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文部科学省の意向を受けた北九州市教育委員会の
「いじめ問題総点検」実施の責任を問う申し入れ【ニュース映像】

 
 
                             
2006年11月28日

北九州市教育委員会
教育長 大庭 清明 様
委員長 川原 房栄 様

   
北九州がっこうユニオン・うい

執行委員長 石尾 勝彦


文部科学省の意向を受けた北九州市教育委員会の
       「いじめ問題総点検」実施の責任を問う申し入れ


   ―「不当な支配」の蔓延した教育行政から生まれた教育現場の荒廃―

学校現場で日常的に起こっていると言える「いじめ」の責任は果たしてどこに、誰にあるのだろうか。また、子ども同士の「いじめ」とは彼らにとってどういうものであり、それは、大人の手によって「撲滅」という形で片付けられるものなのだろうか。今や、教育論すら成立しない社会、そして学校現場ではそういった議論をしながら試行錯誤することすら不可能になっているのではないだろうか。

私たち北九州がっこうユニオン・うい組合員は、曲がりなりにも20年前後を北九州市の学校現場で日々働いてきた。私たちは現場から、いまのエキセントリックに徘徊する「いじめ撲滅ファシズム」について冷静な見解と社会への主張をしていきたい。そして、大人としてとるべき責任と追及すべき責任を明確することで、今回の「校長の自殺」という象徴的な事件と向き合っていく必要を強く感じている。(ただし、校長の「自殺」についても今回の事件が希有なことでとりわけ重要であるといったスタンスにはない。しかし、校長が死に至った経緯・理由についての冷静な客観的分析をできうる限り行うことによってしか、二度と繰り返さないといった言葉は絵空事となると考える)

1.なぜ今、「いじめ」調査(いじめ問題総点検)なのか

9月26日に首相が指名され秋の臨時国会が始まった。この国会で安部首相の「悲願」は教育基本法の「改正」であるとし、ひたすらその「改正」案の可決に向けてなりふり構わず突っ走ろうとしていた。今、私たちが結論を先取りするとすれば、この間の「高校世界史履修問題」と「いじめ問題」の報道から見れば、政府与党による教育基本法「改正」への道への先鞭としてなされたと言えよう。ここでは履修問題は置き、「いじめ」報道のみ論ずる。

今年10月1日に北海道滝川市の「いじめ自殺」事件の報道が発端であっただろうか。1年前の事件を今更のように教育委員会が「いじめ」と認めたという異例の「謝罪」会見であった。その直後の10月11日に福岡県筑前町でのいじめによるとされた子どもの自殺が報道された。この報道を機に、文部科学省へのいじめ調査の実態がクローズアップされ、いじめによる自殺が各都道府県教委から一件もあがっていないことが問題視された。文部科学省は16日には、全国の小・中・高校対象に緊急調査の方針を決めた。そして、「いじめ自殺」探しとその責任追及が始まった。

さらには、10月10日に閣議決定され18日にスタートした「教育再生会議」という名の首相の私的諮問機関の一員となった横浜市教育委員義家弘介(室長)、文部科学省政務官小渕優子などが政府を代表して、福岡県の筑前町を現地調査と言う名目で訪れたことも大きく報道された。この意味不明の「教育再生会議」が今、教育基本法が「改正」されようとする時期に独自の動きを開始し、教育現場の荒廃といったものを「指摘」し始めたのだ。各都道府県、市町村教委、ひいては学校現場に追い打ちをかけるように10月19日には文部省は全国の教育委員会の生徒指導担当課長を集めた緊急連絡会を行っている。

そして、10月30日国会では、その「改正」案が衆院特別委員会で審議入りしたが、その中身と言えば野党も与党も法案審議の内容にはほど遠い議論に終始している。そしてその日、北九州市教育委員会は、全市の校長を臨時校長会議として招集し、本「いじめ問題総点検の実施について」との「お達し」をなすことになる。大庭清明教育長による不祥事についてのお小言の後、指導部からの話であったという。(詳細は不明)校長らは現場へ戻り、11月下旬から12月上旬を目途に保護者・子ども全員への家庭訪問や面談の実施という「お達し」を教員へ伝え早速実施する方向で動こうとしたのである。翌日、多くの朝刊がこの取り組みを報道し、毎日新聞に至っては一面記事であった。「総点検」の取り組みをすることが「よいこと」を前提とする報道は、校長らへさらなる圧力をかけた。


2.文部科学省そして教育委員会による「不当な支配」

「いじめ」が権力関係に基づくものでないとすれば、それは人間関係の手段にも近いコミュニケーション的意味合いすら存在するだろう。単純に子どもが集団になれば、「いじめ」は起こりうる。そんな「いじめ」問題は日常である。今始まったことでないことは明らかだ。教師の仕事かどうかについては別途論ずるとして、少なくとも学校という空間で起こりうる「いじめ」について、担当の教員は何某かの責任を負わされる。そんなことも現場では重々承知であり日常である。

今回の「総点検」的取り組みの実施が、果たしてどのような意味があり、その効果をもたらすのかについて首をかしげたのは、そういった教員たちのほぼ全員であろう。日頃は授業数の確保に余念のない中学校現場であるが、授業をカットして午後を懇談会に当てたところも多いようだが、咄嗟に胸をよぎるのは「帰した子どもたちが何をするか分からない」とうことである。一方、特に心配なく過ごしていた保護者さえいたずらに不安を煽られ、ひたすら「何か問題はないのか」と担任に訴えるなどの傾向も生じている。これらは現場感覚のほんの一例であるが、目の前の40人近くの子どもたちを毎日朝から晩までみている教員の感覚を無視したこの取り組みに、害こそあれ何らの決定的な策であろうはずがない。一教員は、子どもの顔を浮かべながら、リアルタイムでその子どもたちのおかれた環境、心境などとつきあっている。

この文部科学省から下りてきた愚作を徹底することが、教育への「不当な支配」(教育基本法10条1項)でなくて何であろうか。


3.なぜ校長は「自殺」したのか

教育基本法の「改正」を最終重要課題とした国会開催、そして北海道のいじめ事件の報道を発端にしたここまでの過程で、メディアは全国津々浦々の「いじめ」に関する事件を報道するかのような勢いで「自殺」を伴う事件についてつぶさに報道した。全国区でまたワイドショーでと、その報道の異常さはエスカレートし、視聴者は毎日の「いじめ」「自殺」報道に嫌気を感じながらも、教育現場の荒廃と保護者であれば我が子への不安などをあおられた。

11月11日、北九州市立小学校での「金銭トラブル」を「いじめ」として教育委員会に報告していなかったとして、校長と教育長が謝罪会見を行った。校長はカメラの前で言葉少なに、だが誠実に、自分の「怠慢」を陳謝した。その後、教育長が「校長にいじめととらえる感性がなかった」と校長の責任を問う会見をした。翌日、校長は朝から姿をみせず午後には遺体で発見された。学習発表会の予定された日曜日で、始業前に職員会議が予定されていたがその場に現れないままの死となった。教育長が校長の死をうけて、また謝罪会見を行った。しかし、教育長など何ら知りもしない学校での実態は翌日の通夜での保護者などの声に現れ、校長の誠実な対応が明らかになった。そもそも、校外での子ども同士の金銭トラブルであり、校長は真摯に対応を重ね、教育委員会へも再三報告をあげてきたが、スムーズな解決はみられないまま警察への被害届という処理がなされてもいた。事件がメディアの手に渡ったのはこのためである。

「金銭トラブル」を「いじめ」というジャンルとして教育委員会へ報告をなしていなかったこと、たったこれだけのことでなぜ「謝罪会見」なのか。あまりに異様な対応である。

なぜ、校長が死を選んだのか、それは誰にも分からないし安易な推測や中傷をすることこそ避けなければならない。しかし、救うこと、救われる可能性は探られるべきである。なぜ、一言周囲の人間と相談できなかったのか。果たしてこれまでそうだったのかについて、私たちは追求したい。


4.教育委員会の責任

私たちは現場で働く、教育に携わる学校労働者である。現場には教職員という集団があり、管理職がおり、そして子どもたち、その後ろには親たちや地域を抱えている。それは、観念的な教育プランにかかれたような絵空事ではなく、日々一人一人の生き様として目の前に立ち現れてくるものである。

校長は、少なくとも日々現場にいる。私たち一教員の何倍もの職員、子ども、親、地域を背負っている。教育委員会をみている暇などない、はずだ。しかし、すでに現在の北九州市の現状は校長は教育委員会の手足でしかなく、このお達しに異議を唱えることはほぼ皆無に等しい状況にある。教育委員会は、その役所という事務所的空間に身を置き、決して日常を、教職員、子ども、親、地域と向き合わない。教育長に至っては顔すら知らないのだ。そんな教育委員会教育長から「謝罪」を求められた校長の心境はどうだっただろう。しかも、テレビカメラの前でだ。

私たちは、教育長の責任を問う。教育長は、校長にいったい何を求めたのか。「いじめ」なくすために教育長は何をしたのか。

 『教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任をおって行われるべきものである。(教育基本法10条1項)』

この教育長の行動は、果たして文部科学省の不当な支配に屈していなかっただろうか、この教育長の行動は国民全体に直接に責任をおって行われたものだっただろうか。そもそも教育の力に待つべきという教育基本法の理念に基づいた、「教育」と言う名に値する行為だったのだろうか。私たちはあらためて問う。教育長が、何をなすべきで、何をなさぬべきだったのか。

下記の事項についての認識を明らかにし、教育長の誠意ある回答を求めます。




1.今、なぜ「いじめ」調査なのかについて、北九州市教育委員会独自の見解を明らかにされたい。

本「いじめ問題総点検の実施」の趣旨には、「いじめはどの子どもにも、どの学校にも起こりうるものであり、本市においても今回のような事件は起こりうるという認識に立つ」とあるが、そうであればなぜ今なのかという疑問が起こる。本総点検が文部科学省の意向を受けた調査であり、異常なマスコミ報道に煽られたものであるともいえる。北九州市においては公表されたものだけでも、昨年末に子どもの自殺は起きており、その際には実施されなかった。厚生労働省の自殺死亡統計によれば、2003年、2004年の少年の自殺は年間600人前後となっており、決して今始まったことではなく起こっている。

2.現在の学校現場の実態に根ざしたとき、「いじめ」解決に必要なことは何であると認識しているのか明らかにされたい。

私たちは、これまで北九州市教育委員会が、「いじめ」解決に抜本的に取り組んできたという経過を知らない。再三訴えてきたことではあるが、学校現場は、日々「北九州改革プラン」に基づいた行事、取り組みなどに追われ、子どもたち一人一人と向き合う時間など皆無に近い状態である。

3.今回の「校長の自殺」という最悪の事態について、北九州市教育委員会の責任をどう 受け止めているのか、その認識を明らかにされたい。

「金銭トラブル」を「いじめ」として報告していなかったということが、メディアを前にして謝罪会見をなしてまで陳謝するような事態であったのか甚だ疑問であり、会見に至るまでの経緯・状況について明らかになっていない。皿倉小学校の状況について、教育委員会がどこまで事態を把握していたのかについても何ら明らかにならないままの教育長による陳謝会見についても異常なものと考える。

以上


【経緯】 ★は北九州市関係
 日付-----区分-----できごと
9/12(火)  履修不足 毎日新聞の連載で「進学校で珍しくない『やりくり』などと言及」
9/21(木)  国旗国歌 予防訴訟で「強制は違憲」との東京地裁判決
9/26(火) 国会 安倍総裁が首相に指名される
10/1(日) いじめ 北海道滝川市の問題が取り上げられる
10/8(日) 国会 安倍首相が中国訪問
10/8(日) 国会 安倍首相が韓国訪問。北朝鮮が核実験をしたと発表
10/11(水) いじめ 筑前町で中2男子自殺
10/16(月) いじめ  文部科学省、全小中高対象に緊急調査の方向決める
10/18(水) 再生会議 非公開でのスタート
10/19(木)  いじめ  文部科学省「いじめ調査」徹底通知
10/20(金) 履修不足 伊吹文相、日本史必修化で中教審に検討指示へ
10/22(日) 国会 衆院補選で自民2勝
10/23(月) いじめ 岐阜でバスケ部の中2女子自殺
10/23(月)  いじめ  子どもの自殺、年間調査で大差、文部科学省105人、警察庁288人(中日新聞)
10/24(火) 履修不足 発端となった富山県立高校での未履修が発覚。
10/25(水) いじめ   筑前町へ現地調査 山谷補佐官、義家室長、小渕優子文部政務官
10/29(日) パワハラ 鹿児島で教諭が自殺
10/29(日) いじめ 長崎県立高校で1年女子が首吊り重体。遺書見つからず。
10/30(月) 教基法 衆院特別委員会審議入り
10/30(月) いじめ   ★北九州市校長会議で全戸家庭訪問指示
10/31(火) 教基法 伊吹文相、「国旗・国歌尊重は義務」
10/31(火) 履修不足 茨城県立佐竹高校の校長自殺
11/2(木) 履修不足 補修50時間の救済策を文科省通知
11/3(金) 履修不足 佐竹高校校長が自殺で葬儀
11/5(日) 教基法 二階国対委員長、「強行採決しない」
11/6(月) 履修不足 文科省の出向者が黙認−文相認める
11/6(月) 履修不足 愛媛県の新居浜西高校の校長が自殺
11/7(火) いじめ 文科省、有識者会議の設置を決定
11/7(火) やらせ 内閣府、関与を認め陳謝
11/8(水) 再生会議 初めての分科会。実質的な審議を開始。
11/8(水) 再生会議 教育委員会の改革を中心議題とする方針
11/8(水) いじめ 衆院文科委でいじめ自殺問題
11/8(水) 教基法 仙台市と津市で公聴会
11/9(木) いじめ ★北九州市教委、校長会で家庭訪問・面談など指示
11/9(木)  いじめ   堺市「いじめ自殺ゼロ」訂正99年に一件報告怠る(朝日新聞)
11/10(金) いじめ 北海道江別市で中2女子の自殺未遂など明らかに。
11/10(金) いじめ 北名古屋市で14歳2名を傷害で逮捕。
11/10(金) いじめ 安倍首相が「いじめ恥かしい」と呼びかけ
11/10(金) 履修不足 文科相、中学校でも調査と表明
11/10(金) 再生会議 設置を閣議決定し17人メンバーを発表。
11/11(土) いじめ ★北九州市、いじめ隠し「金銭トラブル」明らかに
11/12(日) いじめ 大阪府富田林市、中1女子自殺。全校集会。
11/12(日) いじめ 埼玉県本庄市、中3男子自殺
11/12(日) いじめ ★北九州市、お詫び会見翌日に校長が自殺
11/12(日) その他 福島県知事選で民主が勝利
11/13(月) いじめ 奈良市で中3男子自殺。遺書はなし。
11/13(月) 教基法 教基法:札幌市と大分市で公聴会
11/13(月) 再生会議 指導力不足へ厳格対応など、7方針
11/14(火) いじめ 神戸市で高2男子が飛び降り自殺
11/14(火) いじめ 新潟県神林村で中2男子が首吊り自殺
11/15(水) 教基法 衆院特別委員会で与党単独で可決
11/15(水) いじめ 有識者会議が初会合。
11/15(水) やらせ 官房長官、質問者に謝礼金5000円を払っていたことを認める
11/16(木) 教基法 野党欠席のまま衆院本会議を通過


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