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元厚生次官宅・連続襲撃:年金テロなのか/官界に卑劣な刃(その1)

 ◇歴代トップ宅、惨劇

 ◇厚労官僚ら絶句 「注意を」家族に電話

 旧厚生省の2人の元官僚トップ宅で18日、相次いで惨劇が起きた。さいたま市で元事務次官、山口剛彦さん(66)夫妻の命が奪われ、その発見から約8時間後、約14キロ離れた東京都中野区の元次官、吉原健二さん(76)宅で、妻靖子さん(72)が刺され重傷を負った。2人の元エリートは現役時代、ともに年金制度を担っていた。「これは年金テロなのか」。卑劣な凶行に厚生労働省は、重苦しい雰囲気に包まれた。

 厚生労働省は18日夜、人事課が中心となり、事務次官と社会保険庁長官の経験者へ安否確認と「宅配便を装った侵入者に注意を」と呼び掛ける電話を入れ始めた。深夜まで審議官以上の職員と、年金業務に関係する歴代幹部にも連絡を入れる。また、現役と歴代幹部の名簿を警察庁に提出し、警備を要請した。19日以降は入館者の身分照会を強化し、大臣室や事務次官室がある階の警備員を増やすとしている。

 国会対策の仕事をしていたキャリア官僚は、一報を聞くと「エーッ」と叫び絶句。その後、情報を確認する電話がひっきりなしにかかってきたが、「まだ何も聞いていない」と動揺した様子で対応していた。「これは年金テロでないのか、恐ろしい」と語るのが精いっぱいだった。

 以前に年金に関連する部署で働いていた一般職員は「年金制度に対する不満があるのかもしれないけれど、絶対に許せない。早く家に帰らないと心配だ」と不安げに話した。

 残業していた職員は、テレビのニュースを見ながら「批判が出ているからといって、年金問題でテロなどあり得るのか」とつぶやいた。厚労省1階では家族に戸締まりに注意するよう電話をかける職員の姿が見られた。

 元厚生省年金局企画課課長補佐などを務めた浅野史郎前宮城県知事は「政治テロかどうかはまだ分からない。ただ、(自分の)家族が心配している」と語った。

 ◇血染めの服…歩道に血痕

 血に染められた洋服、歩道に点々と残る血痕--。吉原靖子さんが襲われた東京都中野区の現場は惨劇を物語る。近所の住民は「奥さんはおとなしそうな人。なぜこんなことに」と声を震わせた。

 119番した専門学校生(27)は、歩いて帰宅途中に悲鳴を聞いた。近づくと靖子さんが自宅前で胸から血を流して倒れていた。事件直後に現場を通りかかった練馬区の会社員、井東良次さん(49)は通報者とみられる男性が警官に「(犯人らしき人物が)富士見台駅の方向に逃げた」と話していたという。

 近くに住む建設業の男性(33)は18日午後6時半ごろ、帰宅途中に靖子さんが倒れているのを目撃した。「玄関につながる階段でうつぶせになり、すぐに救急車で運ばれた。腹から下半身にかけて血だらけだった。長袖のシャツとスラックスが真っ赤だった。助けを求めていたのか、玄関前の歩道に約7~8メートル血の跡が残っていた」と振り返る。

 近くの女性会社員(47)によると、吉原さんは2、3年前から、夕方の散歩の際、いったん自宅の前の通りに顔を出し、周囲を確認し、再び自宅に戻ってから出て行く姿をよく見かけたという。「随分用心深く、誰かに狙われているのかなと思った」と話していた。

 近所の男性会社員(61)は「吉原さんは近所でも厚生省の事務次官までやった人と有名。でも偉ぶったところのない人。奥さんもいい人で、個人的に恨みを買うような人ではないと思う」と話した。

 ◇社保庁長官OB「自宅警備頼む」

 元社会保険庁長官で埼玉県内に住む高木俊明さん(67)は18日午後9時過ぎ、毎日新聞の電話取材に「山口さんの事件があって、何でやられたのかと思っていた。続いて別の元事務次官の妻が刺され、おっかなくて仕方がない。近くの警察署に自分の警備を頼もうと思う」と話した。

毎日新聞 2008年11月19日 東京朝刊

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