それぞれの県には歴史や風土の中ではぐくまれ、地域文化の象徴として生き続ける伝統工芸がある。岡山でいえば備前焼、香川なら讃岐漆芸がその代表だろう。
両県の伝統工芸に焦点を当てた「備讃における工芸のあゆみ」展が岡山市の県立博物館で開催中だ。江戸期の備前焼細工物や讃岐漆芸の祖・玉楮(たまかじ)象谷の作品から現代作家に至るまで、風格が漂う優品が並ぶ。
備前焼では独自の茶陶表現を開花させた金重陶陽、新たな伝統を切り開く伊勢崎淳氏ら、讃岐漆芸では色漆と彫刻を華麗に融合させた音丸耕堂、蒟醤(きんま)で奥深い詩情を表現する太田儔(ひとし)氏ら人間国宝の作品がそろい、「技と美」の冴(さ)えがたんのうできる。
さらに注目されるのが、万国博覧会など海外で評価された工芸品の数々だ。精緻(せいち)を極めた正阿弥勝義の彫金技術、磯崎眠亀が開発したイ草を使った高級花ござ「錦莞莚(きんかんえん)」の感性豊かなデザインには目を見張る。
この企画は瀬戸大橋開通二十周年を記念し、同博物館と香川県立ミュージアムが二〇〇六年度から取り組んできた文化交流事業の集大成となるものだ。一連の事業で両館学芸員やボランティアの交流も深まったという。
人的つながりは今後の大きな財産となろう。蓄積を生かし、博物館同士のネットワークがさらに広がる試みを期待したい。