米国が先月、北朝鮮をテロ支援国リストから外す理由にした核計画検証の合意は、全く詰めの甘い内容だったことがはっきりしてきた。確かな検証を実現できる文書を次の6カ国協議で作るべきだという日本政府の主張がまだ通らず、同協議の日程も決まらない。最も責任の重い米国と議長国の中国は改めて北朝鮮を説得し、核廃棄への道筋がきちんと見えるようにすべきだ。
ヒル米国務次官補の訪朝後の「合意」発表は、過去のプルトニウム抽出量を追跡できるサンプル(試料)採取や、ウラン濃縮、国外への核拡散の検証にも言及していた。
だが北朝鮮は最近、合意された検証手段は「現場訪問、文書確認、技術者との面会」だけであり、対象は寧辺の核施設のみ、しかも検証の時期は他の5カ国による当面の経済支援が「完全無欠に」終了した後のことだと暴露した。
これに対し米国務省副報道官は「専門家がサンプルを採取し、検査のために国外に持ち出せる」などと反論したが、問題はこれが口約束という点だ。北朝鮮を相手の口頭合意は無意味に等しい。交渉経験の長い専門家であれば自明のことだが、ヒル氏はブッシュ政権の任期中に成果を出そうと焦ったのか。外務省幹部はヒル氏の交渉について「北朝鮮にだまされたとも言える」と語っている。
北朝鮮の「暴露」の狙いは、米国に「早く経済支援せよ」と圧力をかけると同時に、じゃまになっている日本をけん制することだろう。北朝鮮は日本を6カ国協議から排除せよという揺さぶりもかけている。拉致問題をうやむやにする狙いもあるだろう。
こうした状況で、形作りの6カ国協議開催を急いだり、米国の詰めの甘さを追認するのは賢明でない。米、中の慎重な対応と努力を、もう一度求めたい。
ところで北朝鮮はブッシュ政権下での利益獲得を狙う一方、次期オバマ政権にはもっと期待しているようだ。同じ民主党のクリントン政権時代には、毎年50万トンの重油提供といった破格の大盤振る舞いがあった。同政権末期には国務長官が訪朝し、大統領自身も訪朝寸前までいった。「民主党政権は交渉しやすい」と北朝鮮は見ている。
オバマ氏は選挙戦中、金正日(キムジョンイル)総書記との直接対話に前向きな発言をした。韓国の李明博(イミョンバク)大統領は毎日新聞などとの会見で、米朝首脳会談に反対しないと語った。北朝鮮が期待するのは当然だ。
もっとも、オバマ氏は北朝鮮のテロ支援国家指定解除に賛成はしたが、核廃棄と確実な検証に応じなければ厳しく対処すべきだという見解も表明した。拉致問題の解決にも積極的な方針を示している。
こうした姿勢を堅持し、甘い合意はしないという鉄則を守ってほしい。
毎日新聞 2008年11月15日 0時13分