ソマリア沖を航行する船舶を乗っ取ってもうけた身代金により、“海賊の町”が繁栄している。高騰する身代金目当てに海賊を志す住民たちが増えている−と英国の専門家も警鐘を鳴らす。無政府状態に苦しんでいたソマリアの貧村はどのように変貌(へんぼう)したのか。欧米メディアは、海賊を英雄視する風潮が広がる海賊の拠点の実態を伝えている。
AP通信によると、ソマリア沿岸部のハラデレは今、レストランやインターネットカフェが次々とできてにぎやかだ。補給のために上陸する海賊をあてにした売店も設けられている。“海賊景気”の恩恵を受け、非常に高価な自家用発電機を購入できる住民も出てきた。
沖合には、海賊によって乗っ取られたサウジアラビアの大型石油タンカーが係留されている。タンカーがやってきた際、住民たちは集まって祝った。
「海賊は私たちを頼り、私たちは海賊からもうける」と、商店を営む女性はAP通信に語った。海賊に対する女性の信頼は厚く、店では海賊がツケで買い物ができる。身代金入手後に支払うという。
5人の子供を持つ別の女性は、「合法だろうが非合法だろうが、(海賊がもたらしたお金によって)私たちの町の生活が始まったのだ」と述べた。
約20年間、無政府状態が続くソマリアでは、イスラム原理主義勢力と暫定政府軍の戦闘などのため、治安が極度に悪化している。
AP通信によると、住民の平均寿命は46歳、4人に1人が5歳未満で死亡する。海賊が身代金を町で浪費することによって、仕事が生まれ、住民は収入を得ることができるのだ。
ロシア製戦車などを積んで乗っ取られたウクライナの貨物船が、沖合に係留されているソマリア北東部のエイルでも同様の状況だ。英紙ガーディアン(電子版)によると、町には海賊向けのホテルや、貨物船の食事を用意するレストランが急ごしらえされた。海賊船に燃料を売って稼ぐ業者もいる。ほかの町では15ドルの麻薬がエイルでは65ドルで売れるといい、景気のよさがうかがえる。
「(身代金が入ると)われわれは最初にすてきな家や車を買う。それから銃やほかの武器を買い、残りの金は息抜きに使う」と語るのは、北部ガロウェの海賊の1人だ。豪邸に住み、高級車に乗る。海賊が妻を増やすのも、習慣のようになってきた。
海賊の豪華な結婚式に出席したガロウェの21歳の女性は、「女性が海賊との結婚に興味を持っているのは本当。普通の男性にこんな結婚式はできない」と同紙に語っている。
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