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<日本航空医療学会雑誌>

REGAに見る航空医療事業の採算性

Profitability of Air-Rescue Business in REGA

 

西 川  渉

(地域航空総合研究所 所長)

【要  旨】

 スイス・エアレスキューREGAは14機の救急ヘリコプターで国内全土をカバーし、3機の救急ジェットで全世界をカバーしている。この見事な救急搬送体制の運営に当たるため、REGAは豊富な人材を擁し、パイロット、整備士、運航管理者などの航空従事者に加えて、ドクター、ナース、パラメディックなどの医療スタッフも多い。何故このような潤沢な、行き届いた救急システムを維持できるのか。その内容を経済面から観察し、わが国の参考となる点を探る。

 結論としては、日本円にして年間80億円以上の収入を上げ、非営利法人として税金や配当を出す必要がないため、多額の剰余金を残していること。その背景にあるのは国民の5分の1を超える支援だが、スイス人がことさら人道的な民族だからというわけではない。彼我の違いは税制の違いにあるのではないか。とすれば日本のドクターヘリ・システムは如何にあるべきだろうか。

50周年を迎えたREGA

 スイス・エアレスキューREGAは発足50周年を迎えた。創立は1952年4月27日というから、ちょうど半世紀を経過したことになる。

 発端は、主としてアルプス山岳地の遭難救助に当たっていたスイス救助協会(SLRG)の総会でルドルフ・ブッヒャー博士が航空機を利用したレスキュー・チームを作りたいという提案をしたことにはじまる。総会の承認を経てスイス・エアレスキュー、すなわち航空救助という専門組織が発足した。

 最初の救助は同年9月、スイス人のパラシューティストが英国での訓練中に負傷したとき、飛行機で患者を迎えに行ってスイスへ連れ戻したことだった。 さらに12月22日ヘリコプターを利用した救助にも成功した。事故を起こした熱気球の負傷者1人をバルーンのバスケットごとヒラー360小型ヘリコプターで吊り上げ搬出した。この迅速な救助活動によって、山岳地でも着陸できるヘリコプターの有効性が実証された。

 1957年にはベル47G-2小型ヘリコプターの寄贈を受け、アルプス山岳救助のための待機がはじまった。

 1960年3月、スイス・エアレスキューはSLRGから分離独立し、みずからの基金で自立するようになった。同時に全国的な組織として展開し、広範囲の救急要請に応じて、国内はもとより国外でも利用されるようになった。

 このころまでに、REGAは公的な資金援助をなくし、民間基金だけで運営するという基礎が固まり、その信頼性と名声も急速に高まった。それを見たスイス連邦政府は1965年、REGAをスイス赤十字の特別補助機関として組み入れることにした。

 1973年6月、REGAは世界最初の民間アンビュランス機を購入した。リアジェット24D双発ジェット・ビジネス機に救急医療装備を取りつけたものである。半年後の同年11月、初めての双発タービン・ヘリコプターMBBBO105Cを入手する。

 その頃からREGAは、事故の現場に直接医療チームを送りこむという考え方を実行に移した。当時としては画期的なことで、1975年には交通事故の救急もおこなうようになった。

 1992年からはヘリコプターの更新がはじまった。旧式となったアルウェットVやBO105に代わって、新しいアグスタA109K2に統一することとなり、入れ替えは1995年に完了した。

 現在ではA109K2ヘリコプター14機をスイス国内10か所に配備、ほかに民間企業のヘリコプター3機が協力体制を組み、合わせて13か所のヘリコプターが一部地域を除いて、国内のどこでも15分以内に医師を送り届けるシステムを組上げている。その任務は、アルプスの山岳地帯に多い登山またはスキーの事故や、平地での交通事故、さらにはスポーツによる怪我、労働災害、急病人などの救急である。

 さらにREGAのチューリッヒ本部にはビジネスジェット3機に救急装備をして待機させ、ヨーロッパ圏内はもとより、北アメリカから、日本を含む極東地域まで全世界を網羅する活動を続けている。

2001年の出動実績

 これらの航空機によるREGAの救急救助活動については、よく知られている通りだが、2001年の実績を簡単に見ておこう。

 表1に示す通り、REGAの出動件数はヘリコプターと固定翼機を合わせて、年間およそ9,500件となっている。このうちヘリコプターは85%余り、固定翼機が15%弱である。

 ヘリコプターの出動8,262件のうち1次救急は4,729件で57.2%を占める。症例の中で最も多いのは交通事故などによる頭部外傷で1,534件(18.5%)、次いで心臓および循環器系統の急病が1,438件(17.4%)。第3位が脊椎損傷の511件(6.2%)で、生後4週間未満の新生児救急も291件(3.5%)を数える。またヘリコプターの夜間出動は1,747件で、21.1%に達する。

 固定翼機の出動は国外からの帰還搬送だが、1,252件のうち767件(61.3%)はREGA所有の救急ジェットによるもの。残り485件は定期便を利用し、REGAの医師が付き添って搬送してきたものである。

 両者を合わせた帰還搬送は、前年の1,336件に対し6.7%減となった。これはスイスから国外へ出かける旅行者が減ったためらしい。つまり、ここにも9.11多発テロの影響が出ているというわけである。

 

表1 REGA出動実績

   

2001年

2000年

前年比(%)

ヘリコプター

8,262件

8,194件

+0.8

固定翼機

1,252件

1,336件

-6.7

合  計

9,514件

9,530件

-0.2

救護患者数

8,869人

8,842人

+0.3
[出所]REGA Annual Report 2001, Feb. 2002


雲の垂れ込めた雨の中を救急出動するREGAのA109ヘリコプター
(ベルン空港にて、2002年6月8日撮影)

国民の2割余がREGAに献金

 このようなREGAの活動状況については注目すべき点がいくつもあるが、ここでは2001年6月にREGAを訪ねたときのもようを踏まえ、日常活動の結果ともいうべき財務内容に絞って見てゆきたい。というのは、高価な航空機を利用し、人件費の高い医師を初めとする医療および救助スタッフを擁していながら、きわめて健全な運営を続けているからである。

 もとよりREGAは企業ではない。したがって営利が目的ではないけれども、財務上のバランスが採れなければ、破綻に追い込まれる。そうなれば人命救助といった本来の目的はおろか、自らの存続すら危うくなる。非営利団体として自立しながら、なおかつ高いコストのかかる救急救助業務を進めてゆけるのは、どこに秘訣があるのだろうか。

 第1は、REGAが国民的な支援を受けていることであろう。といって国や自治体から経済的な援助を貰うわけではない。スイス国民1人ひとりの寄付行為がその基盤となっている。

 REGAに献金した国民は、2001年が161.7万人であった。同年スイスの人口は722.2万人と推定されるから、総人口比22.4%ということになる。スイス人の5人に1人がREGAに献金したことになる。

 このように献金してくれた人を、REGAは「パトロン」と呼んでいる。パトロンの数は表2のとおり年々増加しており、2001年は前年比2.2%増、10年前の24.1%増、20年前の2.1倍に達している。

 これはREGAに対する国民の信頼が年を追って増大することを示すものであろう。このような支援が高まれば、単に経済面のみならず、REGAの仕事そのものがやりやすくなる。国民の眼からすれば、REGAの赤い塗装に赤十字のマークをつけたヘリコプターが自分たちの生命を護ってくれる象徴のようにも見えるに違いない。

 

表2 REGAパトロンの増加

パトロン数(千人)

人口(万人)

人口比(%)

2001

1,617

722.2

22.4

2000

1,582

717.7

22.0

1996

1,374

708.7

19.4

1991

1,303

――

――

1986

1,052

――

――

1981

758

――

――
[出所]REGA Annual Report 2001, Feb. 2002 

REGAの収入源と金額

 パトロンの献金額はいくらであろうか。最低単価は大人1人あたり年間30スイス・フランである。1スイス・フランが80円とすれば2,400円に相当する。ほかに家族単位の献金も可能で、その金額は表3のように定められている。

 この献金をした人は万一の場合、たとえば交通事故、急病、遭難など、国の内外を問わず、無償でREGAの航空機による救急、救助を受けることができる。先に述べたように、REGAが国内全土に13機のヘリコプターを配備、国外向けに3機の救急ジェットを待機させているのはこのためである。

 

表3 スイス国民によるREGAへの献金単価

   

献金最低額(CHF/年)

円換算(円/年)

大人1人

30

2,400

家族(両親と18歳未満の子ども)

70

5,600

片親家族(片親と18歳未満の子ども)

40

3,200
[注]円換算は1スイス・フラン(CHF)=80円として計算

 

 こうしたパトロンの献金額は、2001年がおよそ6,050万フラン(約48億円)だった。2000年の1.6%増である。

 REGAの収入はパトロンの献金だけではない。ほかにも大口の寄付がある。大半はREGAの救護を受けたことのある人が、後年死亡したような場合の遺産であるという。これが2001年は約400万フラン(約3.2億円)であった。

 また医療保険から飛行料金として受け取る収入も大きい。それに他の収入を加え、逆に回収不能額を差し引くと、REGAの収入総額は2001年の実績で表4の通りとなる。

 

表4 REGAの収入源とその比率

      

2001年
(千フラン)

構成比(%)

2000年
(千フラン)

前年比(%)

パトロン献金

60,498

55.5

59,549

+1.6

大口寄付金

3,931

3.6

7,063

-44.3

医療保険・患者負担

37,004

33.9

37,696

-1.8

その他の収入

7,682

7.0

6,114

+25.6

合 計

109,115

100.0

110,422

-1.2
[注]金額の単位は千スイス・フラン(=約80,000円)

救急救助料金の回収順序

 このような収入源と救助または救急患者との関係は下図に示す通りである。すなわちREGAの経費は、基本的には先ず医療保険によってまかなわれる。患者が保険に入っていなくても、REGAのパトロンであれば問題はない。しかしパトロンでなければ、患者個人の支払いを求める。ただし支払い能力がなければ回収不能となることもある。

 

患者への質問と費用の支払い

あなたは医療保険に入っていますか?

「YES」→

保険会社へ請求する

「NO」

あなたはREGAのパトロンですか?

「YES」→

費用の請求はしない

「NO」

あなたは救急出動費用を払えますか?

「YES」→

患者へ請求する

「NO」

回収不能の経費として帳消しにする

 

 なお、回収不能のコストは1人あたり5,000スイス・フラン(約40万円)と見こまれるらしい。表3では、この回収不能額が飛行料金の中にマイナスで含まれている。REGAとしては表面に出したくないためか、余りはっきりしないが、2000年については893万フランと聞いた。

REGAの支出経費

 以上のような収入に対して、支出の方はどうなっているか。2001年の経費実績は表5の通りである。

 

表5 REGAの支出経費

費用科目

2001年(千フラン)

2000年(千フラン)

前年比(%)

航空機運航費

18,997

14,869

+27.7

出動費

10,768

10,663

+0.9

人件費

45,303

42,484

+6.6

施設費

1,233

1,240

-0.6

車両整備費

1,227

802

+52.9

保険料

2,737

2,935

-6.7

一般管理費及びIT経費

5,664

5,446

+4.0

広報活動費

5,885

3,904

+50.7

減価償却費

2,515

1,367

+84.0

金利その他の臨時経費

5,900

――

――

合  計

100,229

83,710

+19.7
[出所]REGA Annual Report 2001, Feb. 2002

 この表のうち、運航費にはヘリコプターとジェットの双方にかかる燃料費、整備費、部品費、さらには不時の故障に伴う他社機のチャーター料などが含まれる。2001年は前年比27.7%と高騰した。REGAによれば、整備費が増大したためという。それというのも、機体が古くなると、オーバホールなどの整備費がかさむと共に、可動期間が減るため他社機のチャーター料が上乗せになる。また2001年はエンジンのオーバホールも多かったらしい。

 人件費は前年比6.6%の伸びだが、支出全体に占める割合が45%を超えている点が目立つ。2000年度は運航費が低かったせいもあって、人件費は50%以上を占めた。このときのスタッフの内訳は表6の通りで、きわめて潤沢な人材を擁していることが分かる。

 といって贅沢をしているわけではない。パイロットはヘリコプターの機数に対してほぼ2倍、ジェット3機に対しては7倍であり、運航管理スタッフも多いが、いずれも24時間、昼夜の区別なしに待機と出動をしなければならないからであろう。同様にドクター、ナース、パラメディックといった医療スタッフが多いのも、出動のたびにヘリコプターや飛行機に乗って飛ばなければならないからに違いない。

 

表6 REGAのスタッフ数

   

人   数

備   考

ヘリコプター・パイロット

29

 

ジェット・パイロット

21

 

整備士など航空技術者

42

 

運航管理スタッフ

33

 

ドクター

18

 

ナース

16

 

パラメディック

31

 

補給係員を含む一般管理部門

84

   

合   計

274

  

 

 減価償却費は極度に低い。機材が古くなって、償却がほとんど終わってしまったということだろうか。保険料の低いのも目につく。航空機の償却が進んだために、保険金額が安いのかもしれない。保険料率が安いか高いかは航空会社の安全に関する実力を示すことでもある。事故の多い会社は当然、保険料率が高くなる。その点REGAは、特にヘリコプターは危険な任務が多いと思われるが、事故を起こした話は聞いたことがない[]。その点が評価されているのだろうか。

 2001年度は前年計上されていなかった金利その他の臨時支出が加わった。その理由についてREGAの説明はないが、2001年なかばREGAは高額の航空機を発注しているので、その手付け金などの資金手当が必要だったかと思われる。

健全なる収支の結果

 こうしてREGAの2001年度(2001年1〜12月)収支結果は表7の通りとなった。上記のような理由から支出は前年比2割近く増えたけれども888万フランの剰余金を上げることができた。一般企業でいう経常利益に相当し、企業ならばここから法人税や配当金が出てゆくことになるが、非営利団体としてはそのまま手もとに残る。この点がREGAの強みであろう。

 

表7 REGAの2001年度収支結果

   

2001年(千フラン)

2000年(千フラン)

前年比(%)

収 入

+109,115

+110,422

-1.2

支 出

-100,229

-83,710

+19.7

財務評価益など

――

+5,686

――

剰余金

+8,886

+32,398

-72.6

[注]2001年度=2001年1月〜12月

 

 2001年の実績は以上の通りだが、2000年および1999年の剰余金は驚くほど多い。表7に見られる2000年の収支では3,239万フラン(約26億円)の剰余金を出し、1999年はもっと多く4,262万フラン(約34億円)の剰余金が残った。合わせて60億円に相当する。

 この膨大な資金をどうするつもりか訊いたところ、REGAの答えは、航空機その他の機材や設備の更新と充実に当てるとのことであった。たしかにチューリッヒで見た本部施設、とりわけガラス張りの巨大な格納庫は内部が明るいばかりでなく、床面の材質が吟味されているせいか油脂類の汚れが残らず、きわめて清潔に保たれていた。これは航空機の整備のしやすさだけでなく、作業の安全上も重要な要件といってよいであろう。

 またスイス全土に張り巡らされた無線連絡網も、峻険なアルプス山岳地だけに山の峰々に高いアンテナ塔を設置するなど、平地に倍する工事費がかかったものと思われる。

 そして、われわれの訪問から2〜3か月を経たずして、REGAはユーロコプターEC-145双発ヘリコプター4機とボンバーディア・チャレンジャー604ビジネスジェット3機を発注したのである。

 REGAの保有するヘリコプターは現在アグスタA109K2が14機だが、その運用がはじまったのは1992年。今年でちょうど10年になる。本来ならば、まだ引退する時期ではないけれども、標高の高い山岳地でエンジン出力を一杯に使いながら、救助作業のホバリングを続けたり、救急のために短時間で離着陸を繰り返さなければならない。そのためエンジンを初め機体の消耗が激しく、整備費がかさむようになり、買い替えの時期が早まる。EC-145の発注は、そうした対応策の一環であろう。2002年12月から4機の受領が始まる予定と聞いた。

 また固定翼機はビジネスジェットに救急装備をして、欧州圏内や中近東など比較的近い国からの帰還搬送にホーカー800を2機、大西洋横断や極東地域からの搬送にチャレンジャー601を使用している。これを統一して新しい長距離用大型機チャレンジャー604に買い替えるというのが2001年9月26日の発表であった。2002年11月までに3機とも引渡される予定である。

 これらの航空機購入価格を推定すると、チャレンジャーは3機で約75億円、EC145は4機で約25億円となり、合わせて100億円の買い物である。2001年度の収入が、日本円にして88億円程度とすれば、年間売上高を上回る設備投資である。航空機の運航会社になぞらえるならば、大胆な経営施策ということになろう。

 REGAの健全豊富な財務内容と自信のほどがうかがえる。


2002年末からREGAへの引渡しが始まった新しいユーロコプターEC145

国民の生命を護る使命

 REGAがこれだけたっぷりした運営をできるのは何故か。いうまでもなく支出を大きく上回る収入があるからだが、表4をよく見ると、医療保険や患者負担は収入の3分の1に過ぎない。やはり収入の半分を超えるパトロン献金、すなわち国民の2割以上の支援があるからだろう。

 それならば、日本も全国民から少しずつ会費のようなものを集めたらどうかという意見もあろう。しかし、これは言うべくして難しい。むろん日本人の人道精神がスイス人より劣るというわけではない。国民経済の基本制度が異なるからである。

 スイスには、州によってやや異なるけれども、たとえば特殊法人への寄付に対する税法上の優遇措置が定められている。また遺産相続税のない州もある。REGAに助けられた人が後年死亡した場合、その遺産をREGAに寄付するのはそうした税制にも関連する。

 日本は当然のことながら、全く別の考え方で租税制度を保持している。それには社会的、政治的、歴史的な経緯もあって、ここでその是非を論ずるつもりはないが、少なくとも国家が国民の生命財産を護る使命を有することは、スイスも日本も変わりはない。

 わが国「憲法」は第13条に「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めている。これは単なるかけ声や心得ではない。また国民に対する指示でもない。逆に「どんな政策課題や立法上の課題にも優先して、国民の生命や自由、私有財産を守る義務がある。……そのことを国家に対して命じている」というのが憲法学者、小室直樹の解釈である。

 言い換えれば、国民の生命の守護は国家すなわち政府の義務である。その義務を果たすには、スイス国民の献金や寄付と同様、日本国民から集めた税金をもってこれに当てなければならない。昨年度から始まったドクターヘリ制度がこれに当たるが、それだけでは不十分である。

 REGAが献金と寄付に医療保険を加えているように、ドクターヘリにも国と自治体の公的資金に加えて、健康保険その他の社会保険の適用が必要となる。人道的な問題だから多少の不足は我慢せよというのもおかしい。REGAのような潤沢な財務内容まではゆかなくても、人道問題だからこそ収支相つぐなう必要がある。

 さもなければ、当事者は年を追って疲弊してゆき、長続きがしなくなる。ヘリコプター救急を全国に普及させると共に、恒久的に維持してゆくには収支のバランスが健全でなければならない。

 そのためにも、REGAの業務体制と財務内容はひとつの重要な参考となるであろう。

(『日本航空医療学会雑誌』2002年12月第3巻第2号所載/JSAS、2003.3.25)

 

[注]上の文章にREGAの事故は聞いたことがないと書いたところ、聖隷三方原病院の岡田眞人先生から次のようなご注意をいただいた。ここに御礼と共に掲載いたします。

 REGAも過去何回か死亡事故を経験しているようです。「1414」というREGA機関誌の2001年11月号に50年の歴史があり、その中に事故の記録が載っていました。ご参考までに。

1978年5月17日――ベルンにおけるデモ中に吊り下げネットのベルトが切れ、乗っていた5名が7m落下。3名死亡、2名が重症。

1988年6月2日――ビーラー湖でデモ中にアルエットが地上共振をおこし墜落。2名が負傷。機体は大破。

1990年8月13日――KnonauermatにおいてBO105が訓練中に墜落。負傷者1名。機体は大破。

1993年2月16日――ツーク湖にアグスタA109K2が墜落。パイロット死亡。

1993年9月8日――牛を搬送しようとしたアルエットが低空から墜落。パイロットが負傷。機体は大破。

1993年9月16日――ビリエンツ湖周辺でアルエットが着陸に失敗し、機体は大破。負傷者はなし。

1997年7月31日――ローザンヌ基地のアグスタA109K2の救助用ワイヤーが切れ、医師と患者が死亡。

 これだけの事故が報告されていますが、それにもめげずREGAは発展してきました。社会的意義が国民の間に浸透しているから、事故によって活動が停止することがなかったのだと考えます。

聖隷三方原病院
岡田眞人

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