雑誌記事韓国経済は崩壊寸前だ(2)/三橋貴明(中小企業診断士兼作家)Voice11月17日(月) 12時36分配信 / 国内 - 政治◇バブルにすぎなかったウォン高◇ ところで、貿易収支は経常収支の1項目である。経常収支は4つの項目から成り立っているが、残りの3つ、貿易収支以外の3つの収支をご存じだろうか。 正解は「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」である。韓国は海外旅行や留学などの収支であるサービス収支が毎年大赤字を繰り返し、経常収支の足を引っ張りつづけてきた。また韓国は海外への配当金や利払いが多いため、所得収支もけっして良好とはいえず、さらに海外送金(留学している家族などへの)が膨れ上がった結果、経常移転収支までも赤字から抜けられない状況にあった(図3)。 この状況で貿易収支までもが急速に悪化したわけであるから、韓国の経常収支全体が一気に赤字化したのも当たり前である。そして経常収支が赤字化した結果、対外債権の減少が始まり、ついに韓国は純債務国に転落してしまったのだ。 また、経常収支が赤字ということは、海外からの収入よりも、海外への支払いが多いことを意味する。海外への支払いが多ければ、それだけ多くのウォンがドルに両替されることになる。韓国ウォンの下落に拍車が掛かっても、むしろ当たり前の話なのだ。 前述したように、韓国ウォンの下落は輸入物価を高騰させ、貿易収支の赤字を悪化させる。そして貿易収支の赤字が拡大すれば、それだけ海外への支払いが膨らみ、ウォンの下落が加速していく。 見事なまでの、悪循環である。 ところで、経常収支悪化などを主因とする韓国の通貨下落が顕著になったのは、2008年に入ってからであるが、経常収支そのものは2006年前半から月によっては赤字化していた。韓国は06年、07年と2年連続で、上半期の経常収支赤字を下半期に挽回することを繰り返していたのである。 ところが経常収支の赤字が続いていた06年上半期、07年上半期においても、韓国ウォンはほぼ一貫して上昇を続けていたのだ。また、同時期に韓国国内では株式バブルと不動産バブルが発生していた。通貨が上昇し、株式や不動産価格が高騰しているのであるから、この時期の韓国は一見、景気が良いように見えた。これはいったい、なぜだろうか? じつは、この時期はいまだ世界的な金融バブルの真っ最中で、韓国に対しても膨大な投機マネー、フェイクマネー(レバレッジにより膨らまされた架空のマネー)が流れ込んでいたのだ。海外からなだれ込んだマネーはウォンの需要を拡大し、歪んだ通貨高を引き起こした。そしてウォンに両替されたマネーが株式市場と不動産市場に流れ込み、バブルを引き起こしていただけなのである。 これはなにも韓国だけの問題ではなく、世界の新興経済諸国の多くに見られた現象である。 要するに韓国の07年までのウォン高は、必ずしも韓国の経済が好調だったためではなく、海外からの投機マネーに依存するところが多かったのである。その後はご存じのとおり、07年夏にサブプライムローン関連の株式・不動産バブルが世界各国で破裂し、世界的な金融収縮が起きた。 韓国に投下されていた投機マネーについても、一斉に引き揚げが始まった。これが先述の韓国への直接投資と証券投資の激減につながるわけである。 韓国からのマネーの引き揚げは、ドルなどの外貨への需要を高め、ウォン安の一因となる。韓国の現在のウォン安には、経常収支赤字拡大、貿易収支赤字化のみならず、世界的な金融危機も大きく影響しているのだ。 ◇自らを「貧しく」できるか◇ 今後、韓国ウォンがどこまで下落していくかは誰にも予想がつかないが、1つだけ確実なことがある。 それは、現在の韓国の経済構造では、世界的な金融収縮を潜り抜けられないのはもちろん、それ以降の世界においても順調な経済成長路線など望めないということだ。 なぜならば、韓国は「日本の資本財依存」「日本部品のアッセンブル工場」という構造的な問題を抱えているのに加え、ここ数年の国内の人件費高騰により、かつては持ち合わせていた「安価」という競争力までをも失ってしまったからである。 暴力的な労働組合が跋扈し、暴動じみた労働争議が相次いだ結果、最近の韓国の人件費は留まるところを知らないように急騰を続けていた。いまや韓国の大手企業の初任給は、日本大手企業のそれをも上回るのである。むろん、韓国の国民所得はいまだに日本の半分以下であるから、これがいかに異常な事態であるか、おわかりいただけると思う。 韓国経済は21世紀初頭の数年間で、自らの競争力の根源を、1つ、また1つと失っていった。結果的に、韓国で生み出される付加価値が激減し、貿易収支までもが赤字化した状態でサブプライムローン問題に端を発する金融危機、世界的な需要の収縮を迎える羽目になったのである。 もはや経済成長以前に、通貨危機の可能性さえも差し迫る状況にもかかわらず、2008年9月末、李明博大統領が率いる韓国政府は「2012年に経済成長率が7%に高まる」などという見通しを発表した。正直、国家としての競争力を失ってしまった韓国が年に7%経済成長するなど、通貨危機によりGDPが激減したあとでもなければ、ちょっと考えられない。 2008年10月に入り、ようやく事態をのみ込めたと見え、第2次通貨危機に怯える韓国当局が、いきなりドルの確保に血眼になりはじめた。 外貨準備高が枯渇したのか、あるいは手持ちの外貨を使用したくないのかは不明だが、韓国政府は民間の大手輸出企業に対し、いきなり各企業の手持ちのドルを為替市場で売却するように要請した。また与党ハンナラ党のパク・ヒテ代表は、韓国国民にドルを提供させるために「金庫や箪笥のなかにあるドルを差し出すことが、愛国心の発揮につながる」と発言している。 まさに1997年の再来である。 先述したように、現在進行形で拡大する金融危機やドル枯渇の猛威を潜り抜けたとしても、韓国経済が順調に経済成長していくことは、いまとなってはほぼ不可能だ。韓国が経常収支赤字と対外債務を積み上げ、ウォン下落により輸入物価が押し上げられ、物価上昇が貿易収支赤字を拡大し、さらなる経常収支の赤字拡大を招く悪循環から抜け出せない以上、当然である。 逆にいえば、この悪循環を断ち切ることさえできれば、韓国経済は危機から脱することも可能となる。 そのためには大幅なウォン安を許容し、国内の給与水準を下げることで人件費を大幅に削減し、輸出製造業の競争力を回復させるしかない。韓国国内の最大の問題ともいえる人件費高騰が解消されれば、韓国への直接投資も、増加基調を取り戻せるかもしれない。 輸出製造業の競争力を回復させると同時に、外貨浪費の最大の原因である海外旅行や海外留学を制限する必要がある。さらに国民生活を豊かにする奢侈品の輸入を減らし、貿易収支を黒字化させる、一種の「重商主義」的な戦略を採ることが望ましい。 海外旅行・留学が減少することでサービス収支の赤字が縮小し、貿易収支が黒字路線を回復すれば、韓国の経常収支全体が黒字化する。経常収支を黒字化することができれば、いずれ純債務国から脱することも叶うだろう。 しかしウォンの大幅な下落は、むろん国内のインフレーションを悪化させる。物価上昇のなかで労働者の給与水準を下げるのであるから、韓国の社会情勢は不安定にならざるをえないであろう。 要するに韓国経済への処方箋は、韓国国民に対し、自分たちの生活レベルを下げ、より「貧しく」なることを求めるのである。中国や東南アジア諸国など、より人件費の安い国から激しい追い上げを食らっているにもかかわらず、自国技術がまったく育っていない以上、韓国の選択肢は残念ながら他にありえない。 だが、いくら国家経済の危機とはいえ、自分たちに「貧しくなれ」という施策を「あの」激しい気性の韓国人たちが、はたして素直に受け入れるだろうか。筆者には、甚だしく疑問に思えるのである。 ※図は割愛させていただきます。 【関連記事】 ・ 海外進出・絶好のチャンス 松本大×伊藤元重 ・ 経済対策「3つのシナリオ」竹中平蔵 ・ 消費税アップは当たり前 藤巻健史 ・ クルーグマンの景気回復対策 山形浩生 ・ 麻生流・経済プランを斬る リチャード・クー
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