アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
世界経済の8割余を構成する20カ国・地域(G20)の首脳がワシントンに集まり、金融危機と世界同時不況を克服する打開策を話し合った。
地球規模で広がる危機には、これまで世界を率いてきた主要8カ国(G8)だけでは対処できない。急速に力を蓄えてきた新興国や中進国も加えた枠組みで事に当たるためだ。
議長のブッシュ米大統領が読み上げた共同宣言は、危機の原因について「いくつかの先進国の当局はリスクを適切に評価せず、金融の技術革新についていけなかった」と総括した。
そのうえで、国際通貨基金(IMF)と世界銀行の強化や、国境を越えて活動する金融機関に監督と規制を行き渡らせる、といった原則的な方針を確認した。
各国の主張をまんべんなく並べた観も強い。だが、危機拡大の回避と再発の防止へ向け、ひとまず歩を進めたといえよう。来年4月末までに2回目のサミットを開くことも約束した。
今度の会議は失敗が許されないものだった。米国で出火した金融の大混乱が世界不況へと延焼し始めた。20カ国・地域もの首脳が集まってこれといった成果も出せなければ、市場に与える失望とショックは計り知れない。
■IMF拡充を早期に
振り返れば、世界大恐慌のさなかの1933年にロンドンで開かれた世界経済会議には66カ国の代表が集まった。不況打開への処方箋(しょほうせん)が討議され、世界中の期待が高まった。
ところが、会議は延々と続き、貿易や通貨の問題で紛糾するばかり。めぼしい成果もなく休会となってしまった。世界はその後、分裂とブロック経済化への道を歩み、そのあげくが、あの第2次世界大戦だった。
今回のG20サミットが、75年前のロンドンの再現とならず、とにかく合意できる最大公約数だけでも世界へ示すことができた意義は大きい。
ただ、各国の考え方に隔たりのある課題も少なくない。G20がこれから国際協調に欠かせない枠組みとなるかどうかは、この点の克服にかかっていることを押さえておきたい。
具体策づくりは財務相以下の実務者に委ねられたが、なかでも、IMF改革はまず急がねばならない。現在2千億ドルある融資枠の大幅な拡充案のほか、3200億ドルの出資を倍増させる案も出ている。世界的にマネーが収縮するなか、中小国が取り残されて資金繰りに窮しないようにするために、強化を急ぐ必要がある。
麻生首相は融資枠の拡大のため、外貨準備から最大1千億ドルを拠出する用意があると表明した。中国やサウジアラビアなど外貨準備の豊富な国の協力も早急に引き出すべく、外交に汗をかいてもらいたい。
また実際にIMFが支援する段になると、融資条件などをめぐって利害が対立することも予想される。関係国は危機拡大の防止を最優先にして、現実的に対応してほしい。
■規制強化は固まった
第2次大戦後の長い間、米国が主導してきたIMF体制に新興国や中進国の声を反映させるのは、主導権争いがからむので難問だ。だが、新興国には外貨準備を政府系ファンドに回して世界へ投資するなど、余力のある国が増えている。これらの国々に国際機関への門戸を開き、国際社会での責任をもっと分かち合うべき時代に来ていることは、米国も否定できまい。
もうひとつ大きな課題は、国際的な金融監督・規制の立て直しだ。国境を越えて活動する金融機関を監視する枠組みづくりなどで合意したが、その具体策では先進国間にも意見の違いがある。例えば、世界的な監督機関の創設といった規制強化を指向するフランスなどの欧州勢と、なお自由な市場を原則としたい米国との対立だ。
とはいえ、「我々の金融システムを21世紀の現実に適応させる」とブッシュ米大統領も強調した。規制・監督の強化へ大きく方向転換することは、すでに固まっている。危機の鎮火に努めつつ、再発防止は腰を据えて議論していくことが大切ではないか。
世界的な危機が起きるたびに、新たな国際的な枠組みがつくられてきた。第1次石油ショック後の1975年には、第1回の先進国首脳会議がフランスのランブイエで開かれた。この体制が長く続き、90年代にはロシアが参加して現在のG8へ発展した。
■アジアの成長に期待
そしてG20である。活力の衰えた先進国は、新興国の成長力に不況脱出への助力を期待せざるをえない。
それは「米国一極支配」が決定的に転換することにも重なる。米国は冷戦終結後、突出した軍事力と、情報技術や金融をテコにした経済力で世界をリードしてきた。それがイラク侵攻でのつまずきと金融危機で崩れつつある。世界秩序の動揺を乗り切るため登場したのがG20体制だといえよう。
新しい世界像がどうなるか、まだ誰も描けない。それを組み直す作業は、オバマ新米大統領が就任してからG20の間で本格化するだろう。
米国は世界中から製品を買い入れ、世界の需要を支えてきた。その穴埋めに最も期待されているのは、中国を中心とするアジアの成長力だ。日本自らを含め、アジアを再び成長軌道に乗せることが世界に対する貢献となる。