◎「パッテンライ!!」 多くの小中高生に見せたい
きょうから一般公開されるアニメ映画「パッテンライ!」は、かつてあった教条的な「
偉人伝」とはまったく違う。金沢出身の土木技師・八田與一が戦前の台湾で取り組んだ巨大ダムと水路建設の夢を縦軸にして、日本人と台湾生まれの少年が友情をはぐくみ、たくましく成長していく姿を描いた人間ドラマである。
日本社会には今、自分さえ良ければ、人に迷惑をかけても構わないと考える、行き過ぎ
た個人主義がはびこっている。「私」を捨て「公」のために働く喜びや、夢を持つことの素晴らしさを説いても、どこかむなしく、説得力を持ち得ない。そんな時代だからこそ、てほしいと思う。
乾いた大地に網の目のように水路を巡らせ、豊かな穀倉地帯に変えようと奮闘する八田
技師の姿は、当時の台湾の人々には、巨大風車に突っかかるドンキホーテのような存在に見えただろう。映画の序盤で、農民たちが台湾語で言う「パッテンライ(八田が来た)」の言葉には、そんな蔑(さげす)みの色がにじむ。
理想を現実に変えていく八田技師の情熱は、やがて周囲の見る目を変え、「パッテンラ
イ」の響きを蔑みから尊敬へと変えていった。公のために粉骨砕身する八田技師の姿は、かたくなな農民たちの心を解きほぐし、希望の灯をともし始める。映画に登場する日本人技師の子ども「ススム」と、貧しい農民の子「英哲」がそうであったように、映画を見る子どもたちもまた、大きな志を持って、公のために尽そうとする八田技師の生き方から、多くのことを学ぶだろう。
元台湾総統の李登輝氏は、八田技師が手掛けたダム事業に、日本人の優れた精神的価値
観を見て取った。ダムや水路の設計に才能を発揮しただけではなく、少ない水を平等に分け合う「三年輪作」の発想や民族の違いで人を区別しない人間性は、単なる「土木屋」の域を超えている。そこが八田技師の魅力であり、今も台湾の人々に敬愛されている理由でもある。この映画を通じて、私たちが失いかけている「日本的精神」のかけらを取り戻せたらと思う。
◎銀行の中間決算 北陸にも金融危機の余波
銀行の〇八年九月中間決算がほぼ出そろい、北陸でも地銀の不良債権が急増した。サブ
プライムローン問題に端を発した金融危機が原因で、建設会社や不動産業者の経営破たんが相次ぎ、保有株式の下落も響いた。地銀の体力低下は、地域経済に大きな影響を及ぼす。貸し渋りに強い批判があるなかで、取引先の業績も不透明感を増しており、地銀経営のかじ取りはますます難しくなるだろう。
中間決算を発表した大手銀行五グループと、未発表の三菱UFJフィナンシャル・グル
ープの予想を加えた不良債権の処理費用は、実に七千億円を超える。純利益は昨年同期に比べ半減する見通しという。サブプライムローンの影響は、ほとんどないと言われていたはずなのに、金融をとりまく環境はあっという間に激変し、予想をはるかに超える深手を負った。
大手銀行以上に厳しいのは、赤字計上が続出した地方の金融機関だろう。特に不動産向
け融資が「鬼門」となり、大手銀行がいち早く融資を引き上げ、逃げ遅れた地銀が苦境に陥る例が続出している。地銀は地域経済に一定の責任を持たざるを得ない立場から、不動産の「ミニバブル崩壊」の影響をまともに受けた格好である。
また、株式市場の暴落で保有株式の含み益が吹き飛んだうえに、破たんした米大手証券
リーマン・ブラザーズ向けの債権の損失も響いた。
北陸でも、不良債権処理額が北國銀行で百十億円(前年同期二十三億円)、北陸銀行で
百億円(同八十八億円)、福井銀行で六十六億円(同十八億円)に達し、富山第一銀行と富山銀行を加えた五行のうち三行が赤字だった。
景気の一層の悪化を見越した買い控えで車や住宅のローン契約が低調で、投資信託など
の金融商品も売れない。不良債権の急増に頭を悩ます一方、設備投資の先送りなどで、企業向け貸し出しも伸びない。「冬の時代」を思わせる厳しさのなかで、経営体力の落ち込みを避けながら、融資先を支えていく綱渡りの経営を余儀なくされそうだ。