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記者が体験:禁煙日記 挫折 「初めてで成功はまれ」に救われ /和歌山

 仕事でミスを連発し、数週間前から気分が落ち込んでいた。喫煙すれば、気が晴れるかもしれない。禁煙してから増えた体重も減るかもしれない。そんな時、たまたま見た映画で主人公が軽快な音楽を聴きながら、おいしそうにたばこを吸っていた。つい1本、手が出てしまった。

 県立医大薬理学教室の岸岡史郎教授は「脳は一度覚えた快楽を覚えている。脳内麻薬を出して依存させる仕組みがニコチンとヘロインは同じ」という。

 たばこを吸うと血液中のニコチン濃度が急激に上がり、神経伝達物質のドパミンの分泌が促進されて満足感が得られる。30分ほどでニコチン濃度が半減し、また吸いたくなる。この悪循環がニコチン依存症で、長い間禁煙しても1本吸っただけで元に戻ってしまう。

 ドパミンは何かをやり遂げたり、買い物で気分が高揚した時に分泌される。落ち込んだ時にたばこを吸うと、脳は勘違いして喜ぶが、問題は全く解決されていないのだ。

 禁煙した半年間は四六時中たばこのことを考えた。「一生続けてこそ意味がある」と思うと気がめいった。ある男性を思い出していた。男性は取材先の病院の喫煙所に点滴を引きずって現れた。前の晩、救急車で運び込まれたという。「頭の病気で倒れたのは3回目。だから今は1日4本だけ」と笑った顔が寂しそうに見えた。

 日赤和歌山医療センター禁煙外来の池上達義医師を訪ねた。忙しいと言い訳し、数回通っただけだったので気が重かったが、池上医師は穏やかだった。「再喫煙は、禁煙の一つの過程です。初めての禁煙で成功する方はまれで、3、4回の禁煙を経て『卒煙』する人が多い。大切なのは、できるだけ早く禁煙を再開することです」という言葉に救われた。注意すべきは気持ちの大きな変化。ストレスや孤独を感じた時だけでなく、うれしくて仕方ない時も危ない。子どもの受験成功で、気分が高揚して再喫煙した例もあったという。

 製薬会社「ノバルティスファーマ」が07年3~4月、過去1年間の喫煙・禁煙事情を調査した。禁煙を考えた3889人のうち、2724人が挑戦。調査時点で禁煙継続中が1454人(約53%)、挫折は1270人(約47%)。挫折した私のミスが減ったかというと、全然減らなかった。【加藤明子】

毎日新聞 2008年11月15日 地方版

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