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社説

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税の無駄遣い―強い検査院をつくりたい

 国の財布の危機的状況などどこ吹く風とばかり、納税者をばかにした国費の無駄遣いや不適正な経理が相変わらず横行している。

 政府職員が架空の領収書でつくった裏金で飲食する。自治体職員が生活保護費を国に過大請求する。建設のめどが立たない施設に巨費を投じる。

 そんな事例が昨年度中に判明しただけで981件、1253億円にのぼったことが、会計検査院の報告で明らかになった。件数、金額とも過去最高だ。この金額は、勤労者20万世帯分の納税額にあたる。

 あきれることは、まだまだある。検査院が過去に税金の無駄遣いを指摘したにもかかわらず、それをいまだに改善していない役所や団体が29もあり、その合計は465件、131億円になるというのだ。

 例えば農林水産省では、景気対策のために自治体経由で支出した林業への補助金が目的通りに使われていなかった。自治体から返させるべき約5億7千万円分がまだ返っていない。郵便事業会社では、郵便局長が11年間に計12億円の料金を着服した。この局長は起訴されたが、まだ5億6千万円分が返済されていない。

 同じような事態は一昨年度についての報告でも明らかになっていた。これでは何のための会計検査かということになる。政府と自治体には、こうしたことが繰り返されないよう早急な取り組みを求めたい。

 検査院にとっていま必要なのは、質量両面で調査力を強めることだ。そのひとつとして、外部の専門家をもっと活用したい。いまでも公認会計士を一定期間、採用しているが、検察官や弁護士の参加を求める手もある。

 検査院は、犯罪を見つけたら検察庁に通告する義務を負っている。だが通告した例はほとんどない。端緒をつかんだら、すみやかに通告する。それが不正の抑止にもつながるだろう。

 検査院の権限強化のために、法改正も急ぎたい。与党の検討チームがその準備をしている。経理の不正に罰則を設け、不正をした公務員に任命権者が適切な懲戒処分をするよう求める義務を検査院に課すなどの内容だ。

 強い検査院には、よりいっそうの公正さが迫られる。今年、検査院の調査官が検査先の公社から接待を受けていたことが発覚した。検査対象の自治体や独立行政法人への、幹部職員の天下りもいまだに続いている。こんな、もってのほかの現状をただちに改めることが、権限強化の前提である。

 検査院の強化は無駄遣いを減らすための一つの手段にすぎない。事業や計画が本当に必要か否かを判断するのは国会や政党の仕事だ。それを通じて「無駄ゼロ」に近づけることなしに、納税者は増税を受け入れまい。

対がん50年―患者に寄り添う時代に

 「がんの3分の2は、予防できるし早期に発見すれば治療できる」

 先日の日本対がん協会創立50周年の記念講演で、米国対がん協会のジョン・セフリン会長はこう断言した。

 米国などの先進諸国は、予防のためのたばこ対策とがん検診を重点的に進めている。おぼつかないのが日本だ。

 がんは1981年以来、日本人の死因のトップだ。昨年は約34万人、3人に1人はがんで亡くなった。

 日本対がん協会は50年前、すでに危機感を抱いていた。設立趣意書に「がんは公衆衛生の面で現下の最大問題といって言い過ぎではない」とある。

 民間の立場でがんを征圧しようと、研究の推進や専門家の養成、国民への啓発活動を進めてきた。胃がんの集団検診を世界に先駆けて始めるなど、検診の普及にはとくに力を入れた。

 むろん、がん対策では何よりも政府の役割が重要だ。趣意書も「一刻も早く、がん対策を国家行政の線にのせること」を大きな目標として挙げた。

 それから半世紀、06年にはがん対策基本法ができた。それに基づくがん対策推進基本計画は、がんで亡くなる人の割合を10年で20%下げるという目標を掲げる。現在約20%の検診受診率を5年で50%以上にすることもめざす。

 しかし、この計画で政府の責任は明確ではない。たばこ対策には及び腰だし、検診も財政難の市町村に負担を強いている。効果があるとわかった検診の受診率を上げるには財政支援が欠かせない。長い目でみれば、医療費抑制にもなるだろう。本当の意味で「国家行政の線」にのせねばならない。

 この50年で、がんとの向き合い方は大きく変わった。告知を受け、自ら治療法を選び、治った後の人生を生きる。医師任せの時代は終わったのだ。

 こうした時代の変化を映すように、セフリン会長は、民間が果たすべき重要な役割として、患者や家族への的確な情報提供と支援を挙げる。

 米国対がん協会は24時間態勢で無料の電話相談に応じている。毎日約3千件の相談があるという。活動は広く知られ、年に1千億円を超す巨額の寄付がさまざまな活動を支えている。

 自らもがんの手術を6回受けた日本対がん協会常務理事の関原健夫さんは、こうした患者や家族を支える活動がもっと必要だという。

 日本でも協会のがんホットラインが06年に始まったが、07年の相談件数は約3500件にとどまる。

 朝日新聞社は協会設立を後押しし、支援してきた。設立時の本紙社説でも、がん征圧への協力を呼びかけた。そのなかに「ガンは極めて難治」という言葉がある。いま、がんは治せる病気になった。

 50年の経験を踏まえ、がん患者の未来を社会で支える時代にしたい。

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