どうしてこのようにむごい交通犯罪が続くのか。大阪府富田林市で起きたひき逃げ死亡事件である。新聞配達中の16歳の少年が軽ワゴン車にはねられ、6キロ以上引きずられて死亡した。先月21日、JR大阪駅前で30歳の男性会社員が約3キロ引きずられて死亡する事件があったばかり。非道なひき逃げで若い命が続けて奪われたことに強い憤りを感じる。
道路交通法違反(ひき逃げ)と自動車運転過失致死容疑で逮捕された男は「飲酒運転だったので必死で逃げ帰った」と供述している。今年6月にも酒気帯び運転で検挙され、30日間の免許停止処分を受けていた。
大阪駅前のひき逃げでも、容疑者は酒気帯び運転や速度違反を繰り返し、免許取り消し中で「とにかくその場から逃げたかった」と話しているという。「引きずりながら逃げれば被害者が死ぬ」と分かっていたとされ、大阪府警は逮捕容疑に殺人も加えた。今回も殺人容疑で調べるという。
警察庁が06年、ひき逃げの動機を調べたところ「飲酒運転中だったから」が約17%でトップだった。飲酒運転が事故を招き、それを隠すためさらに重大な罪を犯すという因果関係は明らかだ。
大阪の2件とも事故後、すぐに救護措置を取っていれば被害者は助かった可能性が大きいだけに、あまりに身勝手だ。
全国で2万件弱で推移してきたひき逃げ事件が一昨年から減少傾向にある。福岡市で幼児3人が犠牲となった事故を契機に道路交通法が改正され、ひき逃げや酒酔い運転が厳罰化された効果とみられる。死亡ひき逃げの検挙率はほぼ9割を超えている。
だが、いくら厳罰化を進めようとも、飲酒運転の常習者が相手では限度がある。家族や同僚など身近な人が、飲酒常習者に厳しい目を注ぐなど社会全体で監視することも必要だ。
酒酔い運転の場合、違反歴がなければ2年間の免許取り消しだが、酒気帯び運転だと30日間の免許停止ですむ。「飲んだら乗るな」が常識となった時代に不合理ではないか。見直しを考えるべきだ。
国連が定めた「世界道路交通犠牲者の日」(11月第3日曜日)に事故が起きたことがやりきれない。この日に向けて大阪で開かれたシンポジウムでは、道路状況に応じて安全な速度に自動的に制御される「ソフトカー」の普及など、システムとして交通死ゼロを目指す提言もなされた。
免許の有効性を記録したIC免許証を、車の読み取り機にかざさなければ作動しない仕組みも将来的には可能だ。アルコールを検知するとエンジンがかからない技術の開発も進められている。モラルや厳罰化だけでなく、新しいテクノロジーも含め、悪質な交通犯罪の根絶に取り組むべきだ。
毎日新聞 2008年11月18日 東京朝刊