なるほど、すさまじい感染力である。一九一八年から二一年にかけ、世界的に流行したスペイン風邪によって、日本では約二千三百八十万人の患者が出て、三十八万八千人が死亡した。
当時、インフルエンザ対策に当たった内務省衛生局の調査報告書「流行性感冒」(平凡社・東洋文庫)が、先ごろ出版された。集計が間に合わなかったため空欄の府県もあり、被害はもっと多そうだ。
日本での流行は三回を数え、患者は総人口の約四割に当たる。夏になると終息し秋から冬にかけぶり返すパターンだ。栄養状態が十分でない時代だけに被害は拡大した面もあろう。
岡山県の患者は、約五十五万人に上り、死者は約七千人だった。県では、衛生講話会の開催や予防心得書の配布、ポスター掲示などの対策をとっている。活動写真館でも啓発に努めた。
当時、盛んに強調された予防の注意点は、病人には近寄らず、人の集まるところは避けること。外出には必ずマスクをして、手洗いやうがいの励行を呼び掛け、ワクチンの接種も勧めている。基本は今も変わっていない。
鳥インフルエンザから変異した新型インフルエンザの世界的な大流行が懸念され、国などが対策を進めている。冬の足音が近づいているだけに、危機意識を高め、健康管理に気を付けたい。