安い労働力を求めようとするのは金融資本主義の遺物
だが、この日本経団連の発想には大きな誤りがあるとわたしは考える。どこが間違っているのかといえば、コストを削減しさえすれば、自分たちの経営が向上して景気がよくなると単純に考えていることだ。
現在の日本の不況の最大の原因は、内需が伸びないことにある。それは考えてみればあたりまえのことだ。9年連続で平均年収を下げたのだから(昨年はほんの少し上がったが)、購買力が落ちているのである。前にも書いた(第152回:総裁選どころじゃない、この景気の悪化! )ことがあるが、名目GDPはこの6年間で24兆円も増えたにもかかわらず、雇用者報酬は3兆円も減っているのだ。しかも、その間に増税や控除の廃止が続いたものだから、消費が伸びないのは当然のことである。
どうやら日本経団連は、自分たちの経営が苦しくなっている本質的な原因をわかっていないのではないか。従業員の給料を減らしてしまったことが、不況の大きな原因であることを理解していないとしか思えない。
その根本を悔い改めることなく、いまだに移民を導入することで人件費コスト削減をもくろんでいるなどというのは、今回の景気後退を招いたことに対する反省がない証拠である。
そもそも、移民政策というのは、ある意味で金融資本主義の遺物である。
金融資本主義を信奉する人たちは、金の力を使って労働力と設備を買ってきて、それを組み合わせることで自動的に付加価値が生まれるという考え方をする。しかも、労働力と設備は安いほどいいというのが彼らの発想である。
本来ならば、現場における取り組みや創意工夫こそが、高い付加価値を生むものではないのか。だが残念なことに、彼らの頭のなかには、経済学でいう生産関数というものしかない。労働力と設備があれば自動的に製品ができるのだという、非常に時代遅れの発想をしているのである。
何よりも、もしこの施策が実行に移された場合、もっとも不幸なのは日本にやってきて働く外国人である。受け入れ態勢が十分に整わないまま、単なる低賃金労働者として移民させられれば、ありとあらゆる差別が起こるのは目に見えている。その結果がどうなるかといえば、米国、フランス、ドイツなど、移民を大量に受け入れてきた欧米の社会を見ていれば明らかだ。
日本経団連の報告書を読んでいくと、人件費を下げればいいという発想に凝り固まっていて、そこには国をどうするのかというビジョンのかけらもないことがわかる。それが、この報告書のもっともまずい部分なのである。
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