ひき逃げなど飲酒運転による悪質な事件が相次いでいる。ドライバーのモラルはどこに行ったのか、腹立たしい思いでいっぱいになる。
十月下旬に大阪・梅田で起きたひき逃げ事件は、十五日後に二十二歳のホストクラブ従業員が殺人容疑などで捕まった。男は「飲酒して無免許だった。警察に捕まると困るので逃げた」「タイヤで人を踏んだ感触があった」などと供述した。被害者は約三キロ引きずられたことにより死亡している。殺人容疑で調べるのは当然だろう。
今月十六日には大阪府富田林市で、バイクで新聞配達中の十六歳の少年が、軽ワゴン車にひき逃げされ、大工の男が道交法違反容疑などで逮捕された。男は飲酒運転を認め「何かにぶつかったことは分かったが、その後は必死で逃げた」と供述した。少年を約七キロ引きずった。むごいというしかない。
両事件とも、事故発生の直後に被害者を病院へ運んでいたら命を落とすことはなかったとみられる。稼ぎ手の父親を失ったり、将来ある息子を亡くした家族の悲しみは察するに余りある。加害者の身勝手な動機を許すことはできない。
社会全体が飲酒運転へ厳しい目を向けているさなかの十七日には警視庁の警視が酒酔い運転の現行犯で逮捕された。警察署の交通課長など交通畑を歩み、今年三月まで東京都に出向し交通安全対策担当課長を務め飲酒運転撲滅運動の担当者だった。開いた口がふさがらない。
呼気から検出されたアルコールは、酒気帯び運転を適用する基準値の四倍を超え、足元がふらつく状態だった。運転中に接触事故を起こし、そのまま逃げている。厳正な処分が行われねばなるまい。
昨年の道路交通法改正で、飲酒運転に対する罰則が強化され、ひき逃げ事件は減少傾向にある。しかし、飲酒発覚を恐れて逃げるケースが後を絶たないのをみると、厳罰化だけで飲酒運転根絶が難しいことも明らかだ。地域社会や家庭などで監視の目を強め、被害者救助を第一とする安全教育を徹底させたい。死亡ひき逃げの検挙率が九割を超えることも周知する必要があろう。
米国などでは運転者の呼気中のアルコールを検知するとエンジンがかからない車が導入され、日本のメーカーも開発を進めている。実用化を急ぎたい。職場に検知装置を導入し、飲酒運転追放に成果を挙げている会社もある。あらゆる手だてを尽くして、飲酒運転撲滅に取り組むことが求められる。
旧厚生省の元事務次官や家族が自宅で相次いで襲われ、計三人が死傷した。同一人物によるテロ事件の可能性が高まっている。官僚OBが狙われるという異様さに加え、家族までも凶刃にかける蛮行は言語道断だ。強い憤りを覚える。
元厚生事務次官の山口剛彦さんと妻美知子さんの遺体が、さいたま市南区の自宅玄関で発見されたのは十八日午前十時十五分ごろだった。二人は胸を数カ所刺されていた。それから約八時間後の午後六時半ごろ、東京都中野区の元厚生事務次官吉原健二さん宅の玄関前で、妻の靖子さんが男に刺された。胸と背中に刺し傷があったが、命には別条ないという。
山口さん夫妻が凶行に遭ったのは前日の夕食の準備中だったとみられる。どちらも同じような時間帯に、宅配便を装った男による犯行という線が浮かんでくる。
吉原さんと山口さんは旧厚生省で年金制度改革に取り組んだ共通の経歴がある。吉原さんは一九五五年、山口さんは六五年に入省した。現在の基礎年金制度を創設する八五年の年金法改正当時、吉原さんが年金局長、山口さんが年金課長だった。吉原さんは八八年から九〇年まで、山口さんは九六年から九九年まで、それぞれ官僚トップの事務次官を務めた。二つの事件にはなんらかの関連があると思わざるを得ない。
このところ厚生行政をめぐり、年金問題や医療制度など国民から強い批判を浴びていることも間違いない。事件にどんな背景があるのか、まだわからないが、警察庁は厚生事務次官経験者や元社会保険庁長官、厚生労働省幹部らを対象に警備強化に乗り出した。テロはもちろん、どんなことがあっても暴力行為は絶対に許されない。
(2008年11月20日掲載)