[前回までのあらすじ]
 これは、電脳暦(V.C.)の地球圏を舞台にした、巨大人型兵器バーチャロイド(VR)を巡る人々の抗争の物語である。V.C.a2年、レンタリア「T.A.I.」において、DNAとRNAとの間で大規模なVR戦が勃発した。DNAは一大反攻作戦「サンド・サイズ」を発動したものの、RNA側の反攻に押し切られ、戦線は各所で寸断されてしまっていた。サルペンVR連隊もマイダス湖沿岸の一拠点、KNK#04で孤立し、敵の激しい攻撃にさらされていた。

 

#05
訪問者

 

三日月 鹿之助

 荒廃した滑走路の片隅に、異形の航空機が着陸している。サルペン准尉は落ち着かなかった。一方的な通告のもと、RNA側から捕虜交換の打診があり、こちらの返答を待たずに交換要員を送りつけてきたのだ。
 「連隊長、この機体は、一体…?」
 傍らに立つダンツェン大尉が尋ねる。だが、サルペンにも思い当たるところはなかった。連日の激しい攻防によって破壊し尽くされたKNK#04において、RNAのシンボルともいえる隻眼のマーキングが施された機体の鋭角的なシルエットは、明らかに航空機の範疇を逸脱している。それまでDNAが集積してきたRNAの兵器データをいくら検索しても、このようなタイプは見あたらなかった。
 「噂には聞いたことがある」プロンガー曹長が呟いた。「なんでも、第6プラントでは、TRV-06kをテストベッドにして数タイプの可変型VRの試作を行っているらしい。」
 「なんですって?」准尉は驚きを隠そうともしなかった。「じゃあ、あれ、VRなの?」
 「…おそらく」
 「にわかには信じがたいな」ボイド大尉が憂鬱そうな表情を見せた。「もし、それが本当だとしたら、なぜRNAが第6プラントの試作機体を持っているのか、という新たな問題が生じる。」
 「しっ」
 ダンツェンが注意を即した。機体のコクピット・ブロックが展開し、人影が見える。
 「やっこさん、降りてきますぞ。」

 機外に降り立った人物は年の頃20代半ば、東洋系の顔立ちをした禿頭の男で、そのいでたちは着流しだった。兵士に付き添われてこちらに近づいてくる姿を見て、ボイド大尉が眉をひそめる。
 「奇をてらった男だ。」
 緊張の面もちで待ち受けるサルペンたちの前に立った男は、相手方を値踏みするように視線を走らせた。
 「貴官の姓名を」
 サルペンが問いただす。男は彼女の目を見据え、一拍の間をおき、そして口を開いた。
 「それがし、三日月鹿之助と申す者。RNAにおける階級は上級曹長、国際戦争公司によって認定された第一種資格を持つ特S級下士官である。貴公達がそれがしを捕虜として扱う場合、それがしから何らかの情報を引き出すことを企図し、そのための尋問を行うことは自由であるが、当然当方は黙秘権を履行する。また、限定戦争法規第24条に基づき、貴公たちが規定に則った形での拷問をそれがしに課することが認められている。ただし、有料である。有料拷問の最大施行回数は3回であり、それまでにそちらが、そちらにとって有用と判断しうる情報の引き出しに失敗した場合、当方には告訴する権利が発生する。これまでの判例で、被告側が勝利したケースが皆無であることは勿論御存知のことと思う。それがしが貴公達に宣言すべき内容は、以上だ。これ以降の発言は、法廷での証拠として有効になる。よろしいか?」
 淀みのない語りであり、内容には一部の隙もなかった。
 「了解した。」サルペンの答弁は型どおりのものだった。「貴官の処遇は追って伝える。プロンガー曹長、彼を連行しなさい。」
 プロンガーに先導されて歩み去る捕虜の後ろ姿を見ながら、彼女はため息をついた。のっぴきならない状況であるにも関わらず、またしても扱いづらそうな人間を抱え込んでしまったのだ。

 

ボルト・ゴッチ

 「見よ!」
 整備廠の技術士官オーゼック中尉の手が上がった。すると、背後の格納庫の扉が開き、そこには修理の済んだライデン205号機の姿があった。右腕には巨大なアックス「デス・ギガント」を、そして左腕には円盤型の巨大なシールドを手にしている。
 「素晴らしい!!」
 モリヤ曹長が感嘆の叫び声を上げた。その傍らでは、カントス軍曹が呆然と立ちつくしている。
 「…中尉、あのシールドは?」
 「紹介しよう、カントス君。」オーゼック中尉は誇らしげだった。「リットー大尉追悼の思いを込めて私が鍛え上げた入魂の一作、その名もリットー・スペシャル#7、『ボルト・ゴッチ』!」
 「ボ、ボルト…ゴッチ?」
 「いかにも、左様」中尉は感慨深げだった。「常々、私は思っていた。SR4型にはパワーがあるから、武装面で融通がきく。だが、装甲に関しては並だ。つまり、攻守のバランスが悪い。大尉もその辺は分かっていらしたようだが、なにせ面倒くさがり屋だったからな。対策を後回しにしている内にやられてしまった。」
 「悔やまれます…」
 モリヤが絶妙のタイミングで相づちを打つ。
 「まさに、後悔先に立たず、といったところか。」
 中尉は沈痛な表情でうつむいた。
 「だが、私は思った。今からでも遅くはない。自分が身につけてきたすべての技を注ぎ込んで人命尊重の理念を具現化させよう、と。そしてそれは、今、成ったのだ…」
 「これで、一挙に戦局挽回ですね!」
 「その通り!」
 陶然とした表情で機体を見上げる二人の技官の傍らで、カントス軍曹は困惑した。
 (こいつは、ナンセンスだ…)
 「軍曹、何か言ったかね?」
 「え?いや、何も。」
 秘かに心中で呟いたつもりだったが、我知らず声に出していたらしい。カントスは慌てて場を取り繕った。
 「確かに、こいつは素晴らしい。能力を十分に発揮できれば、相当な戦力になりますな。」
 「私も、そう確信している。」
 オーゼック中尉は満足げにうなずいた。
 「ただ、自分としては205号機の後任パイロットがいきなりこのような特殊装備を使いこなせるかどうか、確信が持てんのです。」
 「坊やの調子はどうなんだ?」
 モリヤが尋ねる。
 「アイボリーですか。」カントスは顔をしかめた。「命に別状は無いようですが、未だ昏睡状態ですな。」
 「それは問題だな。」モリヤは腕を組んだ。「S.H.B.V.D.には、欠員を補充できる余裕なんて無いんじゃないのか?」
 「その件なんですがね…おぉい、入ってきてくれ。」
 カントスが戸口の方に声をかけると、一人の男がきびきびとした挙動で歩み入り、モリヤ曹長の眼前で直立不動の姿勢をとった。浅黒い肌をした痩身の軍曹である。
 「ハッター軍曹であります!このたび、第6戦闘VR大隊よりS.H.B.V.D.へ転属することになりました!」
 「最近の若手の中では、やれる方です。」
 カントスの言葉にハッター軍曹は破顔した。
 「自分は、接近戦を得意としております!一昨日の戦闘でも、一機屠りました!」
 「…あぁ」オーゼック中尉は思い出したように言った。「10/80単機でアファームドをやったってのは、おまえさんだったのか。」
 ハッター軍曹の顔は輝いた。
 「自分は、この205号機をあてがわれるのですね?一見するに、接近戦に重点を置いた装備であるように思われます。かくなる上は、前進あるのみ!と肝に銘じ、ご奉公に励む所存であります!」

 

撤退決議

 「で、ヤツはなんと?」
 ダンツェン大尉の発言は、士官室に集まったもの全員の気持ちを代弁していた。中隊長以上の指揮官はすべて顔を連ねている。彼らは、来訪した交換捕虜の言動を気にしていたのだ。
 「今、プロンガー曹長に尋問をさせているけど、予想通りね。即時降伏、投降を勧告されたわ。」
 サルペンは憮然とした面もちであった。
 「今回の作戦が失敗したことは、もう疑う余地がない。でも、我が連隊は善戦しているわ。なんと言っても、作戦発動時に目標とされた拠点を未だに維持しているのは私達だけなんだからね。RNA側にとっても、私たちの存在は相当厄介なんでしょう、提示された降伏勧告は、かなりの好条件だったわ。」
 「捕虜に降伏勧告をされるとは、我々もナメられたものですね。」
 末席の方から、憤然とした若手将校の声が聞こえてくる。
 「確かに。でも、状況を考えると、彼の勧告はある意味理に叶っているわ。」
 サルペンは渋々認めた。DNA側の一大反攻作戦として発動されたサンド・サイズは、三日目にして手詰まり状態に陥っていた。長大な戦線は各所でRNAの精鋭部隊に寸断され、攻勢を維持できなくなったのである。相互の連絡を失ったDNAの各隊は、散在する拠点にこもって個々に急場をしのいでいた。しかし、やがて一つ、また一つと降伏するものが相次ぎ、戦闘の大勢はほぼ決まろうとしていた。「砂の鎌[サンド・サイズ]」の刃は脆くも砕け散ったのだ。
 「よりによって」サルペンは唾棄するように言った。「ムラト将軍がRNAに寝返るとは思わなかったわ。」
 投降部隊の中には、RNA側に編入されてDNAへの攻撃に荷担するものがあった。特に、司令部を急襲されて囚われの身となったムラト将軍の一件は衝撃的だった。彼はRNA側の提案をあっさり受け入れ、対DNA追討部隊の指揮を執ることになったのである。この事実は、現場のDNA将兵に少なからず悪影響を与えていた。
 ボイド大尉がうつむき加減に発言した。
 「確かに、将軍の行動は仁義にもとるかもしれない。私とて、将軍を擁護する気にはなれない。しかし、私には彼の決断が理解できる。」
 「どういうこと?」
 サルペンは問うた。
 「所詮、我々は軍人という名のサラリーマンにすぎない。」ボイドの声音は自虐的な色調を帯びていた。「我々は、自らの生活のために、自身の戦闘能力というスキルを切り売りしているのだ。組織への帰属意識よりも自らのサバイバルを優先すべき決断の機会は少なくない。今がその時だと言われたら、確かにそうかもしれないのだ。」
 「それは、RNAの降伏勧告を受諾すべし、という意見と解釈していいのかしら?」
 「私は、将軍の行動に対する自分の感想を述べたに過ぎない。」
 「でも、RNAの勧告を受け容れ、彼らの側につくことが最善の手なのかしら?確かに彼らは強力だわ。けれど、今回の戦いは、その発端からしてイレギュラーだった。間違いなく、彼らは国際戦争公司と第8プラントに睨まれるはず。そうなったら、今までのような調子で好き勝手にやっていけるはずは無いでしょう。眼前の危機を切り抜けるだけのために安易な選択をすることはできないわ。」
 「確かにそれは正論かもしれない。しかし、我々は限界状態にある。とにかく今は、相対的にリスクの少ない決定に従いたい。」
 ボイドの発言には少なからず賛同の声があがった。既にKNK#04における連隊の戦闘は十日間に及び、将兵は憔悴の色を隠せない。先の見えない戦いを続けることはもはや限界だった。早急に説得力のある打開策を提示しなくてはならない。サルペンは試練の場に立たされていることを自覚し、立ち上がった。
 「私は、撤退を提案します。」
 周囲は一瞬騒然となった。サルペンは手を上げて静粛を求め、話を続ける。
 「後退ポイントは、我々がいるKNK#04から北東数十kmの距離にある端末都市ランドウィック(RWK)。マルゴー大佐がDNA残存部隊を集めて戦線を再構築している拠点です。おそらく、彼はそこで今回の戦役の期限ギリギリまで粘るつもりでしょう。
 むざむざ壊滅するよりも、敗北とは言え善戦しつつ期限内を切り抜ければ、現場の人間に対する評価は上がる。彼はそう踏んでいるのよ。今の我々にとって最善の手は、早急に彼の元に合流することだと思う。」
 「しかし、ここからRWKに向かうには、敵の勢力下にある地域を通過する必要があります。防御戦闘ならいざ知らず、今の我々の戦力で突破するための攻勢をかけるのは、かなりのリスクが伴います。」
 第6VR大隊のナリク中尉が懸念を表明した。しかし、これはサルペンにとって予想の範囲内の反論だった。
 「確かにリスクは大きい。でも、S.H.B.V.D.をうまく運用すれば、決して不可能なことではない。プランはすでに作成済みよ。」
 彼女はここぞとばかりに雄弁になった。
 「撤退する目的は、とにかく少しでも多くの人間が生きてこの戦いを切り抜け、その後も食いっぱぐれないでいられること。この目標のために一致団結することが、今は大切。私は、そう思っているの。」
 「…それなら、決まりですな」反論しようとするボイド大尉を制してダンツェン大尉がうなずいた。「善は急げ、と申します。早急にプランをお聞かせ願いましょう。」

 

密談

 「90秒限定で512Tバイトだって?」プロンガーは呻いた。「そいつは、高すぎる。今回の契約でこちらが受け取ることになっている金額の半分が消し飛んでしまう。」
 「それがしとしては、精一杯良心的な価格にしたつもりである。」
 RNAの捕虜、三日月鹿之助の返事はすげなかった。尋問室で対面して座る二人の間の空気は張りつめている。
 「そもそも、今回の戦いが始まってからこのかた、貴公の行動はもたつき気味だ。我々の間に交わされた契約内容をまじめに履行する誠意があるのか否か、実に疑わしい。」
 「落ち着いてくれ。もちろん、こちらとしては、約束を違えるつもりなど毛頭ない。」
 奇妙な会話だった。本来、尋問者であるはずのプロンガーが受け身に回っている。
 「RNAを説得して今回の戦役に参加させるのは、容易なことではなかったのだぞ。衛星会社を買収してDNAへの情報供給を停止させることを条件に、ようやく彼らは重い腰を上げたのだ。国戦公司の目を盗んでの裏工作は、それがしがリスクを背負っておこなった。経費も莫大だった。ところが、いつまでたっても貴公は約束を果たそうとしない。一体、何がどうなっているのか、事の次第を確認するために、それがしはやってきたのだ。今すぐ、この場で説明していただきたい。」
 「確かに迷惑をかけている。申し訳ない。だが、こちらにも色々事情がある。」
 分が悪くなったプロンガーは後方を振り向き、コンソール上面の大型モニターを仰ぎ見た。そこには、頬杖をついてうつらうつらする男の姿が映し出されている。
 「バイモルフ、おまえからも何か言ってやってくれ。」
 「え?あ、あぁ…」
 モニター内のバイモルフは面倒くさそうに顔を上げ、あくびをかみ殺した。
 「新型の完成が遅れているのは、確かだけどね。ほら、ここ[第5プラント]の人たち、技術畑の人間ばっかりだから。スケジュールとか商売とか、そういった言葉が何を意味していたのか、ずいぶん昔に忘れてしまってるみたいなんだよね。」
 「理由はどうあれ、ものには限度というものがある。これ以上の遅延は承服できない。」
 鹿之助の言葉に、バイモルフは不愉快そうに反駁した。
 「そうは言っても、RNAさんの方にだって問題ありでしょう。手加減と言うものを知らないんだから。そちらの勇猛なる戦いっぷりのおかげで、DNAの戦線はズタズタにされ、僕らが用意にしていたお膳立てはふいになってしまってんのよ。正直、散々なんだけど。」
 「RNAの戦闘能力に関しては、事前に警告しておいたはずだ。」鹿之助の口調にはとりつく島もない。「DNAのようなサラリーマン的傭兵集団とは一線を画する、とな。それがしの警告内容を無視して準備を怠っていたというのならば、それは貴公たちの落ち度だ。」
 「こっちの新型だって、完成がちょっと手間取るだろうってことは前々から言っておいたはずだよ。今になって、それはけしからん、なんて青筋立ててみたって、それはそれで困るよ。おあいこじゃないか。」
 「いや、それは違う。現状、貴公たちは充分なリスクを負っていない。これは、公平なビジネスとは言えないのではないか?」
 プロンガーは慌てた。必要以上に話がこじれている(バイモルフが絡むといつもこうなるのだ)。たまらず、割って入った。
 「バイモルフ、それに鹿之助。このままじゃ水掛け論だ。俺達の利害は一致している。仲間割れをしている場合じゃない。」
 「こんなヤツと、いつ仲間になったのさ。」
 「黙れ、バイモルフ」プロンガーは一喝した。「鹿之助。とりあえず、おまえさんが持ち出してきた条件はのもう。ただし、我々がモノを揃えるのにもう少し時間がかかることは分かってもらいたい。」
 「一体、いつまで待てばよいのか?」
 「どうなんだ?バイモルフ」
 「それが分かれば苦労しないよ。」
 バイモルフはふくれっ面になった。
 「それでは、お話にならない。」
 鹿之助が席を立とうとする。
 「待て、鹿之助。」プロンガーは制止した。「近日中に、俺達の部隊は撤退を開始する。目的地は、おそらくRWKだ。とりあえず、その辺が落ち着くまで、納品期日をのばしたい。」
 「撤退に要する日時は?」
 「それは…」
 「三日、といったところかしら。」
 「!」
 室内の男たちは、はっとして戸口の方に向き直った。そこには、サルペンが立っている。彼女の眼差しは鋭かった。
 「話は聞いたわよ。」
 プロンガーは肩をすくめた。万事休す、である。覚悟を決めた方が良さそうだった。
 「説明してもらえるわよね。あなたたち、何を企んでいるの?」

 

[次回予告]

#06「黒衣の救済者」

 

 

主要登場人物

 

●ミミー・サルペン准尉

 S.H.B.V.D.に所属する若き女性士官で、典型的優等生型エリート・パイロット。サンド・サイズ作戦に際して、集成VR連隊の指揮を委ねられる。
»PILOTS

●ダッシュ・プロンガー曹長

 S.H.B.V.D.に所属する下士官。あらゆる局面で冷静沈着、的確な状況判断に基づいて行動する、頼れる仕事人[ナイスガイ]。»PILOTS

●ステフォン・アイボリー軍曹

 若干16歳、S.H.B.V.D.では最年少の軍曹。華奢な体に白磁の肌を持つ美少年だが、パイロットとしての腕は確かである。»PILOTS

 

登場機体

●YZR-540 SH バイパー540 SH

 第6プラント「サッチェル・マウス」の開発主任をつとめるアイザーマン博士は、第一世代型VRであるバイパー系列をテストベッドとして数種の新機体の開発を行っていた。その目的は、遠隔地からの迅速な戦線投入が可能なVRを実用化することである。彼はこの目的を達成するため、VRに航空機への変型機構を導入することを検討した。これは、当時としては画期的な試みだった。
 YZR-540 SHは、博士が手がけた一連の機体の中では初期の部類に入り、機体の変型機構は未だ試行錯誤の段階に留まっている。本機は、出撃時には飛行ユニットを装着した形態(図1/2:プロト・スラッシャー形態)で運用される。しかし、対VR戦闘時は飛行ユニットが廃棄され、通常のVR形態へと移行する(図3/4:バーチャロイド形態)。つまり、一度VR形態へ移行すると、飛行形態に戻ることはできず、おのずと運用上の限界を生み出していた。このため、個々の形態時の能力は水準以上だったにもかかわらず、本機が制式に採用されることは見送られてしまった。
 アイザーマン博士は、YZR-540 SH以降も、変型機構を内蔵するVRの開発に意欲的に取り組んでいった。第8プラント「フレッシュ・リフォー」によるVR開発禁止令の布告下、一時期計画は頓挫を強いられたものの、彼の試みは、後にRVR-42サイファーとして結実することになる。
»YZR-540 SH