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医療崩壊の根本原因は医療費抑制政策(上)保険医協会講演会で李啓充氏が警鐘

高橋清隆2008/11/20
 日本とアメリカで医師経験を持つ評論家の李啓充氏が講演して、社会保障制度改革≠竓i差拡大が国民の健康を損なう可能性がある、と警鐘を鳴らした。李氏は米国型の医療制度導入を図ろうとする動きに対しても、米・大リーグを例に挙げて充実した医療の実現に有害と述べ、出席した医師や一般参加者と質疑応答を交わした。
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 東京保険医協会は15日、「医療費抑制政策と医療崩壊―『小さな政府=社会保障費抑制』路線からの転換」と題する政策講演会を都内で開いた。日米の医療に携わった、医師で評論家の 李啓充(り・けいじゅう)氏が講演し、民間保険と株式会社病院が幅を利かす米国の実態を紹介、「官から民へ」を合い言葉に進むわが国の医療保険制度改革に警鐘を鳴らした。

医療崩壊の根本原因は医療費抑制政策(上)保険医協会講演会で李啓充氏が警鐘 | <center>講師の李啓充医師</center>
講師の李啓充医師
 東京保険医協会は、保険医の権利を守り、国民の健康と医療の向上を図るための団体で、現在約5000人の保険医が加入する。元・ハーバード大学医学部助教授でスポーツライターとしても活躍する李講師は、わが国の社会保障改革が医療現場を困らせている背景や労働政策による格差拡大が国民の健康を損なう危険性について、大リーグの選手や経営を例に分かり易く説明。一般参加者を含め約150人が熱心に耳を傾けた。
 
 質疑応答も交えた約1時間半の講演の後、主催者の東京保険医協会の塩安佳樹(しおやす・よしき)会長は「日本の医療は悪化の一途をたどっている」と現状を嘆き、次のように続けた。「日本の国民1人当たりの保健医療支出は世界で13位であり、一方、その質は世界1とWTO(WHO=世界保健機関の誤記か。WTOは世界貿易機関)も高く評価している。ところが、医療市場の開放を狙った米国の圧力により、国を身売りする方向で進んでいる。国の根幹は、国民の健康と生命を守ること。せめてOECD諸国の中で上位半分に入る医療費を使って中身を改善してほしい。医者も国民も『生きててよかった』『医療に携わっててよかった』と思えるように」。
 
 李講師の講演概要は次の通り。

オーナー気取りの、のさばりが国を滅ぼす

 わたしは野球が大好きで、よく大リーグを見る。黒人初の大リーガーは、ジャッキー・ロビンソン(1919〜1972)という選手だった。新人王とMVPに輝いた名選手だが、差別反対運動に身を投じた。奨学金も設立し、優秀な若者をアフリカから呼んだ。

 バラク・オバマ次期大統領の父はケニアから来て白人女性と結婚したが、ロビンソンがいなければ今のオバマ氏はない。ロビンソンは37歳で引退すると、急に老け込んだ。糖尿病を患い、心筋梗塞(こうそく)で亡くなったが、このことは今日の話と密接にかかわる。
 
 なぜ日本の医療が崩壊へ向かっているのかを考えるとき、レッドソックスとヤンキースの関係が参考になる。つまり、(上位の)レッドソックスのオーナーは、金を出すが口は出さないのに対し、(下位の)ヤンキースのオーナーは金も口も出す。日本の医療崩壊の最大の原因は、オーナーを気取る人たちが、口だけ出しているからである。
 
 例えば2月、政府の社会保障国民会議の吉川洋座長(東京大大学院教授)が国民医療費について、今後の増加分は民間保険などで賄い、公的保険の適用対象を広げない意向を示した。吉川氏は経済財政諮問会議の民間議員も兼任する。経済財政諮問会議の議員は4人が民間人で、財界2人と財界と意見を同じくする経済学者2人からなる。これが国の政策の大本を決めてしまう。
 
 米国人にこうした仕組みを紹介すると驚く。民間セクターが国の公的な制度を決めるのかと。まさに、この国のオーナーを気取っている。彼らが「公」を減らし、「民」を増やせと言っている。さらに、赤字を抱える自治体病院を廃し、「株式会社による無駄のない医療」を、と訴える。目指しているものは、米国型の医療制度である。

国民負担率は企業負担抑えるための口実

 小さな政府を唱える人が好んで使う言葉に、国民負担率がある。これは社会保険料と租税の和が国民所得に占める割合を指す。日本36%、米国32%と4割を切るのに対し、スウェーデンは7割超。「7割も税金?」と思わせる指標である。国民負担率と称する“National Burden Rate”は、1982年の土光臨調で発明された日本だけの言葉である。1997年に財政構造改革法で5割を超えないことが目標に定められた。つまり、小さな政府が国是になり、その中で社会保障費も抑制された。しかし、国民負担率は負担の実態を反映していない。

 日米国民負担比較
(50歳、自営業、4人家族、2008年度納付額)
 課税収入700万円(1ドル=106円)として比較
        日本    米国(2005年)
所得税    97万円  99万円
住民税(州税)70万円  37万円
国民年金   17万円 115万円
医療保険   62万円 242万円(152万円)
 総計   248万円 493万円(417万円)

→国民負担「率」を上げると、実際の国民負担は上がる。

 国民負担を日米で比較する(上表)。この条件で見た場合、米国では医療保険として242万円を支払わなくてはならない。これは民間保険で、毎年値上がりする。新たな保険に入ろうとしても、既往症が問題にされ、厳しい。国民負担率は同じだが、倍近く費用がかかる。公の部分だけは同じだが、民の部分があるからだ。これが日米の違い。オーナーを気取る人たちは「国民負担率は上げない」といっているが、上げるのと同義である。

 OECD各国の国民負担率と比較しても、日本はとても小さな政府。しかし、どの国も引かれても給料の8割ほど残る。だまされてはいけない。国民負担率の概念は、分担の不公平を隠し、社会保障水準を抑制する手段として用いられている。企業の公的負担を増やさないためである。企業の公的負担率はフランス14.0%に対し、日本は7.6%と半分近い。それなのに財界は「日本は法人税が高いから下げよ」と主張する。

 社会保険料の本人負担と事業主負担の割合を、たとえば日仏で比較して見る。本人負担は日本10.89%、フランス9.63%とほとんど同じだ。しかし、事業主負担が日本11.27%に対してフランスは31.97%と日本の3倍近くを払っている。フランスでは普通の人の負担割合が低く、大きな政府はこうして運営されている。

医療崩壊の根本原因は医療費抑制政策(上)保険医協会講演会で李啓充氏が警鐘 | <center>GDP比で見た日本の医療費(グラフ1)</center>
GDP比で見た日本の医療費(グラフ1)
 この30年間の国民医療費を財源から見ると、「家計」部分が増え、「事業主」負担が減っている。日本の医療費はGDP比で見ると低いが、本人負担率は最も高い。オーナーを気取る人は国民負担を抑えないと経済成長が停滞すると言うが、政府の大小と成長するしないは無関係(グラフ1)。

小さな政府は健康被害も拡大する

 医療崩壊を考えるとき、こうした改革を続けていては解決するわけがない。OECD諸国の貧困度を見ると、国民負担率の低い、いわゆる「小さな政府」の国では所得再分配が進まず、健康被害が増えている。ジニ係数は1が究極の格差だが、米国では1980年代から上がった。レーガン政権が小さな政府を目指したことにより、高額所得者の減税などが行われた。英国では1990年代から急激に上昇。サッチャー政権が規制緩和路線を採ったからだが、今はやめている。日本は90年ころからの数字しかなく比較できないが、急激な速度で上昇しており、2020年くらいには米を追い越すと予測される。

 格差が拡大すると、公衆衛生上問題が起こる。日本では「生活習慣病」と呼ばれ、自己責任にされているが、ストレスで健康が損なわれるのは明らかだ。年収を6段階に分けて死亡率との関係を見た米国の調査では、一番お金のない層の死亡率は最もある層のおよそ3倍高かった。メタボより、お金がないことの方が害を及ぼすことが分かる。

 これは退職後も影響する。管理職から補助職まで職種を4段階に分類したところ、相対死亡率は40〜60歳の現役世代で4倍の差があった。70〜89歳でも2倍の差があり、格差の恐ろしさが分かる。

 人種差別にさらされることも、健康をむしばむ。母親の健康とを図る指標とされる新生児の体重について、米国生まれの黒人とアフリカ生まれの黒人を比較すると、米国生まれの方は平均体重が少ない。遺伝の違いでないことが分かる。ジャッキー・ロビンソン選手も、格差症候群の被害者だったのではあるまいか。黒人同胞の期待を一身に背負っただろうし、差別に遭っても怒ったり、反抗してはいけない立場にあり、ストレスも受けたはず。
 
 英国は階級制の強い社会だが、平均余命を社会階層別に見ると、1970年代から20年間、その違いが拡大してきた。新自由主義路線を取ってきた結果である。これは今後の日本で、正社員より派遣社員の余命が短くなる恐れがあることを示唆する。こうした事態を受け、英国では1997年から税制改革による所得再配分を実施している。最富裕層10%の可処分所得におよそ4%の増税をし、最貧困層10%におよそ11%の控除をするものである。

 わが国で消費税を上げなければならないというのはうそだ。消費税は逆進性が高く、低所得者ほど負担が重い。税収を増やすため、英国では勤労者控除を実施。オバマ氏の税制改革案はこの模倣である。英国では株式取引に0.5%を課税し、毎年約5兆円が入る。工夫すれば税収増の手段はある。

 ジニ係数の上昇は中曽根内閣の下、土光臨調が小さな政府を目指す答申を出したのが始まり。今、米国ではオバマ氏が出て「チェインジ」とやっているし、英国はやめた。日本はいつまで小さな政府がいいんだと言って格差を拡大するのか。2007年に英国レスター大学が行った国民「幸福度」調査では、デンマークが1位、ブータン8位なのに対し、世界で経済第2位の日本は88番目だ。

(続く)


■李啓充(り・けいじゅう)
 1980年京都大学医学部卒業。天理よろず相談所病院、京大大学院医学研究科を経て90年よりマサチューセッツ総合病院で骨代謝研究に従事。ハーバード大学医学部助教授を経て2002年より文筆業。
 著書に『怪物と赤い靴下』(扶桑社)、『レッドソックス・ネーションへようこそ』(ぴあ)、『アメリカ医療の光と影―医療過誤防止からマネジドケアまで』『市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗』(以上、医学書院)など。訳書に『医者が心をひらくとき― A Piece of My Mind (上、下)』ロクサーヌ・ヤング(医学書院)など。

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