事件・事故・裁判

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元厚生次官宅・連続襲撃:年金テロなのか/官界に卑劣な刃(その2止)

 ◇危機管理監が情報収集、官邸に衝撃

 事件の一報が首相官邸にもたらされたのは午後8時20分。警察庁から漆間巌官房副長官に連絡が入り、漆間氏はただちに公邸で政府・与党連絡会議のメンバーと会食中だった麻生太郎首相に情報を上げた。

 8時半ごろには厚労省からも「山口さん夫妻が殺された事件は、それだけにとどまらないかもしれない。厚労省関係者で別の人がやられた。これは政治テロの可能性がある」との報告があり、伊藤哲朗内閣危機管理監らが官邸に駆けつけて情報収集にあたった。

 政府首脳は「大変な事態になった。民主主義の社会で許せない事件だ。拡大を防がないといけない」と指摘した。また、自民党厚生族幹部は「2人とも年金の専門家。厚労省内には恐怖感が広がっている。政治テロだとすると大変な問題だ」と語った。

 ◇上司と部下で汗

 山口さんと吉原さんは、年金制度で最大の改正とされる85年改正を共に担った。改正の最大の眼目は基礎年金制度の導入。吉原さんは改正内容を決める大詰めの84年6月に年金局長に就任。山口さんは制度設計も含めて81年から年金課長を務めていた。

 この時、2人と共に仕事をした厚生労働省の現職幹部は「徹夜が何日も続いた」と振り返る。「吉原さんは制度改正の直前に局長となり、山口さんは長く課長だったが、2人ともそのポストにあって通常に仕事をしていただけ。事務次官と会計課長の時もそうだと思う。2人の事件が『年金テロ』のように結びつけられるのはたまらない気がする」。さらに「山口さんは仕事もできたが洒脱(しゃだつ)な人で、信頼されていたのに」と声を落とした。

 ◇未解決の警察庁長官狙撃事件

 行政のトップらが狙われる事件は近年もたびたび起きている。07年、暴力団の男が不当な要求を繰り返し、拒否されたことへの逆恨みから長崎市長を射殺した事件など、利害関係を背景に役所の幹部が狙われたり、右翼団体幹部らが言論弾圧を図ったとみられる事件が目立つ。このほか、95年に警察庁の国松孝次長官(当時)が狙撃された事件など未解決のケースもある。

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 ◇政府高官や自治体首長らが狙われた主な事件◇

 (肩書は当時)

63年 7月 右翼団体関係者が河野一郎建設相の自宅に火を放つ

71年12月 東京都の警視庁の土田国保警務部長宅で小包が爆発し妻が死亡

76年 9月 狭山事件控訴審で被告に無期懲役判決を言い渡した東京高裁の寺尾正二判事が車で出勤途中、暴漢にバットで襲われ軽傷

88年 9月 成田空港反対運動を巡り、千葉県収用委員会会長が千葉市の路上で過激派に襲撃され重傷

90年 1月 本島等長崎市長が市役所前で右翼団体幹部に撃たれ重傷

95年 3月 国松孝次警察庁長官が東京都荒川区の自宅マンション前で狙撃され重傷

96年10月 岐阜県御嵩町の柳川喜郎町長が帰宅したところを暴漢に襲われ重傷

03年 9月 「建国義勇軍」を名乗るグループが外務省の田中均審議官宅駐車場に爆発物のような物を置き脅迫

07年 4月 伊藤一長長崎市長が選挙事務所前で暴力団の男に射殺される

08年11月 山口剛彦元厚生事務次官夫妻がさいたま市の自宅で刺殺。吉原健二元厚生事務次官の妻が東京都中野区の自宅で刺され重傷

毎日新聞 2008年11月19日 東京朝刊

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