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【講演要旨】2007年7月16日に、新潟県中越沖地震によって、世界で初めて、比較的深刻な影響をもたらす地震の影響を東京電力・柏崎刈羽原子力発電所が受けたため、その影響評価と耐震補強の妥当性を評価するために、国と学会と民間の各組織において、それぞれ、独立に、つぎのような検討委員会が設置されましたが(日本原子力学会誌、Vol.50, No.11, p.14(2008))、
(1)国
1-1原子力安全委員会
1-2経済産業省原子力安全・保安院(原子力安全・保安部会内に、①耐震・構造小委員会、②中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会、③原子力防災小委員会)
(2)学会
日本原子力学会原子力発電所地震安全特別専門委員会(斑目主査)(①RMWG(関村主査)、②安全分科会(大橋主査)、③構造分科会(岡本主査)(日本機械学会協力)、④地震工学分科会(亀田主査)(日本地震工学会協力))
(3)民間
日本原子力技術協会中越沖地震後の原子力機器の健全性評価委員会(①検査WG、②評価基準WG、③疲労・材料WG、④動的評価WG、⑤締結材評価WG、⑥高経年化(残留応力等)WG)
各委員会・WGとも、解析に必要な独自の予算措置は、しておらず、判断のための資料は、すべて、東京電力から提供されたものであって、その解析結果が正しいか否かの評価のためには、数億円もの予算措置が必要であるにもかかわらず、そうせずに、東京電力の解析法と解析結果が正しいとして、その結果を専門的な知識を基に、検討するわけですが、いずれの委員会・WGにおいても、独立した客観的な評価にはなっておらず、権威付けのための追認に過ぎず、客観性の担保は、まったく保証されていないように思えます(日本的あいまいさの中での権威付けのための伝統的儀式)。
T先生
私は、いまでも、日本原子力学会に所属しています。会員として漠然と過ごしているだけでなく、もっと、積極的にかかわっています。日本原子力学会に設置されている約30の特別研究専門委員会・調査研究専門委員会・研究専門委員会のうち、ふたつの研究専門委員会の主査を務めており、核燃料サイクル施設の安全規制のための調査・検討をしています。安全解析法の信頼性や技術基準の評価については、他の誰よりも厳しい視点と哲学を持っています。
学会は、それだけでなく、約8年前に設立された日本科学技術社会論学会(Japanese Society for Science and Technology Studies; JSSTS)にも所属しています。まだ、できたての新しく小さな学会であるため、日本原子力学会等の伝統ある学会と異なり、研究発表は、年1回しかありません。私は、2005年から、これまでに、3件の口頭発表をしてきました。来年も発表予定です。
日本科学技術社会論学会の研究発表では、個人の口頭発表だけでなく、社会的に重要なテーマを設定し、2時間の間に3名で問題提起して会場のひとたちと討論するwork sessionがあります。来年は、ぜひ、「社会リスク」をテーマに、私とT先生ともうひとりどなたかで、work sessionが申し込めるようにいまから準備してみたいと思っています。社会的リスクの大きな技術を社会科学的視点で分析し、オリジナリティの高い論理構成で、問題提起できたらと考えています。どうかご協力ください。
桜井淳
T先生
これまで、チェルノブイリ4号機の反応度事故について、炉物理的に基礎的な事項と研究課題についてのやり取りをしてきましたが、それとの関係で、今回は、軽水炉の印加反応度と反応度事故について、私の認識している二、三の事について、触れてみたいと思います。
軽水炉の制御棒は、技術基準に拠れば、2秒以内に炉心に完全挿入されなければならないとなっていますが、なぜ、2秒以内なのか、その炉物理的根拠を知っている者は、意外と少ないものです。
Pの制御棒は、"重力落下方式"ですから、特に、制御棒クラスター付き燃料集合体内の制御棒案内管の大きな変形でも生じない限り、技術基準内で完全挿入できるでしょう(ただし、船舶や原子力空母のPの制御棒は、最初から、船の大幅な傾きを想定し、それでも"重力落下方式"で2秒以内に完全挿入できるように、スプリングの反発力を利用して、強制的に挿入できるようになっています)。世界のPで2秒以内に完全挿入できなかった事例は、いくつかありますが、約10年前に、中国の広東原子力発電所で案内管の変形に起因して発生しました。技術基準では、2秒以内となっていますが、実際には、1秒で完全挿入されています。
問題はBです。Bの制御棒は、炉心上部に大型の汽水分離器と乾燥器が設置されているため、原子炉圧力容器の底に設置され、炉心から下に引き抜いています(地震時の横揺れを想定し、それでも確実に挿入できるように、制御棒は、燃料棒下端位置よりも下にせず、下端位置より15cm上に留めています)。異状時に自動スクラムする場合、約100気圧の水圧を利用して、1本1tもある十字形制御棒を200本も一気に炉心に押し上げています("押し上げ方式")。電源喪失時でも駆動できるように、約100気圧の窒素ボンベを数多く備えており、その窒素圧を利用して、制御棒水駆動系に作用させ、一気に押し上げています。技術基準では、2秒以内となっていますが、実際には、1秒で完全挿入されています。
新潟県中越沖地震に震災した柏崎刈羽原子力発電所の運転中の原子炉の制御棒は、約1.6秒で完全挿入されたと推定されます。そのことは、多度津工学試験所で実施された制御棒駆動機構を模擬した約2000gal.での耐震試験における、完全挿入時間の1.6秒から分かります。
軽水炉で反応度事故に結びつくのは、現実的には、運転中のBの制御棒の落下事故です(佐藤一男『原子力安全の論理』、日刊工業新聞社、1984)。定格運転中のBにおいて、炉心でいちばん反応度価値の高い制御棒(約1.5ドル)が、瞬時に1本抜けても、炉心破壊に結びつくような反応度事故にはならないとされており、そのような論理で安全審査がなされています。では、瞬時に2本抜けたらどうなるかといえば、その場合には、約3ドルの印加反応度になり、炉心は、破壊されます。しかし、安全審査では、瞬時に1本抜ける発生確率を千分の一と推定しており、2本抜ける確率は、百万分の一のため、実際には、考えなくてよいという論理です。
軽水炉は3ドルの印加反応度で炉心破壊します。チェルノブイリ4号機では100ドル弱の反応度が印加されたと推定されます(本欄バックナンバー参照)。100ドルがいかに大きな反応度価値であるか分かると思います。
ここで、ひとつ、注意しておきましょう。原研の安全性研究炉NSRR(Nuclear Safety Research Reactor)では、炉心燃料(ドライバー燃料)に軽水炉燃料を利用し、炉中心の試験孔に軽水炉の新燃料、ないし、ある燃焼度の燃料を試験体(試験燃料)とし、圧縮空気方式で制御棒を瞬時に引き抜き、印加反応度を1-4ドルくらい変えて、反応度事故時の燃料の破壊状況を模擬した実験がなされています。その結果から、軽水炉で3-4ドルの印加反応度があっても、炉心は、安全に維持できると宣伝しています。しかし、それは、現象のすり替えとトリック説明によるものであり、実際には、炉心燃料は、軽水炉燃料とまったく同じものではなく、炉物理的な仕掛けがしてあります。その炉物理的仕掛けを説明する前に、たとえ、小学生でも、「同じ軽水炉燃料でありながら、なぜ、ドライバー燃料が壊れずに、試験体だけが粉々に壊れるのか」との疑問を持つはずです。そのとおりです。ドライバー燃料が実験ごとに壊れてしまったら、実験は、できません。ですから、最初から、壊れないような仕掛けがしてあります。軽水炉燃料との相違は、(1)温度反応度係数のネガティブ・フィードバックを大きくするために、意識的に、ウランペレットには水素化ジルコニウムが混合してあること、(2)燃料被覆管がステンレススチールであること、(3)ウランペレットは、被覆管の細工により、空間的に、被覆管がわずかに離れ、浮いていること、等です。特に大きな炉物理的効果は、ウランペレットへの水素化ジルコニウムの混合です。ですから、軽水炉において、炉心に3ドルくらいの反応度が印加されても、NSRR程度と理解するのは、間違いです。
以上のような基礎的な説明は、原子力安全が専門のT先生には、常識的事項として、退屈な話であったかもしれません。
桜井淳
T先生
チェルノブイリ4号機の反応度事故から22年経ちます。被ばくの影響は継続的に調査・検討されてきました。しかし、事故のメカニズムの解明、特に、反応度事故のメカニズムを解明する上で欠かせない炉物理的考察は、初期のままで、一向に進展していません。印加反応度要因と炉動特性の可能な限り正確な考察が必要です。世界では、まだ、よく分かっていないにもかかわらず、すでに、よく分かった事と錯覚されてしまい、歴史的出来事と位置づけられ、専門家の記憶からも消えつつある現状を憂慮します。時間をかけ、炉物理的考察を進め、真実らしきことに到達できたらと考えています。一次資料を集め、工学的真実を抽出・確認し、考察を進めます。解析結果は、どのようなひとたちが見ても、納得できるような形、具体的には、欧米日のいずれかの原子力学会論文誌に掲載されるように努めます。
桜井淳