東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

報酬引き上げへ 魅力ある介護現場に

2008年11月15日

 良い介護を受けるには質の高い介護従事者が不可欠だ。現場で意欲と誇りを持って安心して働けるように能力や資格、経験年数を正当に評価して待遇を改善しないと、超高齢社会は乗り切れない。

 介護サービスの公定価格・介護報酬が来年四月に改定される。改定幅は通常、年末の予算編成時に決まるが、今回は先月末、早々と3%の引き上げを政府が決めた。

 過去二回と違い、初めて引き上げるのは、介護従事者の待遇改善が急務であることを政府が認めたためだ。

 厚生労働省によると、常勤の介護従事者の平均給与は男性の場合、二一・四万円で、全産業平均の三三・七万円より十二万円以上低い。女性の場合も同様に低い水準にある。男女とも他産業より賃金カーブの上昇が緩い。

 年間の平均離職率も全産業平均の16・2%に対し、介護では21・6%と高い。勤続三年未満の離職は75%に達する。

 離職の最大の要因は、厳しい労働の割には待遇が悪いためだ。

 遅ればせながら政府が待遇改善に乗り出したのは歓迎する。

 これをさらに充実させるには、今後厚労省が、介護従事者の経験年数、国家資格である介護福祉士の資格の有無、何級のヘルパー資格を持っているかなどの評価を明確にし、それを報酬に反映させる仕組みを整えることである。

 経験年数が長いほど、また持っている資格が上位であるほど、介護能力が高いとの研究報告があり、それらの正当な評価は介護従事者の要望でもある。これにこたえる改定にしてもらいたい。

 政府は3%引き上げで月平均二万円の給与アップを見込んでいるが、4%の引き上げがないと二万円は達成できない、との試算を全国福祉保育労働組合がまとめている。報酬引き上げが給与アップにどの程度つながるかが確認できるように、医療における診療報酬改定後の検証作業のように、介護報酬でも検証する仕組みが必要だ。

 介護事業者には、給与水準や介護能力の向上に欠かせない研修体制の有無などの情報の公表を制度化し、就職先を決めやすくすることも検討すべきだろう。

 介護従事者は、介護保険がスタートした二〇〇〇年に約五十五万人だったが、〇六年には百二十万人に増えた。数年後には百六十万人が必要になるとみられる。

 離職者を呼び戻すとともに新たな資格取得者を増やすには介護現場が魅力的でなければならない。

 

この記事を印刷する