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構造改革をどう生きるか

移民受け入れの提言は人件費コスト削減が目的?

 では、どの程度の人数を移民として受け入れるのか。その点について今回の報告書では具体的な数には触れておらず、「相当な規模」という記述があるだけである。

 とはいえ、「生産年齢人口のピーク(1995年)を維持するためには、単純計算で2030年までに約1800万人(年平均50万人程度)もの外国人を受け入れる必要が生じるとしている」という経済産業省の試算を引用をしており、大規模な受け入れが必要であることをほのめかしている。

 はたして、それほどの移民をスムースに受け入れることができるのか。そもそも、移民を受け入れれば、社会的に大きなコストがかかることは、欧米の例を見ても明らかであり、その点については国内でもさんざん議論されてきた。

 今回の報告書で多少なりとも進歩しているのは、そうした問題点をはっきりと認識している点だろう。移民を受け入れた場合、定住者に対する教育、失業対策、住宅対策、医療など、さまざまな社会コストが発生して、それが最終的に国民の負担になることを認めている。

 だが、問題はそれだけではない。日本経団連の報告書には大きな問題が抜け落ちている。それは、移民受け入れに伴う賃金低下である。

 報告書では、例えば看護師の受け入れを想定しているが、どんな職種であっても労働力の供給が増えれば、賃金が低下するのは間違いない。ただでさえ所得が減ってきているところに、ますます所得が減ってしまうのである。

 確かに、単純労働力を入れるかどうかは今後の検討課題としており、明確にはしていない。一方で高度な人材を受け入れようとは書いてあるが、受け入れ態勢が整っていない日本の現状では、高度な人材がそう簡単にくるわけはない。

 結局のところ日本に入ってくるのは、単純労働力ではないものの、高度な人材というほどでもない一般的な労働力といったところだろう。そうした労働力をどんどん入れることによって、企業のコスト削減を目指し、企業の経営を安定化させようというのが、日本経団連の狙いなのではないか。

 これまでも、日本経団連は派遣労働の対象職種拡大を要求したり、実現はしていないがホワイトカラー・エクゼンプションの導入を提言したりと、常に人件費コストの削減に結びつく政策の導入を画策してきた。今回の移民受け入れの提言も、どうやらその延長線上にあるのではないかと思えてくる。

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