空中キャンプ

2008-11-13

なにをやっているのかわからない人

世間には「なにをやっているのかわからない人」というのが一定数いる。いったいどうやって生計を立てているのか、ふだんなにをして生活しているのか、およそ見当がつかない人たちが存在するものである。仕事をしているのかどうかすら、よくわからない。彼らはふだん、どうやって日々の糧をえて、暮らしているのだろう。

日常、われわれの生活範囲では、「なにをやっているのかわからない人」との接点はほとんどないのだが、ふとしたきっかけ、たとえばどこかの店で友だちと飲んでいるときに、その中のひとりが、携帯で他の誰かと連絡を取っていて、「知り合いの人を誘った、もうすぐ来る」といったようなことになり、だいたい夜中の二時くらいになったあたりで、「なにをやっているのかわからない人」はふらりとやってきて、われわれのいる席に加わる。

黒いレザーの上着に、同じく黒いレザーのズボン、長髪を後ろでちょんまげ状に結わえたその男性は、年齢も不詳、なぜか周囲からは「マイキーさん」と呼ばれ、「はじめまして」とあいさつをすると、「どうも、マイキーです」と、いきなり指輪だらけの手を差し出してきて、わたしは握手を求められる。舞木という名字なのだろうか、などとわたしは考える。マイキーさんの手は意外にやわらかかった。マイキーさんの近くにいるとなんかいい匂いがする。「とりあえずなにか飲みますか」とメニューを渡すと、マイキーさんは「じゃ俺、シンガポールスリング」と注文をした。

この人はなんだ。わたしは、はやる好奇心を抑えながら、周囲の会話からマイキーさんについての情報を集めることにした。彼が六本木の瀟洒なマンションに住んでいること。同じマンションには中村梅雀が住んでいること。仕事で、よく仙台と東京を往復していること。そして毎回、おみやげに萩の月を買ってきてくれること。情報を得るほどに、マイキーさんの正体はよりわからなくなっていき、「この人はいったい、どうやってメシを食っているのだ」という疑問はふくらんでいく。わたしは、マイキーさんがトイレに立ったタイミングを見計らって、友だちに訊いてみた。

「マイキーさんってなにしてる人?」
「えー、なんかね、プランナーだって」
「プランナーってどういうあれなの」
「えっと、プランを立てる人」

ますますわからなくなった。マイキーさんはなにを計画しているのだ。友だちのゆかちゃんは、この前マイキーさんに、浜崎あゆみのコンサートの券をもらった、会場に着いてみたらいちばん前の席だったといっていた。なぜそんな券を持っているのか、さっぱり見当もつかないが、実はけっこう親切でいい人なのだ。そしてわたしは彼に訊きたい。あなたはなにをやっている人なのだ。