内閣府が発表した七―九月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動を除いた実質で前期(四―六月期)に比べ0・1%減少し、年率換算では0・4%減となった。
前期に続くマイナス成長である。企業の中間決算などで景気悪化は予想されており、やはりという感じで受け止めた人は多いだろう。連続のマイナス成長は、米ITバブル崩壊などの影響を受けた二〇〇一年四―六月期から同十―十二月期の三・四半期連続以来、約七年ぶりだ。
与謝野馨経済財政担当相は「景気は後退局面にあることを示している」と景気後退を認めた。今回のマイナス成長の主な理由は設備投資が振るわず、景気のけん引役だった輸出の伸びも弱かったためという。
今年九月半ばの米証券大手リーマン・ブラザーズの破たんをきっかけに金融危機が深刻化した。実体経済への影響が欧米や日本などの成長率に本格的に反映されるのは十―十二月期からとされる。
与謝野経済財政相は〇九年度の成長率予測について「プラスになる自信は現時点でとてもない」と今後の見通しに悲観的な考えを示した。世界同時不況の懸念も高まっている。ことさら悲観的になる必要はないが、景気低迷の長期化は覚悟した方がよさそうだ。
先行きに暗雲が立ち込める中、企業関係者に求められるのはピンチをチャンスに転じる強い意思だろう。これまで続いてきた緩やかな景気回復基調の過程で、経営にゆるみは生じてないか。技術やサービスの改善を怠っていないか。客の視点に立った発想を心掛けているか。
あらゆる分野で事業を総点検し、不況への備えを強化する機会にしたい。同時に新しい技術やサービスを提供する生き残り戦略も描いてもらいたい。
政府に望みたいのは、特に中長期的な観点を重視した経済政策である。当面の景気対策はもちろん欠かせないが、既存の産業構造を維持するだけでは、世界的な経済危機は乗り切れないだろう。
世界では地球温暖化や食料不足など課題が山積している。持続可能な社会の実現に向け、経済活性化につながる新産業の育成は急務といえる。
例えば太陽光、風力など自然エネルギーの利用促進をはじめ、食料を使わないバイオエネルギーの技術開発などの必要性は従来から指摘されている。自動車などの省エネ技術も大切だ。こうした分野に対する重点的な助成や税制優遇策などを明確に打ち出す必要がある。
中国産ウナギの産地偽装事件で兵庫、徳島両県警の合同捜査本部は、徳島市を拠点とする水産物輸出入販売会社「魚秀」の社長や、神戸市の水産物卸売会社「神港魚類」の幹部ら八人を不正競争防止法違反(虚偽表示)の疑いで逮捕した。
偽装の手口は極めて巧妙で悪質だ。魚秀は架空会社をでっち上げ、帳簿上だけ東京の会社二社を経由させる形で約二百五十六トンの中国産ウナギのかば焼きを約七億七千万円で神港に売却した。国産と偽装した一連の取引で約一億八千万円の不正な利益が生じたとみられる。
捜査本部は、より罰則の重い詐欺容疑での立件を目指すという。大掛かりな工作で巨額の現金が動いているだけに、不透明な金の流れと偽装の全容解明を急いでもらいたい。
調べでは、魚秀の社長らは共謀し、今年二―四月に高松市内で中国産ウナギのかば焼きを「愛知県三河一色産」と印刷された段ボール箱に詰め替え、三―四月に京都府京丹後市、山口県岩国市など九業者に二十箱(約二百キロ)を販売したとされる。店頭に並べば、消費者は国内有数の産地表示を信じるしかあるまい。
国産と中国産の価格差が生んだ不正な利ざやの半分近くは“偽装工作”に使われたとみられる。魚秀の社長は神港の元担当課長に一千万円を手渡した。魚秀側は「偽装協力の謝礼」、神港側は「口止め料」と説明、言い分は食い違っている。一億円で偽装の責任をかぶるよう迫られたとの証言もある。
産地偽装など食の信頼を揺るがす事件が後を絶たない。原産地などの適正表示を義務付けた日本農林規格(JAS)法の罰則強化など不正利益を許さない体制づくりを急ぎ、偽装の連鎖を断ち切らねばならない。
(2008年11月19日掲載)