11/15からジョージ・A・ロメロ監督(以下、ロメロ監督)の新作「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」が公開されている。内容は、山奥でホラー映画を撮影していた学生グループがゾンビの大量発生という極限状況下でカメラを回し続け、「真実」を伝えようとする姿を描いた究極のサバイバル・ムービーだ。
ジョージ・A・ロメロといえば、ゾンビシリーズでホラー映画界に不滅の金字塔を打ち立てた大御所である。本作も当然ゾンビものなのだが、これまでの作品との違いはP.O.V(ポイント・オブ・ビュー=主観撮影)という撮影手法を導入したことだろう。この手法はかつては「ブレアウィッチ・プロジェクト」、最近では「REC/レック」、「クローバーフィールド/HAKAISYA」で用いられたのと同じ手法で、あたかも自分がカメラマンとして現場に居合わせているかのような鳥肌ものの臨場感を体験させてくれる。
ゾンビものと聞いて「そんなスプラッタームービーよりは正統派の人間ドラマがいい」などと勘違いしている方がいるといけないのでロメロ監督について紹介しよう。
ロメロ監督は、最近ウィル・スミス主演で映画化されたSF小説「アイアム・レジェンド」からインスピレーションを得て、1968年に「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」を製作した。これが興行的な失敗とは裏腹にドライブインシアターやテレビの深夜放送でカルト的人気を得る。さらに1978年製作の「ゾンビ」(原題:Dawn of the Dead)が世界中で大ヒットを記録し、ゾンビの産みの親としてホラー映画界における地位を不動のものとした。その後、ホラー映画に限らず社会派作品や恋愛物にも挑戦するが今ひとつ振るわず、1982年、スティーブンキング原作の「クリープショー」で古巣のホラー映画界にカムバックしてからは、1985年に「死霊のえじき」(原題:Land of the Dead)、2005年に「デイ・オブ・ザ・デッド」とゾンビものを織り交ぜながらホラー映画を製作し続けている。
最近では興行的成果に恵まれないロメロ監督だが、彼の描いたゾンビのイメージはスプラッターホラー全盛時代に量産された幾多のホラー映画やテレビゲームに受け継がれ、未だに多くのクリエーターに多大な影響を与え続けている。ホラー映画界の“クロサワ”と呼んでいいほど玄人受けするロメロ監督らしく、まだ売れない頃のタランティーノが履歴書に「ロメロ作品にゾンビ役のエキストラとして出演した」と嘘を書いていたというエピソードもあるほどだ。
このように見てくると、本当にゾンビが好きな監督だと思いがちだが、さにあらず。ロメロ監督は誰もが持っている、エゴ、残忍さ、狡猾さという人間の醜さや、逆に、自己犠牲や死を敬う心といった人間の無垢な精神を余すところなく表現したくてゾンビという極限状況を創り出す舞台装置を用いているに過ぎない。実際、彼の作品は人間や社会を鋭く描く社会派映画なのである。そのことを裏付けるように彼の作品はしばしばホラー映画に好意的でない批評家からも評価されている。そういう意味では彼を単なるホラー映画監督と見なすのは大間違いなのである。
「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」ではゾンビ以上に残忍な人間を描き、「ゾンビ」では命がけでショッピングを楽しむ生存者によって大量消費社会を風刺したロメロ監督が、今作ではどのように人間と現代を描いているか目が離せないところだ。Don’t miss it!!
余談だが、2004年ザック・スナイダー監督は「ゾンビ」のリメイク作品の中で、よろよろ歩きしかできないゾンビに変わって猛ダッシュするゾンビという新たなアイディアを打ち出したが、それを見たロメロ監督は、「走るゾンビは好きじゃない・・・」とこぼしたとか。
(編集部:こてつ)
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