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【静岡】

富士宮市立病院の情報公開で訴訟 ワクチン価格の開示めぐり

2008年11月17日

富士宮市立病院のワクチンの納入単価などが黒く塗られて公開された請求書

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 富士宮市立病院が仕入れたインフルエンザなどのワクチンの納入単価の情報公開をめぐり、市と市内の男性が裁判で争っている。原告の男性側が「公金支出の監視ができない」と市側の非開示を不当と主張すれば、市側は「薬品類を安く仕入れられなくなる」と経営への影響を盾に反論する。市立病院という公営企業の経営努力と、「原則公開」の情報公開制度の理念がせめぎ合っている。 (富士通信部・林啓太)

 問題の公文書は、病院が2006年度に購入したワクチンの請求書。行政書士の川上佳一さん(37)=同市泉町=の請求に対し、市は07年12月、ワクチンの納入単価や請求金額、納入業者の名称などを黒塗りにして開示。川上さんは08年1月、市に非開示部分の公開を求めて静岡地裁に提訴した。

 市は、非開示の理由を「納入単価や業者などを公表したら、複数の業者を競わせる値引き交渉が難しくなる」と主張する。市の情報公開条例は「経営上の正当な利益を害するおそれ」などがあれば非開示にできるとしており、その規定に該当するとの考え方だ。

 病院が06年度に購入した薬品の定価に対する値引き率は12・05%。全国の自治体病院の平均より、3・65ポイント安く買っていることになる。同年度の医業収益は1億2821万円で、県内22の公立病院のうち唯一の黒字だったが、木村泰三院長は「全面開示すれば、他の病院が業者に富士宮市立病院並みの値引きを求めることになりかねない。結果的に市立病院の購入価格が上がり、市民に損害を与える」と経営への影響を危ぶむ。

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 一方、川上さんは「納入価格が非開示では、公金の支出を監視できない」と反論。「県立総合病院も当初、医薬品の単価を非開示としたが、知事が『病院経営に支障が出るおそれはない』として決定を取り消した」とも訴える。

 さらに、訴訟と並行して川上さんが審査を求めていた市情報公開審査会は先月、非開示部分の開示を妥当と答申した。それでも市側は、経営への影響を理由に、答申に従わない意向を示している。

 ワクチンの使用実態について調査している川上さんは「これまで約150の国公立病院で開示請求しているが、審査会の判断を無視したのは富士宮市立病院だけだ」と憤る。

 特定非営利活動法人(NPO法人)情報公開クリアリングハウス(東京都)の01年度の全国調査では、審査会の答申があった839件のうち、自治体が全く従わなかったのは1%に満たない7件。富士宮市のようなケースはまれだ。

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 全国市民オンブズマン連絡会議(名古屋市)の新海聡弁護士は「単なる納入価格の公表に『正当な利益を害するおそれ』はない。情報公開の仕組みを理解できない行政機関が近年、増えている」と警鐘を鳴らす。

 公営企業は原則として、自治体の首長が管理者を任命するが、静岡県立大の小山秀夫教授(医療・病院管理学)は、富士宮市立病院が市長を管理者としていることを指摘。「企業としての効率的な経営と、(情報公開のような)公益の両方に責任を負う立場にある」として、裁判所の判断に注目している。

 裁判は、今月14日の口頭弁論で市側が申請した病院職員2人と薬品会社社員の証人尋問を却下、結審した。判決は来年2月27日。

 

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