日本の今年7~9月期の実質成長率は前期比0・1%減、年率換算では0・4%減だった。2四半期連続のマイナス成長となり、与謝野馨経済財政担当相は景気が後退局面にあることを公式に認めた。
世界的にもユーロ圏は4~6月期から2四半期連続でマイナス成長に陥っている。米国も7~9月期は前期比・年率でマイナス0・3%となった。先進地域は同時景気後退に見舞われていることが、GDP(国内総生産)統計からも確認された。
これは世界経済の安定的な発展の上からも好ましいことではない。影響は新興国にも徐々に表れている。14、15の両日ワシントンで開かれた主要20カ国・地域による緊急首脳会議(金融サミット)が、財政による内需刺激の必要性で認識が一致したのも、こうした状況を踏まえたからだ。
80年代以降、先進国の間では経済政策における政府の役割は最小限にとどめるべきだとの論調が主流を占めてきた。財政による需要追加は小さな政府に反するという主張だ。緊急サミットは経済を市場にのみ任せるだけでは、複雑な問題の解決は不可能と認めたといっていい。
だからといって、減税でも、公共投資でも実施すれば、直ちに経済が回復するわけではない。どのような財政出動が効果的なのか。
日本の7~9月期の場合、民間最終消費支出(個人消費)は実質、名目とも4~6月期の前期比マイナスからは回復したものの、いずれも0・3%増に過ぎない。所得が伸びていないことが最大の要因だ。企業が勤労者に利益の配分を渋ってきたことの表れだ。
そこで、減税に代表される家計所得の増える施策が浮上する。定額給付金もその一種だが、社会政策なのか、景気対策なのか不明確だ。加えて、所得制限を自治体に丸投げするなど、経済政策の体をなしていない。税制や給付金を用いた所得再配分では、政策目的が明確である上、効果が期待できる手法でなければならない。
では、公共投資はどうみるべきなのか。日本では公共事業は評判が良くない。「土建国家」という言葉に示されているように、建設業界や族議員の食い物にされてきた経緯があるからだ。その意味で公共投資の削減は正しい政策だ。
ただ、高度成長時代に整備した社会インフラの老朽化は放置できない。必要な更新投資は着実にやらなければならない。予算は増やさなくとも、大胆な事業の組み替えや改廃などで、効果の出方は大きくなり得る。
国民的ニーズが高く、需要が今後とも高まることが確実な介護を円滑に進めるため、報酬の引き上げは広い意味での社会資本投資ととらえることができる。有益な公共投資の出番が来ているのだ。
毎日新聞 2008年11月18日 東京朝刊