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困った会社見本市

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社内事情を優先しすぎて顧客が置き去りになる件

2008 / 11 / 20

 ある程度の大きさの会社を経営していて困ることの一つに「こいつに仕事を任せていいのか?」というのがある。多分、ほぼ毎日「あのプロジェクトは、ちゃんと仕切れているだろうか」とか「あの大口顧客に彼が一人で行っているけど大丈夫だろうか」とか考える。

 中国の格言に「使うなら疑うな。疑うなら使うな」というのがあるが、ビジネスでは使わない社員を置いておくわけにいかないし、疑わしい社員だからといって明日クビにするわけにもいかない。だから使えない社員でもしぶしぶ働いてもらうことになるのだが、大体そういう部門で問題が起きる。

 ダメな人が問題を起こすのは分かりきっているから、大事でない部門に送り込んで「真面目に働いてくれればそれでいい」状況にするのは基本だ。本当に危ないのは、能力は高いのにどこか問題含みの人に仕事を任せる場合だ。うっかりこういう人を雇ってしまうと、何が起きるか分からない不安感が社内を漂うこととなる。

 有能な問題児というのはなかなか危険だ。仕事を任されたら「オレは社長に信頼されている」と周囲に威張り、少し業績がいいと「あそこの会社はオレの顔で受注が取れている」と吹聴し、意見が通らなければ「オレは明日にでも別の会社に移って今の客を連れて行く」と駄々をこね、社長が不在の間に「いつかオレが社長になるから」と派閥を作っていたりする。

 技術者にも、優秀なのに「オレの作ったもの最高!」とこだわりすぎて、顧客の意見を一蹴したりする問題児がいる。なぜ技術者のお前が客の言い分を全否定するのだ。
「できない」ことと、「やりたくない」ことの差が埋まらない人もいる。知らないうちにプロジェクトが止まっていて、理由を調べてみたらくだらない個人のこだわりが原因だった、というのは本当にがっくりくる。

 会社では、こうした問題児が多ければ多いほど部門間の対立が頻発する。製造業だと工場と営業が仲が悪かったり、フランチャイズチェーンだと日常的に本部と各店が一触即発の事態だったりする。

 そんなわけで、いつしか顧客の要望ははるか彼方に放置されたまま、社内紛争が絶えない会社に成り下がる。やがて顧客はクレームを入れることも諦め、そっとその会社と取引を止めるので、ふと気づいたころには売り上げが下がっているわけだ。

 かといって、社長が「社員には任せられん。オレがやる」と現場に介入しまくったら、別の問題が多発することになる。反対に何から何まで部下にやらせて報告は全部定例会議で、みたいな経営だと、悪い報告はするだけ損と、社員が腐ったサービスを顧客に提供し始めることになる。

 出世や給料や名誉、メンツといった、ありとあらゆる火種が常に社内にはある。それらの問題を調停・収拾する最終責任者が社長であって、やはり仕事は社員に任せねばならない。
 この理屈、頭では分かっているのだが、実際に経営に携わってみると本当にうまくいかなくてイライラする。企業経営は、人間が引き起こした絶え間ないトラブルを、解決し続ける作業なんだなあと心から思うし、そう思っていれば少しは気楽になれる。かも。

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プロフィール

山本 一郎 やまもと いちろう

イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。父親が抱えた負債を返済するため学生時代から株の個人投資を始め、ゲーム制作や投資事業などを手掛ける会社を起業。ブログなどで経済・時事問題に関する批評を展開し、インターネットでは「切込隊長」と呼ばれるカリスマ的存在。著書に『ニッポン経営者列伝 嗚呼、香ばしき人々』(扶桑社)、『けなす技術』(ソフトバンククリエイティブ)など。


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