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社説

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GDPマイナス―不況を生き抜く戦略を

 世界不況の長いトンネルの入り口を、日本もくぐってしまった。内閣府が発表した7〜9月期の国内総生産(GDP)統計はそう告げている。

 2四半期連続のマイナス成長は約7年ぶりだ。米国も欧州もマイナス成長に陥っている。世界中が景気の後退局面に入った。

 年率0.4%減と、下げ幅こそ前期より縮まった。しかし、戦後最長の景気を支えた日本経済の「強み」が、そのまま「弱み」に転じた構図はいよいよ鮮明になった。

 これまで成長を先導してきた企業の設備投資が不振だ。金融危機や世界的な資源・エネルギー高で、輸出向けなどの設備増強が鈍っている。輸出自体はややプラスだが、勢いはない。外需頼みの景気回復は完全に終わった。

 さらに大変なのはこれからだ。今回のGDP統計には、9月中旬のリーマン・ブラザーズ破綻(はたん)によるショックや、その後の円高・株安の影響はほとんど織り込まれていない。

 米国での自動車販売は2〜3割の大幅減少に入っている。輸出の目減りはこれからが本番だろう。7〜9月の国内機械受注は過去最大の減少を見せており、設備投資の落ち込みもさらに拍車がかかるだろう。

 GDPの半分を占める個人消費はプラス0.3%だが、北京五輪や猛暑などの追い風が吹いた割に振るわなかった。消費者心理の10月の指数も、統計を取り始めた82年以来、最も冷え込んでいる。発表が出そろった企業の9月中間決算は、東証1部上場企業で20%の経常減益だ。通期の見通しも25%の減益となっている。

 ただ、なお多くの企業で黒字を保っているだけでなく、利益水準もまだ高い。その点は心強い。

 日本の企業はかつての不況時のように過剰な債務、設備、雇用を抱えていない。当面は苦しくとも、次の回復期をにらんだ攻めへの布石を打てるゆとりはある。実際、日本企業が国内外で合併・買収(M&A)の主役になる例が目立つ。今こそ先を読んだ経営に打って出るときだ。

 グローバル企業にとっては、米国市場にばかり頼る体質を改め、均整のとれた国際戦略へと立て直す好機だ。中国など新興国で、次を見通した基礎固めをしなくてはならない。

 金融サミットでは各国政府が内需拡大に努めることで合意した。ところが麻生政権の政策は迷走を深めている。

 次世代を担う環境分野などの新産業や、医療・福祉など内需関連の有望産業を政策的に刺激していくことこそが必要だ。歳出構造の思い切った転換や大胆な規制緩和など、構造転換に向けて明快なメッセージを発しないままでは、政治が景気の足を一層引っ張ることになる。

麻生首相―政策も政局も混迷模様

 国会の会期末が近づくなか、麻生首相が苦しい決断を迫られている。

 首相は先月末、米国発の金融危機が世界に波及したことを「100年に1度の経済の暴風雨」と呼び、年内の衆院解散・総選挙を先送りする方針を打ち出した。「政局より政策」とも言い、緊急経済対策を実施することが何よりも政治の優先課題だと語った。

 ならば、この国会を延長し、緊急の景気対策などを盛り込んだ第2次補正予算案を出すのかと思いきや、政府与党では30日の会期切れで国会を閉じ、来年1月の通常国会で補正予算案を審議するという方向が強まっていた。

 これでは筋が通らないではないか。何のための総選挙先送りだったのか。民主党はそう反発を強めていた。

 きのう、小沢代表と首相の党首会談がきゅうきょ開かれ、民主党側は補正予算案の提出を強く求めた。受け入れなければ、補給支援特措法と金融機能強化法の改正案の参院採決には応じられないと迫った。

 国会を延長させ、麻生政権を追い詰めたいとの狙いがあってのことだ。このままでは国会が立ち往生する恐れが出てきた。

 政府与党内が補正予算案の提出先送りに傾いてきたのは、越年国会を避けたいという思惑があるためだ。参院の主導権を握る民主党など野党が審議を引き延ばせば、補正予算の自然成立に1カ月、関連法案の再可決のためには60日もの日数が必要になり、大幅延長になってしまう。

 自治体に細目を丸投げした定額給付金をめぐる混迷や田母神(たもがみ)前航空幕僚長の論文事件など、野党が政府批判にてぐすねを引いている問題は多い。その一方で、道路特定財源の地方への1兆円振り向けなど、与党内で決着していない問題も少なくない。とても長期の国会審議には耐えられない、という事情が大きいようだ。

 さらに首相は先週、解散・総選挙の来春以降への先送りを示唆した。経済への対応が急務ということもあるが、報道各社の世論調査で内閣支持率の下落が続き、総選挙どころではないとの空気が与党内に広がっているせいでもあるだろう。

 首相には、就任直後から解散をずるずると先送りしてきたツケが次々と降りかかっている。どう打開するつもりなのか、首相の本当の考えを知りたい。経済対策が先なのか、解散先送りの方が大事なのか。国会の機能停止が許容される時ではあるまい。

 それにしても、有権者が聞きたいのは首相と野党第1党の党首との直接討論ではないのか。金融危機への対応や自衛隊の文民統制など重大な問題が噴出している時だ。首相や与党は乗り気なのだから、小沢代表は逃げるべきではない。

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