今年秋の日本移植学会は、医学生による討論会を初めて企画した。臓器移植法施行から10年以上経過したが、健康な人だけでなく、医療界ですら関心が低いのが開催の動機だ。学生が、海外渡航して移植を受ける実態や家族の同意などを話し合った。【関東晋慈】
討論会には5医科大の学生20人が参加。約3時間、移植を巡る現状や課題を議論した。
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自治医大の学生は、移植に対する医療界の関心の低さを示す日本小児科学会のデータを紹介した。それによると、01年4~6月、インターネットで会員約1万6000人を対象に小児の脳死臓器移植についてアンケートしたが、回答したのは98人だった。脳死移植の必要性では「移植の前に小児救急の体制を整備すべきだ」という意見もあった。発表した和田吉生さん(5年)は「小児科医ですら小児での脳死移植に関心が低い現状を如実に示した」と指摘した。
東京女子医大の石原千尋さん(1年)は、学会直前に見た映画に触れた。東南アジアでの臓器売買を目的とする幼児の人身売買を描いた。特に、少女が売買された後に臓器が摘出され亡くなるのを暗示するラストシーンが強く印象に残ったという。
厚生労働省研究班が06年にまとめた調査では、渡航して腎移植を受けた日本人は確認されただけで198人。このうち中国が106人、フィリピンが30人。石原さんは「日本人らはアジアの子どもの人権を踏みにじっていないか」と提起した。
中国人の臓器提供者を日本人に営利目的であっせんしていた日本の団体代表に臓器移植法違反の疑いが発覚した。海外移植が絶えない背景には、日本での移植件数が少なく、希望者が移植を受けられないことがある。
昨年、日本で実施された脳死心移植は10件だが、米国では年間2000例以上、韓国では28例(99年)、台湾で41例(同)ある。
東邦大医学部の学生は脳死に賛成か反対かについて、約270人の学生にアンケートした。「分からない」「必要だが自分では提供を受け入れられない」などと消極的な意見が目立ったという。山田健太さん(5年)は「死への想像力の欠如」「他人の事に無関心という国民性」などが原因と推測した。
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医療現場で対応の難しさを感じた学生もいた。京都大医学部の数馬安浩さん(5年)は院内実習での経験と文献から臓器提供者(ドナー)の同意のあり方に3種類あると紹介した。
まず、家族への愛情に基づく「無条件の同意」だ。しかし、実習中に、妻に肝臓の一部を提供した夫から聞かされた言葉は「息子はドナーになることを拒み、娘は嫁入り前で傷を残せない。僕がドナーになるしかない」だった。決断の背景に、さまざまな葛藤(かっとう)がある。
二つ目は明らかな強制はないが良心の呵責(かしゃく)などによる「圧力を受けた同意」を挙げた。
最後に、遺産相続の放棄を条件とするような愛情だけでない「隠れた動機のある同意」も紹介した。「自発的な意思を確認したとしても、家族内の圧力を医療スタッフが把握できているだろうか」と数馬さんはまとめた。
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討論会を企画した小林英司・自治医大教授(移植・再生医学)は「日本に必要なのは自己決定のための正しい知識の普及だ。その取り組みを将来の医療を担う若者から始めたい。年度内にも各地で開催し他国の学生の参加も促したい」と話す。
一方、大阪保健福祉専門学校の大澤裕司講師(社会学)は「日本では、家族間での生体移植が日常的な医療になりつつある。家族や家族愛は美化されるか感傷的に響く風潮があり、本質が埋もれてしまう。当事者間だけの議論にしてはいけない」と訴える。
毎日新聞 2008年11月14日 東京朝刊