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2008年11月20日

◎農商工連携事業 身近な資源洗い直しも重要

 農商工連携による産業創出に全国の自治体が力を入れるなか、能美市内の農業法人と酒 造会社が中心になって、家庭から姿を消した郷土料理の商品化に乗り出すことになり、先ごろ材料の漬け込み作業を行った。近年は食育推進の面からも郷土料理が再評価され、富山県は地域の伝統料理の知識と腕前を持った主婦らを「食の匠」に認定して伝承に努めているが、各自治体が進める農商工連携の産業創出事業では、隠れた伝統食など身近な「資源」や、これまでの事業をもう一度洗い直すことも大事であろう。

 能美市の農業法人などが商品化を目指すのは、菜の花や大根を塩漬けした「おくもじ」 という保存食で、市内の多くの家庭で作られていた。しかし、近年は廃れてしまったため、地域の農家と商店主に参加を呼びかけて特産化を図ることにした。まだ試行段階であるが、加工や販売方法の研究を進めて成功させてもらいたい。

 食に関する地域資源は石川、富山とも豊富であり、その担い手である主婦らの間で販売 、加工などの「女性起業」が多く生まれている点にも着目したい。農村女性の起業件数は年々増え、全国で九千件以上もある。北陸農政局管内は昨年一月時点で七百件を超え、富山県は百四十四件、石川県は七十五件を数える。

 ただ、これら女性起業の大部分は年間売上高が三百万円未満の零細事業である。その中 には、企業のノウハウや資金のテコ入れがあれば、もっと伸びる可能性を秘めた事業もあるのではないか。

 石川県は先ごろ、産業化資源活用推進ファンドを生かした農商工連携事業を推進するた め、農林水産業や食品加工、流通など関係分野の専門協議会を設置したばかりであるが、こうした女性の起業活動を、過去の「失敗例」も含めて調査し、新たな展開を後押しすることも考えられてよい。

 富山県内の農村女性起業は石川の二倍近くあり、それだけ商工業者との連携強化によっ て飛躍が可能なものが多いと思われる。既存の女性起業の経営実態を含めて地域資源の掘り起こしを精力的に進めてもらいたい。

◎元厚生次官宅襲撃 目的分からぬ連続凶行

 年金行政のエキスパートと言われた二人の元厚生事務次官宅が、同一人と見られる犯人 に連続して襲われた。さいたま市に住む元次官宅が先に襲われ、元次官夫妻が殺害されて発見され、東京都内に住む元次官は外出していたため難を逃れたが、妻が刺されて重傷を負った。速やかな事件解決を求める。

 東京の元次官宅を訪れたとき、男は「宅配」を装い、応対した妻が刺されたのだが、現 段階では犯行の動機につながる証拠がなく、社会を不安に陥れる目的が分からない連続凶行としか言えない。

 捜査当局はテロの可能性もあるとしており、厚生労働省はOBの幹部に注意を呼び掛け ている。理由はどうであれ、問答無用で殺傷に走るのは民主主義の原理に基づく秩序を破壊する許せない反社会的な行為だ。

 一九八〇年代に、東京の元次官と、さいたま市の元次官は上司と部下の関係で年金行政 に当たった。こうしたことから年金行政の問題が背景にある可能性が考えられているようだが、犯人は三十歳ぐらいだったともいわれる。他の動機も想定しなければなるまい。

 仮に年金問題への批判が絡んでいたとしても、国民年金や厚生年金のずさんな処理に対 して、野党の民主党の長妻昭衆院議員が中心になって政府を追及したことにより、責任の所在が明らかにされ、社会保険庁の廃止が決まり、代わって年金部門を引き継ぐ非公務員型組織の「日本年金機構」が発足することになっている。テロではなく、手続きを踏んだ批判こそ必要なのだ。

 年金問題には今後も改革しなければならない問題が多い。長妻議員は分かりやすい例を 挙げて年金制度改革の必要を指摘した。すなわち、国民年金や厚生年金の保険料の積立金がリゾート施設などに浪費されたのは社保庁に管理させたからであり、公務員の共済年金が浪費されず、台帳もきちんと保管され、積立金が上手な運営で増えているのは財務省の管轄だからだというのだ。そこへこうした事件である。事件が改革に水を差すことを恐れる。


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