「ケアの連続性」が病院改革のカギ
11月17日に東京都内で開かれた「日米公立病院改革セミナー」(日米文化センター主催)では、日米両国の公立病院改革の現状などについてパネルディスカッションが行われ、全米公立病院協会(NAPH)のラリー・S・ゲージ会長、全国自治体病院協議会の邉見公雄会長、総務省自治財政局地域企業経営企画室の濱田省司室長の3人が意見交換した。この中でゲージ会長は、「(患者の)ケアを途切れさせることなく、病院以外のさまざまな医療機関を統合していく。ケアの連続性が改革のキーポイントだ」と強調した。【今回の関連記事】
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パネルディスカッションでは、邉見会長と濱田室長が日本の公立病院の現状や改革のガイドラインについて説明し、ゲージ会長に意見を求めた。
これに対してゲージ会長は、「米国も平均寿命が延び、少子・高齢化が進んでいる。高齢者の受診率も増えており、必要な医療費を捻出(ねんしゅつ)することが、高齢者の医療改革の焦点になっている」と指摘。さらに「在宅医療や外来ベースのホスピスなど、病院以外の施設を充実させることも重要だ」と述べた。
また、ゲージ会長が「米国のほとんどの大学病院は州立だ」と発言すると、邉見会長が「都道府県立、あるいは市立でやっている日本の医大は、京都府立医科大、大阪市立大、札幌医科大、奈良県立医科大など6大学のみ。自治体の財政が悪化し、私大が公立の医大を買おうとする動きは水面下で進んでいる」と、公立病院の厳しい経営状態を明かした。
■病院にも「トヨタ方式」を
公立病院の改革について、ゲージ会長は「(患者の)ケアを途切れさせることなく、病院以外のさまざまな医療機関を統合していく。ケアの連続性が改革のキーポイントだ」と主張。「(医療機関の)ネットワークがなければ、患者を満足させるサービスは提供できない。一つの病院だけで多様な患者をケアすることは不可能だと思う」との認識を示した。
ネットワークづくりに関しては、「資金面などの問題もあるが、複数の施設を“縦型”に統合することが効率的かつ効果的だ」と説明。ネットワークを構築する際は、「ITを効率的に活用することが、第二の重要なポイントだ。例えば、退院直後の患者のカルテを地域で自由に見ることができなければ、効率的な医療はできないだろう」と述べた。
さらにゲージ会長は、病院改革に伴う医師の再教育についても言及。「ドクターの再教育は、どこの国でも最も困難な課題」とした上で、「改革の際は、ドクターへの金銭的なインセンティブを増やす仕組みも考えなければならない。徹底的に無駄を排除する『トヨタ方式』など、他の分野から学ぶ姿勢も大事だと思う。これまで日本の病院には、そういった柔軟な発想がなかったのではないか」と指摘した。
■シスターも「片手に聖書、片手にそろばん」
パネルディスカッションの司会を務めた日本医業経営コンサルタント協会の盛宮喜編集長は、「米国の宗教系の病院では、多くのシスターが重要なポジションに就いている。彼女たちに話を聞くと、片手に聖書、片手にそろばんを持っている。これには驚いた」と、米国の病院経営者の合理主義について触れた。
公立病院に民間の競争原理が入ることによるモラルハザードについては、「米国は公であろうが民であろうが、民の中の営利であろうが非営利であろうが、やっていることはほとんど同じ。営利と非営利を分けると、営利は金儲けだと思ってしまうが、日本のように区別して考える必要はないだろう」と述べた。
更新:2008/11/18 18:25 キャリアブレイン
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