%)をはるか凌いでいます。(見附市、中ノ島町はサービスエリア外です。)これは聞き取り調査の結果ですから信用性が高いと判断できます。
調査全体からみると、被災後に被災者の情報収集手段として役立ったメディアは1位が「NHKテレビ」54.7%、2位「民間放送テレビ」36.7%、以下「直接の会話」27.8%、「新聞(全国紙・県域紙)」24.3%、「コミュニティFM」19.1%の順で、災害から数日経つと役に立つメディアとして「新聞」が「ラジオ」を上回るようになります。しかし、CFM局がある三条市では「コミュニティFM」が2位であり、「民間放送テレビ」より回答者が多いのが特色です。順位を記すとNHKテレビ、コミュニティFM、民間放送テレビ、三條新聞(地元新聞)、全国紙、新潟日報、NHKラジオ、そして民間放送ラジオ、となっています。因みに、知りたい情報を得るために役立った手段の項では、「直接の会話」が災害発生時も災害数日後でも全体で3割近くが役立っていると回答しています。個別の数値はありませんが、コミュニティFMの高い三条市では「直接の会話」の数値は低く出ているかもしれません。それほど災害後も「コミュニティFM」への接触率が高く、災害時の影響力の強さを示しています。
■ 当調査分析の解説にみる「ラヂオはーと」の評価
当調査において住民が情報を得るために役立った手段を次のように分析しています。
- 災害時には、視聴可能であれば「テレビ(特にNHK)」から情報を得ようとする人が多く、ラジオから情報を得ようとする人は少ない傾向がある。
- 災害当日は、被害の発生に関する情報や避難に関する情報など、緊急性や速報性が求められる情報が多いため、「新聞」からの情報を得ようとする人は少ないが、数日経って状況が落ち着つくと、詳細性や記録性に長け、人々が各自の都合やペースで読むことのできる「新聞」が有効メディアになってっくる。
- 三条市では、市域をカバーする地元メディア「三條新聞」や「コミュニティFM」が、比較的有効な役割を果たしている。とくに「コミュニティFM」が役立ったという評価が多かった点は、これまでの災害において例がない顕著な特徴である。
- 被災地の住民は、町丁目もしくはそれよりも狭い地域単位でも詳細な情報(たとえば、救援物資の到着・分配の時間・場所など)へのニーズが高い。しかし、このような詳細情報は、マス・メディアにとって不得意な部分であり、県域をエリアとする放送機関でも十分に取材や情報伝達ができないことがある。そのため、「直接の会話」と回答する人が多い。
- 「ホームページ」から情報を得る人は、まだ少ない。
さて調査では、これまでに見られない珍しい傾向がある、として地元メディアであるコミュニティFM「ラヂオはーと」について特別の項を設けて詳しく紹介しています。なお、当調査に関わった東京大学廣井教授の研究室では、これまで行った「災害と情報」の調査において、「コミュニティFMが役立った」と回答した人はほとんどなかったといいます。それほど珍しい事例と特記しています。そのコミュニティFM「ラヂオはーと」が三條市民に評価された理由を、次の4点を上げています。
- 第1に、燕三条エフエムが市とあらかじめ防災協定を結んでいたので、使途の協力体制や対応が迅速に行われたこと。
- スタッフが市の災害対策本部から直接情報を伝えられたこと。一般放送では、局から役場の担当者への電話取材によって放送を行うことが多いが、燕三条エフエムはスタッフが市の災害対策本部に入って直接放送したことから、迅速で、正確な放送をすることができたのであろう。また、問題視されることが多い報道機関の電話取材による役場業務への影響も少ない。
- 市が割り込み放送を行うことができたこと。割り込み放送によって、市が住民に対して緊急に伝えたい情報を速やかに伝えることができたからである。
- 燕三条エフエム放送聴取専用ラジオを配布したこと、専用ラジオを配布することで、日頃ラジオの接触率が低い人々に、ラジオへ接する機会を増やしたという効果があった。
以上が「7・13水害」の調査に記された「ラヂオはーと」の評価分析です。CFMを多少知っているものにとって、これほどの高い評価を得たCFM局は、2004年の時点ではなかったことと言ってよいでしょう。この対応は、その後発生した大災害そしてCFM局の対応振りそして果たした役割は計り知れず、新潟中越地震と「FMながおか」「FM雪国」、あるいは新潟中越沖地震と「FMピッカラ」などそれぞれの対応に大きく役立ったと思われます。
■ 自治体とCFMの連携プレイが最も大切
豪雨災害の例として「FMおかざき」と「ラヂオはーと」の災害放送をご紹介しましたが、両局とも局の設立は、民間団体や企業が中心となっています。民間主導型CFM局です。その局が災害発生から地元自治体とCFM局の連携プレイが順調に運んだかというとやはり課題が残ります。その点をここで指摘しておきたいと思います。それは、自治体主導型CFM局では当然のことですが、民間主導型の場合は、ともすると当地の自治体内でCFM局の存在認識が薄く、連携プレイが上手くいかない場合が往々にしてあるからです。この2局の場合、連携プレイはどうだったか、もう一度災害放送を振り返ってみることにしましょう。
〔FMおかざき〕の場合
【市と防災協定を結んでおり、緊急放送の「割り込み装置」も設備されている。】
- 夜11時30分に豪雨警報が出されたが、市の防災課からは何の連絡も入っていない。市のホームページとCATV放送を確認し放送した。
- その2時間後、2時20分に避難勧告が発令されたが、やはり連絡はなく、その20分後に、防災課ではなく、広報課からFAXで連絡が来る。
- FAX情報の確認ができず、NHKTVと地元CATV放送で確認し発令40分後に放送する。
- 局と市役所との防災協定には、大きな大害が起きた場合、局責任者3名の携帯電話に同報メールで知らせることになっていたが、連絡がなかった。
〔ラヂオはーと〕の場合
【市と防災協定を結んでおり、緊急放送の「割り込み装置」も設備されている。】
- 午前10時10分第1回の避難勧告が発令される。「ラヂオはーと」は対策対策本部が設置された時点でスタッフを派遣し、黒板に書かれた避難勧告発令の内容を電話で局へ伝え、放送する。その後合計3回避難勧告が出るが、市から局へ正式な連絡はしていない。本部の取材で放送している。
- 避難勧告が発令されて2時間後、災害対策本部は放送局側から「緊急割り込み装置」を使って市民へ知らせるよう依頼があり、そこでようやく市側が使用することを決め、市長自ら放送することになった。
- その後市長の放送は3日間で20回に及んだという。「緊急割り込み装置」を活用した市民への放送は、避難勧告が発令されてから2時間以上時間が経ってからである。
岡崎市と三条市の災害対策本部は、市民の生命と財産を守るために最初にしなければならないことは市民への危機情報の速やかな伝達です。しかし、本部が混乱していたため、CFM局を活用する方法を忘れていた、というのが実態だったようです。三条市の場合、第1回の避難勧告発令とともに取った行動は自治会長に連絡することで、各地区の自治会長一人ひとりに電話連絡するという手間のかかる作業でした。しかし対策本部が混乱していて、第2回、第3回に発令は自治会長への連絡は行なわれなかったといわれます。因みに、自治会長に連絡されたとしても、その先は班長に、さらに住民へと連絡する時間のかかる伝達方法です。こうした災害緊急伝達は、どう考えても一斉同報の無線方式に優るものはありません。防災行政無線もありますが、一般家庭内ではラジオが最も有効的手段です。過去の多くの災害でラジオの役割が証明されているにもかかわらず、この認識が薄いのです。今回取上げた2市の災害対策本部でも認識されていない事実が浮かび上がりました。
■ CFM局が地元自治体の意識を高めるには!
さて、CFM局はこうした事実からみて、今後自治体の理解をどのように高めていくか、大きな課題です。三条市の「ラヂオはーと」が示したように、結果的には市民の頼りとされ、大きな役割を果すことによって、「ラヂオはーと」の三条市の存在は揺るぎないものになりました。災い転じて福となす状況を作り出しています。ここにCFMの本来のあり方を示すことができるわけですが、災害に遭ってからでは遅すぎるのです。日頃にこそ本来の姿があるのですが、では、どのように対策を取っていけばいいのでしょうか。
新潟国際情報大学の研究者近藤進氏と若月宣行氏が調査した報告書があります。2004年の7・13水害、中越地震、2006年の豪雪被害など、新潟県内に多発している災害について、2006年9月と12月に308名ほど調査しています。「新潟県の情報インフラと災害への課題」がテーマ。その報告書にある「災害時の情報収集でもっとも信頼できる手段」の項目では、ラジオの情報に期待する人は50%、テレビは40〜30%、携帯電話が30〜40%、固定電話、防災行政無線、衛星放送、インターネットと続きます。テレビは情報量が多く、ラジオとは比べものにならないメディアですが、電力の不安からラジオに信頼を寄せています。2006年の暴風雪による被害は、新潟市はじめ各地で大きな停電が発生し、情報量の多いテレビが活用できなかった実態から、災害時には信頼できないと考える人が多かったといいます。9月調査ではラジオ50%に対しテレビ45%、12月調査(新潟暴風雪と同時期)ではラジオがテレビを更に上回っています。
この調査でも分るように、災害時には「ラジオ」の情報伝達がもっとも有効的である事実が分ります。これまでの災害時に調査した報告書にも同様な結果が出ています。ここで問題なのは、こうした「ラジオの有効性」が立証されていても、行政当局の理解と認識が薄いという事実です。大きな災害時には国の姿勢はもちろんのこと、地方の県庁そして市町村の自治体が国民・県民・市民の生命と財産を守るために「災害緊急情報」の伝達手段として「ラジオ」を尊重し、「ラジオ」の認識を高めて行く必要性が大いにあるのです。
行政当局が災害時の情報伝達に「ラジオ」を活用すべく、認識を高めてもらうためには、さまざまな運動、活動が必要でしょう。たとえば、CFMでいえばJCBA(日本コミュニティ放送協会)の総務省内消防庁への働きかけ、JCBAブロック協議会の各県庁への働きかけ、そして、各CFM局が地元の自治体に働きかけることなどです。
自治体主導型CFM局は、日頃の防災訓練に参加して、いざという時の対応を訓練していますが、純民間型CFM局は、参加がまちまちです。この参加を各地の自治体と積極的に話し合い、参加して、「非常災害情報の伝達」のラジオの効果を自治体に理解してもらうことです。1局1局ができる最も大切な運動ではないでしょうか。(了)
2008-09-18 第48話 災害とコミュニティ放送について その3

□ 豪雨災害にCFM局はどう対処したらいいか!
「ゲリラ豪雨」は今年から始まったのか、と思えるほど今夏は各地を襲いました。予報気象が進んでいる現代でも予想がつき難い気象現象は、いかにも現代の人間世界を現しているようで不思議です。これも温暖化が主因の異常気象です。さて、今年の「ゲリラ豪雨」は愛知県岡崎市を襲い、大きな被害をもたらしました。この豪雨災害に対して地元CFM局はどう対処したか、その現状を「FMおかざき」から伝えると共に、4年前に大水害を経験した三条市の「ラヂオはーと」の実例をご紹介しましょう。
■ 岡崎市の豪雨災害情報を「FMおかざき」はどう伝えたか?
8月28日(2008年)深夜、岡崎市を襲った豪雨災害は伊賀川決壊により、短時間で大水害をもたらしました。その時「FMおかざき」は市民に災害情報をどのように伝えたのでしょう。取締役阿部年恭氏に伺った現状をお伝えすると「始めての体験で戸惑うことが多くありました。でも精一杯対応をしたつもりです」と言いい、当日の様子を話してくれました。8月28日(水)当日は雨量が多く、水害を想定した市役所は災害対策本部を設置しました。夜になって降雨も少なくなり、対策本部は一旦解散、我々も帰宅しようと準備していました。しかし雷の方はかなり激しくて、もう少し待機することに・・・。すると11時30分市から豪雨警報が出されました。しかし市の防災課から正式の連絡が何も来ない、“さあどうしよう!”戸惑いました。」
岡崎市は災害が少ない地域です。今回の水害は2000年東海豪雨以来のことで、その時は一部の家屋が床上浸水に遭った程度でした。それだけに市役所も市民も警戒感が薄かったことは否めないようです。市役所は「FMおかざき」と「CATV」と防災協定を結んでおり、災害第1報は防災課から「FMおかざき」に敷設されている「緊急割り込み装置」で放送するか、電子メールで局の責任者3名に同報メールが来ることになっていました。
阿部氏「災害対策本部から豪雨警報が出されていたが、局には連絡がない、対策本部に連絡しても電話が通じない、この情報をどのように確認し放送しようか・・・。スタッフは早く市民に伝える必要があるため、市役所のホームページとCATVの速報を確認して、豪雨警報を放送しました」といいます。それから2時間後、再び豪雨警報が出されても連絡がない、局舎の玄関まで水が押し寄せている、雷の激しさは止まない、そして2時10分、市全域の「避難勧告」が発令される、そんな状況でも防災課から何も連絡がない。阿部氏らの困惑をよそに、発令されてから20分後の2時30分にやっと1枚のFAXが届き避難勧告の要旨が伝えられたといいます。それも防災課からではなく広報課からの伝達であったといいます。そこでスタッフは、はじめての連絡に戸惑いながらNHKとCATVの放送で確認し、3時10分に放送したそうです。発令されてから40分後のことでした。
以後30分毎に避難勧告とともに、スタッフが友人や知人に連絡し情報収集し放送、29日朝8時レギュラー番組が始まるまで放送を続けました。その後レギュラー番組は災害番組に変えて、災害対策本部からの被害状況、警察関連の情報などの情報、スタッフの収集した情報を放送したそうです。阿部氏らスタッフは29日の夜も宿泊しながら状況を伝え続けました。
■ 災害情報の伝達は対策本部情報と市民情報の2つが大切!
「FMおかざき」阿部氏の取材で分かったことは、やはり災害情報の基本は災害対策本部からの明確な情報キャッチです。今回の場合は市役所災害対策本部の混乱から局への伝達が遅れ、速報として市民へ直接伝達可能な「コミュニティ放送」が結果的に充分機能するまでにいたらなかったことです。これはCFM局の体制より、市の対策本部、防災課のメディア認識が薄かったことが大きな原因でしょう。日頃練習や訓練を重ねていてもいざ本番となると想定通りには行かないものです。それだけに自治体と放送局はいつも連携を取っている必要があり、緊急を要する場合は直接市民に伝えるという、自治体の強い認識が求められます。「FMおかざき」には市役所から市民に緊急放送できる「緊急割り込み装置」が防災課に設置されていたのです。そのシステムが全く機能しなかったという残念な結果でした。市民の生命と財産を守る責任は自治体にあるのですから、こうした大きな災害の市民対応として自治体はコミュニティ放送の存在を理解してもらいたいところです。
今回の災害放送を通じて阿部氏は「自治体からの情報のみでなく、ドライバーや一般の市民(リスナー)から情報提供を得られる方法が必要だと痛感しました」といいます。今回は深夜の出来事で、水害に影響がない場所の人はすでに眠っていたでしょうし、被災者は非難するのにやっとで、市民からの情報を得ることは難しかったことでしょう。こうした事態の時、情報収集のあり方は大きな課題です。「FMおかざき」の奮闘と自治体の混乱振りが浮き彫りになった災害放送でした。
2004年7月、新潟県中部と福島県会津地方にもたらした集中豪雨は、信濃川水系の5河川の11箇所が決壊し大洪水となり、各地にかつてない被害をもたらしました。死者16人、ケガ4名家屋全壊70棟、半壊5354棟という被害、この災害は「2004年新潟・福島豪雨」と命名されました。地元では「7・13水害」として記憶に新しい。この時、三条市のCFM局「ラヂオはーと」が災害情報伝達に、地域メディア力を存分に発揮し、役割を果たしました。その時の実態を取り上げましょう。
専門家の調査に現れた市民の「ラヂオはーと」評価
東大教授をはじめ各大学の情報学研究者が調査した報告書「2004年7月新潟・福島豪雨水害における住民行動と災害情報の伝達」で、〔当日役に立ったメディア〕の項目にはこう書かれています。「メディアに関して見ると、『NHKテレビ』が役に立ったと回答した人は多かったものの『民間放送テレビ』を回答した人はそれほど多くなく、特に三条市では役に立ったメディアとして『民間放送テレビ』より『コミュニティFM』のほうが多いという結果となった」。この調査は災害2ヶ月半後の10月に実施された聞き取り調査です。詳しくは後述します。さて、災害発生当時「ラヂオはーと」はどうのように対応したか、動きを追ってみましょう。
7月13日(火)「災害放送その1」
7月12日から降り続いた豪雨は13日になって市内の至る所で冠水、市内を流れる五十嵐川の水位が上がり、橋は通行止になる状況。午前10時過ぎには、三条市役所に設置されていた災害対策本部から第1回の「避難勧告」が発令された。1時間後笠掘ダムから500トン放水の情報、決壊の恐れが生まれ、本部は繰り返し状況報告と避難勧告を発し、「ラヂオはーと」はそれを放送した。そして、局は市長に直接市民に呼びかけるよう依頼し、市防災課と局スタジオを結んである「緊急割り込み装置」(緊急時、市役所から直接放送できるシステム)を使って、市長自身が避難勧告、避難地域を説明し、呼びかけた。午後1時頃2回目の市長放送で「五十嵐川決壊」を伝え、状況説明と緊急避難を呼びかける。川の決壊で自宅へ帰れなくなった市民や家族から安否確認の電話が殺到し、局の電話がパンク状態。局サイドは対策本部、避難所、五十嵐川などへスタッフを派遣、随時情報を伝えると共に、避難所に避難している市民の声を生放送、安否情報をきめ細かく放送し続ける。また、安否情報は対策本部にも伝えられ、救出活動も実施された。夜に入っても、安否情報、救出要請などの情報を伝え続ける一方、市長による緊急放送が夜明けまで数回にわたって続けられた。
7月14日(水)「災害放送その2」
14日になっても市内から水が引かず、引き続き安否情報の放送を中心に、番組は対策本部、避難所、被災地などからスタッフ情報を伝え、市長の緊急放送も続けられた。また市民の現在困っている事態、市への要望、現在求めているものなど、被災者の生の声を伝える。被害の状況から、災害対策用として保管していた「ラヂオはーと/専用ラジオ」約2000個を無料で配布することを放送した。その反響は大きく、3日間で底をつく状況だった。その後隣町燕市から250台の供出をはじめ各所から提供され、500台ほど集まり、それも配布した。
7月15日(木)「災害放送その3」
災害発生から3日目、安否情報は1000件を超えるほど寄せられ、この日も続行、対策本部と連携しながらこれにあたった。市内から水が引き始め、通行できるようになってきたこの日は、市民からの問い合わせ内容がライフライン関係に変化した。道路の通行は可能か、停電の解消はいつ、ガスはいつから使用できるか、水道はどうなっている、などなど。局はその都度対策本部や関係方面に連絡を取り、復旧の見通しを伝えた。一方、市内各組織、団体の動きを知ってもらうため、地元新聞に「“ラヂオはーと”を聴くように」という記事を掲載してもらう。各事業所(市内の会社)からは業務上の連絡や告知スポットを放送したいという申し出も増加した。
7月16日(金)「災害放送その4」
電気、ガス、水道などライフラインの復旧に伴い、問い合わせ内容は生活関連情報へ変わってきた。炊き出しの場所は、利用できる銭湯は、コインランドリーは、冠水した車の移動は、ゴミ処理は、家屋消毒の方法は、ボランティアについての照会、ペットの捜索願いなど。これらの問い合わせに対応するため、各所を取材し収集して伝えるほか、専門的な内容は、保健所など担当者に直接電話中継で話してもらい、対応した。市長の緊急放送はこの日まで4日間、合計20回行われた。
7月17日(土)〜25日(日)「災害放送その5」
17日に再び大雨警報、続いて再度の避難勧告の発令、市長が緊急放送で伝える。4日前の避難再び、ということで避難した市民は多かったという。結果は何事もなく済んだ。この日三条市のボランティアセンターが開設され、ボランティア相談や救援物資についての問い合わせが多く「ラヂオはーと」はその対応に追われる。一方、17日から3連休で、被災者の家族、親戚、知人など応援に駆けつけた人が多い。また物見遊山で被災地に車で乗り入れる不心得者も多く、交通の混乱を来たし、局への苦情が絶えなかったという。悪質な擬似ボランティアや、市職員の名を借りた悪徳業者などが市中に入っている情報があり、専門家による対処方法を放送で呼びかけた。三条市長の緊急放送は24日まで不定期に続けられたが、緊急性が薄くなってきたことから、毎日正午過ぎに定例放送をすることに決め、市長の緊急放送は終了した。
■ 「ラヂオはーと」の災害放送とその効果
地元で「7・13水害」といわれる大きな災害に対処した「ラヂオはーと」は市民からどんな聴かれ方をし、どんな効果を生んだのでしょうか。ここで市民から寄せられた感謝の手紙を紹介します。
「暑い毎日を、お元気でお過ごしでしょうか。風通しを求め、台所の隅でこれを書いていると、水害復旧にご尽力いただいた皆様の姿や光景が懐かしく思い出されます。家具を運び出し、泥を排除し、床を洗い流し、際限なく埃を拭き取ったりと、いくらか落ち着くにつれ、その折に受けた親切にどう報いたらいいのかが頭を離れません。せめて、折々の復旧作業をお伝えし、ご助力いただいた皆様にわが家と曲渕地区の“いま”をお知らせして、そのご親切に少しでも報いたいと思いつきました。今後、何回か概況をお知らせしたいと思います。これからも暑い日が続きます。どうぞお体を大切にお過し下さい。」(平成16年8月15日三条市Y・K)〔「ラヂオはーと」の災害対応はJCBA信越地区協議会発行の「ラジオが命綱だった。」から参照。〕
この1通の手紙で「ラヂオはーと」の市民の受け止め方が分ろうというものです。市民の心に届く放送をしたスタッフの努力と苦労と疲労は想像を絶するものがあります。生命と財産を守る市役所、その代表である市長、命を守るためラジオを聴いた市民、この人たちが受け止めた「ラヂオはーと」の実態は・・・。この続きは次回に移します。(了)
2008-09-10 第47話 災害とコミュニティ放送について その2

□ 災害時の放送回線が切断したらどう対応するのか
防災月間に因んで、CFM局の防災番組がどのように取り組んでいるか、を前回はレポートしました。今回は大きな災害で放送回線が切断された時、スタジオから送信所まで放送番組が遅れない状況が発生した時、各CFM局はどのように対応したらよいか。また自治体(災害対策本部など)からの災害情報の収集するための電話回線が切断したらどのように確保したらよいかを考えてみたいと思います。
大きな災害が発生した場合、地元の市役所に「災害対策本部」が設置されることが多い。これは災害対策基本法により、災害が発生し、または発生する恐れのある場合、国または地方自治体に臨時に設置される機関です。放送回線が切断する事態が発生するほどの災害は大規模な災害です。そうした事態に直面したCFM局は、災害対策本部に集まる情報を的確に収集し、速やかに市民へ伝えねばなりません。この情報収集回線は各CFM局によって異なります。現在最も確実に放送できるシステムは、局と自治体の防災課に設置してある「緊急割り込み装置」というシステムで、緊急放送をするものです。普段の放送に割り込んで放送することができるシステムです。これは、CFM局と自治体が結んだ防災協定に基づいて使われます。このシステムは費用を自治体が負担することが多く、それだけに各自治体は「地域防災計画」にCFM局を組み入れ、広報手段として位置づけを明確にしています。こうした防災協定に基づいた情報伝達ができるCFM局は、当然地元の自治体と平常時から情報提供、提供番組など連携を図っているところが多いようです。しかし、この協力協定を結んでいないCFM局も結構多く、今後の課題の1つでもあります。この「緊急割り込み装置」の放送は、CFM局と自治体防災課と専用回線で結ばれていますが、この回線が切断した場合は、どのように放送対応すればよいか、この対応は各自治体によりはまちまちです。課題は災害発生時にいかに速やかに災害情報を伝え、市民の生命と財産を守るか、自治体にとって大きな存在です。したがって、CFM局が自治体と連携して事態に臨むためには、この課題を避けて通るわけには行かないのです。
■ 放送回線切断の場合、情報伝達の方法はあるのか?
CFM局が災害時の停電や放送回線の遮断に見舞われた時、どのように災害情報を市民に伝達していったらよいか。ここでいう放送回線とは2つあります。1つはまず放送するための回線、すなわち、スタジオから送信所までの放送回線、もう一つは上記のような情報収集するための回線、具体的には災害対策本部その他とスタジオの間の回線です。この点について各局の取り組みはどのようになっているのでしょうか。
札幌市は、市民に対して情報公開を積極的に進めている自治体の1つですが、特に市内6つのCFM局と連携して番組を放送し、他の都市には見られない情報提供として注目を集めています。札幌市の外郭団体「札幌市市民情報センター」では、番組「そら色ステーション」を毎週金曜日15:00〜15:55(55分)に6局へレギュラー番組として提供しています。この「そら色ステーション」の特色は、災害時などを考慮に入れ、各局を放送回線を繋ぐ方法ではなく、6局がそれぞれ放送波を受信し放送するという珍しい方法を採用しています。通称サッポロ方式といっているそうです。いわゆる再送信放送と取っているわけです。「ラジオカロスサッポロ」の放送波を「FMアップル」が受信し同時に放送します。同じ方法で「三角山放送局」「サッポロ村ラジオ」「FMドラマシティ」「グリーンFM」がそれぞれ受信し放送するのです。こうすることによって札幌市全体での難聴地域が大方解消されます。CFM局の多い札幌市でなくてはできない方法、言い換えると、札幌市のCFM局ならではの方法といえるでしょう。上記のように、CFM局のスタジオから送信所までは回線が通じている前提としている方法ですが、放送回線切断しても、スタジオから送信所までの回線が切れていない局から放送することによって放送は可能です。こうしたリレー形式の放送については、各局と災害協力協定など結んでいないとできませんが、1つのあり方に違いありません。各都市に1つのCFM局の場合はどのように対応するのでしょうか。
■ スタジオから送信所までの放送回線はほぼ3種類です!
広域ラジオといわれる県単位のラジオ局は、放送区域が広く影響力が大きいので、有線による回線(デジタル回線)と無線回線(マイクロウェーブ)を敷設していて、どちらが切断しても送信所に放送番組が送出されるようになっています。小規模なCFM局にとって2回線敷設は資金的に不可能で、1回線が普通です。
全国のCFM局は、そもそもスタジオから送信所までどのように放送番組が送出されているのか。大きく分けると3種類となるでしょう。1つ目はNTT回線を使ったISDNで結ばれている放送専用回線です。この方法は大方のCFM局が採用している方法です。2つ目はスタジオのあるビルの屋上に送信所を敷設しているCFM局で、スタジオと送信所が近いため、アナログ・ケーブルで繋いでいる方法です。3つ目はマイクロウェーブという無線回線を敷設してスタジオから送信所へ送出している場合です。
大きな地震が発生した場合、1つ目は放送回線の切断が考えられます。CFM局の大方が採用している方法であれば切断があり得るのです。2つ目はスタジオのあるビルが倒壊しない限り、あるいは余ほどの事故がなければ切断は免れます。最近放送開始した局で、小田原市にある局「FMおだわら」は市庁舎1階にあるスタジオから屋上までケーブルで結んでいます。立川市の「FMたちかわ」は6階にあるスタジオから屋上までケーブルで結ばれています。3つ目はスタジオのあるビルから送信所まで無線で送りますので、スタジオのビルが倒壊するか、また送信所が倒壊しない限り、番組の送出は可能なわけです。
このケースは送信所の立地条件によって採用される場合が多く、福山市の「レディオBINGO」はスタジオのある商工会議所の屋上から鞆の浦にある300m以上の高い山の送信所に、マイクロ無線で送出しています。沼田市の「FM OZE」は、山に囲まれている環境から、山頂にある送信所までやはりマイクロ回線で送っています。この方法は非常に敷設費用がかかるため、採用しているCFM局は非常に少ないのが現実です。最近このマイクロ回線がデジタル化になり、アナログ回線は使用できないことになっています。デジタル化による敷設費用がアナログ回線時以上にかかることもあり、これからCFM局で活用することはなかなか難しいでしょう。
大きな災害の対象とするのは1つ目のケースです。NTTのISDN専用回線がもし切断したら・・・。現在の大部分のCFM局は、放送番組の送出が不可能です。では、どうしたらよいか。送信所が山の上とか、高層ビルの屋上とか、なかなか近づけない場所にある場合を除き、番組中継機材(マイク、調整卓、ケーブルなど)一式を送信所近くまで運んで臨時スタジオを創り、放送に臨む方法です。これは各CFM局にある番組中継機材で対応が可能です。上述の札幌にある局「ラジオ・カロス」では、こうした方法で臨むといいます。また、藤沢市にある「レディオ湘南」では、アンテナ・送信機を含む災害用放送機材一式をセットとして準備していて、いざとなった時はこのセットを当てるといいます。
CFM局は小規模放送局のため、放送施設には充分な費用を当てられない事情があります。広域ラジオのように、有線と無線の2回線を準備する余裕はありません。このあたり、直接市民への情報提供を役割としているCFM局は、市民の生命と財産を守る地元の自治体と「市民への災害情報伝達」について、放送回線と情報提供をどのように提携するか、明確なシミュレーションを創っておくことが非常に大切ではないでしょうか。
■ 既成の情報回線が切断した場合はどうなるのか?
もし、大きな災害が発しした場合には、自治体に「災害対策本部」が設置されます。CFM局は地元の情報を、この「災害対策本部」から情報を得ることになり、自治体とスタジオを結ぶ情報回線が命綱になります。この回線が切断されたらどのように対応すればいいのでしょうか。ここに1つの情報提供のあり方を考えさせてくれる例があります。
札幌市と6つのCFM局は、日頃から「そら色ステーション」という番組を全局で同時放送していることを紹介しました。この6局は、災害時に備えて市役所とそれぞれの局が、無線回線で結ばれています。NTTの通信回線が切断された場合、市役所はCFM局にこの無線回線で必要情報を伝える仕組みになっていて、災害対策本部から放送局へ確実に情報が伝えられます。これはデジタル化された防災行政無線を活用しているもので、放送局まで確実に情報が伝えられることは、公共的使命を果たすCFM放送局にとってかけがえのない回線です。札幌市では公共団体や施設、たとえば医師会や病院、学校、交通機関、商工会議所、福祉施設、農業組合などに設置した防災無線の端末を同じ位置づけでCFM局にも配備したものです。自治体が運用する防災行政無線だけに、どれだけCFM局用に活用できるのかは不明ですが、デジタル化した防災行政無線は親機と子機、子機と子機が交信可能なので、この無線手段が活用できると、CFM局にとって大幅な情報収集が可能となり、局サイドにとって極めて重要な情報回線となります。
■ 他の回線は考えられるのだろうか?
いずれにしても、いざ大規模災害が発生した時、CFM局は局舎と送信所が崩壊されない限り、放送は続けねばなりません。そのための方法として「放送事業用連絡無線」の活用が最も相応しいのではないかを思います。広域ラジオ局が「FMカー」として利用しているものです。全国のCFM局では1割ほどの局が採用していると聴いています。しかし、現在デジタル化が進行中で、2014年(平成26年)6月以降はデジタル無線となることになっています。現在使用している無線も、これから申請しても免許される無線も、期間はこの期日までとなっているようです。これからはこの放送事業用連絡無線を使った「災害対応の放送回線」を検討して行くことが最も適していると考えられます。もう一つの方法として、自治体の協力を得たデジタル災害行政無線の利用方法です。これは自治体管理下にあるため、確実性、安全性の面から極めて有効手段と思えるのです。しかし市町村によっては「防災行政無線」を設備していないところもあれば、アナログ採用のところ、デジタル採用のところなど混在しています。したがって、この「防災行政無線」に関しては一般的な利用方法はなかなか見見出せません。
このほかの発想として、自治体との連携による「ふくおかコミュニティ無線推進協議会」が開発したMCA無線を活用した安価で利便性の高い新たな情報システム「ふくおかコミュニティ無線」の導入と活用などが考えられます。市町村単位で可能ならば、この無線のCFM局活用など検討の余地もありそうです。あるいは、新潟中越地震の際、隔絶された旧山古志村から被災状況を村長が伝達できたのは「衛星電話」だったといいます。この衛星電話を活用した伝達方法は考えられないのか。上述した情報収集回線ににしても、スタジオから送信所までの放送回線などに活用できないのか、などなど様々な発想は生まれてきます。衛星電話などは、「音声」を伝えるだけでなく「テキスト」も送ることができます。高齢者の多い避難所へ情報伝達するには、「文字情報」が大切です。新潟中越地震では、FM新潟がJFNの協力を得て「見えるラジオ」の文字情報を避難所20箇所に表示し、地元詳細情報を伝達できた実績は高く評価されています。「音声情報」と併せて「文字情報」がディスプレーに表示されることは高齢被災者に対応する手段として確実な方法が早急に求められます。こうした視点からさまざまな防災関係機関の積極的開発をお願いたいものです。(了)
2008-09-02 〔第46話〕 災害とコミュニティ放送について その1

8月28日は「ゲリラ豪雨」が各地で集中した記録的な日でした。各地のCFM局は地域各地の情報提供に奔走したことでしょう。災害といえば大地震、と受け止める傾向が強い今日この頃にあって、「ゲリラ豪雨の情報」が地域の災害情報として必要不可欠になりました。「ゲリラ豪雨にCFM局はどのように対応したか」、実態調査が求められるところです。これからこのブログでも、入手可能な範囲で調査をしてみたいと思います。さて、しばらく夏休みとして「閑話休題」、小片の話題を取り上げてきましたが、今回からは「災害とコミュニティ放送について」と題して、災害時のCFM局の対応について、取り上げていきたいと思います。第1回は災害の日に因んで、CFM局が取り組んだ「防災特別番組」について、レポートしていきましょう。
■ 防災特別番組を、各CFM局はどのように取り組んでいるか?
9月は災害月間で、各地でさまざまな防災訓練やCFM局の特別番組が放送されます。特にCFM局では、さまざまな形態で特別番組が編成されています。各局の取り組みを取材すると、ある傾向が現れています。その変化をレポートしていきます。
- 広域ラジオとCFMがジョイントして防災特別番組を編成する方法です。 広域ラジオとは県単位のFM・AMラジオを指しますが、この広域ラジオとCFMが連携して防災特別番組を編成することです。今回新たに実施した神奈川県のFM横浜と9局のCFMの連携や熊本県でのNHKラジオも巻き込んだ広域ラジオとCFMの連携、東海地震が心配されている静岡県ではすでに10年近く前から、SBS(静岡放送)と県下のCFM局(現在は6局)が連携して番組編成、また群馬県ではFM群馬とCFM局がすでに連動して編成を行っています。
- CFM局同士が連携して防災特別番組を編成する方法です。 今年の東京都下のCFM5局が連動、特別番組を編成する都会型CFM局連携、あるいは地域間連携としてCFM局同士が特別番組を編成している例などです。
- CFM局単体で防災特別番組を編成する方法です。 9月1日防災の日には、何らかの形でCFM局は特別編成の番組を放送していますが、自治体と連携して独自に番組編成を組んでいるCFM局もみられます。
■ FMヨコハマと県下CFM9局が防災番組を連携
防災の日の9月1日、FM横浜と神奈川県下9局が連携して、初めての防災特別番組を放送しています。FM横浜の放送は17時間という長時間へ編成ですが、各局は全放送の一部と各局担当のレポーターが横浜に入中継する方法を取ったようです。「関東全域を放送区域とするFMヨコハマの電波を生かし、各地の防災情報を共有。単独では把握しにくい地域情報をより早く、詳しく聴取者に伝える狙い」です(日経新聞神奈川版)。参加したCFM局は、川崎を始め横須賀、逗子葉山、鎌倉、藤沢、平塚、小田原、相模原、大和、青葉台の9局です。東海地震の可能性が指摘されている中で、広域と地域が連携して災害時のより細かな対応を推進していこうと纏まり、その具体的な連携番組が実現したものです。今回の連携は実験放送と位置づけています。
番組を制作したFM横浜では番組「防災ワンデイ」として朝5時から午後11時まで、昼の1時間を除く17時間生放送の展開。内容は、各地域の防災対策あるいは災害時の実践対応などをレポートするほか、聴取者に防災クイズを出題、防災意識を高める企画など盛り込まれました。CFM各局は地域の防災対策をパーソナリティが5分ほどレポートし、ワイド番組の中に挿入されました。今回の連携を手始めとして各局は近く「神奈川FMネットワーク」という共同組織を作り「防災協定」を結ぶ準備を進めたいとしています。中越沖地震の際、新潟県内のCFM10局が「防災協定」を結んでいた結果、柏崎市の「FMピッカラ」は各局の協力を得て、災害放送ができています。今後どのような協定になるのか注目したいものです。
■ 10年前より続ける静岡放送と県下CFM局の防災放送
静岡放送/SBSラジオは、1998年(平成10年)より広域ラジオとCFM局の連携を開始、最初はSBSと県下3局から始め順次増加して、現在6局と結んでいます。毎年1月と9月の2回実施、今年の9月1日は9:00〜11:00(2時間)放送、SBSと浜松市、静岡市の2局、三島市、沼津市、富士市の6局が参加、番組はBSBと6局が共同制作、「命を守ろう!TOUAI―O」と銘打って生放送で結んでいます。内容は「人災としないために大地震が起きたらどのように対応したらよいか、生命と財産を守る術を提言しよう」というもの。また「防災スペシャル」では、番組提供社として中部電力、静岡ガス、LPガス協会などライフライン関係の企業9社が協力しています。静岡県のラジオ連携は、恐らく広域ラジオ・CFM連携の防災企画の走りではないかと思います。
■ 防災特番で熊本市CFM局「CITY FM」が大活躍
熊本県では、NHKラジオと民放ラジオそしてCFMが連携する形態で、毎年9月1日に実施しています。広域ラジオとCFMが連携する形態では最も充実しています。今年の特別番組は次のような形で実施されました。番組は9月1日に12:15〜13:00(45分)NHKは40分放送。「2008年 命のラジオ」というタイトルで「災害時の対応、特に自助、共助の視点から関係各組織や遂行者、専門家などを交えながら、番組構成する」というもの。特色は番組制作を熊本市のCFM局「CityFM」が担当したことです。連携局はNHK熊本放送、民放熊本放送、FM熊本、CityFMほか八代市、小国町の各局、提供各社は九州電力、西部ガス、NTT熊本支店など全6社となっています。
広域ラジオとCFMが連携した事例で、この熊本が最も充実しているのは、NHKラジオ(熊本支局)が加わり、県下全ラジオ局参加していること、そしてスポンサーが提供している事実のほか、今回は「CityFM」というCFM局が幹事局になり、番組制作を行い、その番組が全局で放送されたこです。防災特別番組という社会性の最も強い番組をCFM局が制作し、広域のNHK、民放で放送した実績は大きく評価されていいと思います。
■ 「FM群馬」がCFM局と連携し防災特別番組を編成
広域ラジオとCFMが連携している例をもう一つご紹介しましょう。防災の日の9月1日のFM群馬と県内のCFM局です。FM群馬とCFM局の連携は、過去にも実施されており、それぞれの局が実績を積んでいます。番組は「セイブアワー・ライフ 〜災害の備え〜」、放送は今年も9月1日12:00〜12:55 (55分)、内容は「災害時の備えについて、広域を担当する県庁の防災対策、地域を担当する自治体の防災対策はどのようなっているのか、それぞれFM群馬とCFM各局を結んで、災害時の備えをゲストや取材によって構成する」というもの。昨年は国土交通省の高崎地区担当局が協力、今回はスポンサーなしで実施しました。スポンサーのあるなしに関わらず、局の姿勢として放送しているFM群馬と地域CFM局を注目したいものです。この連携が災害時に大きな力を発揮することは、先の中越地震や中越沖地震で見ることができます。
■ 東京都下CFM5局による初めての防災特別番組の編成
大都会におけるCFM局の連携として、神奈川県に続き、東京都下の例をご紹介します。東京にある武蔵野多摩地区のCFM5局は今年から連携し、同時間放送を行なっています。番組は防災週間の9月1日から6日間で、放送時間は12:30〜12:50(20分)。土曜日のみ19:30〜20:(9月1日〜6日)、防災番組「コミュニティFM 多摩5局同時生放送!防災週間スペシャル」というものです。参加CFM局は武蔵野市、多摩市、西東京市、調布市、立川市の各CFM5局。内容は各地域の災害時の対応を各局が日替わりでレポートするもの。各局が担当する内容にそれぞれ特色がありますので紹介します。
・ 1日(月)担当エフエム多摩G−WIND 「外国人の防災活動プロジェクト」
・ 2日(火)制作:FMたちかわ 「助けはいつ来るか」
・ 3日(水)制作:エフエム西東京 「あなたは避難所で何日間生活できますか?」
・ 4日(木)制作:むさしのエフエム 「育児と被災 そのとき家族の連絡は?」
・ 5日(金)制作:ハミングハート調布エフエム 「川と暮らす“調布の防災力”」
・ 6日(土)制作:5局制作総集編 各局番組ダイジェストと制作者コメントで構成
関西地区は阪神淡路大震災を経験しているため、各局は敏感に防災放送体制を進めていますが、神奈川県や東京都下など首都圏でCFM局が連携するのは今回が初めての試み。大都会におけるCFM局の連携として、これから地域密着の防災情報をどのように伝えていくか、今回の連携が多くの経験を蓄積することになり、いざという時に大きな備えとなるでしょう。(了)
2008-08-27 第45話 〔夏休み 閑話休題〕 その5

■ ミュージックバードがCFM局にスポンサード番組配信!
CFM局に番組配信している会社は、かなりあります。その中でも、衛星デジタルラジオのミュージックバード(MB)では、CFM局向けの特別チャンネルを編成して、24時間放送しています。この度、そのMBがCFM局へスポンサーを付けた番組配信を、10月編成で実現することになりました。速報をお伝えします。
MBでは兼ねてからスポンサーをつけた番組配信に力を注いできました。番組協力という形でこれまでもトヨタ自動車はじめ大手スポンサーの協力を仰いできました。その意図は、“地域密着の力が、全国的にも強いメディア力を発揮するその成功事例を作りたい”(MB北村専務)という狙いから、ネットワークスポンサー開拓に努力してきました。その結果10月編成に間に合うべく作業を推進し、このほど決まりました。
ミュージックバードでは、
新番組名:「Morming Commnity」(6:00〜8:00)
番組内容:番組地域に根ざした情報を各地各局から寄せていただき、ポジティブに生きる人の情報として紹介します。もちろんニュース、天気予報、スポーツ情報、防災・訪販情報なども適宜織り込みながら軽快な音楽にのせて綴る番組となっています。出演者は現在人選中だそうです。スポンサー:日野自動車ほか大手企業数社。
去る5月に開かれた「ミュージックバード・メディア・プレゼンテーション」でこの構想を披露し、各局から大きな期待が寄せられました。CFM局では、早朝の時間帯の番組づくりが難しく、できればこの時間に、明るく爽やかな情報番組がほしいという希望が多くあり、この度の10月編成となったものです。
CFM局が各地域で活躍されることは最も大切ですが、小さな放送局が纏まって大きな力を発揮することも、メディア・パワーを向上させるために大切なことで、「影響力がないメディアはメディアでない」といわれるように、地域に限らず、全国的に連携を組むことで大きな力を発揮することが可能です。広域ラジオ放送のネットワークの原理はこの考えに基づいています。CFM局も葡萄のように大きな房になることにより、単体ではできない影響力を発揮できるはず、そして、大手スポンサーが提供することで、コミュニティ放送のメディア・パワーが向上します。
CFM局の方々は、このMBのチャレンジを見守ってほしいところです。どこの配信会社もできない、ユニークな企画であり、MB自体、民間放送連盟に加盟しているれっきとした放送局であっるからこそ、CFM局のネットワークメディアづくりに、スポンサーの方々が大きな関心と理解を持ち、今回の実現に繋がったことはCFMの新たな一歩を歩み出した事実として捉えたいものです。(了)
2008-08-20 第44話 〔夏休み 閑話休題〕 その4

■ 震災とCFM局について
夏休みにて、最近感じたCFMのことを書いています。今回は災害放送として活躍したCFM局FMピッカラと中越沖地震について、スタッフの活躍と周辺CFM局の協力についてちょっと記しです。
中越沖地震は、中越地震が忘れていない時期、へんな言い方ですが、この時期に来ました。JCBA信越地区協議会が纏めた資料「『FMピッカラ』『FMながおか』は新潟県中越沖地震をどう伝えたか」では「災害は忘れぬうちにやってきた・・・」と書いています。ほんとにこのところ地震が多く、次は我々の番か!と思えるほど頻度が多くなっています。この中越沖地震では、忘れないが故に体制を組んでいた対策が、今回大いに貢献したことを、少々拾い出してみたいと思います。
その1:「緊急災害放送における相互支援協定書」の成果
この協定書は平成17年9月に信越地区のCFM9局によって結ばれ、災害本番に役立ったそうです(後日FM十日町が参加で10局となっています)。協定書の目的は、当該地域の災害に対し迅速な対応を取るため、相互支援を行うもの。また相互支援の内容は放送スタッフの派遣、放送機材の融通、ラジオ受信機の備蓄などです。実際の相互支援は、今回の場合19年7月16日発生から5日目の21日から11日間各局がパーソナリティを派遣し、延べ人数17名が放送に従事したといいます。日ごろ少ないスタッフで放送しているCFM局にとってどれだけ助かったか、がわかります。このほか、臨時災害放送の免許手続きや機材調達、設置などは協定局「FMながおか」(脇屋局長)が受け持ち、ラジオ受信機は備蓄局「FM雪国」が提供、といった具合で、協定を結んだ各局が全面的に協力し合い、最大限の災害放送を可能に実績は、CFMにとって大きな成果といえるでしょう。
その2:CFM局の臨時災害放送は日ごろが大切
大きな震災の場合、「臨時災害放送」が総務省からCFM局とは別に免許されます。阪神淡路大震災は「FMフェニックス」という放送局が兵庫県庁に免許され、NHK大阪局スタッフが中心となり、ボランティアの協力を得て放送、中越沖地震の時は、長岡市に免許され「FMながおか」が委託を受けて放送しました。今回は柏崎市のFMピッカラが、災害発生時から災害放送に切り替えて放送、難聴地区である西山地区に臨時災害局として10ワット局が免許されました。本来災害放送として独自に放送するのが通例ですが、今回の場合、FMピッカラの電波を受けて放送したそうです。通常のCFM局の放送を再送信する臨時災害局は、今回が初めてだそうです。実質的にはFMピッカラの中継局として放送されたわけです。これも特筆に価します。それは普段災害放送の対応ができているCFM局だからこそ可能であったからです。
CFM局は、災害の時だけ「放送すればよい」と受け止めている自治体があると聴きます。災害時にはどれだけ早く、被災者へ緊急情報を伝達していくか、が求められる災害放送です。それが可能なのは、今回の10局の協定による成果をみればお分かりの通り、日ごろの放送こそが大切で、災害時の対応ができ、また近隣の放送局が連携して、事に臨むことがいかに大切か、を物語っているのではないでしょうか。
9月から中越地震、中越沖地震を例にして、CFM局の災害放送についてレポートしていきます。その折に、上述の内容を含めて詳しくお伝えしたいと思います。(了)
2008-08-12 第43話 〔夏休み 閑話休題〕 その3

■ CFMがネットラジオを配信する訳は・・・
8月8日夕刊の毎日新聞に「ネットで世界へ発信〜木村太郎さん代表の『湘南ビーチFM』」の見出しで、写真入り4段記事としてCFM局のネット配信の取り組みが紹介されています。この記事のテーマは「地域メディアであるCFMが世界に情報発信する、その取り組み」について報じているのですが、最近大手の新聞にCFMの記事が取上げられることが多くなりました。地域情報を発信するラジオとして、認知を高めることに大きな力となっています。大変結構な傾向です。
木村太郎氏など「湘南ビーチFM」など3局が主体となってネット上にラジオサイトを開設したのは、去る6月です。4年ほど費やして著作権3団体と交渉を重ねて、基本合意に達し、「サイマルラジオ」としてサイトを開設、現在全国のCFM15局が参加しています。要は著作権をクリアして、合法的にネットラジオを配信しているわけです。CFM局のホームページを閲覧していると、時々CFM局のネットラジオが見受けられます。こうした局は音楽著作権をクリアしているのかな、と疑問を持つことがあります。最近番組配信会社に、権利団体から「ネットラジオでお宅の番組が流れている局があるが了解しているのか」という問い合わせがきているそうです。
「サイマルラジオ」が権利団体と基本合意した内容には、ネットラジオは自局で制作した番組を放送と一緒に配信することになっていて、自局制作以外の番組は流せません。言い方をかえると、自局制作番組をストリーミングで配信することが合意点なのです。詳しく知りたい方は「サイマルラジオ」へお問い合わせください。
ここで大切なのは、CFM局がネットラジオを配信できるようになった事実です。著作権料もCFM局に適度な形となっているので、これからCFM局は本格的にネットラジオに取り組む時代に入ったな、という気がします。ネットラジオ時代のCFMといった方が時代の先端を感じます。
■ 本来は難聴地域のためのネットラジオ配信・・・
CFMの放送電波の強度は最大20Wです。実質的な聴取範囲は直径15キロ〜20キロといったところです。ましてや大都市では高層ビルが多く、最近のビルは電磁波カット装置も付き始めたこともあり、難聴範囲が増加しているといっていいでしょう。そうした中で、パソコンでラジオが聴ける方法、携帯電話で聴ける方法が可能となることは、地域メディアとしてCFM環境が向上するわけで、歓迎されるべきものです。ラジオの最大の取り柄である「ケイタイ性」を更に発揮するには、すべての携帯電話でネットラジオが聴取可能になることでしょう。現在可能なものもありますが、できれば「携帯電話」すべてが聴ける環境になりたいものです。そうすれば、災害時のラジオとして揺るぎない存在になること請け合いです。これからサイマルラジオはじめ、CFMの団体などがキャンペーンを展開して、電話会社を説得する必要がありそうです。
さて、木村太郎氏には地域情報を世界に発信していく、という考えがあるようで、新聞には「地域性が武器になる」と力説しているといいます。確かにこれからは地域が情報を発信していく時代ではありますが、世界に発信してどのような効果が期待できるのでしょうか。この点についてもう少し詳しく聴きたいものです。
世界と日本、世界の都市と日本の都市、といった関係や、姉妹都市同士の情報交換などは大いに意味があるように思えます。我々はもう少し関係性の上で強い繋がりを求めたいものです。古代都市がそれぞれ都市同士で結びついていた歴史を考えると、日本でも「道州制」の導入が検討されているように、自治権を持つブロック地域が登場し、その中の都市と都市、あるいはブロック地域を越えた街と街がそれぞれ情報発信し、交流を結んでいく強い関係が生まれるでしょう。そんな中で、地域の活性化情報を、CFMの情報として、地域だけでなく、ネットラジオで広範囲に配信、また、人や団体の交流に繋がっていく、そうした影響力を及ぼしていくことこそ、CFMの大きな存在であり、メディアとしての意味を作り出していきます。こうした将来像を思えば思うほど、ラジオ放送とネットラジオの役割が貴重な存在となるに違いありません。(了)
2008-08-05 第42話 〔夏休み 閑話休題〕 その2

〔CFMって、これからデジタルになるの?〕
CFM局に携わっている方々には、将来CFM局もデジタル放送になるのだろうか、と思っておられる方も多いことでしょう。広域ラジオの事業者が、デジタルラジオの実用化試験局を開始して注目を集めたり、テレビはデジタル放送で「ワンセク放送」も開始され、「携帯端末」(携帯電話やゲーム機)で楽しめるようになってきています。いつでもどこでも接触できるラジオの特性がいまやワンセグTVに奪われようとしています。このままでいくと、ラジオはワンセグTVにとって変られてしまうのでは、という不安が込み上げてきます。ラジオ大好き人間とっては一大事。アナログ広域ラジオもCFMも、近い将来は消えてしまうことはないのでしょうね!こんな不安を少々抱きながら、いま、CFMのデジタル化について少々触れてみたいと思います。
〔CFMはデジタルラジオになる可能性はあるのだろうか?〕
CFMのデジタル化は当面先のこと、とは業界の一致した見方ですが、将来はどうなっていくのでしょう。熱帯夜にぼんやりと頭をかすめました。これまでのお役所の考え方は、CFMに関してデジタル化はない、という方向性があったようですが、TVのデジタル化移行後の空き周波数帯の考え方がようやく姿を見始めたようで、特に放送に関わる分野では、おおよその考え方が纏まってきたようです。その方向性は全体を〔マルチメディア放送〕という新しい分野に特化して、これまでのデジタルラジオを発展させていこうという内容です。
去る7月15日、総務省は「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」の報告を公表しました。それよると、〔全国向けマルチメディア放送〕と〔ブロック向けマルチメディア放送〕そして〔デジタル新型コミュニティ放送〕の3つのパターンの実現が適当である、と報告されています。CFMが将来デジタル化できることがはっきりしてきたわけです。ではいつ可能なのでしょうか。少々中身を摘んでみることにします。
〔CFMはいつごろデジタル化できるのか?〕
この報告書のポイントは(1)アナログTVがデジタル化する2011年7月以降、アナログTVの空き周波数帯(VHF帯)90〜108Mz(V−LOW)と207.5〜222Mz(V−HIGH)を放送用に当て、前者を〔ブロック向けマルチメディア放送〕と〔デジタル新型コミュニティ放送〕に、後者を〔全国向けマルチメディア放送〕に、とされています。そして免許については〔全国向け〕と〔ブロック向け〕が優先され、デジタル新型CFMは〔ブロック向け〕のネットワークが一応整備された段階になると考えられています。ひと言でいえば、2011年以降順次免許された〔全国向け〕と〔ブロック向け〕が受信機の普及に努力し、5年後世帯カバー率90%を確保した暁に、デジタル新型CFMに免許されるというわけです。どんなに早くても2016年以降、実際はTVのデジタルTV受信機の普及に相当な時間がかかったことを考えると10年から15年先と考えるのが普通でしょう。CFMのデジタル化はある、されど相当先になる、というのが現状認識ではないでしょうか。
〔CFMのデジタル化よりもネットメディアを考えよう!〕
新幹線のような猛スピードで走っている現在の世の中では、10年から15年先がどんな世の中になっているかなど、考えようがありません。それよりも現在抱えている問題を、これからやってくる半歩前の予想環境で考える方が、より現実的のように思えます。
現在ケイタイ電話が余りにも普及しています。ラジオが聴ける機種のかなり多くありますし、ネットラジオが普及段階に入り、これからはケイタイでラジオを聴くことに何不自由がなくできるでしょう。また、ケイタイでインターネットに接続する人も日に日に増加しています。これからのラジオはインターネットとの連携は不可欠です。そう考えると、CFMがデジタル化する暁には、ネットラジオが先に市場を構築しているかもしれません。
そんなことを考えると、CFMはいまからネットラジオやネットメディア構築の努力が必要でしょう。CFMは地域情報を提供することを本命としていますが、ネットメディアと連動することにより、テキストも静止画も動画も提供し、リスナーと交流も可能です。小さいながらも、リスナーという聴いてくれる方々とネットで結び交流ができる環境は、これからのラジオを掛け替えのないメディアに成長させる可能性を大いに秘めているといっていいのではないでしょうか。ラジオ大好人間の呟きです。(了)
2008-07-28 第41話 夏休み:閑話休題

〔花火大会とCFM〕
花火大会はCFM局の出番です。各地の花火大会を地元のCFMで中継する場合が
多いようです。三尺玉を見上げながら「うわー凄い!」とつい声を出してしまう
あの花火見物・・・。
“只今の三尺玉大花火は「大江戸桜」提供は紀伊国屋三谷店でした”と声の美女が
アナウンス、ラジオっていいなぁと思う瞬間でもあります。
大きな競技場で「サッカー試合」を見ている時とも同様で、解説がないと誰が
ゴールしたのか判らない観戦、ここにラジオがあったなら、と逆に思う時があります。
災害時のラジオも大切ですが、こうした時にラジオの役割も大きなものです。
あなたの地域のCFM局は中継していますか。
〔柏崎の海の花火大会〕
新潟県柏崎市の花火大会は新潟三大花火大会のひとつ。特に海の花火大会は珍しい。
もう3年ほど前だったでしょうか。第1回の花火大会に招かれて見物したことがあります。
柏崎の市民はもちろんのこと、近隣市町村の方々がこぞって見物にきて、柏崎の浜辺は
1キロ四方ぎっしりの観客でした。
「まもなく花火が打ち上がります。どうぞ席に戻られて、ごゆっくり鑑賞してください。」
FMピッカラのアナウンサーが伝えます。すると待っていたかのように、ズドーンという
鈍い音がして、最初の花火が打ち上がりました。
それから約1時間・・・。漆黒の海空に咲いた一瞬の大輪の数々、そして
海の露と消え去る姿、ラジオの声は1つ1つ丁寧に伝え、見るものの心を、豊かに支えて
くれました。やはり花火大会はラジオとセットが相応しい、と思った瞬間です。
帰りの車窓の光は幻影の花火となって映るではありませんか。
■ はるかなる仕掛け花火が照らす波 ■ 中村 秋晴
柏崎の花火大会も海の仕掛け花火が美しく、波間を照らす光景が瞼に浮かびます。
■ ねむりても旅の花火の胸ひらく ■ 大野 林火
帰りの電車のなか、うとうとする度に花火の余韻が漂います。
■ 思ふ事の空にくだくる花火かな ■ 寺田 寅彦
よい思いか悪しき思いかはともかく、花火は一瞬に思いを砕いてしまいます。
あなたの地域では「花火大会」で「ラジオの中継」ありますか? (了)
2008-07-23 〔第40話〕CFMの営業展開について その3

〔CFMの営業展開はどのように活動しているか〕
さて、いよいよCFMの営業展開に入っていきますが、一概に「この営業活動が正しい」とか、この方法が一般的、といったCFMの営業にないところが特徴といえば特徴です。広域ラジオのように、定型的な営業展開がない特徴は、CFM局がどんな形で設立されたかによるところが多い、と前回でも触れました。設立経緯がその後の営業活動にも影響を与えることが多いCFM局営業では、現実にどのような営業展開がなされているか、私の知る範囲でレポートしたいと思います。
■ CFM営業のあり方を把握するものはあるか!
CFM局の営業展開は、地域によって大きく異なっています。大都会と地方都市、大都会近郊の市町村と地方都市近郊の市町村、あるいは、都会から離れた市町村、などその地域によって、また、その地域で展開されるCFM局経営者の方法によって、営業のあり方は千差万別です。こうした要素を箇条書にしてみると以下の通りです。
・地域の異なるところ
(a) 大都市に中にある都市か (東京、大阪、名古屋、福岡など大都市の中)
(b) 大都市の近郊になる市町村か (首都圏なら朝霞市、西東京市、多摩市など)
(c) 地方都市の中にある街か (政令指定都市内にある街など)
(d) 地方都市の近郊にある市町村 (静岡市だと清水市とか沼津市など)
(e) そのほかの市町村 (中心都市より離れた地域の市町村)
・経営形態の異なるCFM局
(a) 自治体主導型の経営局 (自治体が設立の中心となって設立された局)
(b) 商工会議所主導型の経営局 (商工会議所が設立の中核となった局)
(c) 地元メディア主導型の経営局 (CATV、地元新聞、情報誌、放送局など)
(d) 地元企業主導型の経営局 (地元で活躍する大型企業が主役となっている局)
(e) 地元大学主導型の経営局 (大学が地元連携を強化する目的で創った局)
(f) 地元有志主導型の経営局 (地元の有志が集まって設立された局)
(g) その他の経営局 (その他JPO法人やワンマン型などさまざまな局)
以上の項目を縦軸と横軸して、カーソルが一致するCFM局の営業展開は、おおよそながら想像がつくかも知れません。でも、これはあくまでも1つの目安でしかありません。CFM局全般を概観した時に、理解しやすい方法として示したものに過ぎず、各局が開設され、運営されていく状況のなかで変化することが多いので、現実にはどのような営業展開がなされているかは、個々に調査しないと分らないでしょう。ある局の例を参考に、現状の一端を触れてみたいと思います。なお、それぞれの局からは局名と営業収益額の記載を避けてほしいとの要望がありまいた。掲載はお許しください。
事例〔A局〕
地方都市にある人口6万人の街。設立は商工会議所が主導で開設。開局13年。現在は市民から地域メディアとして高い評価を得て、市民のシンボルとなっています。開設当時、局長1人、社員1人から出発、資本金も3000万円に満たない程度スタートし、設備投資もままならず、民生機器中心の放送設備でした。番組制作も営業活動も市民ボランティアに協力を仰いで運営を賄っていました。ある時、自然災害に見舞われ、市内を流れる川が氾濫、局長自ら自転車で氾濫する川を取材し、現場からケイタイ電話で生中継しました。防災無線の情報を食い違う情報がいくつかあり、災害現場からの生の中継の大切さが市民はじめ、自治体や市会議員など各方面から災害時のラジオ情報の貴重さが評価されて、一躍注目される存在になりました。現在では地域に根ざした地域メディアとして、無くてはならない存在に成長しています。各方面の評価は自治体の協力体制に現れています。放送局の施設、アンテナは庁舎の最も高いところに、スタジオも市民が集う最も賑やかな場所へ移設となり、自治体の協力で再スタートを切り、今では経営面でも安定した環境を創り上げています。この局に現在の収益内容は、自治体3割、地元大手企業3割、市内商工事業者3割の構成で出稿されているそうで、後は特別企画で賄われているといいます。営業担当は現在一人、日頃からセールスに飛び歩いている様子が伺えます。6万都市のCFM局が成功の代表例といわれる所以は、災害時への対応として自治体から全面的な信頼を勝ち得ていること、当然日頃から行政情報および防災情報の提供による出稿と地元大手企業と商工事業者からの信頼が広告出稿に結びついています。CFMの経営は、資本参加の有無は別として、こうした自治体からの信頼の構築、地元企業や商店街からの支援など、広告効果に対する出稿というより、その街のために放送しているという信頼を勝ち取ることによる出稿の方が、CFM局経営の成功に導く大きな活動ではないでしょうか。
事例〔B局〕
大都市内の人口50万以上の街。設立は自治体も商工会議所も出資している第3セクターですが、実質は地元企業が中心となって運営されている局。開局は11年。赤字にならない程度の成績ということです。この局の営業展開は、放送営業の本来である「放送番組」の販売に中心が置かれ、イベント収入は少ないといいます。営業スタッフは1人で、地域内を飛び込み営業中心に展開しています。人口の多い地域だけに事業者数は多く、飛び込み先も結構多いようです。年間営業収益は全国平均あたりとか。この局の提供企業は自治体も地元商店街もありますが、地元事業者の数が多いのが特色で、営業スタッフがいかにどぶ板営業を展開しているかが分かります。また、放送番組は地域リスナーや近隣のCFM局から評判がよく、経営者の力の入れようが伺えます。
事例〔C局〕
大都市近郊の人口10万人の街。設立は地元有志が集まって生まれた局。今年で開局10年を迎えたところで、経営的には苦しい状況にあります。自治体の協力や地元大手企業の協力があるものの、提供企業の広がりに課題を抱えています。この局は免許前に会社が創られました。こうしたケースは時々あります。しかし免許の降りる時期が長引いたため、資本金の余裕がなくなり、開局時から営業収益に頼る状況でした。景気の良さや地元企業の協力などがあり、収支トントンの経営状況を維持してきました。しかし営業担当の有志がいなくなる出来事などで、営業体制の確立が後れを取って現在に至っています。大都市という経済環境に恵まれている地域ながら、経営基盤がなかなか創りえない状況は、CFM局の経営が一朝一夕に生まれないことを物語っています。これからの対策は自治体、商工会議所、商店街など地元一体となる仕組みづくりを構築していくべく努力しているといいます。
事例〔D局〕
大都市から離れている都市で、人口30万人を上回る街。開局はかなり早い方で、すでに10年以上経ています。この局は阪神淡路大震災を契機に、自治体が防災対策として名乗りを上げた局です。しかし、自治体として地域活性化への努力も欠かせないとして、地元経済界に協力要請し、特に青年会議所がバックアップして運営を開始しました。ここの自治体は防災への取り組みが全国でもトップクラスのところで、CFM局との連携も充実しています。さて、営業展開ですが、営業収益の40%近くは自治体が提供、そのほかは地元大手企業と青年会議所の会員の多くが放送提供を行って、全体の3分の2を賄っています。それ以外は営業スタッフや番組担当スタッフが営業展開して、収益に貢献しています。この局はイベント事業も多く手がけていて、放送収益以外の収入も結構上げています。自治体が主導しているCFM局が、経済的に安定する状況が良く分かる事例です。
※CFM局の営業収益は、全国平均7000〜8000万円程度と受け取られます。明確な資料はありませんが、総務省資料によると平成18年度はCFM201局の営業収益が211億円、この数字には放送収益以外のもの(イベントなど)が含まれているので実質的な数字は不明です。恐らく平均1億円の70%〜80%程度かと思われます。
■ 放送営業の活動とは・・・
さて、放送営業とはいったいどのような活動なのでしょうか。そもそも民間放送は、企業の広告から収益を得るビジネスです。民間ラジオも同じで、広告メディアである以上広告価値の評価が、営業収益に直接繋がってきます。その評価基準が「聴取率調査」(レーティング調査)といわれるもので、対象となるラジオがどれだけ聴かれているかを調べ、広告評価の基準となっています。もちろん、このほかにも評価調査はありますが、広告業界で参考とされているものはこの「聴取率調査」結果です。
CFM局でも「聴取率調査」を実施しているところはあります。高価な調査にて数年に一度といったところが多いようです。しかし調査を行っているCFM局の方がむしろ少なく、調査しない局の方が一般的です。では、CFM局では広告評価をどのように現しているのでしょうか。ラジオは音声主体のメディアですから、聴いていない人にはどんなラジオ局であるか分りません。そこで、まず、CFM局の認知率調査を実施して、その地域にあるメディアの理解度、接触度を調査します。その資料を基にして、媒体資料をつくり、スポンサーとなる企業へ説明に行くわけです。ここで大切なのが、前回の項でレポートしたラジオの特色、CFMの媒体特性です。こうした資料に加えて番組企画、スポット企画など放送商品の企画書です。
こうした基本資料を基にして、地元の企業に直接アタックをかけるのがCFM局の営業展開です。しかし、CFM局は地元という密着度の高い特色を持っていますが、、その分営業し易い面とし難い面が生まれます。ここにCFM局が設立された経緯の特色が現れてくるものです。例えば、自治体主導型では、市役所自ら広報費あるいはさまざまな分野から提供料の出稿があり、また、都市整備部とか経済部などから商工会議所や商店街連合会などへ協力依頼や要請があったりと、CFM局の営業展開ができ易い環境が提供されます。商工会議所主導の場合は、会議所事務局からさまざまな方面へ協力要請が生まれ、CFM局営業は活動がし易くなります。地元の有志主導のCFM局では、こうした組織的に営業環境が作り難いため、まず、どぶ板営業から始めねばならず、営業展開に時間がかかります。もちろん有志の方で地元実力者あるいは影響を持つ方がおられますので一概には申せません。いずれにしても、ラジオの営業、CFM局の営業は、人と人との出会いであり、自分の局への思い入れなどが、営業マンの態度になって現れ、その局の信用、信頼と相まって営業行為が成立していくものです。
■ ラジオ営業と触媒機能について
ラジオの営業展開について3回に渡ってレポートしてきましたが、長らくこの分野に携わって感ずることは、営業という分野に限定されるものではありませんが、特に営業展開に参考となる言葉があるように思います。それは「ラジオは触媒である」ということです。むしろ放送でも新聞で同じではないでしょうか。辞書には「触媒とは自分は変化せずに他の物質の反応速度に影響を与える物質」とあります。営業的にいえば、リスナーとスポンサー(商品、お店、サービス・スペースなど)を結びつけて、間柄を促進させる役割、とでもいいましょうか。あるいは、スポンサー同士をマッチングさせ、リスナーを参加させる企画の実施など・・・。いすれも番組で中継をしたり、スポットで呼び込んだり、と放送としての役割を果たしつつ、立体的繋がりと効果をもたらす戦略です。結果として成功すると、放送局の信頼と信用が増し、リスナーからもスポンサーからも放送局に対する高い評価が生まれます。この活動を「ラジオは触媒」と表現してみました。「ラジオは媒体」であることは確かですが、ラジオの営業を具体的な機能として表現するには「触媒機能」という言葉を使った方が、はっきりしたイメージが浮かぶではありませんか。(了)
2008-07-15 〔第39話〕CFMの営業展開について その2

〔媒体価値と営業展開〕
さて、いよいよCFMの営業展開に入っていきますが、実際のところCFM局の営業は各局の営業展開で随分変わってきます。この点は前回指摘したとおりですが、これからCFM局営業に携わる方々にも理解し易いように、営業で最も必要とされる自分の局のメディア価値(媒体価値)を知ることが大切です。そのメディア価値をどのように掴んだらよいかといった角度から取上げましょう。
■ そもそもラジオという媒体価値とは何か
当ブログの書き込みに、現在営業活動で活躍されておられる人からコメントをいただいておりますが、CFM局の営業活動ほど、所かわれば営業が変わる、というほど環境変化が大きいものはないのではないでしょうか。ですから、真正面からCFMの営業展開を記すには「各局の実例」を示すことが最も早いと思います。しかし、ここではもう少し本質的なCFMの放送営業について触れてから、具体的な営業展開に触れていきたいと思います。
どんなビジネスを展開するにも、自分の会社の商品を説明し、納得してもらてって初めて買っていただく、そこにビジネスが発生するわけです。ラジオの商品はなんでしょうか。端的にいえば、その局の番組企画(スポット企画)という商品になるでしょう。それは間違いありませんが、その前に、ラジオって一体どんな広告メディアなのですか?という問い掛けがあるはずです。広域ラジオに番組を提供している企業の担当でさえ、CFM局のメディア価値はなんですか、と問えば、CFM局の営業の方は、さあ!と戸惑うことも多いに違いありません。そこで、その局のメディア価値を示す必要があるわけですが、その前に、CFMも広域ラジオにも共通したメディア特性がありますので、理解を深めるために、この辺からご紹介していきましょう。
本来「メディア価値」とは、そのメディアが示すことのできる影響力、その放送の力によって「番組」への反応があったり、「イベント」に人が集まったり、CMの「商品」が売れたり、局が「評判」となったりすることです。この影響力をメディア価値(媒体価値ともいう)といいます。ラジオという音声のみのメディアではいったいどんなものがあるのでしょうか。民放連発行2007年度版「放送ハンドブック」(ラジオ編)にラジオの特色が細かく記されています。大いに参考となりますので取上げましょう。
1) 受信機の普及率が高いこと 11) 低コストであること
2) 基本的に無料で聴くことができること 12) ながら聴取ができること
3) 聞き手から信頼性が高いこと 13) 心に訴えること
4) 速報性があること 14) 「本音感」を感じさせること
5) 移動中にも聴けること 15) 省エネルギー性が高いこと
6) 災害に役立つこと 16) 習慣性が高いこと
7) 聴覚メディアであること 17) ザッピングが少ないこと
8) 地域密着メディアであること 18) 機動力があること
9) ネットワークで全国展開もできること 19) リーゼンシーが高いこと
10) 技術的に陳腐化しないこと 20) メージャリー・トランスファーが効果あること
以上20項目にわたって取上げています。
ラジオというメディアの特性はこの20項目にすべてが収まってしまうといっても過言ではないでしょう。敢えて解説を必要とするものは、(10)技術の陳腐化しない、このことはデジタルラジオが登場してもアナログであるラジオは永遠に続く、といった意味でしょう。CFMもアナログですから当然なことで、少なくとも10年や15年の間はデジタル化しないと断言してもいいと思います。その先は分りません。あり得ないことが起こる時代ですから・・・・。(14)「本音感」を感じさせるとは、ラジオは人間味のある存在という意味です。(19)リーゼンシー効果とは、買い物する時に購買動機のモチベーションが高いとうことです。(20)メージャリー・トランスファー効果とは、ラジオのCMを聴いてTVのCMを連想する人が多いこと。TVとのメディアミックス効果が高いという意味です。以上が広域ラジオで取上げているメディア特性ですが、これをCFMに置き換えてみると、結構共通する項目が多くあると思いませんか。
CFMの媒体特性は一体どんなことが取上げられるでしょうか。共通事項は沢山あるのですが、敢えて別な視点から取上げるとこんなことも言えるのではないでしょうか。過日、私が自治体の「コミュニティ放送局設立構想策定調査」報告書作成に携わった時に取上げたCFMのメディア特性をご紹介しましょう。
【CFMの地域役割について】
(1)新しい街のシンボルであること
街に文化ホールが生まれるように、スポーツセンターが生まれるように、コミュニティ放送はだれでも情報が共有できて、誰でもが参画できる文化発信基地となり、新しい形の街のシンボルとなります。
(2)地域活性化の大きな役割メディアは情報提供だけではなく、人と人との交流、文化発信などさまざまな役割を担います。大きくは人を集めてイベント展開したり、街のお祭り、花火大会の開設番組を放送したり、市民に声をかけ行動を起こさせ、結果的に経済効果を上げたり、市民の活性化を図ります。
(3)行政と市民の新たなパイプ役
一般的行政情報は〔広報紙〕〔回覧板〕〔広報車〕などで市民に伝達しています。CFMは詳しい情報内容を伝えるばかりでなく、市民の反応が得られ、行政に好感を持たせる窓口機能のサポートとして役割を担います。
(4)街全体のイメージアップに貢献する
市民の利用価値が高い文化ホール・福祉施設と同様に、CFM局はその街のシンボル的な存在となり、CFM局の評判が高まれば高まるほど、その街の文化的イメージが高まります。
(5)強力な防災情報提供手段中越地震、中越沖地震、岩手宮城地震など、最近「災害は忘れぬ内にやってくる」ことが多くなりました。中越地震は「FMながおか」(長岡市)中越沖地震は「FMピッカラ」(柏崎市)そして今回大きな被害をもたらした岩手宮城地震は「奥州FM」(奥州市)がそれぞれ災害情報伝達に大きな役割を果たしました。災害放送は、災害の大きさにより総務省から地元自治体へ緊急に免許されます。その受け皿として既存CFM局が自治体より放送委託を受けて放送します。それだけに日頃の防災情報の伝達や市民防災訓練などと連携した経験が大切で、実績を積むことが大切でしょう。
このようなCFMとしてのメディア特性は、広域ラジオとはまた異なった特性であると思います。地域メディアとしてネットや地域新聞、地域情報誌などと異なった強力な特性をもっているといいえるでしょう。続いて、CFMの広告媒体としての特性はどんなものでしょうか。次にいくつか例をあげてみることにします。
【CFMの広告効果について】
(1)イメージ拡大=想像性豊かな特性
音声(声)だけのメディア特性はイメージの拡大か可能であること、ドラマ番組などはそのいい例ですが、広告メディアにおいても同じで、創造性豊かにアピールできることです。特にリスナーの心へ訴える特性、パーソナリティがリスナーへ伝える信頼度は非常に高いものがあります。他のメディアにはない大きな特性でしょう。
(2)多様な生活空間への情報伝達
車の中、家庭の中、野外の仕事場、などあらゆる場所で聴くことが可能なラジオ、最近はケイタイでも聴くことができるようになりました。いつでも、どこでもラジオはあるのです。商品の購買時にはラジオCMから連想するという影響力が大きいとされます。
(3)パーソナルな聴取環境
ラジオは1人で聴く放送です。時には車の中で2人で聴取することはありますが、例外といっていいでしょう。それだけに大勢の人に個人関係でメッセージを送ることが可能です、コマーシャル・メッセージも個人を対象にアピールすることができます。
(4)ターゲットが明確化できる
個人聴取のラジオは内容と時間によって聞いているターゲット(聴取対象)が異なっています。主婦対象、若者対象、ビジネスマン対象など、対象ターゲットが選択できることが特色で、放送の効率を挙げることができます。家庭の主婦、商工自営の職場、ドライバーなど時間帯によってリスナー層がはっきりしています。
ラジオのもつ特性は、上記のような視点からいうことができますが、更にCFMのメディア価値を踏まえていうと特色がはっきりしてきます。例えば次のような角度はCFMこそ発揮できる広告媒体価値といえるでしょう。
(1)地域密着の広告訴求
CFMは地域と密着しているメディアであることから、これまでにラジオで活用できなかった地元企業が利用できること、また広告企業と住民の距離が短い所から訴求効果が大いに期待できます。
(2)速報性や機動性のある広告
たとえば、地元デパート、スーパーなども売り出しキャンペーンとその内容を時間の変化に応じて広告ができること、店内放送に近い広告内容を地域毎にできること、最近アメリカではこの認識の高まりでラジオへの広告投下が急伸しているという。CFMの場合、番組と広告スポットが連動しやすく、聞き手への訴求を高める要素が多い。
(3)低コストパーフォーマンス
ラジオはテレビに比べて広告投下率が一般的に優れています。最近アメリカではこの認識が高まり、ラジオの広告投下効率が伸びているといいます。CFMの場合、番組と広告スポットが連動し易く、聴き手への訴求を高めることができます。地域メディアであるCFMはその点大きな効果が期待でき、広域ラジオや新聞へ広告出稿できなかった企業でも活用することができます。
■ 地元への経済波及効果が大きい
かつて、私が35万都市の「コミュニティ放送基本構想策定調査」を引き受けた時、その地域での経済波及効果の測定を大手広告代理店に依頼し、計算してもらったことがあります。35万都市では、年間上限35億円、下限25億円の経済効果が生まれるという結果が出ました。仮に、年間1億円の広告費がCFM局へ投入されると、市全体では25倍から35倍の波及効果が推定できるといいます。この測定方法を詳しく記すことはできませんが、当市の一人当たり1日の支出額や広告効果算定方式に基づいて商品購入人口、市民一世帯辺りの固定支出額から算出した基礎数字、当市の商品購入可能人口、当市CFM局想定聴取率、こうした経済効果を計る方程式にしたがって計算した予測数字でした。
各CFM局は、地域毎にこうした想定数字を持っていると、自治体や商工会議所への説得力に繋がる一方、市民を喚起する社会貢献や信頼感醸成などを積極的に取り組むこによって、見えていないCFMの価値が、営業成績という見える形で現れてくる、こうした努力が地域メディアとしてのCFMを育てていく大きな糧となるのではないでしょうか。(了)
2008-07-08 〔第38話〕CFMの営業展開について その1

〔営業展開とCFM方式〕
CFMの営業展開は、CFM局がどのように開設されたか、言い換えると誰が中心となってどのような人々・組織・団体が主体となって創り上げられたか、によってその局の特色が現れます。もちろん、経験の積み重ねで変化する場合がありますが、概ね開設される方々の考え方で方向付けがなされます。あなたの街のCFM局はどんな形でできあがっているのでしょうか。
■ 放送局の営業展開にパターンはあるか?
全国のCFM局の営業をみていると、こういうパターンがある、というものはなさそうです。しかし、参考となる形はあるように思えます。ではどんな形なのか。上述したように、CFM局はその開設に関わった人々、組織、団体でかなり変化が生まれます。それに比べて広域放送にはパターンというかシステマティックに営業行為がなされています。民間の広域放送はラジオ、TVともに放送局営業と広告代理店とクライアントの三角トレードになってます。放送局の営業は広告代理店への営業と直接クライアント(スポンサーとなる顧客)営業と2つがあり、後者で決まっても大方は広告代理店を通すことになります。すなわち、クライアントである企業の広告と広告代理店はそれぞれ密接な関係にあり、広告事業が成り立っている世界です。テレビ・ラジオの例でいうと、放送局には、視聴者、聴取者がどれだけ接触しているかというメディア価値を測る手段があり、その資料を参考にして企業は出稿メディアを決めていきます。放送局側の調査(視聴率調査、聴取率調査)の基づいたメディア価値と企業自ら調査したマーケッティング資料と照らし併せて判断していきます。広告代理店はそうした調査や独自の価値基準で放送局の商品(番組・スポット・イベント)をクライアントに提案し、扱いを受けます。企業(クライアント)と放送局(メディア)のそれぞれの代理業としての役割を果たすわけです。ですから広告代理店の存在は広域放送では大きな存在で、代理店を通さないメディア営業はほとんどないといっていいぐらいです。企業の宣伝広告は大方が広告代理店を通じてメディア(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌など)へ出稿・掲載されています。
■ CFM局の営業展開の実情はどうなっているか
CFM各局に接触してみると、そのCFM局がどのような形態で放送局が設立されたかで、営業方法が異なる場合多いようです。たとえば、「レディオ・ビンゴ」(広島県福山市)は商工会議所主体で設立された局ですが、商工会議所所属会社の協力はもちろんでのこと、実質の営業展開は地元広告会社に委託されています。FM Kusiro(北海道釧路市)も同様で、やはり商工会議所中心に生まれた局ですが、営業展開は地元の広告会社に委託されています。第三セクターで誕生したCFM局でも、その主体になっている組織、団体によって営業展開は異なります。
同じ第三セクターという企業形態でも、その主体となる組織や企業で営業方法が異なります。たとえば同じ神奈川湘南地区、FM Blue SHONAN(横須賀市)は商工会議所主体で自治体がサポート、レディオ湘南(藤沢市)は自治体が主体でJCがサポート、東京ではFMせたがや(世田谷区)は自治体が中心、FMえどがわは地元企業が主体、といった具合です。第三セクター以外ですと、例えばFREE WAVE(福岡市)は鉄道会社が中心となってできた関係で、その関連広告会社が協力しています。FM JAGA(帯広市)は地元メディアの中核となっている十勝毎日新聞が、FMおたる(小樽市)は地元大手企業北一ガラスが中心となっています。こうした中核となる組織や企業によってスポンサーになっている地元企業が異なっています。
以上はごく一部の例ですが、このようにCFM局が設立だれた経緯から、営業方法や展開が方向づけられています。いづれにしても、中核となる企業や組織がどこであるか、がCFM局の営業展開には重要な意味を持つことがお分かりでしょう。これはCFM局の経営論にも及びますが、放送局設立に携わった方々が、最初にCFM局運営をどのような形で推進していくのか、その位置づけが開局以降に大きな影響を及ぼすことは間違いありません。この位置づけを明確にしてスタートした局と、何とかなるといった漠然とした見通しで始めた局とでは、3年後5年後には大きな開きが生まれます。上記に上げたCFM局のように、それぞれの成り立ちは違うものの、明確な営業展開をもって開局した局は経営も順調に推移しています。
■ CFM局の営業展開は設立当初から明確な方針を!
こうした傾向をみると、CFM局の営業展開ついて設立当初から明確な方針を打ち出して臨むことがいかに大切かがお分かりいただけるでしょう。CFMの運営を考えた場合、地域メディアとしてより一層地元に根ざしていくには、情報提供だけではなく、スポンサーとして地元の自治体、商工会議所との連携が欠かせないものです。よく設立当事者が民間の場合、自治体が加わるとさまざまて点で影響をうけるので、できれば遠慮したい、と考える方がおられます。その裏には、自分たちはこうしたいという姿勢が強く、開局後の経営内容にまで神経が回らないという現実があります。放送局は放送法による自主自立の精神で守られている以上、外からむやみに押し付けられることはありませんし、またできるものではありません。大切なのは放送局自らスタンディング・ポジションを明確に持ち、その姿勢を対外的に示す姿勢が大切なのではないでしょうか。地域全体として自治体、商工会議所、地元企業それぞれに参加を呼びかけて、その局が結果的に経営環境をよくなり、事業成果や地域信頼を得ることの方が得策と思います。
以上先発局の成功例からみえてくるものは、設立形態が第三セクターの場合でも、主体となる組織や企業がどこかで、その後の経営も大きく変わってくるということです。自治体が主体になる場合、当然自治体の広報費はじめ、関連事業からの出稿がありますし、商工会議所が主体となる場合は、会議所所属企業の協力出稿が期待できます。地元民間企業が主体の場合は、地元のメディア(新聞や情報誌)の協力、あるいは地元広告会社の協力をどのように仰ぐか、営業連携や営業委託などを視野に含めた営業展開が臨まれます。なぜなら、地元メディアの営業展開や地元広告会社は、地元の企業広告の実態や規模を把握しているからです。大きな都市でも小さな都市でも事業体は何らかの形で広告方活動を行っています。その実態が掴めなければCFM局が設立されてもどの程度広告費が確保できるか、運営規模の想定ができようというものです。
CFM局の設立会議、あるいは取締役会で、事業経営に優れたメンバーや役員から、当社の事業規模はどの程度かといった質問や、その背景となる当地域の広告規模は、また新規広告メディアとして参加する当社はどの程度に考えるべきか、新規掘起しは可能か、といった事業マーケットと事業規模を問われることがあります。いわゆる事業開始に当って磐石な体制を構築するためには、マーケット分析とシェア獲得の可能性を明確にする必要があります。そして、実践段階での戦略が必要になってくるわけです。この実践的戦略に、地元マーケットをよく知り、また営業接触している企業との提携が重要な意味を持ってきます。
CFM局の大方は、経営的に厳しい状況下におかれています。そのために極小社員体制やボランティアスタッフによる番組制作など、できる限り経費をかけない運営、というのが基本となっています。どんな企業でも少人数で大きな成果を上げることは、運営組織である以上大きく求められる要素ではあります。しかし、限界を超えてまで縮小することはどうなのでしょうか。最近CFM局の実態をみて、このような感想を持つことがあります。営業成績が小規模のため、番組スタッフもそうせざるを得ないという、いってみれば縮小生産のスパイラルに陥っているのではないか、という思いです。
結果的に大手の広告会社からは、CFMは弱小メディアとして広告対象から外されているのが実態です。CFMこそ地域メディア広告として地域マーケットとして大きく貢献すべき存在です。そのための努力が少な過ぎるといえなくもありません。CFMメディアの評価基準が現在ありません。広域ラジオは聴取率調査(レーティング調査)があります。CFM局では調査自体なかなか実施できる余裕はありませんし、それに変わる方法もありません。ないものづくしでは広告の取りようもないでしょう。もちろんすべてのCFM局がそうであるといっているわけではありません。聴取率調査を数年に一度実施している局や定期的にアンケート調査を実施して、自局の聴かれ方をチェックしているところもあります。また、放送提供企業と連携して調査を実施しているところもあろからです。そうした資料を提供企業に説明している局もあります。地縁血縁の企業提供からマーケット分析による企業提供へと変えていく努力がないとCFMを広告効果あるメディアとして示すことができないのではないでしょうか。
■ CFM局の根の張ったメディア資料と営業展開
CFMが営業的に成果をあげる方法として2つの分野があるように思われます。1つは地元企業からの出稿です。もう一つはCFM局が連携してネットワークをつくり、大手の企業提供を図っていくことです。広域ラジオとCFMが異なるところは、地域に根を張っているかどうかです。CFMが地域に根を張るということは、地元企業の多くが放送提供しているという実態(この提供実態を調査して資料化する方法)、あるいはHPへのアクセス実態、局主催や局後援のイベントに参加した実態など、根を張っているメディア資料を創る方法はあるはずです。こうした資料が新規地元スポンサー開拓への資料となる一方、CFM局毎の共通資料を創り、ネットワーク力を示す資料とする方法があるのではないでしょうか。それによって大手企業の広告導入を図っていく、といった営業展開が可能となってきます。
こうした努力をCFM局単体ではなく、ネットワークで実施していくことが、大手広告会社にメディア価値を認めさせる手段ではないでしょうか。これからは地方の時代であり、地域活性化が認められている時代です。その点でもCFMの存在は大きなものがあり、広告メディアとしての将来性が潜んでいるのです。(了)
ラテ局次長
年商100億以上の広告代理店はCFMの媒体価値は認めていないと思います。
扱いの金額からもビジネスの対象ではないからです。コミュニティー紙の電波版。
エリア内の家庭にCFM受信専用のラジオを配布し、いざと云うとき役に立つ・・
の徹底に努力をすれば良いと思います。サンケイリビングの生き方です。メジャーな
広告主はいらないし、出稿しないでしょう。代理店のビジネスにならないのですから。
n4543
ラテ局次長さま。コメントをありがとう。私はCFMを単なるコミュニティ紙の電波版と位置づけたくはないのです。それはラジオの持っているメディア特性、ネットとの融合策、および、さまざまなイベント(リアル社会での出会いの構築)によって、新たな地域社会のコミュニケーション・メディアに成長する可能性が沢山あると思っています。CFM局に携わる方々が高い目標を持つことによって実現して行くのではないでしょうか。CFM業界は少し地域密着といいつつも、密着した上で地域メディアを創り上げていく目標を失っている場合が多いように感じられます。いかが受け取られますか。
ラテ局次長
目標を見失っていると言うよりも、どのように創りあげたいのかの目標が感じられないのだと思います。事後と上、数局と話をしましたが、ただ広告がほしいと云う考えしか見えて来ません。経営者に対しもっとご意見をされたほうが良いのではないでしょうか。貴重なご提案や指導原稿を書かれてもスタッフの何人が理解し実践されるのでしょうか。もったいない限りです。
n4543
当ブログの読者にはCFM局の経営者がかなりいらっしゃいます。また、パーソナリティや営業担当をされている方もおられます。
私の経験が少しでも役立てば、と思って、単なる感想という視点ではなく問題点や課題点を提示し、その解決方法を探りたいという
姿勢で書いています。放送と営業に関して、経営者による営業戦略や営業展開の理解不足から経営苦境に陥っている広域ラジオが
あります。その代表が福岡地区の「クロスFM」です。いまあるファンドに買い取られています。ファンドはあくまで事業体を売り買いする事業ですから、事業成績を上げねばなりません。特殊な放送事業で短期間に成績が上げられるか、腕並みを拝見、といったところです。また、東京の「インターFM」は経営難のためニフコ(工業用ファスナーメーカー)という経営母体から手を離れて、テレビ東京の関連会社へ移り、現在放送を継続しています。やはりこれも、基本は経営上営業の仕組みをどのように構築し営業展開するかという見通しがなく、経営をしてしまったことによります。昔のように放送局は黙ってても広告収入がある時代ではなくなっているです。私が申し上げたいのは、事業を作ったらどのように収益を確保して行くのか、という現実のしっかりした経営戦略、経営計画を立てて実行して行かねば、経営を放棄せざるを得ない状況がCFM局ではなく広域放送に起こっているのが現実です。広告を糧とするCFM局は広告シェアの狭い地域で活動を行うのですから、なおさら風当たりが強い環境と思います。その点、経営者、あるいはこれまら経営に携わる方々は十二分にご理解いただきたいと思います。
yassy
いつもたいへん「ふむふむ・・」と勉強させていただいております。待ちに待った「営業論」?となりこれからの数週楽しみにさせていただきます。
さて、営業に携わっていて感じたことを書かせていただきます。CFMはエリアが狭いといってもやはり「広告媒体」の1つではあると思います。もちろん営業をしている際「広告出してください」とお願いをすることが多いことも事実です。広告媒体としてTVやインターネットよりも効果が低いかもしれないと言うことも考えています。ただ、私が営業をする際には「やはりいざと言うときのCFM」と言う考えをいつも理解していただこうと努力しています。東北地方での地震があり、奥州FMが新聞にも取上げられていました。災害は起きないほうが良いに決まっています、また、人々の中で「私が住んでいる地域では起きないだろう」という意識の人々も少なくないと思います。だからこそCMの効果云々よりも、必要なときになくては困りませんか?何かが起きたときにあって良かったと思うと思いませんか?と少々古めかしい、心に訴えかける営業をしています。もちろんこの手法だけでは中央の大企業の支店・支社の方々には「知ったこっちゃない」と言われることも多く、大企業と呼ばれる会社にも振り向いてもらえるように「あ〜でもない、こ〜でもない」と日々奮闘していますが・・・。現在決して右肩上がりの業績ではありませんが、地域の企業の皆様のご協力の下もうすぐ10周年を迎えます。営業の方向性とは言っても地方都市と大都市圏のCFMでは実態が様々なのでしょうね。そのあたりも含め次回以降の内容を楽しみにしています。もう少し文章の書き方を学習しなければなりませんね・・・乱筆乱文お許しください。では最後に、頑張ろう全国のCFM営業関係者!
n4543
yassyさんコメントありがとう。営業活動で苦労されている姿が目に浮かびます。CFMのメディア価値が分る資料があり、それでセールスできれば現在より活動し易いことは当然ですが、CFMのメディア価値を測ることは本来難しいものがある、と思うところがあります。何故ならばCFMが「聴く聴かない」という尺度だけなく、CFMがその地域からの信頼感や貢献度といった尺度が大切ではないかと思います。yassyさんのいう災害時になくてはならないメディアもその1つでしょう。平常時にあってその信頼感、貢献度などが地元の組織や団体が放送番組へ提供協力してくれる、その方が説得力の強い要素があるのではありませんか。勿論聴かれているという番組評判も必要です。その評判を数字で現せるものもあった方が説得資料となるでしょう。本質は地元への貢献と信頼、そこから生まれてくるメディア価値だと思います。それをどのようにして創り上げるかが、CFM局の経営姿勢に関わり営業に関わってくるのだと思います。
2008-06-30 〔第37話〕CFMの番組制作について その4

〔番組制作とCFMパーソナリティ〕
ラジオの番組制作は、それ相応のセオリーがある、ということをこれまでの項でレポートしました。CFMの番組制作はパ-ソナリティが企画構成演出という番組制作の要素すべてを担います。もちろん例外はありますが、このケースが当てはまります。パーソナリティが番組の決定権を持つということです。そこで、今回はあるCFMパーソナリティを通してCFMの番組制作の現状を見ることにいたしましょう。
■ CFMの番組制作はパーソナリティが創る!
ラジオの番組制作は、通常番組編成を経て番組企画立案、番組制作準備、そして放送開始となりますが、広域放送の場合は概ねゾーンプロデューサー(あるいは編成担当)と番組担当ディレクターが作業を進めます。CFMの場合は、番組編成が決まった時点で、外部制作者(ディレクター)とパーソナリティに委ねられます。なかでもパーソナリティに依存する場合が大方です。したがって、CFMの番組はパーソナリティに任されてといっていいでしょう。ここにCFM番組制作の特徴があるといえます。
では、番組企画から制作そして主演まで担当するCFMパーソナリティは、どのようなイメージを描いたらよいのでしょうか。ここにそのポイントを整理してみましょう。
(a) 企画・制作を担うディレクターの役割わりを果すこと
(b) 情報・話題の収集=市民記者として活動すること
(c) 番組のミュージック・セレクター(選曲者)であること
(d) 番組出演者=パーソナリティであること
(e) 街の多くの人が知る存在に=街のスターであること
こう要素を列挙してみると、CFMのパーソナリティは番組の取材、情報収集そして出演するという“放送人”です。広域ラジオが複数の人間で業務分担し役割を果している仕事を、1人で果すことは本当にできるだろうか、迷う人も多いでしょう。しかし、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、中国などのラジオ局もそうですが、世界のラジオのほとんどがワンマンDJの番組づくりが常識となっています。上記のように箇条書きにしてみると、オールマイティな才能がないと難しいように思えます。しかし、人にはそれぞれの才能があるものです。得意な分野を生かしながらバランスの取れたパーソナリティを創り上げていけばよいのではないでしょうか。また、放送局側も、地元ニュース、商店街情報、教育関連情報など定期的に収集できるシステム構築が必要です。音楽CDなど音源を豊富に持つ環境も大切です。放送局側の環境整備が伴うことも大事です。私の知り合いに、CFMパーソナリティとしてメディアをよく理解して実践している人がいます。その活動を通してCFMパーソナリティの実像を描いてみたいと思います。
■ レディオ湘南の看板パーソナリティは湘南の顔!
1つの本を紹介したい。「湘南に朝がやってきた!」タイトルで書かれたDJ・ハギーこと萩原浩一さんの本です。いま大手書籍店有隣堂の湘南の各店で高評を得ている本。著者の彼は異色のCFMパーソナリティで、CFM「レディオ湘南」の看板パーソナリティであり、湘南の顔として活躍しています。本は彼が番組で紹介した、かつての教師時代の体験談を中心に纏めたもので、彼の人間をみる暖かい眼差しが本一杯に溢れる好著です。彼は開局以来番組の出演で、その眼差しがリスナーに高く評価されて、いまや地元藤沢市長にも並ぶ、名前の通った有名人です。これぞ、地域のパーソナリティといえる人物です。
もう12年になるでしょうか、彼と出会ったのは。「レディオ湘南」が開局する準備段階の折りでした。市民が創るラジオだから、ボランティアが中心になって運営する放送局にしたい、という経営者からの要請で、200人ものボランティアを指導し、役割分担を施している時でした。司会業としてフリーランスで活躍していた彼が、どうしても放送に携わりたい希望をもっていました。そこで、彼の経験を尊重し、ボランティアの指導も兼ねて手伝ってもらったのがそもそもの私とのお付き合いの始まりでした。彼は開局時からモーニングワイド番組「WAKE UP! 831」を担当し、2004年には放送2000回を数え、CFMでは新記録を樹立するほど熱心なパーソナリティに成長しました。番組はその後も続き、2569回の達成をもって終了、番組は新たに「グッドモーニング湘南」として現在も出演中です。いってみれば、CFMの化け物的パーソナリティとして活躍しています。その彼に、CFMパーソナリティとはどんな世界なのか、質問形式で訪ねてみたら、こんな返事がありました。ブログ読者に大いに参考となりますのでここに取上げることにいたします。
■ DJハギーの「CFMパーソナリティとはこうだ!」
〔1〕CFMパーソナリティとはどんな仕事ですか
【ハギー】番組を担当するだけではなく、そこの局の顔となることです。自分の番組は自分で創り、営業する、取材をするときにも同時に営業もする、といったように、パーソナリティの営業行為とは、スポンサーになっていただくことだけではなく、番組を、その局を聴いていただくようにすることも営業なのです。その放送局を知ってもらうための行動も営業。パーソナリティはその局の顔でもありますが、その地域の顔でもあるのです。とにかく、その地域を良く知り、よく歩くことが大切。その地域のことを知らないと駄目ですね。喋りが素晴らしいことよりも、その地域の文化・歴史・地理などを知る事が大切です。
〔2〕パーソナリティとリスナーの間柄とは・・・(広域ラジオと比べて)
【ハギー】家族の一人です。リスナーからみてパーソナリティは、家族(仲間)です。その反対も当然です。(リスナーとの距離が短いという感覚は家族や仲間とのお付き合いに似ているということでしょう。当然あの人になんか会いたくない、という感覚も同じだということです。)
〔3〕情報の収集、音楽の扱い方と選曲について、どんな方法でとっていますか
【ハギー】自分で歩いて集めるのが基本。地元の記者クラブに加入して情報を入手したり、やはり自分の足で稼ぐことです。音楽についてはどんなジャンルでもこなします。演歌・JPOP・民謡などなど・・・。選曲には、地元に関係ある曲が大切です。地元の皆さんが喜んでくれるならなんでもOKです。FMだから音楽というのではなく、コミュニティ放送(コミュニティFM放送ではない)であるということです。(FM放送というと音楽放送と捉えられがちです。地域情報を伝えたり、地域話題を話したり、その関連で音楽も同じ扱いだ、という意味でしょう。)
〔4〕いま、ワンマンで放送しているか、ADがサポートしているか
【ハギー】早朝なのでAD(ミキサー)の協力者がいます。ワンマンを朝ワイドは無理と思います。機材トラブルのとき、情報を集めるのにワンマンだと「放送事故」に繋がりかねません。
〔5〕パーソナリティの営業活動はどうしているか
【ハギー】年間1,000万円〜2,000万円ほど売り上げています。とにかく地元の皆さんと仲良くする、お手伝いに行く、顔を知ってもらう。こうしたことが営業にも通じてきます。自分の番組は自分でセールスに行く、これがCFMパーソナリティではないでしょうか。
〔6〕CFMパーソナリティとして言いたいことなどありましたら
【ハギー】広域ラジオ局と比べてはいけません。コミュニティ放送ですから、自信を持ってその町のために頑張らなければならない、そうした意識が強くないとCFMのパーソナリティなど勤まりませんね。
〔7〕CFMパーソナリティの歓びは?
【ハギー】街の顔、湘南の顔となり、生まれ育った街に恩返しができたこと。街を歩いていても多くの市民から声がかかります。番組中のFAX・メールの数よりはるかに多いのです。それは嬉しいですね。年齢に関係なく声がかかります。
以上が私の質問状に応えてくれた内容です。CFMパーソナリティはそのサービスエリアを良く歩くこと、そして自分で情報収集し、同時に街の人々と挨拶し仲良しになる、こういった日ごろの努力が番組聴取に繋がり、営業にも繋がりができる、それをパーソナリティ自身が行う・・・。こうしたパーソナリティの行動をしている人が実際にいる、ということに大変勇気づけられます。
DJハギーはコミュニティ放送とコミュニティFM放送と区別して捉えています。本質的に正しいと思います。地域と密着したラジオ放送局として制度化されたコミュニティ放送であり、放送法にもコミュニティ放送と明記されていますから、その通りです。一般的にコミュニティFM放送と呼んでいることから私も略してCFMと記述していますが、これは本質を突かれたようで一敗地にまみれる思いです。
■ DJハギーの活躍はパーソナリティに留まらない!
さて、上記のように彼の行動を知ると彼が単なるCFMパーソナリティではないことがよくお分かりでしょう。彼は、単に番組をこなしていた人なら、局の看板パーソナリティにも、湘南のDJ・ハギーとして注目を集めるパーソナリティにはなっていなかったでしょう。彼の非凡な才能は、彼をそのままにして置かなかったのです。現在、彼が上梓した「湘南に朝がやって来た!」出版のほか、出演番組2000回記念にCDを発売して注目を集めたことです。局サイドの企画ではなく、彼自身の人脈で創っているのです。作詞家の渡辺なつみさん、作曲は三浦一年さんの協力を得て、曲は「湘南ドリーム」、歌はハギーです。湘南サウンドに満ちたこの曲はCFMパーソナリティ【DJハギー】を象徴するような作品です。作詞作曲の専門家に協力を得てCD化した事実は彼の人脈の広さを物語るものです。CFMパーソナリティとは!!! やはりDJハギーのように、CFMメディアをフルに生かしたパーソナリティであることです。彼はラジオというメディアが誰とでも繋がるツールであり、メディア(媒体)というよりも「触媒」としての機能をよく心得ているひとだなぁとつくづく思います。(了)
埼玉dj
DJハギー談として「自分の番組は自分でセールスに行く、
これがCFMパーソナリティ」とありましたが、これには
大いに異論があります。CFMでのパーソナリティを生業
としている人なら、自分でスポンサーを取って給料分を
稼ぐのは当然です。しかし,多くのCFMのパーソナリテ
ィのほとんどはアマチュアで、無報酬に近い主婦など女
性たちが協力しているというのが現状だと思います。
DJハギー氏の場合はお金を稼ぐパーソナリティのプロで
す。CFMのパーソナリティすべてにあてはまらないので
はないでしょうか?ボランティアとして参加協力している
パーソナリティも、営業をしなければならないのでしょう
か?そうであったら、協力者はいなくなるでしょう。
ギャラをもらってCFMのパーソナリティをされている
方たちに向けたメッセージでしたら,CFMの企業規模や
特性から理解できますが・・・。
n4543
埼玉djさま。異論の点はよく理解できます。パーソナリティ像のあり方の象徴的存在として【DJハギー】を取上げました。CFMのパーソナリティのあり方は多様です。おっしゃる通り本格的なパーソナリティを学んでいないボランティアスタッフがパーソナリティをする場合、あるいはギャランティされたプロのパーソナリティ、あるいはディレターが専門でパーソナリティをされている方、それぞれでしょう。パーソナリティのあり方はその局の経営姿勢によって方向づけられると思います。パーソナリティが営業も兼ねて臨んでほしいという局、あるは営業は専門スタッフに任せ、パーソナリティは番組だけという局もあるでしょう。経営姿勢とは、株式会社である以上、その局の運営をどのように展開していくか、です。例えば、営業展開を地元の広告代理店に委託している場合、株主の地元情報誌がCFM局の営業を兼ねている場合、あるいは局スタッフ1人が営業展開する場合など様々です。【DJハギー】の場合は3番目の場合です。したがって社員スタッフであろうと契約スタッフであろうと、営業展開をパーソナリティ業務と同時に行っているケースです。私が評価するのは、パーソナリティである以上自分の足で市民と直接接触し、その結果、信頼を得て営業に結び付けている姿勢です。私は典型的なCFM局のパーソナリティ像と受け止めています。自分のギャラは自分で稼ぐ、といった次元の判断ではありません。CFMメディアとしての機能や役割を理解した行動です。レポートの最後に、CFMメディアの機能が触媒機能という視点から彼は捉えている〕といった意味はそこにあります。メディアの触媒機能については今後「CFMの営業展開」というテーマの折り、詳しくレポートしたいと思います。
2008-06-24 〔第36話〕CFMの番組制作について その3

〔ラジオ番組の選曲は面白い!〕
前回は、番組の創り方について触れ、ラジオにとって音楽の選曲がいかに大切かをレポートしました。今回はCFM局の番組を担当する時に、この選曲というものの難しさと面白さについて、詳しく触れることにいたしましょう。選曲とは音楽を選ぶ人の個性が無言に現われます。1つのコーディネート・ファッションなのです。
■ 番組「ジェットストリーム」の選曲
恐縮ですが、私の選曲の経験から書き始めたいと思います。かつて放送局ディレターになる機会を得た時です。先輩ディレターから、君は黙って僕の仕事を見ているだけで言いといわれて、先輩の言いつけ通りスタジオへ「お皿は運び」の毎日でした。LPレコード全盛の頃で、放送局ではLPをお皿といっていました。30枚〜50枚のLPを2つか3つレコード室からスタジオへ、スタジオからレコード室へと運ぶ仕事でした。後は先輩ディレターのスタジオワークを観察するだけでした。スタジオにいるのは、今は亡きナレーターの城達也氏、構成作家の堀内茂男氏、ディレターの川島徹氏です。ラジオの歴史に残る名番組「ジェットストリーム」は、このメンバーで始まり、私もスタジオの隅にADとして参加していたのです。
先輩ディレターは私に持ってこさせたLPを次々にピックアップしてはターンテーブルに乗せ、そこで選曲していきます。番組は録音でしたが、生放送の現場で選曲するようなものです。選曲は頭とお尻を聴くだけです。どうしてこんな選曲だけで、あの素晴らしい楽曲の連鎖が生まれるのだろう。あのソフトで澄んだ奥行きのある声が見事に楽曲と調和して、聴く人を夢の世界へ誘い込んでしっまうのだろう。あの選曲はどうして生まれるのだろう。新米ディレターとしては、選曲と音声の醸し出す不思議な世界に感動するだけでした。この不思議な感動はどこからうまれるのか、どんなテクニックが隠されているのか、最初にぶつかった大きなクエスチョンでした。
この番組の魅力を分析しますと幾つかの要素があります。1つ目、ナレーターの声の魅力、2つ目、構成作家の文章の魅力、3つ目、その声を最大限に生かす選曲、です。この3つが一体となって生また番組があの名番組「ジェットストリーム」なのです。
■ 選曲の要諦は沢山音楽を聴くことから始まる
先輩ディレターはどうして楽曲を頭とお尻を聴くだけで選曲ができるのだろうか。まず、この疑問はまもなく解けました。先輩が聴いていたLPの数たるや半端ではない分量であることが分ったのです。さまざまなジャンルの音楽を聴く姿勢、その聴き方も、この楽曲はどんな時に活用できるか、このLP(今のCD)には使える曲は何曲あるか、どんなところがいいか、イントロか、楽曲のメロディか、エンディングか、アレンジはどうか、テンポはどうか、これらの要素に声を乗せた時(BGMとして使う時)、演奏だけ聴かせる時など、さまざまな要素をいろいろな角度から楽曲を聴き、頭に入れていくのです。その数が多ければ多いほど選曲範囲が広がるのです。
もう1つ大切なのが、これらの選曲要素を選曲する人の感性と一致させることです。ここが選曲にとって最大のポイントです。私の経験では、この選曲の感性が身につくまでに2〜3年はかかったでしょうか。若い頃から音楽が好きな人、楽器を弾いていた経験のある人などは、比較的早く選曲感性が身につく人もいます。あなたのファッションにはセンスがあると人から言われるのに近いかもしれません。ファッションも自信を持って披露できる人は、かなりレベルの高い人でしょう。選曲も同様で、大変面白く楽しいものですが、その裏にはそれ相当の努力と技量が必要となります。
■ 選曲を身につけるにはどうしたらよいか
私の経験では、選曲はこうしたらよい、こうすれば身につく、といったノウハウを聴いたことはありません。全くといっていほどありません。また、選曲センスを持っているかどうかも予め判断ができません。結果論として、あの人はセンスがいい、この人はセンスがない、と判断されるだけですから・・・。言い方を変えると、音楽が好きだ、音楽大学を出たので楽曲は沢山知っている、だから私は選曲できる、という方程式は成り立ちません。評論家並の実力を持っている人でも、選曲センスがあまりない人も結構いるものです。その反対に、あの人は音楽を知っているのだろうか、と思うような人に、テーマソングやサウンドステッカーの選曲をさせると天下一品の人がいます。選曲センスは音楽を知る知らないではなく、その人のセンスが選曲に生かせる人、そういう人が
できる選曲者ではないでしょうか。ここで、選曲センスを秘めていることを前提に、選曲の身に付けるサンプルを紹介しておきます。あくまで個人的覚え書きとして・・・。
- さまざまなジャンルの音楽を幅広く聴き込むこと
選曲で最も大切なのは選曲ジャンルが偏らないことです。P-POPばかりとか、懐メロはっかりか、偏 るとリスナーの期待に応えられません。どんな番組でもどんな選曲でも、リスナーの求める音楽を提供しなければならないからです。リスナーの無言の求めに応えるには、番組の目指すところとリスナーの受け入れてくれるところを調和させていく、そこに選曲の隠れた力があるのです。したがって、さまざまな音楽を沢山聴くことが必要です。
2. 音楽の歴史を学ぶこと、特に洋楽・邦楽50年史を!
なぜ音楽の歴史を学ぶのか、あなたがもし「青春グラフティ」という懐メロ番組を担当するかあるいはそうした番組を企画すると仮定しましょう。そして20代のあなたの担当番組がリスナー・ターゲット40代〜50代としましょう。あなたの両親に近いリスナーです。そのリスナーの青春時代のヒット曲はどんな曲だったのか、またその時代にどんな出来事がおこっていたのか、歌は世につれ世は歌につれいいます。その時代の雰囲気と音楽を知らないと、リクエストに応えながら番組を膨らませる話題や企画を創り出せないことになります。
3. ある状況を設定して選曲をしてみること
むしろ自分の好きなジャンルの音楽を避けて、全く知らないジャンルの選曲にチャレンジしてみるのも大事なことです。30分番組を創るとして、例えば「銀座」というテーマで選曲してみます。大人の街だからジャズをテーマにしてみるとか、「渋谷」は若い人の街だからJ-POPをテーマにするとか、「六本木」という世界各国の人々が集う街ならエスニック音楽をテーマに選曲をする、といったチャレンジです。iPODやMDに録音して繰り返し聴くことも勉強になります。また、選曲のなかにインタビューやナレーションを入れる前提で、聴かせる選曲とBGMの選曲を分けてならべる選曲など、条件設定をして選曲をしていくと選曲の感覚が磨かれます。
4. 選曲のできる人に感想をきくこと
この人は選曲が上手い、という人が身近にいるといいいのですが、いない場合でも音楽が好きな人数人に聴いてもらうことも、自分以外の客観的な受け止め方として貴重です。CFM局で番組を持っている人は、同僚や経験者に聞いてもらったりして、積極的に取り掛からないと評価をえるのは難しいものです。私も経験していますが、聴いてほしいと頼んでも、そのままにしておくといつまで経っても返事が来ないものです。こういうことは押しの一手です。
5. 広域ラジオから選曲のいい番組を探し熟聴すること
自分の気に入ったラジオ番組は誰にでもあるものです。そうした好きな番組を録音して何度も聞き返すことほど選曲センスをアップさせる方法はありません。私の経験でこんなことがありました。この番組のナレーターは素晴らしい、この番組はセンスのいい選曲をしている、楽曲の流れが見事だとか、とにかく選曲に関わる気に入った番組は直ぐ録音します。そして何度も何度も聴き返します。その聴き返す方法ですが、まず全体を聴いてから、ナレーションと音楽のマッチング、ナレーションのバックに流れる楽曲、楽曲とナレーションのリズム、ナレーションの頭の言葉、文章、ナレーションの終わりの言葉、体言止めか、ですます調かなどなど、事細かにチェックしていきます。そうすると適した言葉と選曲のマッチングが分ってきます。ナレーションの始まりは楽曲のフレーズの変わり目か、フレーズの途中か、それがどうして声と楽曲の魅力を引き出すのか、などといった細かな演出まで見えてきます。気に入った番組は何度も聞き返すこと、これが鉄則です。
■ 選曲とは作曲家、編曲家にも通ずる世界だ!
選曲というテーマで、私の経験から得た感想を記しました。選曲とはコンポーザーでありアレンジャーに繋がる仕事、というのが正直な実感です。たとえば番組「ジェットストリーム」のテーマソング、これを選んだ人は上述の川島徹ディレターです。曲は「ミスターロンリー」です。1964年ボビー・ヴィントンの歌で全米ヒットチャートNO.1となった曲。その後コーラスグループレターメンのカバーバージョンでヒットしたこともあります。番組ディレターは番組の狙いとするイメージを膨らませるため、ジェット機のパイロットと管制官の交信、そしてシンセサイザーでの宇宙音を交差させて、ジェットストリームという成層圏を流れる気流を想像させ、更に地球空間を飛翔する空の快適な旅を連想させるテーマソング、この一連のイメージの流れは言葉では言い尽くせません。見事というしかないでしょう。
「ミスターロンリー」のテーマソングはフランクプールセル・グランド・オーケストラの演奏です。担当ディレターはこのオリジナル演奏にリバーヴをかけ、成層圏の旅という夢の世界を「テーマソング」で演出しています。城達也さんのビロードの声に誘われて、堀内さんの詩的なコメントがテーマソング「ミスターロンリー」に乗せて、聴く人々を夢のなかの“世界の旅”に連れて行ってくれるのです。NHKの特別番組「シルクロード」のテーマソングや番組のなかで使われる音楽はすべて番組用に作曲され、演奏されています。素晴らしい楽曲だと思います。しかし選曲という点ではオリジナル作品でも、既成の楽曲作品でも本質的には変わらないのではないでしょうか。選曲とは人を感動させ共感を呼び起こす奥の深い仕事なのです。(了)
小針俊郎
n4543様
前回の番組制作、今回の選曲論を楽しくまた興味深く拝読いたしました。
このn4543さんのブログをお読みになる皆様で、私の書くものが訝しいものに映る場合があるといけませんので、
初めからネタを割っておきますが、私はn4543さんに40年以上親炙し、番組制作のすべてを教えていただいた者です。
ですからn4543さんのおっしゃる当時の「技は盗んで覚えろ」という徒弟制度の現場をよく知っています。
しかしn4543さんの素晴らしいことは、ご自身は徒弟教育を受けたにも拘わらず、私たち後輩には
非常にシステマティックな教育を授けて下さったことです。
制作業務上のすべての動作、働かせるべき感性には理由があるという考え方に基づき
その理由と行為がもたらす結果について合理的に説明して下さいました。
そして常に結果=リスナーの喜び、感動を惹起することという立場をとっておられました。
民放の場合リスナーの喜び⇒固定化⇒スポンサーの喜びでもあるわけです。
だから「ジェットストリーム」は50年を超える長寿番組になりましたし、スポンサーシップも不動です。
n4543さんの教えをうけて何年かすると、ようやく一本立ちのディレクターになりましたが、
その頃のエピソードを一つ、選曲を考えるうえで重要と思いますのでご紹介致します。
いまから20年ほど前のことでしょうか。
1時間帯(月〜金)一本(ジェットストリームのこともありました)
30分帯(月〜金)2本
深夜2時間生一週2本
週一回放送箱番組(中継ものも含む)3本
一週間に17時間、月間で73時間分の量です。
このときはほとほと選曲がいやになりました。
LPとCDの過渡期で、古いLPは傷の状態をチェックするため、放送や録音の前に
すべて聴きとおさなければなりません。
その頃、確か「月刊民放」(民間放送連盟の機関誌)だったと記憶しますが
原稿を依頼され「選曲賤業論」と題したエッセイのようなものを書いたことがあります。
多分に自嘲的な内容で、放送時間、番組企画、聴く人の状況に配慮して
「ああもあろう、こうもあろう」とおもい悩み、果てしなく選曲を続ける自分を嘲ったものです。
即ち、音楽なんて自分が好きな曲を聴いていれば朝だろうと夜だろうと満足だし、嫌いな曲なら常に不機嫌だと決めつけた。
選曲なんておせっかいの極み、だから賤業だと。
職業人でありながら裸の自分に還ってしまったのですね。あまりの仕事量に居直ったというべきか。
しかしここで気がついた。書いてみて気がついたのです。
放送は聴く人のためにするものなのに、使っている感性は自分のものです。
その感性が疲れて鈍磨したのなら、知識と経験を使うしかありません。
それ以降のことです。
「選曲には感性が重要で知識は無用。しかしより良い選曲には知識は不可欠」
と思うようになりました。
知識といっても決して高邁なものではありません。
曲の存在の記憶だけでも役に立つものです。
世界には無限といってよい音楽があります。
自分をとりまく音楽はその万分に一にしかすぎません。
現下の自分をとりまく音楽が好きであることは自由ですが、
その外界にあるものを感得する能力がなければ、それは流行りものの音楽が好きな
高校生や大学生と変わりはありません。
欧米など視野の届く範囲のさらに向こうにある未知のものへの想像力、好奇心、探究力。
それらの音楽を実際に使わなくても、感得し得るアンテナを持つことで
選曲に艶がでるものですし、いずれは選曲技量が成長してゆくものと思います。
出すぎたことを申しました。
皆様のご寛容を期してあえて申し上げました。
という担当をしたことがあります。ほとんど家に帰れない状態です。
一週あたりの合計放送時間
小針俊郎
n4543様
前回の番組制作、今回の選曲論を楽しくまた興味深く拝読いたしました。
このn4543さんのブログをお読みになる皆様で、私の書くものが訝しいものに映る場合があるといけませんので、
初めからネタを割っておきますが、私はn4543さんに40年以上親炙し、番組制作のすべてを教えていただいた者です。
ですからn4543さんのおっしゃる当時の「技は盗んで覚えろ」という徒弟制度の現場をよく知っています。
しかしn4543さんの素晴らしいことは、ご自身は徒弟教育を受けたにも拘わらず、私たち後輩には
非常にシステマティックな教育を授けて下さったことです。
制作業務上のすべての動作、働かせるべき感性には理由があるという考え方に基づき
その理由と行為がもたらす結果について合理的に説明して下さいました。
そして常に結果=リスナーの喜び、感動を惹起することという立場をとっておられました。
民放の場合リスナーの喜び⇒固定化⇒スポンサーの喜びでもあるわけです。
だから「ジェットストリーム」は50年を超える長寿番組になりましたし、スポンサーシップも不動です。
n4543さんの教えをうけて何年かすると、ようやく一本立ちのディレクターになりましたが、
その頃のエピソードを一つ、選曲を考えるうえで重要と思いますのでご紹介致します。
いまから20年ほど前のことでしょうか。
1時間帯(月〜金)一本(ジェットストリームのこともありました)
30分帯(月〜金)2本
深夜2時間生一週2本
週一回放送箱番組(中継ものも含む)3本
一週間に17時間、月間で73時間分の量です。
このときはほとほと選曲がいやになりました。
LPとCDの過渡期で、古いLPは傷の状態をチェックするため、放送や録音の前に
すべて聴きとおさなければなりません。
その頃、確か「月刊民放」(民間放送連盟の機関誌)だったと記憶しますが
原稿を依頼され「選曲賤業論」と題したエッセイのようなものを書いたことがあります。
多分に自嘲的な内容で、放送時間、番組企画、聴く人の状況に配慮して
「ああもあろう、こうもあろう」とおもい悩み、果てしなく選曲を続ける自分を嘲ったものです。
即ち、音楽なんて自分が好きな曲を聴いていれば朝だろうと夜だろうと満足だし、嫌いな曲なら常に不機嫌だと決めつけた。
選曲なんておせっかいの極み、だから賤業だと。
職業人でありながら裸の自分に還ってしまったのですね。あまりの仕事量に居直ったというべきか。
しかしここで気がついた。書いてみて気がついたのです。
放送は聴く人のためにするものなのに、使っている感性は自分のものです。
その感性が疲れて鈍磨したのなら、知識と経験を使うしかありません。
それ以降のことです。
「選曲には感性が重要で知識は無用。しかしより良い選曲には知識は不可欠」
と思うようになりました。
知識といっても決して高邁なものではありません。
曲の存在の記憶だけでも役に立つものです。
世界には無限といってよい音楽があります。
自分をとりまく音楽はその万分に一にしかすぎません。
現下の自分をとりまく音楽が好きであることは自由ですが、
その外界にあるものを感得する能力がなければ、それは流行りものの音楽が好きな
高校生や大学生と変わりはありません。
欧米など視野の届く範囲のさらに向こうにある未知のものへの想像力、好奇心、探究力。
それらの音楽を実際に使わなくても、感得し得るアンテナを持つことで
選曲に艶がでるものですし、いずれは選曲技量が成長してゆくものと思います。
出すぎたことを申しました。
皆様のご寛容を期してあえて申し上げました
n4543
小針さんコメントをありがとう。プロの選曲家であり優秀な音楽ディレクターからご感想をいただけるとは思いもよりませんでした。感謝、感謝。番組制作は選曲だけではありません。番組の企画と併せて選ぶ作業です。それだけに、担当者によって選曲方法は幾通りの方法が生まれます。そうした選曲者の感性をリスナーに伝え、解ってもらうこと、これが選曲の本当に醍醐味です。CFMに携わっている方々は、そんな翻意を受け止められて、番組の選曲をされていくと、小針さんのコメントもよく理解されるのではないでしょうか。
はねも
選曲そのものが番組のクォリティー
選曲や音楽構成ほど面白いものはありません。番組で
の音楽構成(プログラム)はドラマです。リスナーが、
「次に流れるのはどんな曲なんだろう?」と期待され
る工夫が、リスナーを固定化するテクニックでもあり
ます。また、選曲はリスナーに対する提案でもありま
す。単純に好きだから・流行っているから・自分の知っ
ている範囲での選曲は飽きられます。
どのようなジャンルの音楽でも「四季があり、香り
があり、色もあります。」CFMで制作(もちろんしゃべ
り手も)に携わっている方々は,まずは、あらゆる音楽
に対して「好奇心と野次馬心」を持って聴くことですね。
聴かず嫌いが思いのほか多いのです。
「聴くこそものの上手なれ・・・です」
音楽のジャンルの好き嫌いは趣味だからOK!
仕事の場合は、脱趣味の世界です。
はねも
選曲そのものが番組のクォリティー
選曲や音楽構成ほど面白いものはありません。番組で
の音楽構成(プログラム)はドラマです。リスナーが、
「次に流れるのはどんな曲なんだろう?」と期待され
る工夫が、リスナーを固定化するテクニックでもあり
ます。また、選曲はリスナーに対する提案でもありま
す。単純に好きだから・流行っているから・自分の知っ
ている範囲での選曲は飽きられます。
どのようなジャンルの音楽でも「四季があり、香り
があり、色もあります。」CFMで制作(もちろんしゃべ
り手も)に携わっている方々は,まずは、あらゆる音楽
に対して「好奇心と野次馬心」を持って聴くことですね。
聴かず嫌いが思いのほか多いのです。
「聴くこそものの上手なれ・・・です」
音楽のジャンルの好き嫌いは趣味だからOK!
仕事の場合は、脱趣味の世界です。
おけい
私が担当している番組に届くメッセージやリクエストは年齢層が広くて ほんの半年ぐらい前までは
そうした幅広い年齢層の方々にできるだけ応えられるように それぞれの年代の心地良い音楽(その時代の流行の音楽も含め)を幅広くかけていきたいと思っていました。
勿論 自分なりに流れや理由付けをしながら選曲をしていた「つもり」ではありましたが やはり自分自身でも矛盾を感じていました
そんな時n4543さんに「せいぜい10年の幅だよ」と一言アドバイスを頂き それからは選曲が少し楽になりました
(「何をいまさら そんなこと」と苦笑されてるエピソードではあるのでしょうが)
そんな私ではありますが選曲には1番時間をかけています テーマやその日のお天気 季節に合わせた私なりの「感性=インスピレーション」と
「より良い選曲には知識は不可欠」と小針さんがおっしゃっているのにはおよびませんが 私なりにライナーズノートを読んだり和訳を読んだりして
曲の意味するところは 背景をさぐって曲決めをしています それに懲りすぎて時間がなくなることもありますが知識のない私には限界があります
なので「出来る範囲でいい選曲をする 後はリスナーからいい曲を教えてもらう」そんな方向でも今 奮闘中です
n4543
はねもさん、おけいさん、実践的選曲についての感想を読ませていただきました。はねもさんの「「次に流れるのはどんな曲なんだろう?」とリスナーに期待させるほど関心を持っていただける選曲は、本当に嬉しいもの、選曲冥利に尽きますね。選曲が番組クォリティを上げるという意味は、番組における音楽の使い方を充分に理解していないと分からないことです。この辺のところは機会があったら、選曲をもう少し突っ込んで取上げてみたいテーマです。選曲とはそれほど大切な存在で奥が深いものです。このブログを呼んでくださる方々にも、選曲の深さ広さを理解していただければ幸いです。
2008-06-17 〔第35話〕CFMの番組制作について その2

〔ラジオの番組を創る面白さ〕
CFM局で番組を創ることは、好きな人にとってエネルギーがふつふつと沸いてくるものです。青春時代に聴いた番組、あるいは広域ラジオの人気番組と同じ番組を創ってみたい、という思いが頭を廻ります。また、現在番組を担当していても、上手くいかない人もいるでしょう。自分が意図した番組を現実に移していくにはどうすればよいか、そんなノウハウを取り上げましょう。
■ 番組制作の基本はどんなものか
広域ラジオの番組制作もそうですが、番組制作のノウハウは担当ディレクターのAD(アシスタント・ディレクター)となって勉強していくのが一般的です。手取り足取り教えてくれることはほとんどありません。CFM局の場合は成り行きで担当させられてしまうケースが多いと思います。見よう見まねだけで覚えると、番組制作の創造性豊かな、品質高い番組がなかなか創れなくなる場合があります。やはり基本とその展開を身に付けることが番組制作には大切です。そこで、まず基本となる番組制作のアイテムを取り上げます。
- 番組企画 企画書に明記された番組企画の具体的内容の実践
- 番組構成 取り上げる企画を最も良好な形にするための段取り
- 番組演出 構成の起承転結をどのように魅力的に組み立てるか
- 番組出演 企画を最も効果的に盛り立てる進行役:語り部
- 番組音楽 番組を最も魅力的に聴かせせるための音楽の選曲
番組制作にはこの5つのアイテムがあげられます。(番組の種類によって多少異なります。)1つづつ説明していきましょう。CFMでは「ワンマン・パーソナリティ」として、この5つを一人で熟(こな)さねばならない場合が多くあります。パーソナリティが一人で番組を受け持つ場合、ともすると話すことに夢中になり、大切な部分が疎かになりがちです。「ワンマン・パーソナリティ」はディレクターとパーソナリティを兼ねていますから、この5つのアイテムをしっかりと身に付けておくこと必要があります。
1 番組企画
企画書では、番組自体の目的やアウトラインが明記されているだけです。放送に臨む番組企画は実践企画ですから、本番用として、少なくとも週1回の番組なら企画意図に基づいた実施企画を1ヶ月分〜2ヶ月分(4本〜8本)をリストアップ、またベルト番組では2週〜3週程度(10本〜15本)は必要になるでしょう。前もって番組宣伝として使うことができる配慮も必要です。またベルトのワイド番組になると全体の企画やコーナー企画、音楽特集などなど、複雑にしかも細かな企画を考えておかねばなりません。また生放送は社会の動き、生活の動向に合わせた企画が必要になりますから、いつでも変更できる体制も必要です。番組担当者(パーソナリティでもディレクターでも)はいつも企画を考える習慣が重要で、どんな時でもどんなことで提示された題材に対して「それならこんな企画が考えられる、あんな発想はどうか・・・」といったアイデアを生むための頭の回転が必要です。それにはいつも身の回りのこと、TV・新聞・雑誌で話題になっていること、インターネットで注目されている事柄など、24時間眠っている時でさえ企画を考える習慣を身に付けたいものです。この習慣が身に付くと驚くほど発想が豊かになります。
2 番組構成
何事にも起承転結があるように、どんな番組にもさまざまな展開があります。時間のスペックに併せて、この企画をどのように創ろうか、聴いてもらおうかという、番組企画の最も魅力的な綴り方、その方法、それが番組構成です。この構成の基本が起承転結です。広域ラジオの番組構成は、構成者、構成作家といわれる人が担当します。もちろん番組ディレクターやパーソナリティと検討の上、原稿に起こしたり、詳しいシノプシスに落とし込んだりします。広域ラジオの場合、企画性ある内容が多く求められますので、1つの番組でも多くのスタッフが役割分担しています。ディレクター、パーソナリティ、構成作家、AD(アシスタント・ディレクター)、ミキサーなどなど。生ワイド番組になるとこれらのスタッフが複数になり、チームを編成して進めます。CFMではそうしたスタッフ構成は望めませんので、パーソナリティと1人ないし2人で進めることになります。ここで大切なのは中心となるパーソナリティあるいはディレクターが番組構成を考えねばならないことです。
3 番組演出
これは番組担当ディレクターの仕事です。責任をもって番組全体を把握し、番組構成に基づいてリスナーにもっとも魅力的な視点から指示を出していきます。この魅力的ということがキーポイントで、質の高さ、感動や共感の深さ広さ、面白さ、などなどを引き出すのがディレクターです。特に出演者であるパーソナリティの魅力を最大限に引き出す技量が求められます。パーソナリティは自分にどんな魅力が備わっているか、案外知らぬことがあるものです。お芝居や映画における監督と俳優の関係に例えられるでしょうか。CFMではパーソナリティが中心に番組を進めることが多いので、パーソナリティは番組づくりをよく知っている人に番組を聞いてもらうとか、モニターなどをしてもらうとか、自分を絶えずチェックすることでディレクターの視点に近づくことができます。(前回の項で書き込みをしてくれたkigenさんは個人的に20人の方にモニターを頼み、チェックしているそうです。CFM局のパーソナリティにはぜひ参考にしていただきたい方法です。)
4 番組出演者
ラジオでは広域ラジオもCFMも、番組出演者といえばパーソナリティです。もちろんパーソナリティではなくアナウンサーが必要な番組も沢山ありますが、ラジオの中心はパーソナリティです。CFMのパーソナリティについては当ブログ第18・19・20話で詳しく記していますので参考していただきたい。ここで記したいのは、CFMパーソナリティは1人3役も4役も果さねばならないので、その果し方です。番組担当のパーソナリティは、ともすると、話すことしゃべることに神経が向き、番組づくり全体に気配りが不足しがち、ディレクション、番組構成、トーク、演出について、平均的に神経を配る習慣が必要です。この配慮を毎回実践することによって、自作自演の質的向上をもたらす近道ではないでしょうか。
5 番組の選曲
ラジオの番組には音楽をかけることが必須です。音楽が少ないラジオはNHKラジオ第一(AM)ぐらいのものです。ラジオ番組と音楽はおしどりのような関係で、企画内容により主役は代わりますが、なくてはならない存在です。そこで、音楽を番組に取り上げるには、いったいどんなところに注意を払うのか、選曲するための基準はあるのか、番組における選曲について考えてみたいと思います。選曲は番組企画の内容により大きく異りますが、ここではワイド番組を想定した選曲についてそのアイテムを取り上げましょう。
(a) 担当番組のターゲットがどんなリスナーに設定されているか。
(b) 担当番組のカラー(テイスト)をどのようにイメージしているか。
(c) 取り上げたい音楽の範囲はどの程度に設定しているか。
これはおおよその番組に共通するアイテムです。こうした客観的アイテムに従って「選曲」は進められます。CFMではともするとパーソナリティやディレクターの個人的趣味から選曲する場合を見かけます。これは想定外のお話です。ゲストのリクエスト、リスナーのリクエストなどは例外ですが、それでも上記のアイテムの沿って選ぶことが必要です。そうでないと懐かしのJ−POPが中心の選曲に、突然演歌やジャズが選ばれるようなもので、リスナーにとって違和感を覚えます。番組の選曲については選ぶ人のセンスも重要な要素になり、短いスペースでは紹介し切れません。別途項目を設けて詳しく触れたいと思います。
■ パーソナリティが創る番組とは
CFMの番組づくりは、パーソナリティが1人で創る番組か、あるいはADがミキサー代りに付いてくれる番組が圧倒的に多いのではないでしょうか。営業成績がよく、番組制作費が多い放送局は別ですが、少ない制作費でいかに地域密着番組を創って行くかという大きなテーマを抱えているCFM局にとって少人数の番組制作体制は必然です。
ニューヨークやロスアンゼルスのラジオ局を訪問してみると、例外を除きほとんどがワンマンDJです。1地域にラジオが40〜50局もあるアメリカでは、日本のCFMにかなり近いものがあります。むしろ日本の広域ラジオの方が特殊なあり方といえるかも知れません。その意味では。アメリカのラジオの方がCFM局には参考となる面が多いことは確かです。1人のDJが何役も熟(こな)すといういい方はむしろ日本的で、向こうでは当たり前なのです。また番組担当をするばかりではなく、営業も担当している人もいます。自分の番組は自ら売るという発想です。ラジオ番組は1人、これが常識なのです。CFM局もこれに習ったパーソナリティのあり方を研究すべきでしょう。もちろん、スタッフが多く、敢えて1人で番組づくりをする必要がないところは当てはまりませんが、基本のあり方として1人、これが日本でも常識の時代がやがてくるに違いありません。
一方、CFM局の経営者は、ワンマン・パーソナリティとして番組が創られるように、スタジオの設備を整える必要があります。番組に必要なテーマソング、サウンドロゴ、コーナーロゴ、楽曲プレイ、電話、その他利便性の高い設備です。テーマソングやサウンドロゴなどはポン出しシステム、かける楽曲はサーバーからワンタッチで放送できるシステム、手軽に電話ができ、録音できるシステムなど、ワンマンで番組進行が可能な放送機材を導入する計画と実施です。こうした環境があってこそ少数精鋭の番組づくりが可能となってきます。(了)
はねも
異業界から参加し制作の責任者をしていますが、貴殿の書
かれていることを学んで実践出来る若い制作担当者は皆無
に近いでしょう。書けない・読めない・考えない。クリエ
イティブ思考を持っている人が少ないのでしょう。広告代
理店などは、考える・企画するという職場環境が刺激となっ
て、1年もすればそこそこの企画書がかけますが,CFMは
指導者もいなければ、経験者も少ない。.CFMは営利を目的
とする企業であるにもかかわらず゛、人件費を抑えるために
放送ボランティアと云う名目で、参加者を募り、放送事業
に従事させている。東京や大阪など大都市では、ある程度
キャリアのある芸能人に番組を持たせることで局のクォリ
ティを保っているが、それ以外はほとんど素人である。経
験者がいたとしても、メジャーでの本格的な経験者ではな
い。チョットかじった程度の知識と経験のある人が、ボラ
ンティアたちを指導しても、そこの浅さは素人でも分かっ
てしまうので指導にならない。そのような環境の中にあっ
て、書かれている内容を理解しチャレンジする人がはたし
ているのでしょうか?それが残念です。具体的な番組企画書
のケーススタディ(実例)を紹介していただいたほうが
良いのではないかと思います。私の場合は、広告代理店の
プランナーに、企画研修をお願いしたりしていますがそれ
でも、忙しい・時間が無い、自分なりにちゃんとやっている
・・・など苦戦しています。素人なりに番組を持って2ヶ月
もすれば、一人前になった気分の勘違い・・。三流芸能人の真
似ばかり。常連のラジオネームリスナーのメールやFAXに一
喜一憂。そのようなCFMも多いことだと思います。
パーソナリティも鉛筆書きのメモ程度。新聞記事のスクラッ
プも下読みもせずそのまま丸読み。音楽の知識も、自分の好
みだけ、これが私の知るところの現状です。来月から、責任
者を辞退し、勉強しながらパーソナリティとして、見本とな
るような番組をと考えています。
n4543
はねもさま。コメントをありがとうございました。CFM局の現場の苦労と悩みが手に取るように分ります。心情をお察しいたします。何もないところから出発することは本当に大変です。私もスタッフ教育やボランティア指導を担当した経験がありますが、はねもさんが突き当たっている苦労や悩みを解決して行くには、まず、CFM局の経営者が「放送とは、ラジオとは、CFMとは」という基本的なことの理解するところから始まるのではないでしょうか。放送局は一般の企業と異なります。その事業と役割を理解して初めて、携わるスタッフの大切さが認識できると思います。その結果として、スタッフの指導体制はどうするか、どの期間でどの程度成長させていくのか、そうした体制づくりがまず大切で、本来開業費用のなかにこうした経費を計上しておくものです。そして教育や指導があって初めて放送局の現場と放送内容の取り組みが分ってくるのです。CFMは地域メディアです。学校放送の延長ではないのです。もっともっと役割が大きいことを経営に携わる方々は理解してほしいですね。こうした体制があって「はねもさん」の出番があるのではないでしょうか。
2008-06-11 〔第34話〕CFMの番組制作について その1

〔CFMの番組制作の特色は!〕
ラジオ番組を創りたい、番組に出演したい、と希望を持っている方はかなり多いと思います。特にCFM局(コミュニティFM放送局)が全国的に開設されてから、希望者は一層広がっているようです。また、CFM局のパーソナリティを担当している人で、番組制作とはどんな風に創るのか、改めて学びたいという方もいるでしょう。ラジオの、CFMの番組づくりとは、ワンマン・パーソナリティとしての番組制作とは、というテーマでこの項を進めて行きましょう。
■ 放送におけるラジオ番組の制作基本について
第27話から4回にわたって「CFMの番組編成について」をレポートしましたが、そのなかでも触れている通り、放送番組は番組編成という1日24時間、1週間分を基本として「誰に向って」「何を」「どのように」「放送するか」という、放送局のコンセプトにしたがって決められた編成に基づいて放送番組は創られて行きます。放送部長は、番組を担当するスタッフに対して、この番組編成に従って基本的な説明を明確にしておかねばなりません。広域ラジオの場合は、プロデュサーが担当ディレターに、局外制作者に、番組編成の狙い、営業展開のニーズなど、説明しスタートしていきます。
CFMの場合は放送部長が担当スタッフに説明するところから始まるわけです。経験豊富なCFM局はこの点かなりスムーズに進行していますが、開局間もないところや番組編成がしっかり進めてこなかった局は、大方この辺が的確に進められていない様子です。担当する場合が、誰に向って何をどのように放送するか、という番組づくりの基本となる視点が抜け気味です。そこに朝でも午後での夕方でも区別がつかない番組内容やともすると、番組編成とは関係なく、創りたい番組を自分たちで創る、という学校放送の延長のような局もあります。まず、この基本をクリアしてから番組づくりを始めたいものです。
■ 番組の準備はいつからどのように始めるか
さて、広域ラジオでは4月編成と10月編成が中心となって進みますが、その準備はおおよそ3ヶ月前から進行します。4月編成なら1月からです。12月からというところもあります。経営的目標にしたがって番組編成の改編が進められますが、特に番組制作では1月中に番組企画、2月に出演者を含む制作準備、3月には公表し、4月スタートということになります。東京、大阪などのキー局はもっと早く進められるところがあるでしょうが、一般の広域局は上述したスケジュールです。個々の番組では余裕がある場合とぎりぎりまで決まらない場合も多くあります。出演者が決まらないとか、番組スポンサーが決まらないとか、さまざまな要因はありますが、ラジオ局にとってもっとも忙しい時期となります。CFM局の場合は、もう少し期間が少ない局が多いようです。改編番組が少ないことや番組出演者の変更も少ないことなど、安定期に入っている局は、大幅な変更が少ないためです。
■ 番組づくりはまず企画書づくりから
放送とは、番組というコンテンツがあって、それを受け手であるリスナーに届けるツール、電波に乗せて送り出して行くものです。その番組は企画によって創り出されます。放送は企画無ければすべて無し、そういえるほど大事なもの、言い方を変えると、無から有を生み出す仕事が放送の仕事なのです。この放送という本質的な存在、無から有を生み出すという意味を理解するためには時間がかかります。企画を書き実践するその繰り返しを経験しながらこの意味を掴んでいただきたいものです。
さて、放送のすべての始まりである番組企画とは、身の回りにあるものすべてが企画の対象になります。ならぬものはない、身辺みな企画の発想源なのです。何を考えるか、何を発想するか、で身近な題材が友好になっていきます。特にCFMでの番組を前提に考えると、例えばニュース番組、自治体の市民ニュース、福祉機関、教育機関、商店街などの情報番組は、企画性というより情報源をどのようにするかの方が重要です。しかし、午前や午後のワイドになかで取上げて行くには、やはり企画性に工夫があり、伝え方にも特色があることが重要となります。ワイド番組、あるは音楽番組、ゲスト番組、などなどその企画性や構成要素、伝え方に至るまでさまざまな企画づくりが必要なのです。そこで、企画性の必要な番組から「企画書づくり」を取上げていきましょう。
■ 企画書づくりの基本要素
企画書の基本的要素は(a)企画意図(b)企画内容(番組内容)(c)具体例(d)出演者(e)番組制作費(制作諸経費)の6つが上げられます。具体例を企画内容に含めると5つとなります。どんな考え方で、どんな企画を発想するか、なぜなのか、それがどんな具体例となるのか、番組がどんな構成になるのか、その番組に最も相応しい出演者は誰か、幾らかかるのか、こうした要素を具体的に書くのが番組企画書です。そもそも企画書を発注するのは、CFM局の番組編成を担当している放送部長役の人でしょう。依頼する人は、その放送局の番組編成上の位置づけ(誰に向って、何を、誰が、どのように、放送するか)にしたがって説明します。もちろん、企画書の書き方は色々あり、これぞといった決まりごとがあるわけではないのですが、あえて言えば上記の5要素ではないでしょうか。これを例に、たとえば、あるCFM局を想定して、3時間番組の企画書を書くとしてその概要を記してみましょう。番組編成上は下記のような位置づけで企画書を依頼されたとします。
◆ 番組編成の位置づけの例
レギュラー帯番組(月〜金)、放送時間=平日午前9:00〜12:00、番組のリスナー対象(ターゲット)=主婦・業務移動のドライバー・商店街の商中心に、年齢=35才〜55才、男性と女性比=8対2と想定、以上〔ながら聴取者〕を前提とした人々に、今日の街の動き、市民の活躍している様子など軽快なタッチでの番組制作。出演者は明るく、微笑ましい人、思いやりがある人を選んでほしいという設定とします。
◆ 企画意図
地域情報と話題が中心のCFMですが、ここでは情報や話題の内容をもう少し角度を変えて、情報はできる限り発信元、話題はその生まれ出た元から伝えることを特色とし、ゲストなどは当局のホームページでリスナーの希望や、こんな人という紹介を募集し、その中から面白い人、ユニークな人、評判の人などを取上げるなど取上げて、企画性のある番組づくりを心がけます。参加型情報番組です。また、地域と密着した情報のほかに県庁サイドの情報や隣接都市の重要な情報なども併せて提供することも市民にとって有意義な譲渡なるでしょう。
といったように、地域情報を中心にした番組といってしまえば、どこのCFM局でも同じ内容となります。もちろん共通するところは多くあるのですが、我々の局の特色を出していくことを前提とすることが大切で、ここでは、同じ情報・話題でも情報の発信源、話題の発生源から伝えていく、という特色、その上隣接都市の情報や県庁の情報など多少広域な情報や話題を伝えていくことを特色とした情報番組としていくなど、番組に対
する企画性とトピック性を強調することが番組企画の企画意図となります。大切なのは企画する「意図」が明確に現れていることが重要です。
◆ 番組内容
番組内容は、上記3時間ナマ番組というパーソナリティにとっての長調場の企画なので、大きく3部構成にします。9時台、10時台、11時台と1時間ずつに分け、リスナーの仕事区切りになるよう配慮し、以下のようなポイントを各時間帯に持たせます。また3つの時間帯を花名の窓(フラワーウィンドウ)として設定、季節の花々を紹介しつつ番組の季節感を出すようにも心がけます。6月であれは9時台=アジサイの窓、10時台=菖蒲の見える窓、11時台卯の花の窓、など名づけます。そしてこの色違いの窓がリスナーに伝わるよう、番組企画を設定していきます。〈アジサイの窓〉は市内のアジサイの見所を紹介しつつ、地元の地域情報や話題について発生元からオリジナリティある伝え方、そこに爽やかさがでるようにします。〈菖蒲の見える窓〉はトピックあふれる人の紹介とゲストで綴る一方、局のHPでゲスト募集をかけ、リスナーが推薦する話題の人を紹介します。そして〈卯の花の窓〉は昼へ近づく時間として、放送局の周辺情報を提供、例えば隣町や県の情報、話題をピックアップします。また、番組で聴かせる音楽は70年代〜80年代を中心に日本の爽やかなメロディ、演歌やロックを除く、といった設定も朝から昼に移る時間としてウォームな味を選曲します。
番組内容は、具体的に番組がどのような企画で展開されるのか、明確にすることです。上記3時間ナマ番組という長時間番組を書く場合は、まず全体像が良く伝わるように、その上長時間の構成要素を明確に、例えば3部構成にする、とか。そして企画性がこんなところにあるということを明確に書き込みます。なお、具体例をここに列記するのも結構です。
◆ 出演者=パーソナリティ候補
番組で最も重要なアイテムで、番組編成上パーソナリティの性格がある程度設定されている場合、上記では明るく、思いやりのある人、などが望まれています。これに沿って、候補者の選択と特色、経歴、その人の技能(話題の話し方が上手いとか、インタービューが上手いとか)をはっきりかき、当番組の適任者であることを強調します。できればサンプルデスクがあると有効です。
◆ 番組制作費
制作費はパーソナリティ料、ディレター料、取材費、ゲスト費、その他必要とする諸経費を明記し、総額を記します。アバウトに書く人が多いですが、各項目をリーズナブルに記載することが必要です。
大まかに記すと、番組企画書は以上のような内容となります。企画書の名人はA4版2〜3ページほどに、また、パワーポイントで分かり易く書く人もいます。局内で審査決定されるように、経営者、スタッフ全員が理解し易く書くとともに、番組のスポンサーに提出できるよう、営業資料としても利用できる内容に作成することになります。(了)
kigen
毎回学習させていただいています。
今回の項は、懇切丁寧でCFMに携わっている皆さんに
熟読してほしいものです。商品を市場に参入させても
マーケティング不在であれば売れません。番組の企画も
マーケティング思考が不可欠ですと、顧客満足ではなく、
発信者の自己満足に陥ってしまいます。CFMは、広域
局の番組企画以上に緻密さが大切だと思います。誰に向
けて、どのようなことを提案したいのか。提案する内容
や課題をどう引っ張り出すのか、そして、ひと工夫する
こともポイントだと毎回念頭に置きながらマイクに向かっ
ています。また、私の場合は、個人的に20名ほどに「ご
意見番モニター」役をお願いしています。聴いていただく
方に飽きられない番組つくりの秘訣でもあります。
地域密着の情報発信も、[提案とひと工夫]を付加し消化
して発信しないと単なる情報の伝達これでは楽しくないと
思っています。自己反省をしながら、チョット書いてみま
した。
n4543
コメントをありがとう。CFMに携わっている人の実感が
伝わります。
CFMのパーソナリティはチェックしてくれる人がいないことの不安が
大きいと思います。その意味で、個人的なモニターを設けていることは
大変適切な方法でしょう。長らく携わっている方の知恵ですね、
CFMパーソナリティの方々も参考にされるといいと思います。
おけい
CFMで喋らせていただいています
個人的なモニターのお話も参考になりました♪
が!やはり両方(リスナーと制作サイド)の立場を理解している経験のあるディレクターの存在は大きいのではないでしょうか
CFMは喋り手はみつかってもディレクターがいないというところが多いと思います
本当はディレクターの経験値が高ければ 喋り手の経験が浅くても番組は成長していくと思います
そして経験あるディレクターと仕事を共にした喋り手は どのように番組をつくればいいのかがわかってくると思います
CFMは「縁の下の力持ち」ディレクターを育てるように考えると もっと底の部分から変わっていくのではないかと思います
それは視聴者に向けても そして頑張ろうとしているパーソナリティーが育つ為にも
さらには後に続く人に伝えるためにも 経験のあるディレクターや先輩方が要所要所に居ることで求められる番組を作りだしていく事ができるように思います
やっぱり人生の先輩 経験者からの知恵をうけながらつくりだす番組はリスナーにとっても違和感のないものになるように思います
本文とは少々ずれてしまったかもしれません 申し訳ありません
sakura
CFMの経営陣の意識が高いところで
は経験豊かなディレクターやプロデュ
ーサーの人材を発掘する努力をしていま
すが、数えるほどしかないでしょう
.CFMの企業規模から優秀な人材は
集まりにくいです。したがって、CFM
のパーソナリティはディレクターとして
の意識や資質や感覚を自己努力で高めなけ
ればいけません。リスナーに支持され
楽しまれる番組制作は意識の高いしゃべり
手次第だと思います。はそのための勉強が
大切でしょうね。
n4543
おけいさん、sakuraさん、コメントをありがとう。おけいさんが言われることは良く理解しています。
sakuraさんが言われることは理を得ていると思います。お二人の考えは、その通りだと思います。
しかし、環境が許されない結果、パーソナリティ個々の成長に不安が生まれるのでしょう。当ブログの
次回は番組制作の創り方についてレポートすます。そのなかにお二人の言われていることにも触れています。
ご参考にしてください。1つだけここで申し上げますと、ラジオ経営や番組制作のあり方が、広域ラジオも
CFMも大きく変化している時代です。従来の考え方では乗り越えられない状況がこの2〜3年で起こって
くるでょう。そうした状況を考えると、これまでのあり方を参考とにするのではなく、新しい作り方で放送
せねばなりません。その視点を忘れないで、この課題に取り組んでいただきたいと思います。
2008-06-04 〔第33話〕デジタル時代のCFMの行方 その3

〔デジタル時代のCFM〕
CFM(コミュニティFM放送)は、FM放送に振り向けられている周波数帯 76Mz〜90Mz内で、電波を総務省から免許を得て放送することになっています。デジタル時代のアナログ放送CFMはこれからどのようになって行くのか、業界内でも心配の向きがあるようです。今回は時代の大局的な流れを踏まえて、ラジオ&CFM業界の行方を追ってみたいと思います。行方とはこれからの方向性、もう少し踏み込んだ読み方は予想予測ともいえるかも知れません。今回はこの予想予測のあり方から口火を切りましょう。
■ 混迷の時代こそ予測が大切!
素人が大上段に構えるようで誠に恐縮ですが、混迷のラジオ界だからこそ一度大胆に取り組んでみるのもラジオを考える糧になるかも知れません。少しお許しください。行方あるいは予想予測とは、突き詰めれば「感」、第六感ということになりますが、責任ある言い方するならば、できるだけ客観的資料、現代という時代認識の集積の上に立った「読み方」が必要でしょう。そこで、10年ほど前に出版され、日本の行方をかなり正確に予測した本がありますので、大局的、俯瞰的な点を参考にしつつ、ラジオしかもCFMの分野を眺めてみたいと思います。
■ これからを予測する長期波動について
「2005年日本浮上」〜長期波動で読む再生のダイナミズム(公文俊平編著/NTT出版?1988年)という本があります。「1990年代の日本は重病にかかっているではないか。日本の社会は、政治も経済も自己統治能力を失ってしまったのだろうか。」という書き出しで、長期不況が深刻化し、出口の見えない混迷の最中、この本は指導者に冷静な判断を仰ぐかのように出版されたのでした。内容は150年間の現代日本を長期波動と短期波動を組み合わせた視点からアカデミックに分析し、今後の予測を立てたものです。具体的にいうと、日本が60年周期で波動を描き、15年づつ4つの短期波動から成り立つという分析から、長期不況の出口はおそらく2005年ごろになるのではないか、という予測したものです。150年の歴史を政治、経済、社会の各分野にわたり分析を試みる記述は、あたかも小説を読んでいるような魅力的なものでした。
わざわざこの本を引き合いに出した理由は、大きな歴史の流れのなかで、我々はどんな位置に立っているのか、また、狭い業界にいる我々はCFMがどの方向を向いて歩んでいるのか、という立脚点を理解する上で非常に参考となる分析だからです。そこでまず、大きな流れ、波動60年周期から触れて行きましょう。開国を迫るペリー来航間もない1855年より、日本社会の変化過程は下降局面(30年)と上昇局面(30年)の2つがセットとなって60年周期を構成しているのではないか、現在はこの周期の3度目を迎えている、という前提に立って政治、経済、社会を中心に分析します。そして2つの30年期を更に4つに分け、これを基本の構成要素として、歴史の事実を当てはめて行きます。その4つとは下降局面を「模索の時代」の15年と「混迷の時代」15年に、上昇局面を「改革の時代」と「発展の時代」という区分です。この組み合わせと同時に10年毎の変化も重ね合わせています。
この分析結果、この本が出版された1988年の時期は「下降局面」の30年に位置し、そのなかでも後半の15年「混乱の時代」の真ん中に当たるといいます。したがって「混乱の時代」が終わる2005年以降は「改革の時代」に入って行くことになるので、長期不況から脱するチャンスが巡ってくるというのです。現実の社会状況は2005年前後からバブルの清算も済み、企業の再構築や情報化投資も進み、経済の回復が少しずつ進行して、経済活動に弾みがつき、回復へ歩み出すようになりました。この本の予測はかなりの角度で当たったことになります。 少ないスペースでは分析内容を紹介し切れませんので、関心のある方は本書を読まれることをお勧めします。
■ 「2005年日本浮上」予測に学ぶもの
さて本題に戻ります。ラジオないしCFMの行方を予想するための視点ですが、今は2008年です。2005年以降「改革の時代」に入ったと見られる長期波動はどんな予測を立てているのでしょうか。明治維新そして戦後の民主化「このような過去二回の大きな転換点に対して、2005年から20年までの『改革の時代』における新たな国家的国民的目標は、国内であっては『地域化』、国際的には『地球化』とされ、その目標達成の大戦略としては、『情報化』の本格的推進とその実現が選ばれるだろうというのが、この本での私たちの予想である」という記述です。ここでいう「地域化」とは、大幅な地方分権化を取り入れた体制のことをいい、現在本格的に論議されている「道州制」の導入を示唆しています。現在10年後に「道州制」を導入すべく、政府への提案化され、広く議論が展開されているところです。
さて、CFMが存在する小地域は、近い将来、道州制の導入により自己責任と自己決定に従って行政活動が行われる時代となるでしょう。現在のあり方は大幅に変化するはずです。それは地域の自主的な経済活動と市民の積極的な社会文化活動が求められます。そこにラジオというメディア、CFMというメディアが有効性を発揮する存在になってくるのです。もちろんCFMもラジオ単体メディアでは効力を生み難い状況が生まれますので、ネットメディアとの連携を強め、行政および市民活動の活性化を促す大きな役割を発揮するものと予測されます。
■ 地域化という次代の流れこそCFM時代の到来!
「2005年日本浮上」の本には、「地域化」を推進する大きな土台として、地域情報網の整備とCAN(Community Area Network)の強力な推進をあげています。物的、制度的インフラとしてのCANは次のような内容です。
- 地域コミュニティの全員がアクセスできること(地域情報通信網)。
- 地域コミュニティ全員が容易に活用できるカスタマイズされた通信機器、ミドルウェア各種アプリケーションの存在。
- 地域コミュニティの全員がさまざまな形で参加できる遊びや祭りから仕事まで、学習・教育から保健・医療など多種多様なコミュニティ活動。
「地域メディアを学ぶ人のために」(田村紀雄編著/社会思想社2003年)には、既に上記のCANに基づいた実例が詳しく紹介されています。それから5年を経た現在、この地域ネットメディアは急速に、全国的に広がりを見せています。上記インフラを構築し活用したネットメディアは予想された通り、普及段階に入り、これから実生活(リアル社会)と強い繋がりを持ち始めています。時代は確実にCAN構築に進んでいます。
具体的には、この地域情報システムによって生まれている地域SNSやブログ、ユーチューブ、ポッドキャスティングなど各種ウェブサイトを活用してコミュニティサークルの交流が盛んになって行きます。ラジオメディアであるCFMはこうしたネットメディアと連携し、1対Nと1対1の関係を更に活性化する存在として効果を発揮して行くべきで、その実現こそがCFMの存在を示すことになるのではないでしょうか。ここにラジオメディアの課題である「見えるリスナー」の構築が可能になり、経営としての資産を持つことに繋がります。その意味で、ウェブサイトの構築や連携には、できるかぎりイニシアティブを取ることが望ましいと思います。
デジタル時代のラジオの行方、CFMの行方は、およそ十年後には導入されるであろう「道州制」を核とし、経済社会の「地域化」とそれを浮揚させる「地域情報化」を背景に、これまでのラジオとは異なった役割を果たすことになると思われます。予想予測とは、できるだけ客観的な時代推移を読み取り、求められるニーズを先取りして基盤を創って行かねばなりませんが、大切なことは客観的な要素、受動的行動ではなく、予測を判断した時点から能動的に、創造的に行動を起こし、次代を自ら創り上げて行くることではないでしょうか。これはCFM業界にも当てはまるのです。
■ これからの時代に成すべき姿勢とは!
「2005年日本浮上」には、これからの時代に大切なポイントが記述されています。我々の意識構造や行動様式についてです。当項の終わりに引用しておきましょう。
「(意識構造や行動様式は)これまで多分にその時代時代の国家システムや経済システムのあり方に依存する面が強かった。(戦前は天皇の赤子、戦後は会社主義など)いまや大きく変質しつつある。国家や会社といった頼るべきものを失った日本国民は、今後『行政改革会議』の『最終報告』にあるように『行政への過度の依存体質に決別し、自律的個人を基盤とした国民が統治の主体として自ら責任を負う国柄へと転換しなければならない』のであり、『会社主義』から脱却して、自立・自律しなければならない。会社人間から脱却し、各人が個人として自立・自律化することは、他者に依存しない思考や行動様式を生むと同時に、価値観の多様化をもたらすだろう。」ここに引用した記述は10年前です。現在は確実にこうした意識や行動になりつつあると思われますが、さて、自立・自律となるとどうでしょうか。ラジオ、CFMを考える時、この自立・自律のあり方は、CFMメディアの存立基盤といってもいいでしょうが、各経営者とスタッフの自立・自律に支えられたメディア認識がこれからは大切だ、と注意を促しているように感じられます。(了)
2008-05-29 〔第32話〕デジタル時代のCFMの行方 その2

〔デジタル時代の広域ラジオ〕
CFM(コミュニティ放送)に限らず、これからのラジオはどのような姿になって行くか、ラジオ好き人間にとっては心配であり、関心の高いところです。今回は日本のラジオ界の一翼を担う民放ラジオが次代をどのように考えているかを、民放連編集の「放送ハンドブック」(2007年版/日経BP社)からご紹介しましょう。CFMの今後のあり方にも大いに参考となるでしょう。
■ ラジオがなくなる日?
「ラジオの編成は、従来のラジオの枠組みの中だけではもはや収まり切らなくなっている。あるいは完結しなくなっている」という書き出しで、これからのラジオの姿を象徴的にこう綴っています。「もしかすると10年単位のスパンのなかでは、あるいはもっと速く『ラジオがラジオでなくなる日』が訪れるかもしれない。誤解を招かないために書いておきたいのだが、『ラジオがラジオでなくなる日』とは、必ずしも音声メディアの消滅を意味するものではない。音声を核とするラジオ放送が、姿・形を変えて発展して行く時代、という意味である。」(前掲「放送ハンドブック」より)
かつて新聞界を賑わせた本に「新聞がなくなる日」(歌川令三著)「ネットが新聞を殺すか?」(湯川鶴章著)があります。「The Vanishing Newspaper」(新聞が消える)は、4年ほど前にアメリカで発売されたジャーナリズム論の教科書の題名だそうです(注1)。あちらではそれほど新聞の危機が論議され、業界も紙のなくなる日を想定したサバイバルモデルづくりに取り組んでいるとか。そういえば「EPIC 2014」がマスメディア業界で話題になったことを思い出しました。2004年秋から話題となったようで、これはアメリカのメディアの将来を予測する短編映像(フラッシュムービー)です。
■ 「EPIC 2014」から感じられるラジオ
「EPIC 2014」はラジオの世界にも大いに参考となりますので、その概要を記しておきます。「『EPIC』とは(雑多で混沌としたメディア空間を選別し、秩序立てて情報発信をするためのシステム)である。しかもそれは人々の趣味、消費行動、人間関係などをベースに、個人用に情報を編集する能力をそなえている。そこでは文字だけでなく音声、映像、動画も含まれ、人々が多角的に組み合わせた自分用の“こだわりの情報”を日々無料で獲得できる。グーグルはこの巨大なシステムめがけて集まる膨大な広告の一部を受け取る究極のメディアである。その結果、ニューヨーク・タイムズ紙はグーグル支配に対する精一杯の抵抗として、電子版(新聞)を廃止、エリート層と高齢者向けクォリティーペーパー(高級紙)を発売する紙媒体専門メディアに戻り、山奥へ引っ込んでしまったとさ――。」(注2)という結末です。〔参考資料:(注1.2)は「サイバージャーナリズム論」歌川令三編著/ソフトバンク新書よりP37、P42〜43。また「EPIC 2014」のフラッシュ・ムービーのURLは次の通り。〕 http://probe.jp/EPIC2014/ols-master.swf〕
この「EPIC 2014」は日本の大学のメディア論でよく取上げられるテーマです。上記の書籍や話題のフラッシュから垣間見えるのは、日本のマスメディア支配にも限界が見えてきたという認識でしょう。しかし、日本のマスメディアは共通して危機感は持っているものの、新しいビジネスモデルづくりにはなかなか踏み込めず、また経営者と現場サイドの認識にも大きな開きがあるようです。ラジオ業界をこの「EPIC 2014」になぞらえると、上述した「ラジオがラジオでなくなる日」という言葉が緊迫感をもって迫ってきます。
■ 広域ラジオの現在のチャレンジ
これまでラジオはインターネットを音声の補完的役割と同時に、番組支援のための広報宣伝ツールという位置づけをしてきました。ホームページでの会社紹介やアナウンサーの紹介、番組で取上げたテーマや話題の掲載、それがやがて、リスナーの意見の吸い上げ、番組にフィードバックする手段として、また2005年ごろから「ブログ」が登場して、番組づくりのエピドード、報道記者の取材裏話、アナウンサーのエッセイなど、日々更新される情報や話題は、あたかもう一つのラジオが出現したかの様相を見せ始めました。そして営業面では、自社HPとスポンサーHPとのリンクによるリスナーの誘導、商品訴求に結び付け、さらに商品の受注へとつなげる方法が生まれています。最近は「ケイタイ」の急速な普及により、公式サイドの立ち上げによる情報提供、有料サービス、ショッピング、ダウンロードビジネスへと進化、ラジオはネットと連携することにより「広報宣伝ツール」から「コミュニケーション・ツール」「ビジネス・ツール」へと変化を遂げています。これも、ラジオの将来を見据えた展開といえるでしょう。「放送ハンドブック」には、こうしたチャレンジに触れた後、これからのラジオにとって「番組の編成を基本に据えながらもHPやメルマガ、携帯サイト、ポッドキャスティング、地上デジタル放送、インターネットラジオなどまでをも視野に収めた取り組みが求められることになる。これらをデジタルの専業組織と連携を取りつつ推進して行くという極めてチャレンジングで重要な責務を負っているのである。」と記しています。(前掲「放送ハンドブック」〜クロスメディア展開の時代 〜P548〜549)
■ 欧米並みになるラジオの多チャンネル化と多局化
ラジオというカテゴリーからみると、地上波(アナログ・デジタル)系、衛星系、有線系、ネット系と、ラジオを伝えるツールは広がるばかりで、かつては考えられないほど多種多様になったラジオです。そのなかで「市民権」を得るラジオとは・・・。「放送ハンドブック」では、多種多様なラジオが登場してくるなかで、「ユーザーをとらえる多彩な放送内容とサービスの実現が鍵であることは、すでに多くの関係者が指摘しているところである」といっています。そしてもう一つ忘れられない課題として「オンデマンド24時間編成」を取上げています。ラジオを取巻く現状認識が非常に深く、共感するところが多いのですが、一部引用しましょう。
オンデマンド24時間編成「それは、24時間を自由に編集できる道具を手に入れた人間が、もはやこれまでと同じ生活は送れないという点にあると思われる」と前置きして、
従来から行われている1日の流れに沿った24時間編成は、リスナーにとって、いつでもどこでも聴きたい番組が聴ける欲求に応えられない、という現状が静かに進行しているのではないか」と問い、この流れが進むと「従来の編成概念が成り立たなくなるときもあるだろう」と記しています。私も予てから同様の概念を持っていました。それは、ラジオでもテレビでも、個人の生活タイムテーブルに沿ってメディアに接触して行く傾向が増す、すなわち、メディアの番組編成権は個人の側に移って行くという大きな流れとなるのです。そう考えた時、メディア側、ラジオとしてどのように対処して行くべくか、という課題がオンデマンド24時間編成だといいます。
■ オンデマンド24時間編成について
「放送ハンドブック」では「24時間のタイムテーブルのデザインという従来の編成作業とならんでもう一つ、24時間という枠組みを一旦解体し、受け手(聴取ターゲット)の多様な生活デザイン欲求にフレキシブルに対応した多様な音声コンテンツの開発を進めるということになる。つまりはユーザーがいつでも、どこでも、欲しいと思う時に、欲しい音声コンテンツに直ちに簡単にたどり付ける、そんな状態を用意することに他ならない。」といいます。
ここでは具体的な事例に触れていないので、掴みにくいかもしれません。私なりに解釈します。放送は放送で、これまで通り時間編成するとして、別のツールで(恐らくインターネットでのサービスを展開する方法、オンデマンド形式で番組を配信することになります。もう少し膨らませると、生放送(録音放送もふくまれますが)はこれまで通りリスナーへ届ける一方、ネットサイトで「音声番組」のほか番組関連の「静止画、動画、テキスト」など併せて魅力的な番組をサーバーから提供する、リスナーとの交流はナマ番組にも反映する、といった二つのツールによるラジオ展開が、これからはごく普通となって行くでしょう。しかし、ラジオの最も特徴とするパーソナリティとリスナーとのコミュニケーションの熱さ、濃さはラジオ独特のもので、他のメディアには変え難いもの、しかも心と心の交流ができ、感動や共感が得られるメディアこそラジオなのです。この特徴を更に広げた行く戦略は欠かせないものです。
「放送ハンドブック」〜オンデマンド24時間編成〜の項最後にはこう記してあります。「ラジオ局はすでにポッドキャスティングへの参入という形でこの課題に取り組み始めているが、今のところまだ、地上波番組の中から著作権問題等をクリアしたものを投下しているケースが多い。まだ、ビジネスモデルとして十分に確立していない。今後、現状の延長線上での対応ではない24時間オンデマンド編成への抜本的展開が早急に必要になってくるのではないだろうか。」大枠ではこの概念に賛同しますが、今後のラジオのあり方を考える上で、付け加えることがあるように思います。
■ ネット社会の動向とリスナーとの立体的繋がりについて
ラジオとリスナーの関係、1つ目はリスナーとの立体的な交流を維持する新たな政策、そして2つ目は「見えるリスナー」(特定できるリスナー)の構築が重要だと思います。これは私の持論でもあるのですが、ネット社会の本質である「フラットなコミュニケーション」という形で広がって行く以上、これをカバーするアナログ手法が必要です。リスナーと放送局がいかに立体的繋がりを維持し発展させて行くか、人と人とが繋がるその繋がり方に人間的な息吹を持たせるか、ここにラジオというメディアの本質があり、役割なのです。
かつて、ロスアンゼルス市のFM放送局「KZLA」(98.9Mz)を訪問した時です。放送とイベントが相当の力を注がれている現状に痛く感心した覚えがあります。これは取りも直さず、リスナーとの立体的な繋がりを構築している姿です。もう1つは見えるリスナーづくりです。いま、ラジオ広告費がネット広告費へと流れています。その原因はネットメディアは広告対象が見えるからです。特定できるからです。更に特定した対象をマーケット分析できるようになったからです。ラジオは相変わらず不特定多数を対象とした放送で、聴取率調査がメディア価値の基準です。上述したように、ラジオはさまざまな試みは行っているものの、ビジネスモデルづくりにはまだ至ってないのです。この辺のラジオの問題課題に立ち遅れていることが、スポンサーのネット広告への移行を余儀なくされていると思います。(了)
2008-05-21 〔第31話〕デジタル時代のCFMの行方 その1

〔デジタル時代のCFMメディア〕
21世紀に入り8年間、劇的に変化を遂げたものに、ケイタイの普及とインターネットの利用があります。革命的出来事は当然ラジオの世界にも大きな影響をもたらしています。その現象は民放ラジオにおいて接触率低下と広告費減少に現れはじめました。そうしたなかで、デジタル時代のラジオを考えることは、ラジオの将来を考えることに繋がります。前回のテーマに引き続き、CFMの番組編成をデジタル時代の視点から考えてみたいと思います。
■ CFM局が放送をネットラジオで配信開始!
CFMの将来に大きな影響を与えるニュースがありました。CFM局がネットラジオを本格的に開始できる条件が整ったという速報です。それは、予てからCFM数局が連携して著作団体に申し入れを行っていたもので、「配信目的がビジネスではなく、エリア内放送波が届かない地域に対する補完的配信」として適正な使用料を求めていたものです。今回、管理団体であるJASRAC、レコード協会、CPRA(実演著作隣接権センター)では合意に基づき組織内手続きを踏んで文化庁に届出をすることなりました。CFM各局はその後に正式な配信を開始、実質的には6月以降になる予定です。「難聴取地域対策」という前提条件のもとに遵守項目が5つほどあり、その範囲内でネット配信することが可能なったわけです。これはデジタル時代のラジオを考える上で、大きな出来事ですので、もう少し詳しくご紹介しましょう。
4年ほど前から逗子葉山コミュニティ放送(社長木村太郎氏)ほか2局が番組のネット配信について著作権管理団体と交渉していたものです。合意点をあげると、CFM局の放送区域内で聴こえない地域を補完する対策として地上波放送をネットで配信する、そのための適正な使用料を決めるというもの。この前提条件を踏まえて(a)自主制作番組であること、(b)地上波放送と同時配信であること(ストリーム配信)、(c)ストリーム配信から得る収入がないこと、(d)配信における楽曲報告が必要であること、(e)地上波の著作権使用料、著作権二次使用料が支払われていること、などです。これは権利団体共通条件です。このほかに権利団体別に要件があります。例えば、配信番組は地域情報8割とすること、楽曲の事前告知をしないこと、楽曲フルサイズを送信しないことなど、幾つかの諸条件が決められています。権利団体では、CFM局の地上波(放送波)の補完的役割という位置づけなので、使用料も地上波の考え方を踏襲することになっています。料金は年間1局あたり最低金額としてJASRACは年額5万円、レコード協会、CPRAの各団体の最低年額は二次使用料が5万円を下回る場合は5万円、二次使用料24万円を超える局の場合は24万円となります。3権利団体の合計は年間15万円〜53万円の範囲内となるようです。〔詳しくは「サイマルラジオ」(http://www.simulradio.jp/)へ〕
このニュースについて、朝日新聞のネット版(5月17日)では「広告収入の確保に苦しんでいるコミュニティ局が大同団結してネットに進出することで、各局とも放送区域内の電波の届かない『難聴取地域』を解消できるほか、海外も含めた区域外に新たなリスナー(聴取者)を得られるため、新規ビジネスが生まれる可能性もある」と報じています。先行3局(湘南ビーチFM、フラワーラジオ、三角山放送局)は共通サイトを作り「サイマルラジオ」という名前で実験的に配信しています。このサイトに参加して、この秋から9局がネット配信を開始、いずれ100局の参加を目指すそうです。
今回のネットラジオ配信は、難聴取地域の解消が目的とはいっても、その他の地域で(全国どこでも)聴取可能である以上、CFM局の本格的なネット配信となります。料金もかなり低額になるところから、今後導入する局は一挙に増えて行くことでしょう。この影響は広域ラジオに与える影響も大きく、どのような形で現れて行くか、注目されます。
■ CFM番組編成の視点とネットラジオ配信
地域メディアとしてのCFMがネットで番組を同時配信できるということは、地域内の聴取もさることながら、地域外へ発信できる大きなツールを持ったことになります。いい方を変えると、全国放送も可能だということです。これはCFM局にとって大きな手段(ツール)を獲得したことになり、番組編成上も大きく変わってくる可能性があります。極端な例ですが、地域メディアとしての役割を「デイタイム編成」(主にAM6時頃〜PM7時頃)とし、それ以外を「ネット編成」とする方法など考えられます。「ネット編成」とは、日本全国どこでも聴ける番組編成です。前回触れたように、CFM局の番組編成は「デイタイム編成」が主軸です。それ以外の時間は大方番組供給会社の番組供給を受けています。地域性が薄い番組です。その時間を「ネット編成」(全国的編成)とし、各地の情報を織り込みながら、全国のリスナーに向けて特色ある番組を配信する、そして企画番組にスポンサーを付けるといった新たな収入源を確保して行くことがあり得るでしょう。
今回の合意では、地元情報8割とはいっても番組の作り方次第です。総務省から免許を受ける際、放送事項として目的別種類を記載した資料を提出しています。実際に目的別種類や放送時間をチェックしているでしょうか。こうした状況をみると、東京、大阪、名古屋、福岡など大都市の実力あるCFM局は、案外早く実践するかも知れません。CFM局において「地域メディア」と「ネットメディア」が同居するということが起こってくるのです。
■ ラジオ混迷時代とCFM局ネット配信
この現象を、「広域ラジオ」や「大都市ラジオ」ではどのようにみえるのでしょうか。当面は静観することになるでしょうが、苦しい経営状況の時代に入った広域ラジオです、恐らく地上波キー局と系列ネットワークの放送は黒ネットといわれるスポンサー付番組が中心となり、それ以外は、広域ローカル各局に任せるという形が進むかも知れません。そうすると、例えば東北地区のローカル局同士はブロックネットを組むとか、九州ブロックネットを組むとか、ブロック単位で番組ネットワークを組み、補完し合う構図です。そこにインターネット配信も行われるでしょう。10年後道州制が導入され、州単位の緊密さが強調されると、こうした現状は色濃くなるでしょう。これはラジオへの広告市場の広域化、ブロック地域化といった形態が出来上がるかもしれません。一方、CFM局でも同様なことが可能なので、まさにCFM局と広域ラジオ局との区別化がつき難くなってきます。ラジオ戦国時代の到来?かも知れません。そんな将来を考えながら、デジタル時代のラジオ像を思い巡らしています。
さて、CFM局のネット配信は、株式会社である以上経営が順調でない限り、そう簡単に地域と県域のラジオが混同することはあり得ない、と主張する業界の方々、あるいは、CFM局は赤字局が多いといわれる業界、番組の内容の点から考えても、広域ラジオと比べるとはこれいかに、という意見もあるでしょう。しかし、上述したように2007年度のAM、FM局の経営状況は至って危機的状況にあります。赤字経営が急速に広がっているのです。今後は経営上あるいは番組編成上大きな変化が生まれることは間違いありません。
総務省のラジオ・チャンネル・プランの基本は広域ラジオのような県域単位と、CFM局のような市町村単位の認可基準となっています。でもこれからのマーケット原理に沿ってみた場合、それは電波(電解強度)の強弱の区別だけで、ネット配信上は同列となります。この先「ケイタイ」が広域バンド(2〜3年後予定)になり、ケイタイ配信も可能になるでしょうから、この点から見ても、これからのラジオは広域、狭域の差がどんどん縮小して行く可能性があります。ここに、それぞれの寄って立つメディア目的と運営姿勢が重要な鍵を握るのではないでしょうか。
■ 広域ラジオはCFMに見習うか?
07年度の広域ラジオの決算はまだは発表されていませんが、広域AM、FMとも非常に厳しい経営状況が予想されています。ラジオ氷河時代の到来と噂されています。そうしたなかで、CFM局のネット配信可能というニュースは、ある意味で大きなインパクトを与えているに違いありません。広域ラジオ局の事業形態の変化に、拍車がかかることも考えられます。
例えば、広域ラジオ局では、放送システムの設備投資に多額の経費を要します。赤字体質になってきた現状では、コミュニティFM放送局に見習え、という声が次第に高まってきています。同じラジオ放送で設備投資が3分の1、4分の1程度で済んでいるCFM局のシステムを、広域ラジオがどうしてできないか、という自問自答です。
日本の放送技術はNHKおよびメーカーの研究所が開発し、放送局へ導入、そして一般化して行く、という形態を取っています。日本の数少ない放送局に収めるには、少量生産となるため、放送機材のコスト高に繋がっています。
中国上海市のラジオ放送局「上海電子台」を見学した時、機材はほとんどが欧米の機材で、日本製品は1つもありませんでした。彼ら曰く、日本の機材が良質なことは十分っているが何しろ高額で手が出ない・・・。CFM業界では面白いことに、かつて参入していた大手電気メーカーがCFM局専用の放送製品からすべて撤退しています。利益に繋がる製品が作れないのです。その結果輸入品や中小メーカー製品や輸入品が中心です。
ちょっと横道にそれましたが、広域ラジオは技術的にも番組制作面でもCFM的あり方、あるいはアメリカンラジオスタイルなど参考にして大きく変化して行くことでしょう。それだけではなく、デジタル時代、すなわちITによるコミュニケーション・ツール、およびWEB2.0に支えられた「ブログ」「SNS」「ポッドキャスティング」「ユーチューブ」など、ネット上での新たなツールや利用方法など、ネットメディアといえる存在と広域ラジオの関係、あるいはCFMとの関係、そしてマーケットがどのように形づくられて行くかが、これからのメディアと経営を考える上で重要な存在となってきます。
今回はその端緒となるCFM局のネット配信実現可能な時代に入ったニュースをもとに、これからのラジオ、CFMについて考えてみました。ネットラジオは業界の認識がまだまだ薄く、それほど問題になるとは思いませんが、10年後20年後を視野にいれて考えた場合、今回のCFM局のネット配信は、デジタル時代のラジオに大きな影響を与える出来事であったように思えます。(了)
お笑いマスメディア論
いつもお世話になります。
日本の機材ですが、以前は大手電気メーカーがCFM向けにパンフレットを作っていましたが、他の方の情報から最近では無く現存品・県域局向けしか無いとの事でした。
変わって映像業界では撮影機材本体の多くは日本製が使われていますが、それに付属する機材は未だに欧米製が多いのは、皮肉かも知れません。ハリウッドでさえ、その様なちぐはぐ?な状態です。
n4543
放送機材の情報、ありがとうございました。海外での映像機材は日本製が活躍していると聴いています。NABなど視察しても、各メーカーは放送機器出展に力を入れているようですが、ラジオ放送機材となると難しいですね。経済がグローバルになった現在、世界のラジオ局をビジネス対象とした製品が安く供給できないものでしょうか。
2008-05-14 〔第30話〕CFMの番組編成について その4

〔CFM番組編成の現状とこれから〕
CFMの番組編成は、民放AMラジオが参考となることを前回はご紹介しました。では実際にどのような編成が組まれているのでしょうか。スタートして15年を迎えようとしている現在、経験のあるCFM局はかなり地域と密着した番組編成を行っていますが、経験を積んでいるCFM局でも地域生活者の指示を得ていない局もあります。これは経営状況が振るわないところです。開局の浅い放送局はなおさらで、さまざまな苦労を抱えています。その現状を踏まえて、CFM局の番組編成を考えてみたいと思います。
■ CFMの番組編成の現状と課題
・CFMは「デイタイム」の自局の番組制作が多い
一般に、CFMの番組編成は「デイタイム」という日中の時間を自局番組制作に当て、その他の時間をCFM局同士の番組交換や番組配信会社の番組を放送していることが多いようです。これはCFMが地域密着という特色から、日中仕事に従事しているリスナーや家庭の主婦をターゲットにしていることによります。早朝の時間帯はCFM局のスタッフ不足やスポンサーが少ないなど、また夜の時間帯は同様に理由のほかに、地域生活者の大方が広域テレビやラジオを視聴することが多いため、自局で番組制作するよりも配信会社の番組を放送した方が効率がいい、という事情があります。
・「デイタイム」の時間編成が中心
デイタイムという時間はお日様が出ている時間、という意味で、大体は朝5時〜6時ごろから夕方6〜7時ごろです。夜、深夜がそれ以外の時間ということになります。
AM6時〜9時ごろは出勤・通学・朝準備の主婦、ドライバーなど生活者全般に、AM9時〜12時ごろは家庭の主婦、あるいは自営業者の職場など、13時〜16時は自営業、買い物準備の主婦、子供たち、そして16時〜19時ごろは通勤ドライバー、業務のドライバーほか移動中の生活者を中心に幅広い生活者を、といったそれぞれのターゲットを狙って番組編成しているのが実情ではないでしょうか。
・CFMの番組編成に影響を与えるもの
CFMの番組編成を調べてみると、番組編成として上記のようなターゲット設定をしていますが、実際設定通りに番組制作が行われているかというと、これは難しいところがあります。経験豊富なCFM局はターゲットに伝える情報の確保や実力あるパーソナリティの確保ができていて、的確な番組制作が可能ですが、経験の少ない局は情報の確保よりパーソナリティのお話に頼る面が多くあるからです。番組編成の考え方やその手順が的確に行えていない、というよりも、それ以外の理由があるように思えます。
・番組制作費の減少化と放送ボランティア
その1つは経済的理由です。広告収入が少ないため、制作費用を極力抑えていることです。CFM局を運営して行く上で最も大きな課題がこの経済的理由が中心となり、番組編成にも大きな影響を与えています。もう1つは放送ボランティア・スタッフの存在です。ボランティアの存在自体は大変大切なもので、CFM局運営のために、あるいは地域生活者との交流を促す存在としてはなくてはならないスタッフです。しかし、このボランティア・スタッフがCFMの、もしくはラジオという仕事の内容を理解し、従事できているかとなると、難しいものがあります。今後の大きな課題としてボランティア・スタッフの指導と管理があると思います。
CFMの番組編成は、広域ラジオのようにシステム的に放送運営ができればいいのでが、経済的理由が番組編成に大きな影響を与えてしまいます。この辺がCFMの規模が小さいが故に発生してくる問題です。やはりCFM局設立は、最初から経営的基盤をかなり慎重に考え、調査し、経営協力先を確実なものにして取り掛かることが肝要なのはこの理由によりものです。
■ CFMの番組編成は地域によって異なるか
現代人は“夜も昼も眠らない”などというように、生活して行く時間自体が多様化しているのです。都市と市町村では時間の過ごし方が異なっているのは当然かもしれません。従って、CFM局でも地域によって、たとえば東京・大阪・名古屋・福岡といった大都市のCFM局と市町村のCFM局では、自ずから番組編成に違いが出てきます。都会のCFM局の番組編成は中年から熟年層を中心に、若者、若い主婦をも含まれます。東京の「FMしぶや」は若者をターゲットに放送(街自体が若者です)、「FMせたがや」は大学生が創る番組もありますし、「FMえどがわ」では教育委員会協力による「小学生の作文紹介」番組もあります。地方の都市では生活者自体が高齢化していて、中年、熟年が人口の中心を占めています。番組は当然こうしたリスナーを中心として編成となりますし、番組を制作することになります。
しかし、実際はFM放送という都会的なイメージと携わるスタッフの若さによって、放送される番組と聴いてもらうべきリスナーとの間に乖離しているCFM局が生まれています。ここが大きな問題です。放送される番組と聴いてくれるリスナーとが一致しない放送、こうした状況を生み出さないために、番組編成というのが大きな意味を持ってくるのです。
上記のことから判るように、若いスタッフが故に、生まれてくるバイリンガル風なDJやパーソナリティ、自分たち仲間に内輪受けするおしゃべりなどなど、顕著に現れている番組が多くあります。また、「J-WAVE」の番組に高い関心を示しているCFM局が多いことからも分かります。(実際番組を利用している局は全体の25%ほどです。この傾向を「J-WAVE現象」と名づけ、次の項で詳述します。)
CFM局が地域によって番組編成が異なることは、地域の特色が異なれば異なるほど現れるべきものです。その地域特性を反映させた番組編成を作るには、やはり、番組編成の基本を踏まえた番組を創りをしなければ地域メディアとしてのラジオではなくなってしまうのではないでしょうか。
■ CFMの番組編成とJ-WAVE現象について!
さて、CFMが本来の番組編成を踏まえた上で、このJ-WAVE現象が現れているとしたならば、この現象をどのように受け止めればいいのでしょうか。角度を変えて見てみると次のように捉えることができないでしょうか。すなわち、J-WAVE的番組がCFM局の関心を高い引く、あるいはそうした都会的センスで番組編成したいという現象は、本来CFMという地域限定ラジオを地域の環境に沿った放送、言い換えると、生活感覚を彷彿とさせる番組に、ある変化を求めているのではないか、その変化とは、地域メディアという地域生活者へ放送するためのCFM番組に、「高い番組センス」を求めているのではないか、ということです。CFMが地域生活者の求める情報や話題を上手く伝えて行くだけでなく、センス(感性)という表現方法が番組編成の重要な要素になってきているのではないでしょうか。「番組編成のデザイン化」です。
この見方は結構重要性を含んでいるように受け止めています。広域ラジオ、衛星ラジオ、インターネットラジオ、とますます多様化多極化するラジオは、CFM局に限らず、ラジオ事業の目的と相まって「番組編成のデザイン化」が、ラジオの差別化区別化の大きな選択技となるのではかいでしょうか。当ブログをお読みの方々はどのように受け止められるでしょうか。
■ ラジオの転換期に現れている現象
ラジオは社会環境とともに、変化を遂げてきました。民放ラジオ57年の歴史のなかで、大きな変化が幾つかありました。経営的変換を余儀なくされた背景から生まれた新しい編成や時代の豊かさに応じて創りだされたセンシティブな番組あるいは個性豊かなパーソナリティ・・・。民放は商業放送である以上広告収入を前提としているため、この収入の影響で番組編成が大いに変化してきました。その一端を示してみます。
第一期:民放ラジオ(AMラジオ)がスタートした年は1951年です。3年後1954年には全国38局を数え、NHKラジオの向こうを張った民放らしい庶民的な番組、親しみのある番組が登場します。そしてラジオの黄金時代を飾ります。そのころが第一期のラジオの変化です。
第二期:ラジオはTV受信機の普及により放送の主役の座をTVに譲り、ラジオ苦境時代に入る1962年以降で、売上も前年度を下回り、新しい生き方を余儀なくされます。そこで登場したのが番組のセグメンテーション編成とワイド番組、そしてパーソナリティの登場です。ここに現在の「ラジオはパーソナリティ」といわれる原型ができあがります。トランジェスタ・ラジオの普及と相まって、いつでも、どこでも聴けるラジオとなり、聴取形態が大きく変化した時代です。糸居五郎、高崎一郎など歴史に残るパーソナリティの出現です。
第三期:FM放送の登場した1970年です。庶民的なAMラジオと音楽中心のFM放送です。ここに、上述した「感性の高いラジオ」への欲求が生まれます。国民生活の安定や文化志向の強まりに支えられ、FM放送の爆発的普及とリスナーのセンスある番組への憧れが番組「ジェットストリーム」を生み出します。その象徴的活動がFM東京のメディア区別化キャンペーン、「ラジオと言わないでください、FM放送と呼んでください」でした。FM放送という新たなラジオの呼び方がセンスある番組づくりの人気がメディア価値を創り出しました。民放FM放送の基盤となるのです。現在、CFMは使用電波がFM波ですが、電波法上は「コミュニティ放送」と記載されていて「コミュニティFM放送」ではないのです。コミュニティ放送の業界では、FMを付加して呼んでいる所以は、このラジオメディア区別化の運動により生まれたFMラジオ時代の、都会的であり、感性のある放送というイメージによるものです。
第四期:1988年民放FMのなかでも更にセンスアップした「J-WAVE」の開局を迎えます。ラジオはAMもFMもパーソナリティが重要な存在ですが、個性あるパーソナリティのほかにセンスというものが要求される時代へと変化してきます。ラジオ57年の歴史のなかで幾つかの大きな変化がありましたが、J-WAVEというラジオは、ハイセンスという視点から番組編成を創り出したエポックメイキングなステーションといえるでしょう。
第五期:これはCFMの登場です。CFMは15年近い経験を踏まえて、上記のようにラジオの変遷のなかで、地域密着というラジオの特性を更に向上させ、時代に適した聴き易い番組編成、しかもハイセンスをデザインに取り入れながら、新たな「地域メディア」として価値ある存在として発展して行くことになるでしょう。
デジタル時代を迎えたラジオの編成は、上記のような社会・経済の流れと一緒に変化してきましたが、今後のラジオ編成はインンターネットの普及と相まって、ますます複雑化して行く気配です。(了)
2008-05-07 〔第29話〕CFMの番組編成について その3

〔一般の広域ラジオはどのような編成をしているか〕
CFM局(コミュニティ放FM送局)が番組編成を行う上で参考となる先発局の編成方針を前回は紹介し、その方針と番組編成に関する方法論を記しました。では、広域ラジオの番組編成はどんな内容で構成されているか、CFMが参考となるAMラジオをご紹介しましょう。その上でCFM局の番組編成の位置づけを考えてみます。
■ CFMの番組編成は民放AMラジオが参考になる!
CFMは地域に特化しているメディアです。その番組編成は、どちらかといえば民放AMラジオに近い編成ではないか、と思われます。その理由は、CFMの特性から、リスナーというラジオの受け手はサービスエリア内の生活者全員がターゲットだということです。子供から高齢者まですべての生活者がCFMでは対象者なのです。そして、もう一つの特色として、リスナーと放送が非常に近い存在にあるということです。いい方を変えると、番組編成と聞き手が近いということは、これからのラジオで最も必要な「見えるリスナー」を持ち、可視化できる「リスナーとの交流」が可能だからです。民放FMラジオのように、若い人だけを対象にした放送とか、日経ラジオのように各種業界をターゲットにする放送、衛星ラジオのように音楽ファンをターゲットにする放送、そして最近のネットラジオのように、多種多様な番組を放送するなど、ラジオの世界も多極化し多様化しています。これからもこの傾向は拡大して行くことでしょう。
これからは各ラジオ・メディアがその存在を明確にして放送しないと受け入れられなくなる時代です。そうした環境を踏まえて、メディア特性を持つCFM局は、AMラジオが開拓してきた道を参考にして、新しいデジタル・ツールを併用して独自の番組編成を構築することが、これから地域メディアとして重要なファクターであり、CFMが取り組まねばならない課題ではないでしょうか。そうした願いも含めて、AMラジオの番組編成をご案内いたしましょう。
■ 民放連発行の「放送ハンドブック」(1997年刊)からピックアップ
「放送ハンドブック」は、民放連に加盟する局のスタッフほか大学教授、広告代理店などが協力して作成したもので、テレビ、ラジオの現状が把握できる書籍です。この資料のラジオ編の「番組編成」には次の要点が掲げられています。引用しながら、説明して行きましょう。特にCFMは総合編成に近い要素を持っていますので、AMラジオの編成が大いに参考となるので、ここではより詳しくAMラジオ編成を紹介します。
- 聴 取 率 これはレーティングともいい、ラジオ(番組)がどれだけ聴かれているの指標です。特にレーティング競争はTV視聴率に順じて注目され、放送営業にとって欠くべからざるものになっています。
- 収 益 民放は株式会社、収益の向上は編成作業にも重要なファクターです。レーティングの高い番組(時間帯)こそ、スポンサードするゾーンで、収益に貢献する番組となります。
- ステーションイメージ 一般の企業のCI導入と同様、放送局も重要な存在です。キー局はレーティングと収益、そしてこのSIの取り組みにポイントを置いています。もう少し付け加えるならば、ラジオでは音、音楽、パーソナリティ、情報話題といった要素を都会的センスで表現することが大切で、サウンド・センスをどのように創り出して行くかは重要な課題です。(この点は後述で詳しく触れます。)
■ AMラジオ番組のターゲット編成はどのような形態か?
民放のAM局、FM局は上記の3つの要素を踏まえて、各局とも番組編成を行っていますが、AM局の編成手法には大きな特色として「オーディエンス・セグメンテーション」があります。リスナー(生活者)を時間帯ごとにメインリスナーを特定し、そのターゲットに合致した番組を編成して行くもの。現在も大方のAMラジオが実施している時間帯別ターゲット設定を次に記しましょう。大まかですが、以下参考例としてあげておきます。
- 早朝5時〜7時 農家、卸売市場関係者、トラック運転手、新聞は配達&牛乳配達、早起きの主婦や病床の人、シルバー世代など。
- 午前7時〜9時 出勤前のビジネスマン、OL、登校前の学生など。
- 午前9時〜12時 個人商店、町工場従業者、家族を送り出した主婦
- 正午〜午後1時 リスナー全般に設定するが、テレビにスイッチするリスナーが多く、録音番組や音楽中心番組など局によってさまざまだ。
- 午後1時〜5時 午前中と同じターゲットで、パーソナリティ生ワイド番組が多くなる。ゆったりした番組の流れの中でバラエティに富んだ番組企画を組むところが多い。
- 夕方5時〜6時 商工自営や主婦に加えてドライバーズタイムとしてマイカー通勤者を意識した編成をする。
- 午後6時〜9時30分 4月〜9月はナイター中継が中心編成。10月〜3月はナイターオッフとして音楽番組を中心に編成するところ多い。
- 午後8時39分〜午前1時 中学生、高校生を中心としたヤングターゲットへ。音楽番組やヤングパーソナリティの活躍する時間。
- 午前1時〜3時 若者向け深夜番組の時間帯。若者に人気のあるスーパースターの登場番組。全国ネットの番組が組まれる。
- 午前3時〜5時 トラックドライバー向け生ワイド番組が多く編成され、全国ネット番組として放送される。
- 土曜・日曜編成 土曜日はメインターゲットの商工自営を核としてさまざまな番組が編成される。ただし週末にてゆっくりした番組の流れで編成。また日曜日は家庭や行楽でくつろぐ幅広い層がターゲット。番組も音楽番組や出演者もさまざまな有名知名人が登場した番組を多く編成される。
以上がAMラジオの番組編成の趨勢といっていいでしょう。全国のAMラジオ局はこうした編成要素をもとに、番組ネットワークを含めて独自の番組編成を創り上げています。また、「放送ハンドブック」(2007年刊)版によると、詳細は書かれておりませんが、番組編成は「グランドデザインの司令塔」としてその業務の重要さを指摘すると共に、「編成部長は3年もたない」ということばもあるように、ハードな業務が待ち構えている、まさしく365日シームレスに動き回っているのが編成の仕事だ、と記載しています。なお、この放送「ハンドブック」2007年刊には「デジタル時代のラジオ編成」というタイトルで今後のラジオに大変参考となる記述が掲載されていますので、項を改めてご紹介します。ここに掲載されている番組編成の業務の流れを参考として引用しておきます。
〔編成のグランドデザインの提示〕→〔制作部からの具体的企画提案〕→〔編成・制作部門で調整〕→〔営業推進への企画提案〕→〔売りと作りの両ヘッドクォーターによる調整〕→〔セールス物件化〕→〔広告会社・広告主への説明と提案〕→〔スポンサーニーズとの調整〕→〔企画の具体化〕→〔対外発表〕・・・何と10項目の過程を経て放送に漕ぎ着けます。
CFM局の場合は、放送規模が大きくありませんので、番組企画と実施がかなり手短に運用されています。番組編成というグランドデザインを描くこと、そして具体的企画をつくり営業へ渡す、あるいは自らセールスして番組を放送する、という過程は同じです。いづれにしても、広域ラジオが実施する番組編成とCFMの番組編成には違うところがありますが、放送全体のグランドデザインを描くのは「番組編成」であることには違いありません。また、一度番組編成を実施してしまったら、CFM局の場合何年も変更しないことが多くあります。やはり、1年に一度あるいは2年に一度は基本に返って番組編成を考え直すことが求められるのではないでしょうか。(了)
2008-05-01 〔第28話〕CFMの番組編成について その2

〔民放ラジオの番組編成の現状について〕
CFM(コミュニティFM放送)の番組編成ついて、前回からレポートをしています。エフエム茶笛(入間市)やFMピッカラ(柏崎市)などの例をご紹介しました。今回はその続きをご紹介しながら、編成方針に基づいた「番組編成」がどんな形で構築されて行くのか、その基本的な方法を見てみましょう。これからコミュニティ放送局の開設を目指している方々にも参考となるように配慮しました。
■ CFM局の「編成方針」と具体的事例の紹介、続きます
番組編成は放送局免許を取得する時、総務省総合通信局へ提出した「放送番組の編集の基準」と「番組の編集に関する計画」に基づいて番組編成が行われることは前回お話しました。もう少し付け加えるとするならば、一般の企業には必ず存在すると言っていい「経営理念」「経営目標」、古くは「社是」「社訓」といったもの、これが編成方針や番組編成を組む時にバックボーンとして必要です。これらは事業を興し経営して行くために、事業の方向性と経営者の思想を反映するものです。もちろんそうした姿勢がない、必要としない企業や組織もあります。
人間も同様で、生きて行くために自分はどんな目標を持ち、何をして行くのか、時代の流れに身を任す生き方もあるでしょう、生き方の明確な方が生き甲斐を見つける近道であるもあります。事業を興すのも、何を目的に会社を創るか、はっきりさせた方が社員も社外の関係者もその企業のあり様を受け止めてくれます。小さいCFM局といってもそれは変わりません。こうした会社の姿勢も含めて、この番組編成の方向性をつけるのが「編成方針」そして「番組編成」です。CFM局はどんな編成方針を採用しているか、前回に続けてご紹介しましょう。
■ エフエムせたがや〔東京世田谷区 株式会社エフエム世田谷〕
企業理念
エフエム世田谷はすべてをオープンにしてON AIR〜区民の発表、交流の創造、区民活動との連携など、地域の人たちが楽しく参加できる開かれた場を提供し、本物の活気のあるナマの情報を伝えて行きます。エフエム世田谷は人とひと、街とまち、時と時間を情報連鎖する共有ステーションです。
編成方針
・おでかけラジオ/おまねきラジオ=FMせたがやはツーウェイ・ラジオです。
・生活ラジオ=エフエムせたがやは生活リズム生活イズムなラジオです。
・コンビニラジオ=エフエムせたがやは24時間ねむらないコンビニラジオです。
___(以上の内容はHPからの要約引用です。)
開局して今年10年目。東京らしい都会的なステーション・イメージをこの編成方針から作り出されていて、番組内容も地域情報、区役所からの情報などはもちろんのこと、世田谷に住む多くのパーソナリティ、ミュージシャン、タレントなどが協力して、内容の高い番組を放送し、広域ラジオと並ぶ番組内容の高さを誇っています。
■ レディオ湘南 〔神奈川県藤沢市 藤沢エフエム放送株式会社〕
経営目標 (企業理念といってもいいでしょう)
湘南が大好きな人たちと私たち“レディオ湘南”の気持ちは一緒です。電波を通じ、湘南の人・文化・自然の素晴らしさを再確認し、さらに多くの人たちにその感動を伝えて行く。そして、湘南を愛する人たちとともに新しいムーブメントを創り出す。
私たちは「LOVE湘南」をテーマに“レディオ湘南”を単なるひとつのラジオ局ではなく、みんなが感動を共有できる湘南藤沢の財産に育てていきたいと考えます。
編成方針
最新情報をはじめ、湘南サウンド、湘南観光情報、湘南地区の交通情報、サーフ情報等、“レディオ湘南”はあらゆる情報と音楽を朝から晩まで多彩なプログラムをお届けします。また、レディオ湘南は地震発生時に藤沢市から送られる正確な情を発信します。(以上の内容はHPからの要約引用です。)
レディオ湘南は東京から50キロの所にあり、南は江ノ島海岸に面した神奈川県のほぼ中央にあります。「狂った果実」石原慎太郎作の小説と裕次郎の映画で有名となり、太陽族という流行語ができた湘南地区、また桑田桂祐の多くのヒット曲でも名を広めました。粋でオシャレな印象がある地域です。レディオ湘南はそれを十分意識した〔経営目標〕と〔編成方針〕を創っています。ひと言付け加えるとするならば、全体的に湘南イメージに頼り過ぎるきらいがあります。湘南は鎌倉市七ヶ浜から茅ヶ崎市柳島海岸までの相模湾に面した砂浜地帯を湘南海岸といい、藤沢市近隣地区を多く含みます。従って湘南海岸と藤沢市にもう一つ踏み込んだ具体性がほしいところです。
■ エフエム多摩(G-WIND) 〔東京都多摩市 エフエム多摩放送株式会社〕
経営姿勢 〔街とあなたとを結ぶラジオ局=G=WIND〕
役に立つラジオ、元気になるラジオ、癒されるラジオ、をコンセプトにして、親近感のあるコミュニケーションメディアとして、暮らしに便利な情報からあなたの身近な話題まで、毎日の生活を快適に過ごす情報をたっぷりお届けします。
編成方針
自然に囲まれた多摩は野鳥たちの楽園でもあります。山中の渓流に住む野鳥「ヤマセミ」は多摩川にも住み着いています。G-WINDはこのユーモラスな「ヤマセミ」(Greater Pied Kingfisher)をメインキャラクターとして、また緑(Green)も併せて、その頭文字「G」を局の冠とし、爽やかな風「WIND」と結んで愛称とします。方針としては毎日に必要な情報や快適な生活を過ごすのに便利な情報を提供します。また、万が一の災害時には災害情報をいち早く伝える、多摩の人のためのラジオです。(以上の内容はHPからの要約引用です。)
G=WINDの経営姿勢、編成方針は生活者の直接役立つ情報を提供するラジオであることを強調していますが、多摩地区の生活者の特色をもう少し踏まえたものがほしい感じです。G-WINDの愛称の決め方などはいかにも多摩川の自然をテーマにした創り方で関心しました。
以上、CFM局の経営姿勢と編成方針の実例をピックアップしてご紹介しました。これからCFM局を開設される方には大いに参考となるでしょう。なお、上記の各CFM局の経営理念、経営目標、あるいは編成方針という中見出しは、参考にしたHPには記載されていません。内容を整理し、読みやすくするために記したことを付け加えてしておきます。さて、この編成方針の基づいた番組編成の構築はどのように組み立てられて行くのか、その要諦を次に触れて行きましょう。
■ 番組編成は編成の骨格を確かめてから取り組もう
CFM局の編成方針とは、その土地と生活者の特色を活かし、その上何をラジオで提示して行くのかを明確にすること、その具体的内容が各局の事例でお分かりいただいたと思います。それでは、ラジオの番組編成がどのような要素で創られるかをご紹介いたしましょう。
番組編成とは、編成方針に基づいて具体的な番組の企画、内容、種類を放送時間の流れに沿って構成するものです。その構成要素は、ターゲット(誰に聴かせるか)、番組企画(どんな内容の番組を取上げるか)、パーソナリティ(誰に出演してもらうか)が中心となります。この3点を踏まえた分かりやすい方法を、ニュース報道の5W1Hではありませんが、誰に向かって、何を、だれが、どのように、放送するか、という視点から説明します。
〔1〕誰に向かって
いわゆるターゲットです。放送エリア(放送の聴取可能な地域)のリスナー層をどのようにセグメントし、時間帯別に位置づけるか、これは地域事情、地域環境などを前もって詳しく調べ、検討する必要があります。また、人口構成ばかりでなく、最も放送を聴いてくれる最大公約数のリスナー層はだれかなど、聴取環境と話題性、参加性などを考慮して、メインターゲットを誰にするか、一般のターゲットはどのような時間と内容に配置するか、などなど戦略的な設定を行います。
〔2〕何 を
これは番組企画です。CFM局の場合、担当するパーソナリティやディレクターに任せてしまうケースが多いようですが、番組編成時の企画提出は、編成案に基づいた大まかな企画骨子があればいいのです。しかし最終的な番組制作にあたっては番組編成に従って詳細な番組企画を作成し、吟味し、内容を充実させて放送に臨みます。
〔3〕誰 が
ラジオで最も大切なのは「魅力あるパーソナリティ」です。CFM局では無名のパーソナリティが多いわけですが、人選は人を引き付ける魅力あるパーソナリティの起用が大切です。特に言葉が綺麗で上手い人より、話し方がそう上手くなくても、訥弁型でも、話す内容がこころに届く人、思いやりのある人が大切です。この点に関しては、当ブログ〔第18話:CFMパーソナリティの特色〕4回シリーズを参照してください。
〔4〕どのように
これは企画と演出でしょう。世の中には面白い企画、ユニークな企画があるものです。
リスナーを引き付けるのはパーソナリティの話し方ばかりではありません。人を引き付ける企画があり、気を逸らさないパーソナリティが進行役を勤めてこそ、魅力ある番組企画といえるのです。そしてもう一つは演出です。CFM局の場合はワンマンパーソナリティの番組が多いので、パーソナリティがディレクターの役割も果さねばなりません。その意味ではパーソナリティもディレクターが受け持つ演出というディレクション能力を身に付ける必要があります。この点、どこの局も番組企画をどのように構成して、魅力ある番組にするか、という「構成」と「演出」について案外手薄になっています。むしろ手が回らない、という方が近いかも知れません。でも大事です。
〔5〕放送するか
電波はスタジオから送信所へそしてアンテナからリスナーへ届くわけですから、どう放送するかなどと敢えて取り上げなくても・・・という人がいるかも知れません。これは放送の種類、たとえば、普通自局のスタジオからということになりますが、サテライトからの中継、コンサート会場からに中継、あるいは市議会中継など放送形態もさまざまです。企画内容と放送形態が一致してさらに企画が魅力的になります。もちろんゲスト出演、取材素材、電話出演など番組内容と連携して放送に臨むこととなります。
このほかに大切なのが、CFM局のイメージをサポートするステーション・ロゴ、番組サウンド・ステッカーなどです。放送局や放送番組を印象付けるこの「音の装飾品」にも配慮が必要です。この音の装飾品はファッションと同じで、その局の企業理念や目標を裏付けるようなセンスを作り出さねばなりません。ステーション・イメージを形作る大きな要素ですから。
以上、大まかに5つの番組編成要素を挙げましたが、番組編成とは、放送局がリスナーに伝える具体的な姿勢です。この5つに分類する編成方法は、公式的に云われているものではありません。これまでCFMに携わってきた私の経験から、番組編成を分かりやすく整理したものです。CFM局をこれから設立される方、すでに多くの経験をされた方々も、もう一度基本に返って番組編成を再構築することをお勧めします。時の流れが速い時代にあって、リスナー・ニーズの変化も烈しいものがあります。求められる番組を早めに突き止め、対応して行くことこそ、身近なCFMラジオなのです。既存局の方々も再構築することによりCFMという地域メディアの新たな発見があるかも知れません。この項は次回に続きます。(了)
2008-04-23 〔第27話〕CFMの番組編成について その1
〔ラジオの編成方針と番組編成はどのようにして創られるのか〕
今年も4月の中旬が過ぎ、新聞や各社のホームページには、4月改編の番組が紹介されています。4月改編はどこの放送局も力を入れて、編成替えを行っていますので、各社の新しい番組に注目している方々も多いことでしょう。では、この番組編成はどのように創られて行くのか、今回から新たなシリーズとしてレポートして行きます。特に、CFM局にとっての「番組編成」を中心に扱って行きたいと思います。
■ 番組編成を考える前に「ラジオとは!」
ラジオとは、と改めて聞かれると戸惑ってしまいますが、ラジオ、テレビといった放送業務は、一般の企業の業務とはことなった世界を持っていることです。このことを理解してから放送局づくりや継続的な番組編成を取り組んで行きませんと、現実の動きと目指す方向が異なってしまい、強いては途中で挫折するとも限りません。挫折せずとも経営安定化に時間を要します。ラジオとは、ラジオメディアとは、といった方がいいでしょうか。要はメディアの特性を明確に掴んでおき、その特性を実践に移す方法を取らないとラジオを創ることができません。この点、経営者はCFM局の主役になるとすっかり忘れてしまい、自分の経験のみで判断するきらいがあるます。これは要注意です。
では、ラジオメディアとはどういうメディアか。ラジオはTV同様電波に乗せて番組を送る仕組み、言い換えると電波はコンテナです、番組はコンテナの中のコンテンツです。
そしてそれらを見ることはできませんし、触ることもできません。しかも放送した途端に消えてしまします。“消えてしまう”ここが重要です。新聞雑誌のように残らない。特にラジオは“音”のみです。消えたら戻らない。それだけに消えるということは、聞き手の記憶に残るだけということです。“ながら聴取”という聴き流しだと余計記憶に残りません。ここなのです重要なのは・・・。
電波という空気のようなものを創り販売する、これがラジオの仕事の本質です。ですから空気は“美味しい空気”でなくてはいけませんし、美味しい空気だからこそ販売できるのです。“消えてしまう番組”を“どのように記憶に残るプログラムにするか、そしてスポンサーに販売するか、これがラジオメディアです。もっと判り易い言い方をするならば、何にもないスタジオから素敵な番組をつくり、営業販売してスポンサー提供を受ける、“無から有を創る”それが放送というラジオという仕事です。
どうしてこんなことをにくどくど話すかというと、大方のCFM局がこの本質を踏まえて放送局づくりをしているか、というとかなり疑問の点があるからです。この本質を把握した上で「編成方針」「番組編成」の構築に取り組むまないと、絵に描いた餅になりかねないからです。この無から有を生み出す発想は放送営業にも言えることです。この点については改めて「放送営業」を取上げますので、そちらをご参考ください。
■ 番組編成とはどんな番組を放送するか、だけ考えていませんか!
CFM局(コミュニティFM放送局)を訪ねて、お宅の「編成方針」何でしょうか。また番組編成の特色はどこにありますか、という質問をすると、ほとんどが「地域密着がCFM局の目的ですので、時間帯別に合った地域情報と文化的娯楽的内容を放送しています」と答えられます。これから創られるCFM局のスタッフは「我々の番組編成は都会的なセンス、例えばクラシック的な雰囲気あるいはジャズ的な雰囲気で番組を作ろうと思っています」。それはそれで色々なCFM局を見学し、情報交換をされて、多くのことを学ばれてから、考えれたのでしょうから、それはそれで結構なことと思います。大切なことは、番組編成という基本的な構成要素を踏まえた上でどのようにデザインして行くか、そしてそのデザインをどのように守って行くか、この点に尽きると思います。上述したように、“消えてしまう番組”を放送しているのですから、いかに編成方針や番組編成が毎日放送される番組からリスナーに伝わって行くか、ここがポイントです。では番組編成とは、ということから初めて行きましょう。
■ 番組編成を創る基本的要素は何か
番組編成とはこうして創るもの、という決まった方程式はありません。NHKも民放も永年の経験体験の積み重ねで作られてきています。その意味ではCFM局はまだ14〜5年の歩みですから、試行錯誤の途中かも知れませんが、これは先輩格に当たる民放ラジオの方法に私なりのCFM体験で得た要素を付け加えて提示してみたいと思います。
番組編成の基本は、これから放送局を創ろうとしている人々も、すでに多くの経験を積んでおられる局も同じですが、まず、免許取得時の総務省総合通信局に出された〔番組編集基準〕〔番組編集に関する計画〕が基礎となります。この2つは前回シリーズ「CFM経営者とスタッフのモラルについて」の項で詳しく触れました。放送局が誰からも妨げられずに放送運営を続けて行くための基準であり、もう1つはCFM局が地域社会に貢献するための放送計画です。ですから、番組編成は、この放送計画を実現して行くために、その地域に合致した、より具体的な形で方向性を明らかにするものであり、番組編成方針に基づいて創られて行きます。ではその編成方針とはどんなものでしょうか。
■ 番組編成方針とはどのようにして生まれるのでしょうか
編成方針と番組編成が放送局にとって最も大切な理由は、その放送局の姿勢と製品である番組がどんな形をしているか、あるいはこの放送局はどっちに向いてどんな番組を創ろうとしているか、をリスナーである生活者が明確に受け止めて、放送番組を聴いてもらい、関連事業に接触していただく、そしてその姿勢と内容にリスナーから信頼を得る、そのための編成方針であり、番組編成であり、具体的な番組内容であるのです。
CFM局における編成方針は、基礎となる〔番組編集に関する計画〕をベースに、放送するエリアの地域特性を加え、その地域での放送局のあり方、を具体的に記すものです。(この点免許申請書に記載されている実際の〔番組編集に関する計画〕はコンサルティングの作ったどこの局でも使用可能な内容となっていて、どの地域の独自性はない。免許を認可する地方の総合通信局もこの点を重視すべきと思います。)地域の特性といいましたが、隣の街や地域とそんな隔たりはない、という地域もあるでしょう。特性がはっきりしない場合はこれからこんな特徴のある街づくりをしたいか、という希望を方針に据えてもいいでしょう。CFM局の経営者スタッフが、その地域に貢献したい意思を「編成方針」に明確にすることです。
民放FM放送の放送開始から文化的視点を強調して、現在の「FM放送イメージ」を築き上げたエフエム東京の後藤亘会長は「番組編成10年白紙論」を掲げてこられました。どういう意味かというと、10年ひと昔といわれるように、時代は10年刻みで大きく変化して行く、その変化に応じて番組編成も変更し、また時代をリードする姿勢で臨むことが肝要だ、ということです。これはCFMにも通ずることで、たとえば、CFMが誕生した1994年ごろは、まだまだインターネットが普及していない時代でした。
現在はほとんどのCFM局がホームページを持ち、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を展開する局も現れています。この10年の社会変化は驚くばかりです。CFMの編成方針もこの時代の変化の対応したあり方が問われる時代になっています。
■ CFM局の「編成方針」と具体的事例をご紹介
CFM局の姿勢や方針は、経営方針、編成方針、あるいは企業目標、企業理念などが一体となっている場合が多い。しかし、編成方針を明確に設定しないで番組編成を行っている局も多いことを思うと、やはり姿勢をはっきりさせて臨まれている局の方が、全般的に経営、番組づくりが上手く行っているように思えます。
■エスエム茶笛 〔埼玉県入間市:株式会社エフエム入間放送〕

経営理念
地域資本により、地域コミュニティの醸成に寄与し、美しい町づくりを推進すると共に、地域経済の活性化を図り、災害時緊急時の情報伝達手段として地域社会に貢献する番組制作及び営業を行う。
編成方針 〜ポケットの中の情報源、エフエム茶笛(CHAPPY)〜
・C=Cahllenge(挑戦) ・H(Heart)(こころ) ・A=Always(いつも)
・Promise(約束) ・P=Play(遊 する 弾く) ・Y=You(あなた)
私たちは、地域の心を集めて、いまコミュニティ放送に挑戦します。チャッピーをプレイすることが必ずや楽しいまちづくりのお役に立つことを約束します。チャッピーはいつもあなたと一緒です。
何と素晴らしいコンセプトでしょうか。CFMが地域密着といっても、自分たちの放送局としてどうあるべきかを、経営者とスタッフが時間と論議を重ねて創り出した、その温もりが感じられる編成コンセプションです。この方針を番組編成に活かし、具体的な番組を作っております。これについては別途ご紹介したいと思います。
■FMピッカラ〔新潟県柏崎市:株式会社柏崎コミュニティ放送〕

経営目標
FMピッカラは「FM放送は若者向け音楽放送という発想を捨て、小さなお子さんから御年配方まで幅広い年代層の皆様に楽しんでいただけるような“おらが街の放送局”」を目指します。
編成方針
FMピッカラは、可能な限り柏崎周辺の情報を中心とした番組編成を採用し放送します。そして柏崎市民に愛され、かつ、お役に立てる地元放送局としてスタッフ一同尽力いたします。
ついこの間、中越沖自身に見舞われ、市民のために身を粉にして尽力された大矢良太郎社長はじめスタッフの皆さんの努力と功績はコミュニティFM放送の鏡であり、日ごろの放送も市民に愛され、大きな影響力を持っています。経営も安定しています。これからのCFMに大きなお手本となることでしょう。この項は次回へ続きます。(了)
2008-04-15 〔第26話〕CFM経営者とスタッフのモラルについて! その4

放送と通信の融合が急速に進行しています。そのなかで、ネットメディア、ネット社会の倫理、モラルが問われています。放送分野に限ってこの課題を論議しても、ネットメディアに触れなければ本質的解決にならないのではないか、という疑問が残ります。どこで,これから多く発生してくるネットの課題を少し触れておきたいと思います。
■ 放送と通信の融合、そして公共性とは!
放送(CFMも含めて)は「放送の自由」を実現するために、自ら「放送基準」をつくり、自律(自らを律すること)を実践し、自立(自ら立つ存在になること)をすることによって誰からも干渉され、規律されることがない存在を手にします。ネットメディアについてはどう考えたらよいのでしょう。この問いは、もしかしたらこれまで記してきた「放送」という枠、「CFM」という枠を超える問題かもしれません。「放送」と「通信」の融合とさまざまな分野で叫ばれ、現在その融合のあり方を、通信分野からも放送分野からも、真剣に論議され、ビジネスモデルづくりがチャレンジされています。またネットメディアは、一般の我々にとって会社であれ自宅であれ、また外出先であれ移動空間であれ、情報収集やコミュニケーション手段として欠かせないツールとなってきています。すでにネット社会が出来上がっているのです。しかし、ネット社会は良い面だけでなく、悪い面として改善しなければならない課題が山積しているのも事実です。その意味では公共性を持つ社会ツールとして機能させて行くにはどうしたらよいか、これから利用者全員が問わねばなりません。ネット社会にはまだ倫理やモラルについて整っていないところが数多くあります。
■ 現在CFM局でHPを持たない局はあるでしょうか!
JCBA(日本コミュニティ放送協会)の全国CFM局紹介ページにはほとんどのホームページが記載されています。(未加盟局を除く。)また、局のスタッフもリスナーもSNSやブログに参加して、日記や番組情報を掲載している局やスタッフは非常に多いのです。放送番組とネット連動、パーソナリティとリスナーとのネット会話という形で、番組とネットのつながりが日増しに連携の度合いを強めています。放送局に携わる人々のネット接触と放送の受け手であるリスナーのネット接触を考えてみると、この倫理、モラルというものも避けては通れない事実です。この問題を考える足がかりとして、ネットの公共性について触れたいと思います。
■ ネットメディアの公共性を考える上での参考意見
手元に「フラット革命」という本があります。講談社から昨年8月に発売されたユニーク書籍で、著者は佐々木俊尚氏です。フリージャーナリストで有名なブロガーでもあります。変化の烈しいIT・ネット分野が専門で、数多くの著書を出版されています。佐々木氏がこの本のなかで触れている考え方が、ネットの公共性、しいてはモラルや倫理を考えて行く上で参考になると思われますので、ご紹介しておきましょう。あるパネルディスカッションに参加したときの発言から「ネットの公共性」について記したものです。
(パネルディスカッションの質疑応答で)「これまでマスメディアが担ってきた『公共性』を今後ネットが実現するのだろうか」という質問があり、佐々木氏はあくまで理想論と前置きして次のように応えています。)「インターネットの世界では『集合知』という言葉があって、人々の知識や意見の集合体がより良きものを生み出すという概念ですね。(後略)だから問題は、そうした仕組み――人々が関心のない問題に対してもきちんと接することができて、それに対して何らかの知見を得られるようにできるようなアーキテクチャーを、インターネット上にどれだけ実現できるかにかかっているんです。マスコミによってではなく、集合知によってそうしたことが起きてくる可能性があるということ、ここまでしゃべってから、私はこう結論を言った。だから要するに、公共性というのはわれわれ全員が分散して担うんです。いままではマスコミという中央集権的な媒体が公共性を担っていたけれども、富やパワーがインターネットやフラット化によって世界に分散していったのと同様に公共性もわれわれ人類、人々のあいだにどんどん分散していって、ひとりひとりが担うというようになるのではないでしょうか。私は勢いあまって、そんなふうに理想論をぶったのだった。」(上記書籍より引用)
■ 個人個人が公共性を担う時代はくるか?
佐々木氏の引用文を分かりやすくいうと、インターネットの特色である「集合知」が得られる仕組みが出来上がり、人びとは関心のない問題についてもこの集合知に接触することにより知見や意見が得られる、そうした環境ができ上がれば、ネットの公共性は個人個人が担うような時代がくるのではないか、そんなネット社会が生まれるかも知れない、という考え方、理想論だ、と断っていますが・・・。マスメディアに頼らなくてもネットによる「集合知」により個人の知識と意見が持てるようになり、自分の意見、自分の行動に責任を持って社会に臨む、そうした姿勢によって公共的行動ができるようになるのではなかろうか、というのです。公共性とモラル性は異なるものですが、公共性があるからこそ倫理、モラルをより一層大切にせねばならないのですから、佐々木氏のこの意見に共感するものがあります。
先日、コミュニケーション学や社会心理学を専門とされている先生方とお会いする機会があり、ネット社会の秩序についてお話しを伺いました。先生方が単純明快にこう語ってくれました。「普通の道路でも高速道路でも、道路には交通規則があり、歩行者、ドライバーがその規則を守るからこそ「道路交通」が成り立ち、「交通道徳」が生まれている。ネット社会にはそれがないからじゃないか」と。我々はネットワークという便利な文明の利器の利用にばかり優先させて、大切な交通規則や交通道徳というネット社会生活に必要な規範づくりを遅らせてきたのではないか、そんな気がしてならないのです。
■ ネチケットと公共性について
ネットメディアのモラルを辿って行くと、ネットの公共性やネチズンが守るネチケットへと行きつきます。ネット上に関西学院大学の内田啓太郎講師の書かれた「インターネットの社会学」なる論文を見つけました(2001年発表)。論文には〔ネットワーク公共圏〕というネットによる市民的公共圏の成立について述べ、その中核となるネチズン(ネットとシチズンを合わせた造語=ネット市民)の存在が重要であり、ネチズンすなわち能動的・自律的な「論議する公衆」が活躍する空間でなければならない、と位置づけます。その上で、市民公共圏が持つアンビヴァレンスという面を回避するために、ネチズン(ネット上の公衆)が守るマナーやモラルを提唱する、として「ネチケット」(Netiquette)を上げています。(注障ネ)
- みな人間であるということを忘れない
- 他の人の時間とバンドは幅を尊重する
- 専門の知識を分かち合う
- 罵倒戦争(flame war)を自制しよう
- ひとの過ちには寛容に
著者は記します。「これらのネチケットに共通するのは『公共性』を重視しているということである。特に(2)と(3)のネチケットには、インターネットを公共の場つまり公共圏として捉えていることがうかがえる。ネチケットは『インターネットを皆が気持ちよく、効率的に使えるようにする』ための必要不可欠といえる。」「(4)(5)のネチケットは(途中略)筆者自身、最近インターネットにアクセスして思うことはかってより罵倒が多いことである。大抵は罵倒がさらなる罵倒を呼び、最後には収集がつかなくなる。罵倒戦争(flame war)とは図書館で大声で罵り合っているようなものといえる。ネチケットの重要性が訴えられるようになったことにより、インターネット上の仮想空間が立派に公共圏として機能しうるとはいえないか。つまり、ネチケットはユーザーの増加によるインターネット、ひいてはネットワーク公共圏の愚衆化を防ぎ、インターネットの公共性を維持するために作成されたといえる。」内藤啓太郎講師の当論文は、我々CFMとネットについて関心がある人にはぜひご一読を勧めます。(注障ネ:資料「ネチケット」ひつじ書房刊より引用:内田啓太郎講師の資料次の論文より引用 ( http://www.cgh.ed.jp/netiquette/rfc1855j.html )
■ 放送もネットメディアも「公共」という視点では同じはず!
亡くなられて12年の歳月が過ぎますが、作家の司馬遼太郎氏があるエッセイで書かれていたことを思い出します。著作は忘れましたが、こんな内容だったと記憶しています。〔今の日本は火薬を抱えたまま二階へ上がり、階下の子供たちへ次の時代をよろしくといってその火薬をホイッと投げ下ろす、といった姿だ。〕その時、何と怖い表現かと思いました。司馬さんは日本人の倫理が崩壊することを嘆いておられ、21世紀を本当に心配されていたといいます。
CFMというラジオについて思いを巡らしてきましたが、今回のテーマである放送やネットメディアの倫理やモラルを考えて行く内に、事の大きさに計り知れないもの感じさせられました。民主主義社会に住んでいる我々はこれを守って行く以上、憲法に保障されている「基本的人権」「思想の自由」「表現の自由」など、また放送法にある自主自立の精神を守って行くことは、ネットメディア、ネット社会でも同じではないでしょうか。現代という価値観の変化に伴う新しいルールができない上に、社会全体のモラルもなかなか安定せず、むしろ混乱を招いているようにも見えます。政治や社会、教育など社会を構成している責任ある組織と人々に期待しなければなりませんが、我々一人ひとりが現実を直視し、なすべきことを着実に実行して行くことこそ、大きな変化を生み出して行く基になるのでしょう。「自律」自ら律して行動する、これが我々の最も価値ある生き方といえるのではないでしょうか。(了)
被災時の小千谷市で、被災中の体験を記録し、発信し続け、持続的な活動を続けている方々がいます。
http://blog.goo.ne.jp/alfclub/e/3c45b1d3ef64beac371ced9b24f86f02
CFMはこの方々の情報をいかに整理・仲介して地域に伝えうるのか?大都市圏では、その情報をどう確かめればいいのだろうか?
http://fm840.seesaa.net/
この都心では、住んでいる人・勤めている人・訪れている人にとって、お互いの防災活動・被災対応体制を知る機会は僅かです。コミュニティ放送は、デジタル化によって多様なネットワーク・機器・聞かれ見られ方で、都心の過去・今・明日を多くの人と伴に共有する基盤になりたいものだと考えています。