【カイロ高橋宗男】イラク駐留米軍の11年末撤退を盛り込んだ米国とイラクの安全保障協定は、イラク政府が16日の緊急閣議で草案を承認したことで締結に向け一定のめどが立った。イラク側には連邦議会と大統領評議会の承認手続きが残されているが、現地での報道を総合すると、早ければ今月中にも承認される見通しが強まっている。
交渉は1年近くに及ぶ長期戦となった。その背景には、イラク政府を主導するイスラム教シーア派勢力の中に温度差があり、協定への思惑が交錯していたことがある。
シーア派政党アッダワ党の党首でもあるマリキ首相は、国民の間に根強い「米軍駐留延長への失望感」を緩和することに腐心した。粘り腰の交渉で▽米軍の11年末での完全撤退▽非番の米兵・民間軍事会社社員らによる犯罪を調査する特別委員会の設置▽米軍による家宅捜索にはイラク当局の許可が必要--など、米国から数々の譲歩を引き出し、「イラクの主権を守る強い指導者」というイメージを印象付けた形だ。
さらにシーア派住民に絶大な影響力を有する、同派最高権威のシスタニ師の元に側近を派遣し、「議会が承認するならば協定には反対しない」との意向を取り付け、同派住民の反発を招かぬよう布石も打った。
これに対しハキム師が指導するシーア派最大組織、イラク・イスラム最高評議会(SIIC)は、関係の深いイランが協定に反対していたため、ぎりぎりまで態度を保留。ただ反対姿勢を表明した場合には「イランの手先」とみられてしまうジレンマも抱え、「イラクを近隣諸国攻撃の出撃基地としない」と明記されたことを受けて最後に賛成に転じた。
一方、シーア派の対米強硬派であるサドル師派は「占領者である米国との協定などもってのほか」と、徹底して反対する立場を貫いている。同師派はアッダワ党やSIICなどで作るシーア派連合会派「統一イラク同盟」からすでに脱退しており、協定反対の大規模デモを呼びかけているほか、米軍が即時撤退しなければ対米攻撃を再開すると警告するなど、不穏な動きを見せている。
協定は、今年末で期限が切れる国連安保理決議に代わり、米軍がイラクに駐留するための法的根拠となる。
毎日新聞 2008年11月18日 21時34分