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雑誌記事

韓国経済は崩壊寸前だ(1)/三橋貴明(中小企業診断士兼作家)

Voice11月17日(月) 12時36分配信 / 国内 - 政治

◇2次曲線を描くような暴落◇

 韓国経済が、第2次通貨危機の瀬戸際にまで追い込まれている。本原稿を書いているのは10月初旬だが、本稿が掲載される『Voice』が発売されるまで、はたして韓国が第2次通貨危機突入を回避できているかどうか、正直、まったく自信がもてない。

 2007年の秋まで「ウォン高」により輸出企業が苦しめられていた状況から一転、最近の韓国では逆に過度の「ウォン安」が進んでおり、今度は「韓国経済全体」が危機に陥っているのだ。

 韓国ウォンは2007年10月末に瞬間風速で1ドル900ウォンを切るまで上昇し、ウォン高のピークをつけた。その後は一貫して通貨の下落が続いたが、2008年の夏に至るや否や、ウォンはまるで2次曲線を描くような速度で暴落を始めたのである。

 米大手証券会社リーマン・ブラザーズが破綻し、世界的な金融危機とドルの枯渇が拡大した2008年9月には、韓国ウォンはついに1ドル1200ウォンの壁を突破した。

 さらに10月に入るや否や、ウォンの暴落に明らかに加速がかかり、10月8日の終値はなんと1395ウォン。07年10月末のピークから、韓国ウォンは1年もたたずに55%も下落してしまったのだ。尋常な事態ではない。図1のウォンの対米ドル推移のグラフを見ていただければ、現在の韓国に明らかに通貨危機の兆候が見られるのがご理解いただけると思う。

 いまだ韓国当局に若干の余裕があった2008年初めごろは、ウォンの下落は韓国の輸出製造業を潤すため、かえって都合がいい、などという論調が流行っていた。たしかにウォン安により、それまで通貨高に苦しめられていたサムスン電子や現代自動車などの大手輸出企業が救われた面もある。しかしその直後から畳み掛けるように襲い掛かってきたウォンの下落に折からの世界的な資源高の圧力が加わった。韓国の輸入物価が急上昇を始めるに至り、ついに韓国の中央銀行は手持ちのドルでウォンを買う為替介入、いわゆる為替防衛を大っぴらに開始したのであった。

 2008年7月の韓国の輸入物価上昇率は、対前年比で50.6%にも達したが、これは韓国がアジア通貨危機に苦しんでいた1998年2月以来の高水準である。輸入物価が上昇した結果、韓国は輸入金額の増加率が輸出のそれをつねに上回るようになり、恒常的な貿易赤字状態に陥ってしまった。08年の韓国の貿易収支(通関ベース)は、5月を除くすべての月において赤字である。

 中国やドイツのような輸出大国、貿易立国を志していたはずの韓国において、貿易赤字が続いているのである。韓国経済が何らかの構造的な問題、それもきわめて深刻な問題を抱えているのは明らかであろう。

 韓国経済が抱える問題点は、貿易赤字・経常収支赤字やウォン暴落だけではない。たとえば現在の韓国は、外資による直接投資と証券投資の激減という難題も抱えている。

 9月24日の国連貿易開発会議発表の、2008年版『世界投資報告書』によると、07年の外国人投資家による韓国への直接投資額は26億3000万ドル。対前年比で46.1%もの大幅な減少になってしまった。韓国への直接投資額が減少したのは、じつは05年から3年連続である。

 また証券投資に至っては、激減どころか、外国人投資家による韓国株式市場からの売り逃げ、俗にいう「セル・コリア」現象が起きている。アジア通貨危機によりIMF管理下に置かれて以降、韓国の株式市場における外国人投資家の持ち株比率は上昇を続け、2004年には44%にも達した。しかし07年初め以降、外国人投資家は毎月のように韓国株式の売り越しを続け、07年9月には外国人持ち株比率が30%を割るところまで落ち込んでしまったのである。

 韓国への直接投資の減少にせよ、外国人投資家による「セル・コリア」にせよ、韓国ウォンを下落させる一因になっていることはいうまでもない。

 さらに韓国は「純債務国」転落という、厳しく、同時に大きな問題も抱えている。

 韓国は2000年6月以降、一貫して日本と同様に対外債権が対外債務を上回る純債権国だった。だが韓国の経常収支が赤字化した結果、韓国の対外債権は減少し、同時に対外債務の増大が続いた。08年第2四半期末時点における韓国の純債権額は、わずかに27億1000万ドル。第1四半期末と比較して、100億ドルを超える減少である。

 第3四半期末の統計はまだ発表されていないが、韓国は今年の8月、もしくは9月に純債務国に転落した可能性がきわめて高いのだ。

 純債務国ということは、要は海外への借金の額が貸付額よりも多いわけだ。そして韓国の対外債務は、基本的に外貨(とくにドル)建てである。最近の韓国ウォンの暴落は、韓国の対外債務のウォン建て額面を増大させ、韓国を刻一刻とデフォルト(債務不履行)へと追い込みつつあるのである。

 韓国経済が抱える問題、「貿易収支・経常収支の赤字化」「ウォンの暴落」「直接投資・証券投資の激減」「純債務国化」は互いに関連し、マイナスの影響を与え合っている。要は韓国経済は構造的に「悪循環」に嵌まり込んでしまっており、そこから抜け出せずにもがきつづけているのである。

◇「日本頼み」経済構造の末路◇

 一時は飛ぶ鳥を落とす勢いに見えた韓国経済が、なぜかくも惨めな有り様に陥ってしまったのであろうか。筆者はここで、韓国経済の基本構造を解き明かし、なぜ韓国が悪循環に嵌まってしまったのかを解説したい。

 そもそも、韓国経済の特徴を一言で表すと「外需依存国家」となる。

 外需依存ということであれば、日本と同じと思えるかもしれないが、それは大変な誤解である。じつは日本が「外需依存国家」という表現、レッテルは、一部の大手経済紙などが広めたでたらめ、すなわちミスリードなのだ。

 実際の外需依存度、すなわち輸出対GDP比率を見てみると、日本の外需は諸外国に比べてむしろ小さい組に所属する。すでに製造業の多くが衰退してしまったイギリスと比較してさえ、日本の外需依存度は小さいのである(2007年の外需依存度は、日本が15.4%、イギリスが15.9%。図2)。

 世界最大の内需国家であるアメリカに比べれば、たしかに日本の外需依存度は大きい。だが、主要国では外需依存度が下から2番目の日本を「外需依存国家」と呼ぶのは、さすがに無理がある。日本はむしろ、相対的な内需依存国家である。

 それでは韓国はどうかと見てみると、2007年の外需依存度は38.3%。中国(外需依存度37.43%)やドイツ(同40%)などと並び、正真正銘の外需依存国であることがわかる。

 ところが「輸出対GDP比率(外需依存度)」ではなく「貿易黒字対GDP比率」で韓国を他国と比較してみると、きわめて興味深いことがわかる。代表的な外需依存国であるドイツや中国の「貿易黒字対GDP比率」が共に8%を超えているのに対し、韓国はわずかに1.52%と比率が極端に低い。「内需依存国」である日本と比較してさえ、韓国の「貿易黒字対GDP比率」は低いのである(日本の「貿易黒字対GDP比率」は2.4%)。

 先述したとおり、2008年の韓国はほとんどの月で貿易赤字を続けている。今年の韓国の「貿易黒字対GDP比率」はマイナスの領域に落ち込むであろうことが、現時点でほぼ確定的である。「内需依存国家」日本よりも「貿易黒字対GDP比率」が低いのであるから、韓国がいかに効率の悪い貿易をしているか、別の言い方をすれば韓国の輸出産業の付加価値がいかに低いかがわかる。

 基本的に、サムスン電子や現代自動車、現代重工業などに代表される韓国の輸出製造業のビジネスモデルは、「日本部品」のアッセンブル(組み立て)工場である。日本から資本財(鉄鋼材などの原材料や、部品など)の輸入がないことには、韓国の輸出製造業は成り立たない構造になっているのである。

 結果、必然的に韓国は日本に対して毎年、莫大な貿易赤字を献上しつづけている。2007年の韓国の貿易黒字総額1150億ドル程度に対し、対日貿易赤字はなんと299億ドルにも達したのだ。韓国は毎年毎年、懸命に日本に貿易赤字を貢ぎながら、輸出規模から見ると過小ともいえる、わずかな額の貿易黒字を稼ぎつづけていたのである。そして、そのわずかな貿易黒字さえも、08年からは稼げない可能性がきわめて高い。

 アジア通貨危機以前の朴正煕の時代から、この「日本頼み」経済構造については問題視されていた。要は製造業の裾野があまりにも狭すぎ、日本からの資本財輸入なしでは産業が成り立たない構造になっているのである。

 資源国ではない韓国は、対日に加えて中東諸国に対しても大きな貿易赤字を献上しつづけている。原油を全面的に中東からの輸入に頼っている以上、当然ではあるのだが、この歪んだ構造をもつ韓国経済に対し、容赦なく資源高、エネルギー費高騰が襲い掛かってきたわけだ。

 2007年から今年にかけた資源価格や原材料価格の上昇、さらにはサブプライムローン問題に端を発する金融危機により、ウォンの暴落までもが一度に発生してしまった。輸入物価が対前年比で50%を超える上昇を見せるなか、世界的な外需縮小で輸出が頭打ちになってしまった結果、韓国は貿易赤字国に転落したのである。

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  • 最終更新:11月17日(月) 14時17分
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