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社説

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高齢者の犯罪―孤立させない手助けを

 耳の遠い人、軽い認知症が見られる人がいる。食べやすい刻み食が欠かせない人もいる。

 どこかの老人ホームの話ではない。いまの刑務所の実情だ。そこに入る高齢者が増え続けているのだ。

 昨年、交通事故を除く刑法犯罪で検挙された約37万人のうち、65歳以上の人は約4万8600人だった。10年間で4倍近くに跳ね上がった。お年寄りの人口の伸びをはるかに上回っている。

 何がお年寄りを犯罪に走らせるのか。今年の犯罪白書から二つの大きな要因が浮かぶ。

 まず経済的な苦しさだ。

 お金と住む家に事欠いて、盗みに走る高齢者がいる。お年寄りは、働きたくてもなかなか雇ってもらえず、アパートも借りにくい。そんな暮らしにくさが、時に事件の引き金ともなる。

 もう一つは社会での孤立だ。

 白書によると、罪を重ねた高齢者ほど独り身の割合が高く、親族との音信も途絶えがちだという。

 家族や地域とのつながりを失った高齢者は、追いつめられやすい。孤独や喪失感が募る。困ったことがあっても、だれにも相談できない。

 ある67歳の男性は、刑務所を出て所持金が底をついたとき、「福祉に頼ろうとしても、どこに相談したらいいのかわからない」と盗みをした。

 路上生活のはてに万引きや無銭飲食で捕まり、「刑務所なら寝床と食事がある」と語った70代や80代もいる。

 残念で、やりきれない現実だ。もしも誰かが親身になって相談に乗っていたら。そう考えずにはいられない。

 犯罪は社会を不安にする。犯罪が増えれば、それだけ多くの被害者が生まれる。受刑者の更生にかけるコストも膨らむ。

 塀の中の高齢化は、本人にとっても社会にとっても不幸なことだ。

 高齢者の犯罪を防ぐには、摘発や防犯対策だけでは足りない。

 かぎを握るのは、刑務所と医療・福祉関係者との緊密な連携だ。

 受刑中から出所後の住まいや生活手段について、もっと手厚く相談に乗らねばならない。福祉担当者も加わって、職探しを手伝い、身よりがない人には老人ホームや更生保護施設を探してほしい。

 地域社会でもできることはある。

 民生委員だけでなく、住民もお年寄りが孤立しないよう目配りする。生活に困っていないか声をかけ、生活保護など福祉への橋渡しをする。NPOの力を借りる手もある。

 手間はかかるが、高齢者の暮らしを安定させることで犯罪を防げるなら、世の中にとっても望ましい。

 日本社会の高齢化はますます進む。対策は待ったなしだ。

太陽光発電―「得だ」感を出せないか

 石油や石炭はいずれ枯渇する。それに頼りっきりでは地球の温暖化も防げない。これからの時代、太陽光をどんどん使うべきだ。この考え方に異論はあるまい。

 地上に届く太陽エネルギーは、1時間で世界の年間エネルギー消費量に匹敵する。限られた場所にしかない化石燃料とは違い、太陽光は日本にもたくさん降り注ぐ。エネルギー自給の面からも望ましい。

 なのに日本では、太陽光発電は全発電量の0.1〜0・2%でしかない。太陽光発電をしている住宅は全国に40万戸ほどである。これをもっと増やそうという政策が、今年度補正予算で3年ぶりに復活した。

 発電設備を取りつける際、1キロワットあたり7万円を国が補助する。二百数十万円かかる一般的な設備だと20万〜25万円ほど割安になる。

 94年度に始まった補助が05年度で廃止されたことを、私たちは「政策の失敗だ」として復活を求めてきた。今回、経済産業省は5年間は続けるという。効果に期待したい。

 政府はほかにも、太陽光発電などを取りつける費用の一部を所得税から控除したり、太陽光発電付きの新築住宅を住宅ローン減税で優遇したりすることも検討している。あの手この手で普及をめざすのは結構なことだ。

 全国に目を向ければ、300を超える自治体に、国と同じように普及を後押しする制度がある。

 来年度から設置費の補助を始める東京都の場合、一部の市や区にはすでに同様の制度がある。国、都、区から計70万〜80万円ほどがもらえるケースも考えられる。こうした補助の上乗せは普及に弾みをつけるだろう。

 ただ、設置の際の補助だけでは不十分だ。取りつけてからも「太陽光発電は得だ」と感じられるような施策を工夫してつくれないか。

 欧州で太陽光発電が爆発的に広がったのは、家庭などで自然エネルギーからつくられた電気を、電力会社に高く買い取らせているからだ。

 この制度をいち早く導入したドイツは05年、発電設備量で日本を抜いて世界一になった。スペインは今年末には180万キロワットに迫る勢いで、ぐんぐん日本を追い上げている。

 高値での買い取りを義務づける制度のない日本では、電力会社は、欧州に比べて低い単価でしか太陽光発電の電気を買い取っていない。欧州のような制度を導入するべきだ。

 こうした普及策の費用は、国や自治体、電力会社が引き受け、最終的には税金や電気料金の形で、社会全体が広く薄く負担することになる。

 温暖化を防ぐために、みんなで太陽光発電の普及を支える。そんな意識をもちたいものだ。

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