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空前の大ブームで見えたインプラント(人工歯根)治療の光と影(3) - 08/11/17 | 17:29



 一方、患者もインプラントに対する正確な理解を深める必要がある。

 「セカンドオピニオンを聞きたいという患者に対して、寛大な歯科医」を、「いいインプラント歯科医」に挙げるのは、前田芳信・大阪大学歯学部教授だ。高額な費用がかかり、終了まで長期間のインプラント治療では、治療内容をめぐって患者と歯科医師との間に不信感が生まれることがよくある。歯肉が下がって外から金属が見えたり、かみ合わせがしっくりいかない、インプラントが定着せず、ぐらぐらしたままといったトラブルが起こることがある。また、治療後の管理が不適切で炎症を引き起こしたり、神経を傷つけたために、痛みが引かないこともある。

 その場合、歯科医師との間で信頼関係があればいいが、長く続く治療の中で、信頼関係を維持するのは容易ではない。治療方針をめぐって主治医とけんか別れをした後に、大学病院に行ってインプラントを撤去してもらう患者も少なくないという。こうした事態を招かないためにも、歯科医師選びは極めて重要だ。

 歯科医院側もしっかりした情報開示および顧客対応が必要だ。それができなければ、保険診療ではありえない、高額訴訟などのトラブルを招く可能性がある。 

疲弊する保険診療 足場固めが必要

治療7年後も良好な状態
 「患者側も“デンタルIQ”を高め、日頃から口腔内をしっかりケアする意識が必要だ」というのは、25年のインプラント治療の実績を持つ小林文夫・小林歯科医院(神戸市)院長だ。

 「一般的には半年に1回は検査に行くべき。ケアをおろそかにしたために、感染症を引き起こすこともある。インプラントが必要な人は、残っている歯もきちんと治療しないと、インプラント自体も守れない」と小林院長は指摘する。

 しかし、歯周病の治療をおろそかにしてインプラントを入れたり、内容を確かめずに安さに釣られる人もいる。その場合、質の低い材料の使用などで、いいかげんな治療が行われるおそれもある。

 国の歯科医療政策の見直しも必要だ。歯科医の間でのインプラントブームは、保険診療では経営が成り立ちにくい現実の裏返しでもある。

 前出の小林院長が指摘する。

 「医療保険での治療を正しく行うには、経済的に経費がかかりすぎる。あまりにも治療の代価が低く、1000〜2000円の治療に30分も時間を要することも日常茶飯事。これでは介助につく歯科衛生士や受け付け職員の給与にもならない。入れ歯を作っても、収入の70%が加工費であることは、国民は知らないと思う」

 経営難の出口が見えない中での自費診療の拡大は、一歩間違えば、いいかげんな治療の横行につながりかねない。治療の質とは関係のない、派手なインターネット上の広告や、必要性が乏しい患者へのインプラント治療の実施も問題視されている。ブームだからこそ、しっかりと足場固めをする必要がある。

(週刊東洋経済)
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