2008年11月19日(水) 東奥日報 天地人



 「あかちゃんが あくび した/おはなが さいたみたいに/あのまま とっておきたかったね/おかあさん/おとうさんが おかえりまで…」(まど・みちお「あかちゃん」より)。新たな命を見つめる兄か姉と母親の対話。そんな場面が浮かぶ詩の一節だ。

 きのうの本紙に、母に抱かれてすやすや眠る男の赤ちゃんの写真があった。産科の休止が続いていた十和田市立中央病院に、三年半ぶりに元気な泣き声が響いているという。今月から始まった院内助産院で初めて誕生した命、と記事にあった。医師不足で出産のピンチが言われている近ごろだ。地域の女性たちにとっては、心強いことだろう。

 同病院はこの九月に産科の外来を再開、院内助産に向けた準備を進めてきた。命をはぐくむ仕事に、助産師たちの強い願いがあったと聞く。かくして絶えていた産声がよみがえった。男の子を無事に出産した市内の母親は「ここで良かった」と。病院側も「雰囲気が華やいで明るくなった」と再開を喜ぶ。

 搬送先を次々と断られた妊婦が亡くなる。そんな悲劇が、先ごろ東京でもあった。母子そろった命の安全が脅かされる中、身近な場所での取り組みは安心のとりでともなろう。同病院では、来月も数件のお産を予定しているという。

 小さな命は母の胸を探ったり、あくびやおならをしたりして日々、成長していく。やがて、いたずらもするようになる。家族の親和はむろんのこと、命の出発に携わった医療があってこその風景だろう。


HOME