路線バスの廃止が相次いでいる。バス会社の多くは経営が苦しく、赤字路線を運行する体力を失いつつある。暮らしに欠かせぬ「地域の足」を守る手だてを、地域全体で考えなければならない。
バス路線は全国で約三十七万キロに及ぶ。小泉政権がバス路線の参入などを規制緩和した二〇〇二年度からの五年間で、約四万四千キロが廃止された。
マイカーの普及や過疎地での沿線人口の減少、最近は燃料費の高騰も加わり、バス会社の経営は厳しい。今年四月に福島交通が会社更生法の適用を申請した。八月には、ジェイアール東海バスが最後まで運行してきた愛知県瀬戸市内など五路線を来年九月末で廃止する方針を明らかにした。JR各社のバス子会社で路線バス事業からの完全撤退は初めてとなる。
同社は、東京−名古屋などの高速バス事業の収益で、路線バスの赤字を穴埋めしてきた。その高速バスも、規制緩和を機に格安料金で参入してきた貸し切りバス会社に客を奪われて赤字となり、路線バスを支えきれなくなった。規制緩和のしわ寄せを、路線バスに公共交通を頼る過疎地などの住民が受ける構図だ。
生活に欠かせないバス路線は、一定の条件で国と各都道府県が赤字補てんしている。独自に補助金を出す市町村もある。〇七年度に全国のバス会社が都道府県や市町村に申請した補助金は総額四百十三億円で、四年前の二百六十七億円から五割以上増えている。
廃止を受け、市町村がコミュニティーバスと呼ばれる自主運行バスを始める例も多い。これも自治体の負担であるが、名古屋大大学院環境学研究科の加藤博和准教授(都市環境学)は「バス会社への赤字補てんとは意味が異なる『公共投資』という考え方で税金を使うべきだ」と話す。
二年前の道路運送法改正で自治体や住民代表などによる地域公共交通会議が市町村単位で設置され、路線や運賃を地域の実情に応じて決められるようになった。バスを実際に利用する住民にとって希望を生かせる機会だが、責任も伴う。「自分たちの税金だ」と各地区の住民が都合のよい路線を主張すれば、寄り道が多くなって使い勝手が悪くなる。
バスや鉄道など、これまで事業者任せだった地方の公共交通を地域で守る時代だ。脱マイカーの温暖化防止対策にもなる。知恵を出し合えば、再出発の道は開ける。
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