中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 石川 > シリーズ現場 > 記事

ここから本文

【シリーズ現場】

トンボの楽園 生態系守れ 天敵アメリカザリガニ釣り 新人記者が挑戦

2007年8月11日

釣り上げたザリガニを手に、満足げな谷岡記者=いずれも金沢市の夕日寺健民自然園で

写真

金沢の夕日寺健民自然園 

釣果は3匹 かわいい目…複雑な思いも

 今月、着任した新人記者の私に、初の“大仕事”が回ってきた。金沢市の夕日寺健民自然園にあるトンボサンクチュアリでトンボを守るため、大量発生しているアメリカザリガニを釣れという。環境保護に協力しながら楽しむ。楽勝だと現地へ向かったら、炎天下で二時間もあぶら汗を流すことになった。

  (報道部・谷岡聖史)

池に姿を見せたシオカラトンボ

写真

 うっそうとした森の斜面に、縦に並んだ七つの池。それがトンボを繁殖させるため、棚田跡を利用してつくられたビオトープだった。一番大きな池は、バレーボールのコート一面ぐらいの広さ。全部の池を合わせると約五千平方メートル。うち五つの池でザリガニが増え、幼虫のヤゴを食い荒らしているという。

 現地に着き、ザリガニを求めて周囲を歩いた。十分ほど探し、ようやく濁った水の中に一匹を見つけた。手作りのさおで糸を垂らすと、すぐに餌のスルメに食いついた。大漁の予感だ。

 ハサミを振り上げ、威嚇してくるザリガニ。怖い。獲物を素手でつかむことができない。おたおたしていると、池の中へと姿を消してしまった。釣り上げては逃がしを繰り返して一時間。真夏の太陽が容赦なく照りつけ、汗が噴き出る。麦わら帽子を持ってきたのは正解のようだ。

 このままではらちがあかない。ザリガニが餌にかかると池から少し引き上げ、すかさずタモですくい上げることにした。ちょっとひきょうな気もするが、収穫なしとはいかない。たちまち小型の二匹を捕獲した。さらに格闘し、豪快な一本釣りで引き上げることにも成功した。

 バケツの中で動き回る三匹。よく見ると目はかわいい。そう思うと手に取れるようになった。

 わずか三匹の釣果。それでも「たいしたもんだ。最近は数が減っているから」と、村上貢園長からおほめの言葉をもらった。ただ、うまい人は二十−三十匹も釣るといい、名人への道は遠い。

 ザリガニを池の入り口にある大型のバケツに移して任務完了。園を訪れた子どもたちが持って帰るという。トンボの保護には池からの駆除が必要。とはいえ、“友情”が芽生え始めたザリガニのことを考えると、複雑な思いが残った。

トンボサンクチュアリに天敵のザリガニが繁殖し、ザリガニ釣りでの退治を呼びかけるポスター

写真

ブラックバス駆除で02年激増

昨年も謎の大発生

 「以前はヨシに群がるザリガニで、池が真っ赤に見えました」。村上園長は振り返る。トンボサンクチュアリのザリガニは二〇〇二年に大量発生した。きっかけはブラックバスを駆除したことだった。

 池があるサンクチュアリは、一九九四年に完成し、これまでに五十種以上のトンボが確認された。

 ところがザリガニの大量発生の二年前、トンボは種類、数とも激減した。誰かが池に放したブラックバスが、幼虫のヤゴを食べてしまったためだった。

 園は〇一年十一月、池の水を抜き、ブラックバスを駆除した。天敵がいなくなると、増えたのはトンボではなくザリガニだった。

 雑食性のザリガニはヤゴだけでなく、水草も食べ、池の水質が悪化した。あまりの数に水中の酸素が不足して水面やヨシに集まり、池を赤く染めた。トンボのすみやすい環境は、さらに損なわれた。園は池にカゴを仕掛け、駆除に乗り出した。それだけでは追いつかないと、市民にもザリガニ釣りで協力を呼び掛け始めた。

 ピークの〇三年には七千九百二十匹を捕獲。その後は二千匹強でやや落ち着いた。ただ、村上園長は「油断すればまた増える恐れがある」と心配する。実際、〇六年には七千三百四十一匹と、原因不明の大量発生があったからだ。

 今、観察できるトンボは、コシアキトンボやシオカラトンボなど比較的ありふれた十種ほど。「あまり回復していない」と村上園長。金沢市のある昆虫愛好家は「水草が減り、池は汚物や泥がたまったひどい状態。トンボを戻すには大がかりな対策が必要だ」と嘆く。

 一度バランスを失った生態系。元に戻すのは、そう簡単ではないように思えた。

 

この記事を印刷する

広告
中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ