余録

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余録:首相の弁舌

 「OK」の語源には諸説あるが、一つに米第7代大統領アンドリュー・ジャクソンが使い始めたとの伝説がある。庶民出身のジャクソンは読み書きが苦手で、了承を示す「オール・コレクト」をスペル違いのOKと略したという▲実際に彼は自分の署名にすら苦労したそうだ。しかし、それゆえにジャクソンは「普通の人」が大統領になれる米国民主主義を代表する存在として、歴史に名を残した。いや歴史ばかりでなく、現代の20ドル札にも肖像を残すことになった▲だから麻生太郎首相がよく漢字を読み違えるからといって、しつこくあげつらう風潮もどうかと思う。「なんじらのうち罪無き者まず石をなげうて」である。読み違えた言葉であっても、望ましい結果をもたらせば政治家としてはOKだ▲だが、である。医師を指し「社会的常識がかなり欠落している人が多い」という発言は、当面する医療問題解決にどう資するのか。地方病院の医師確保に悩む知事会で出席者のウケを狙ったようだが、案の定、激務の医療現場の無用の反発を呼んだだけで発言撤回に追い込まれた▲同じ日に首相は道路特定財源の一般財源化や、日本郵政の株売却凍結をめぐる発言も行っている。だが、これにも与党内から批判や苦言が相次いだ。首相は真意を釈明したが、こちらもウケ狙いで党内の合意調達がおろそかになったのだろうか▲ウケ狙いの弁舌の軽さを見れば、結果責任の問われる政治決断の重さへの理解のほどが心配になる。決断を丸投げした定額給付金騒動もその場のウケ狙いで始まった。なすべき時のなすべき決断に多言は無用だ。読み違いの心配のないOKの一言でいい。

毎日新聞 2008年11月21日 0時11分

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