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2008年11月12日

【ガッシュ訴訟】11/11 和解成立しました。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081112k0000m040029000c.html
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn/20081112/20081112-00000924-fnn-soci.html

1 被告は、原告に対し、原告所有の漫画原稿を紛失したことにつき、謝罪する。
2 被告は、原告に対し、本件和解金として金255万円の支払義務あることを認める。

これが、和解内容の骨子です。一応、勝訴的和解と考えてよろしいかと思います。

この和解で、私たちが目指したものは、大きく3つありました。
一つは、謝罪文言を入れてもらうこと。
一つは、できるだけ高い賠償金額を支払ってもらうこと。
一つは、漫画原稿の美術的価値について、そして、今後の賠償基準について共同提言を行うこと。もし、これができない場合には、【美術的価値】という言葉を、和解文言に盛り込んでもらうことでした。

まず、謝罪文言を入れることについては、上記のとおり、満足のいく結果になりました。和解調書に、謝罪文言を入れることはむしろ稀なこともあり、しかも、「陳謝」「遺憾」などという曖昧な言葉ではなく、「謝罪」という文言を入れることができたのは、良かったと思います。

次に、金額面ですが、これは小学館が値切ってきたというわけではありません。
第1回の和解期日の時に、こちらから提案した金額でした。美術的価値から換算される原画一枚の価格を算定するのは、確かに難しく、仮に裁判上の鑑定になったとしても、納得できるような金額が出てくるかといわれると、保守的な裁判所の思考からすると正直なところ疑問符でした。であれば、将来の同種紛争の基準になるべく、賠償基準についての提案をし、その基準に則って算定した金額を和解金額として示そうということに、雷句氏と相談して決めました。それが255万円という金額です。
残念ながら、算定基準の内容(255万円の内訳)については、口外しないという前提での和解になりましたので、申し上げられませんが、決して不合理な金額ではないと考えておりますし、一応、こちら側が申し出た金額を小学館が受け入れたという意味で、8割方満足な結果だったと思います。
内訳を明示できなかったことは残念ですが、それでも、単純計算すれば、カラー原稿1枚あたり51万円の賠償額が払われたことになり、そのような前例ができたという意味では、意義のあることではないかと考えています。「原稿なくしたら、ただでは済まされないぞ。裁判も辞さないし、こういう前例もあるぞ。」ということが言えるだけのものは作れたのではないか、と思います。

最後に、共同提言です。
実は、平成6年に東京地裁で和解に至った、矢沢永吉そっくりCM事件というのがあり、そこで行われた共同提言を参考に、本件について下記の共同提言を作ってみたのです。

                            記

(1)創作者の創造性が作用する社会活動においては、関係者が創作者個々人の創造性・オリジナリティに敬意を払い、これを尊重する風土を確立することによって、文化の健全な発展の基礎が形成される。殊に、漫画出版の場合には、漫画の原稿そのものが商品化するのに不可欠のものであり、かつ、漫画のストーリーと相俟って、漫画そのもののもつ視覚的印象に美術的価値があるのであって、これらに携わる者は、これらの価値を見いだした創作者の意向を十分に尊重する姿勢が必要である。
 (2)我々は、漫画原稿が出版社において扱われる場合には、法律上又は倫理上、次のようなルールが守られなければならないと考える。
   一 出版社は漫画原稿を預かった場合には、その原稿の価値を尊重し、善良なる管理者としての注意義務を持って、それを管理しなければならない。
   二 出版社が預かった原稿については、出版できる状態、つまりポジフィルム化した段階で、速やかに漫画家に返却し、必要以上に原稿を管理してはならない。
   三 (この項目には賠償金の倍率設定が入っていましたが、今回の和解内容にて、「金額の内訳を公開しない」との約束が入っていますので、ここでは公開する事はいたしません。) 

これができれば、そのまま新聞等に記事掲載していただき、後世に残る基準になるわけですから、ただ判決をもらうよりも数十倍有意義なものになると思い、雷句氏とともに頑張ってきました。
小学館もこのような共同提言を行うことによって、出版界をリードする立場にもなるわけなので、決して不利益なことではないどころか、今回の汚名を挽回するチャンスにもなったであろうに、大企業特有の論理からか、実現できませんでした。残念です。

美術的価値の文言についても、裁判所からも、相当小学館に対してプッシュして頂いたのですが、折衷案として「原告が主張する美術的価値のある漫画原稿」という限度で入れるというものが出てきました。しかしながら、このような中途半端なものを入れるよりは、この美術的価値は文言にはなくても、金額に反映されていると考えることは、誰もが判断できるであろうことを考え、あえて省くこととし、上記のような和解条項となりました。

最後の点は、確かに苦渋の選択でした。しかしながら、最後に和解をして終結させる決意をしたポイントとしては、判決で「美術的価値」が仮に認められたとしても、今回の和解金額よりは相当低額になるであろうこと(通常、価格賠償がなされれば、慰謝料支払の命令は出されないこと、裁判所の鑑定が非常に保守的であること等)を考えると、とりあえず、こちら側の提案する金額を小学館が受け入れたことと、1円でも高額な賠償金の支払いを小学館にしてもらい、原画紛失に対する高額賠償支払いの前例を確実に作ることという点にありました。
雷句氏にも、「意義のある裁判だった」とのコメントを頂いていますので、判断は間違いではなかったと思います。

今回、一漫画家が、小学館という巨大企業に対し、果敢にも戦いを挑みました。しかも、出版社を敵に回すわけですから、他の出版社に対しても、悪い印象を与えかねないという、大きなリスクを背負っての戦いでした。誰もこんな戦いができずに、泣き寝入りをしてきた中で、雷句氏が声を上げました。それに共感をして、たくさんの雷句氏のファンの方、漫画愛好家の方、プロの漫画家の方が声援を送ってくれました。
権利のための闘争のために、勇気を持って果敢に立ち上がった雷句氏に拍手を送りたいと思います。また、そのような雷句氏のお手伝いができたことは、弁護士冥利に尽きると思っています。

これまで応援して頂いた皆様、ありがとうございました。

投稿者 ono : 2008年11月12日 11:07

コメント

大事な宣言書で、「汚名を挽回」と言っちゃうのは、少々カッコワルイですね。

投稿者   : 2008年11月12日 14:52

お疲れ様でした。
色々と残念な点はあったようですが、
雷句氏側の提案した金額で和解成立したなら何よりですね。
今後、このようなことが無くなるとよいのですが。

投稿者 カズやん : 2008年11月12日 19:33

本当にお疲れ様でした。

雷句先生にも、小野さんにも、拍手を送りたい気持ちでいっぱいです。

そして、一人の漫画好き、ガッシュファンとして、お礼が言いたくって仕方ありません。

本当にありがとうございました。

雷句先生と小野さんだからこそここまでの結果を残せたのだと思います。

これから、漫画・出版界が明るくなることを祈ってます。

投稿者 ちゃいむ : 2008年11月12日 23:36


「誰かが立ち上がらなかったら、まんがの価値やまんが家の存在意義はどんどん下がっていってしまう」
そういう意味でこの裁判は考えさせられるものがありましたね

投稿者 希美 : 2008年11月13日 13:07

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