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社説:ウナギ偽装逮捕 法整備で違法な収益を断て

 偽装ビジネスがまかり通っては、社会の信頼は成り立たない。

 徳島市に拠点を置いているウナギ輸入販売会社「魚秀」と、神戸市の水産物卸売会社「神港魚類」などの幹部らが不正競争防止法違反の疑いで兵庫、徳島両県警の合同捜査本部に逮捕された。

 中国産ウナギのかば焼きを国産と偽装して販売し不当な利益を得ていた。手口は巧妙かつ悪質で、架空の製造元をでっち上げ、商社を介在させるなど偽装を計画的に隠ぺいしていた。捜査当局が、より罰則の重い詐欺罪での立件を目指すのは当然だ。

 同時に、横行する偽装事件に歯止めをかけるには、行政が消費者保護に重心を移し、違法な収益を許さない統一的な法整備を進める必要がある。

 調べでは、魚秀の社長らが架空会社名義で中国産ウナギのかば焼き256トンを国内有数の産地「愛知県三河一色産」と偽装して約7億7000万円で神港魚類に出荷、その一部を仲卸業者らに売ったとされる。偽装ウナギは西日本を中心に広範囲に出回った。

 国産ウナギは中国産の2倍以上の価格で取引され、多額の利ざやを稼いでいたという。

 実際の偽装作業は隣接県の別の業者に依頼し、流通過程で東京の二つの商社を経たと装うなど巧妙に摘発逃れを図っていた。

 また、神港魚類の元担当課長は魚秀側から1000万円を受け取っていた。さらに「1億円で偽装の責任をかぶってくれ」と頼まれたとの証言もある。大掛かりな偽装工作の徹底解明を捜査当局に望みたい。

 農林水産省はJAS(日本農林規格)法に基づき、違反した業者名を公表する。だが改善指示・命令に従わなかった場合に初めて罰金を科すと規定。食品衛生法でも食品の表示方法を定めているが、行政指導を繰り返しても偽装事件は後を絶たない。現行法の甘さが指摘されるゆえんだ。

 食に関する法律を整理・統合し、消費者が判断しやすい食品表示を義務付け、すみやかに処罰できるよう見直さなければならない。

 消費者は食品の安全を考え、割高でも国産ブランド品を選ぶ。その心理につけこみ、今回の事件のように産地証明書まで偽造されては見抜きようがない。まじめな業者も被害者だ。

 国産ウナギの供給量は約2割に過ぎない。かたや中国の加工技術が向上し、その品質も国産と変わらないという。業界は正しい産地を表示して品質保証することこそ信頼回復につながると考えるべきだろう。

 事件は農水省の「食品表示110番」への情報提供で発覚した。偽装事件の多くが内部告発で明るみに出ており、隠し通せるものではない。偽装ビジネスが割に合わないという体制作りが急がれる。

毎日新聞 2008年11月16日 東京朝刊

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