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「日本の患者会活動は発展の過渡期にある」

【第37回】乗竹亮治さん(日本医療政策機構 市民医療協議会)

 
現在、国内でおよそ1500団体あるという患者会。厚生労働省の審議会などに患者会の代表者らが参加する機会が増えるなど、その活動の幅は徐々に広がりを見せている。その一方で、「ほとんどの団体がオフィスを持っていない」「組織運営をしていく上で、そのプロフェッショナルの参加がない」などの問題がある。日本医療政策機構の市民医療協議会で患者会への支援に当たっている乗竹亮治さんは、「日本の患者会は、今まさに発展していく過渡期にある」と話す。患者会の課題、今後の展望を聞いた。(津川一馬)

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―患者会は、そもそもどういったものなのでしょう。
 
患者会には3つの段階があると思います。一つ目は癒やしの場としての患者会で、病院内で同じ病気を持った人々が集まって悩みを話し合うといった場です。
 二つ目は、情報共有、情報発信の場としての患者会です。同じ病気を持つ人が集まって話し合う中で、主治医によって治療法が違ったり、病院によって処方している薬が違ったりすることに気付き、受けた治療はベストだったのか、と悩み始める。その悩みを解消するため、情報を共有して、よりよい治療や情報を求めたり、得た情報について同じ悩みを世の中の人が感じないために情報発信をします。
 次に、情報共有、情報発信していく中で、治療法に差があったり、標準治療が行われていなかったりするという現状に対して、政策を変えなければ現場は変わらない、ということに気付く。そこで政策を変えようと声を上げているのが「アドボカシー団体」としての患者会です。日本では、第3段階まで来ている患者会というのは極めて少ないという現実があります。欧米が市民主体の医療を勝ち取ってきた背景には、第3段階の患者会のアドボカシー活動の貢献があります。そういう意味で、日本でも第3段階の患者会を増やしていく、もしくはサポートしていく必要があると思います。ただ、それぞれの段階が重要で、段階に応じた役割があると考えています。

―市民医療協議会の働きについて教えてください。
 市民医療協議会は日本医療政策機構の一プロジェクトチームで、市民主体の医療政策の実現を目指しています。医療政策における市民参画を考える際、患者の声である患者会や市民グループの意見を尊重する必要があります。患者や市民の立場から発言をされている存在として、患者会や審議会に患者委員として参加されている人々がいます。わたしたちは、彼らの求めるニーズに基づき、課題解決型の組織として、この市民医療協議会を設置しました。
 仕事は大きく分けて3つの段階があります。
 まず、インフラ支援として、わたしたちのオフィススペースの一部をなるべく患者会活動にも利用できるような仕組みを考えています。多くの患者会はオフィスがなく、役員会を開く際も、近くの公民館の会議室をわざわざお金を払って借りるなどの状態にあるからです。パソコンの寄付などもしています。また、ペーシェントユニバーシティーという患者会の運営支援のセミナーを開いています。これまで治療情報や医療政策のセミナーなどは、広く行われてきましたが、患者会の運営にまつわる基礎的な部分のセミナーというのはあまりありませんでした。
 次の段階は、意見集約化です。患者会は日本に1500団体以上ありますが、それぞれ違う意見や目的を持っています。それぞれが目的に基づき、別々に活動をされていること自体にも非常に意味があるのですが、政策、政治にアピールするためには数が重要であり、客観的なデータが必要となります。患者さんの声を「大きく」、そして「クリア」にしていきたいと思います。
 三つ目はアドボカシー支援で、患者さんの立場を擁護して、声を社会に出していくということです。実際に患者会や患者リーダーの訴えていることを政治に届け、政策を変えていくことを目指しています。海外の患者会と共同でワークショップを開催したり、政策立案者を招いたシンポジウムを開いたり、政策提言活動などがこれに当たります。

―日本の患者会には「人」や「金」が足りないという声があります。
 
日本の患者会は、まだまだ規模が小さいですが、例えばアメリカがん協会(ACS)は年間予算が1000億円あります。巨大な団体で、巨大なパワーをワシントンに持っています。
 お金については、患者会側、企業を含めた社会、双方が努力する必要があります。患者会側の努力とは主に「スキル」です。しっかりとした事業計画書を作るとか、収支予算を立てる、ファンドレイジングの方法論を学ぶなどの動きを患者会側はつくっていく必要があります。これまでは、「良いことをやっているからお金をください」という要素がありましたが、プロジェクトとして、「患者会というのは社会資源なのだ」という認識を患者会の人は持って、社会資源を運営していく上でのプロジェクト、プロジェクトとしてのお金集め、という姿勢が重要ではないかと思います。
 その一方で、医療者を含めた社会全体は、患者会の役割をきちんと認識してあげるべきだと思います。「患者会というのは、ただのクレーム団体」だとか、「圧力団体」などというイメージを持っている人がいますが、患者会は医療者や社会との信頼関係を望んでいて、闘うのではなく、協働したいと思っています。その気持ちに応える、社会資源としての患者会というものを、社会が認識してあげるということが必要だと思います。

 人という意味では、海外の患者会がスペシャリストを雇用していることも参考になる点です。日本の患者会の場合、役員会や理事長はすべて患者さん。それ以外では医師がいるといったものですが、海外では寄付金集めのスペシャリストが経営に参加していたり、経理担当者が雇用されたりしています。患者さんやその家族だけで運営していると、体調やそれぞれの事情で、なかなか運営が一定になりません。運営側の人間を入れることは、組織を発展させる意味で重要だと思います。今後、団塊の世代がリタイアして、さまざまな人材が社会に出て行くので、そういった人々を効率的に活用していくことも、日本の患者会に必要だと思います。

―現時点で市民、患者主体の医療は実現していないのですか。
 
そう思います。皆さん、国民、市民のために、と思って努力されていると思いますが、医療政策を作るプロセスとして市民の声、患者さんの声が入っていたかというと、入っていなかったと思います。省庁や政党、各種利益団体も、「国民のため」、と思ってやってこられたこともあると思います。ただし、それは「これが国民のためなのではないか」という想定で動いていた部分もあったのではないかと思います。
 そうではなく、プロセスとして、市民、患者さんも声を上げて、それを立法府たる国会、政治家が拾って、吸い取り、それを行政府に手渡し、実際に法律にしていくという、“市民発”の本来の民主主義のあるべき姿ということが、医療政策の中でなされてきたかというと、やや疑問な点も残ると思います。それを今、患者会や患者委員が実現しようとしていますし、がん対策推進基本法というのは、まさにそれの一つの成功事例だったと思います。

―患者会が今後の医療に果たす役割はさらに大きくなっていくと思いますか。
 
そう思います。例えば、審議会に患者委員が入ることが増えました。この動きは歓迎すべきことで、これは市民の声が医療政策に届くことにつながると思います。審議会は、さまざまな利益団体が意見を出し合って審議して合議する場です。利益が違う者同士が意見を出し合って妥協案を見つけていくことは民主主義のプロセスだと思いますが、審議会に出席している人たちは、それぞれの利益者を代表して発言されています。これ自体は正しいことですが、果たして国民全体の利益を考えて発言できているか、ということに注意しなくてはいけません。国民全体を見て何を一番優先すべきなのか、何が今求められているのかということを最も議論できるのは、患者代表だと思います。いろいろな人が意見を言う時、旗振りや信号機の役目になるのは、患者会や患者委員だと思います。
 今後の患者会は市民主体の医療政策を実現していく上で欠かせない存在です。これからも、審議会等で患者参画の機会は増えていくと思います。その時に、代表者を生み出すのが患者会です。
 市民医療協議会はそのような時代の要請に合わせて、果たすべき役割を見いだしていきたいと思っています。注意しないといけないのは、患者リーダーの意見をこちらが決めたりしないことです。患者会が求めているニーズを常に聞き、求められている役割をわたしたちがこなしていく。時代が変われば、彼らの求めるニーズも変わってくるかもしれません。そうすればわれわれの行う活動も変えていくというフレキシブルな対応が必要だと思います。


更新:2008/11/14 16:47   キャリアブレイン

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