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発信箱:ヒトラーのテスト=福島良典

 1938年11月9日夜から10日にかけ、ドイツにあるシナゴーグ(ユダヤ教礼拝堂)やユダヤ人の商店、民家が襲撃された。窓ガラスやシャンデリアが砕け散った様子から「水晶の夜」と名付けられた事件だ。ホロコースト(ナチスドイツのユダヤ人大虐殺)の序章にあたる。

 米国を目指して大西洋を渡ったユダヤ人難民がキューバ上陸を断られた「セントルイス号事件」(39年)と合わせ、ホロコースト生還者らは「ヒトラーのテスト」と呼ぶ。試されたのは国際社会の感度だ。

 第二次大戦の開戦前夜、自分たちのことで手いっぱいの各国政府も、報道機関も、大半が動きは鈍かった。そして、「ヒトラーは世界がユダヤ人を守らないと確信した」(モシェ・カンター欧州ユダヤ人会議会長)。

 水晶の夜から70年。排他主義は人々の憎悪と恐怖を糧に増殖を止めていない。クワシニエフスキ前ポーランド大統領が会長を務める「欧州寛容・和解評議会」は民族差別の撤廃と融和促進を目指す条約草案を起草し、欧州連合(EU)に採択を呼び掛けている。

 1930年代、吹き荒れる大恐慌の嵐に列強は権益の身勝手な囲い込みに走り、世界はホロコースト、第二次大戦へと突き進んだ。大統領在職中、民族和解に力を注いだクワシニエフスキ氏は現在の状況に警鐘を鳴らす。「過去、危機は必ず政治的に悪い結果をもたらしてきた」

 金融危機で経営が悪化した銀行には莫大(ばくだい)な公的資金が投入された。だが、経済混乱が社会不安につながれば、しわ寄せを受けるのは移民を含む低賃金労働者などの社会的弱者だ。テストは今も続いている。(ブリュッセル支局)

毎日新聞 2008年11月17日 東京朝刊

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