ワシントンでの金融サミットが共同宣言を提出して閉幕した. 事前の予想通り、実効性のある取り決めはできなかった. 韓国は日中韓の蔵相会談を呼びかけ、通貨スワップ拡充を模索したが、「拡大の可能性を検討する」という声明を出すに止まり、かえって退路を断たれた印象だ.
▼ 大山鳴動してサルコジ憮然
この金融サミットの最後の首脳記念撮影で、サルコジは憮然とした表情をしていたのが印象に残った. もともと、この金融サミットは、EUが世界の通貨体制や金融規制の主導権を握ろうとして、開催の画策に尽力して実現したものだ. サルコジはASEMで胡錦濤国家主席に媚を売ったり、任期切れの近いBush大統領を焚きつけたりして、主導権確保に躍起となっていた.
しかし、ASEMのときには、日本が中印両国と直前に首脳会談をおこない、すでにドル基軸維持で根回しを完了させて、サルコジの顔に泥を塗った.
【短信 ASEMとドル基軸性】
http://green.ap.teacup.com/kyusiro/437.html
前回の記事配信時点では、中国の公式態度が未定であったが、いまやドル基軸維持の側にまわり、日本と利害を同じくしていることは自明である. なお、韓国はキャピタルフライトとドル確保困難に遭遇していることから、ドル基軸性に反対であったことは既に何度も解説した. しかし、FRBとの通貨スワップ300億ドル確保と交換条件にドル基軸性に賛成させられたのだ. 事実、李明博大統領は、通貨スワップ対象となる前までは、新しい通貨体制に賛意を示す発言をしていたが、スワップ枠を獲得してからは、完全にトーンダウンして、新通貨体制への言及を避けている.
この金融サミットではドル基軸維持勢力と反対勢力の間で強力な駆け引きが演じられたが、韓国のように「通貨スワップ対象化」によって懐柔されたサミット参加新興国が多数存在し、ドル基軸維持勢力の圧勝となった.
もとより日本、中国、インドなどはドル基軸維持の方が国益に合致しており、EUの主張と戦略は最初から無理があった. それにもかかわらず、サルコジが無駄なパフォーマンスを演じていたのは滑稽だ. 小生は、サルコジが「自己愛性人格障害」ではないかと疑っている.
この男は、日本が次回サミット開催を模索していることを知った上で、こんな発言をしている.
仏大統領、金融サミット「次回会合はロンドンを提案」
【ワシントン=野見山祐史】緊急首脳会合(金融サミット)の閉幕を受け、サルコジ仏大統領が15日午後記者会見した。大統領は「次回会合を3月末から4月初めにかけて英ロンドンで開くことを提案した」と述べた。同大統領は「次のG20の議長国が英国である」ことを挙げ、欧州で開くのが望ましいとの考えを示した(NIKKEI)
少なくとも、アジアはドル基軸維持で結束しており、EUとは相いれない. そのため次回は欧州で開催して、議論の主導権を握り、何とか流れを変えたいのであろう. 今回のサミットで唯一の成果と言えるのが、ロシアの軟化である.
オバマ氏の大統領就任で米ロ関係改善に期待=ロシア大統領
[ワシントン 15日 ロイター] ロシアのメドベージェフ大統領は15日、オバマ次期大統領なら米ロ関係の修復が可能かもしれない、との期待を表明した。
両国関係は、ロシアによるグルジアでの軍事行動や、米国の東欧へのミサイル防衛(MD)施設建設問題で悪化している。
メドベージェフ大統領は、ロシアはミサイル防衛問題で妥協の用意があることを明確にするとともに、軍事的な反応は控えると約束した。
「米ロ関係には必要な相互信頼が欠如している。米国の新政権誕生に期待を持っている」と述べた。
EUとロシアはグルジア問題以来ぎくしゃくしていたが、協力関係が再開した模様である. EUとロシアの一体化が進めば、時代は米欧対立となる. EUとロシアが蜜月になるほど、英国の地盤沈下が進むのだが、この金融危機に際して英国がどのような世界戦略を描いているか、今一つ不透明である.
英国のブラウン首相は、サルコジ主導の新ブレトンウッズ構想に当初は冷ややかな対応をとっていたが、途中から猛然と外交活動を開始した. もともと金融危機への対応を巡るEU域内の会合では、英国の猛反対で協調行動がとれなかった経緯がある.
10月4日の欧州緊急首脳会談では、英国と大陸派である仏伊の対立が埋まらず、何も合意できなった. このときサルコジやイタリアのベルルスコーニが日米の選挙を引き合いに出して八つ当たりしたことは記憶に新しい.
金融危機、欧州統合に微妙な影響
2008.10.5 20:40
【ベルリン=黒沢潤】欧州を襲う金融危機が欧州統合に微妙な影を落としている。一連の危機への対応をめぐって、ドイツやフランスなど欧州連合(EU)の主要国が激しく対立、EUが財政分野で各国に厳しく課してきた規制も事実上、棚上げされることが決まったからだ。
パリで4日に行われた欧州4カ国(英独仏伊)の緊急首脳会議では、各国が「あらゆる措置」を講じることで一致した。しかし、経営危機に陥る欧州内の金融機関を救済する「銀行救済基金」創設を打ち出すには至らなかった。
独メディアによれば、基金の創設構想は当初、オランダから持ち掛けられたEU議長国のフランスが先週ごろから、各国に実現を働き掛けてきた。だが、金融分野での主導権をEU本部に握られることを伝統的に嫌うドイツは、「救済基金の創設は良いことなどではない」(独財務省報道官)と反発した。この発言の背景には、救済基金が創設された場合、経済規模が欧州最大であるドイツが、多額の負担を強いられるなどの事情があったとみられる。
市場重視派のブラウン首相が最近、市場介入容認へとかじを切った英国も、「納税者の税金を使うのだから、国家が個別に独自の解決策を取るべきだ」(英首相府報道官)と主張。フランスと、独英2カ国の温度差が浮き彫りとなった。この差は4カ国首脳会議でも容易に埋まらなかった
同会議では一方、欧州単一通貨ユーロを導入する各国の財政規律を定める「安定成長協定」の棚上げも事実上、容認された。同協定は、各国が財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以下におさめると定めたものだ。経済危機を封じ込めるためとはいえ、各国の公的支出が今後、膨らみ続ける可能性は否定できず、EUが最終的に目指す経済政策の統一が足踏みする形となった。
今回の経済・金融危機について、2日付の仏紙ルモンドは「危機にあるのは、金融機関という以上に欧州統合そのものだ」と指摘、欧州統合への影響を懸念する見方も浮上している(産経新聞より引用)
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/081005/erp0810052045004-n1.htm
実は、サルコジとブラウンのパフォーマンス的外交は、このEU域内の不一致の延長線上にある. EU域内の対立を世界に持ち込んでいるのだ.
EU域内で規制派と市場派の対立
↓
アジアや新興国の取り込み工作(ASEMなど)
↓
取り込み合戦後にG20金融サミット
↓
対立構造が持ち込まれ何も決まらず
この流れから、ブラウンは当初から金融サミットの攪乱を狙い、結局は何も決まらないようにすること(すなわち現体制が維持される)を狙っていたのではないかと考えられる. ブラジルや韓国のような新興国は、通貨スワップの拡充によって懐柔された. そして日中印はドル基軸維持で一致している.
金融危機:ドル基軸維持 日英首相が同意
【ワシントン高塚保】麻生太郎首相は14日、第1回緊急首脳会議(金融サミット)出席のため訪問中のワシントンで、イギリスのブラウン首相、ブラジルのルラ大統領、インドネシアのユドヨノ大統領と個別に会談した。麻生首相は金融サミットの開幕を前に、3首脳と金融危機に対する国際的な取り組みについて意見交換した。
麻生首相は、ブラウン首相との会談で「ドルを基軸とする通貨制度を維持すると共に、金融商品の規制を自由市場の原則に反しない形で行うことが必要だ」と表明、ブラウン首相も同意した。
ルラ大統領は「国際通貨基金(IMF)と世銀のあり方を見直し、より多くの国がこれら機関の決定に参加することが重要だ」と指摘。麻生首相は「世界の現状を反映したIMFの見直しが必要だ」と応じた。ユドヨノ大統領とは、金融危機の実体経済の影響がアジアでも出始めていることから、地域として協力して対処していくことで一致した(毎日新聞より引用)
今回の金融サミットでの議論は、いつのまにか「規制」から「財政出動」にすり替わっていた感がある. 英国は対外債務が少なく、財政も比較的良好であるため、財政出動による景気対策は国益に合致しているし、そもそも国際通貨体制や金融規制の場で財政出動論議すること自体が政治駆け引きだ. この構造はしばらく変わらないであろう. 次期オバマ政権がどういうスタンスをとるかも見どころであるが、米国の国益上は、ドル基軸を維持したほうが有利であるのは変わりない.
田中氏はBush政権が隠れ多極主義と主張しているが、通貨スワップ対象国を拡大して、ドル基軸維持勢力を取り込み、現体制の延長を画策した事実をどう説明するのか?
Bushが本当に隠れ多極主義なら、通貨スワップなど拡大せずに、ドル離れと新通貨体制移行を後押ししたはずだ.
▼ 退路の断たれた韓国
G20にあわせて、ワシントンで日中韓3カ国財務相会談を開いた. 韓国がドルの確保を目指して、日中の外準を狙っていることは周知のとおりである.
日中韓、通貨融通拡充を議論 財務相会合
日本、中国、韓国の3カ国は14日、金融サミットに合わせて財務相会合を開いた。1997年に起きたアジア通貨危機のような急激な通貨下落や資金流出に備えるため3カ国間の通貨交換(スワップ)協定の拡大策を検討することで一致した。金融・経済危機の打開に向け、協調して取り組む方針も確認した。
会合には日本から中川昭一財務相が出席。手持ちのドルや自国通貨を相手国の通貨と交換して融通しあう通貨スワップ協定の拡充を協議した。金融危機を受けて韓国の通貨ウォンの下落が続き、同国中央銀行はウォン買い・ドル売り介入を繰り返している。外貨準備が急減したため、韓国側は日本や中国に通貨スワップ協定の枠拡大を求めたとみられる。
財政政策面での協調も討議。日本は2兆円の定額給付金を含む総事業規模27兆円の追加経済対策、中国は9日に発表した総投資額4兆元(約57兆円)の景気刺激策について説明したもようだ。(NIKKEI)
この記事によると「拡大策を検討することで一致した」のであり、文脈からは「検討するだけ」とも受け取れる内容だ. この日中韓通貨スワップ協定拡大は、韓国が以前から主張している内容で、日本側のみならず、中国も拒否し続けている. 日本はIMFの強化を主張しているわけであり、これは2国間協定とは相容れるものではなく、事実、日本は外準の10兆円を融資すると表明している.
そして、日本の10兆円融資とIM強化策は、世界から称賛の言葉を浴びた. ここに韓国がツケ入る隙はない. 中国はIMFへの融資増大に対して態度を明確にしていない.
首相「歴史的なサミット」 中国のIMF資金支援に期待
【ワシントン=中山真】訪米中の麻生太郎首相は15日(日本時間16日午前)、ワシントン市内で記者会見し、同日に閉幕した緊急首脳会合(金融サミット)について「今回の会合は歴史的なものだったと後世言われるだろう」と成果を強調した。そのうえで「新しい世界経済と金融に対応した国際的なシステムの実現に向けて日本として引き続きリーダーシップを発揮していきたい」と訴えた。
また中国が国際通貨基金(IMF)への資金支援を金融サミットで表明しなかったことについて「中国はみんなの前でその種の発言はしたことはない。持ち帰って協議のうえで返事をする」と述べ、今後の支援に期待感を表明した(NIKKEI)
もし中国がIMF強化に賛同して融資枠(出資)を増やしたら、韓国は退路を断たれて、IMF申請以外に道がなくなる. そして、その可能性は高い. 李大統領も、いよいよ決断する時期であろう.
▼ 11月17日 月曜日のマーケットは要注意
今回の金融サミットは、当初の予想どおり、何も実効的なことが決まらなかった. この流れを見て、週明けのマーケットがどう反応するか懸念がある. IMFを強化するということは、これからIMFの世話になる国が増えることと、無理に延命させずに積極的に「IMFで救済」することを意味するからだ.