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von_yosukeyan (3718)

von_yosukeyan
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他人の不幸をメシの種とする狂信的市場原理主義過激派タレコミニスト
すべての事象は神の見えざる手に委ねられている。抵抗は無駄だ
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  • 2006 年 11 月 03 日
    AM 05:45
    お金 http://www.fin-bt.co.jp/comment355.htm

    東京証券取引所の次期システム開発が、本格的に開始されるようである。09年を目標に、総投資額数百億を投じる計画だというから、現在進行中の大手銀行の基幹系更新とまではいかなくても、かなりの額の案件である

    個人的には、ベンダーは動き出しているという話を聞いているので、ベンダー選定が終了していないわけではないと思ったりするのだが、記事にもあるようにNYSEとの提携とシステム共同開発というのは、この次期シス開発には含まれていない。どうも、海外とのシステム開発の共同化というのは一部の声のでかい人たち(いわゆる評論家)の中ではかねてからあったのだが、日本の株式取引制度から見るとちょっと難しいと思ったりする

    そいういう声のでかい人たちの中で、実に有害な主張を振りまいている筆頭として挙げられるのが大前研一である。氏が日経BPで連載している企業リスク対策の記事の中で、数度に渡り、実に間違った主張を繰り返していて、個人的にはうんざりしているのだが、氏の主張の間違いについて触れながら、わが国の証券取引所の抱える問題点について検討してみたいと思う

    1)メインフレームはレガシーではない
    大前は、記事でよく「レガシー」という言葉を使い、「東証」「三菱東京UFJ」などはレガシーであり、「パッケージ」を採用すべきだと主張している。「レガシー」の定義が定かではないが、文章を読んでいるとメインフレームを採用した集中型システムの非難であることが読みとれ、「パッケージ」とは、欧米で採用されているベンダーが開発した、オープン系システム上で稼動する分散型のシステムの事を指しているようである

    確かに、東証のシステムはメインフレーム上で稼動しているが、システム自体は分散型のシステムである。具体的に言えば、売買系で採用されているメインフレームは、富士通製のGS8900系とGS21系を並列シプレックス接続でクラスタリングしたもので、膨大なオンライン処理をさばくために、半導体ストレージを外部増設している極めて規模の大きいシステムである。厳密に言えば、東証ではなく日本クリアリング機構が運用している清算系システムは、今年の1月にAIXベースのシステムに更新されていたが、ライブドアショックの時点では日立製のメインフレームベースで稼動していた古いシステムがあった

    世界的に見ると、NYSEもIBM製のメインフレームを使用しているし、シカゴ商品取引所など世界各国の証券・商品取引所でも、メインフレームは広範に採用されている。いずれも、IBM製のメインフレームや、Nonstop、ストラタスなどのフォルトトレーラント機能を有した超並列サーバが使用されている。これらは、どちらかというと(オープン系から見れば)メインフレームに分類される高可用機で、サーバを分散させるクラスタリング運用が行われている

    どうも、メインフレームというと集中型システムを想像する人が多いようだが、メインフレームのクラスタリング技術は、オープン系サーバで採用されているものよりも数世代進んでいる。IBM用語で「並列シプレックス」と呼ばれていたりするが、OSやハードウェアレベルでクラスタリングをサポートし、ハードウェアを増設した分、リニアに性能が上昇し、かつOSやハードウェアの世代が異なっていてもクラスタリングが可能である(ただし、同期を取るために専用のハードウェアを必要とする。このハードウェアはメインフレームそのもので非常に高価)。これに対して、オープン系サーバで採用されているクラスタリング技術は、RDBMSやミドルウェアが同期を取る仕組みで、ハードウェアを増設してもリニアに性能は上昇しないし、クラスタリングはソフトウェア上に限定される

    メインフレーム上のクラスタリング技術は、すでに15年近い歴史と実績があり、証券取引所だけでなく、銀行や証券会社などの金融部門、電話会社などの通信、防衛などの分野で高い実績を誇っている。オープン系システムでこれを実現するには、処理能力や可用性に対して、ある程度のトレードオフが必要であり、すぐに代替できるような性質であるとは言いがたい

    一方で、そういったプラットフォームの上で稼動する、アプリケーションの開発をパッケージによって解決可能であろうか? 大前は新生銀行の事例を出しているが、取引所で採用されるシステムの「パッケージ」というのは、大抵は私設取引所で採用されているシステムのことである。やはり、フォルトトレーラント機や、UNIX、Windowsなどで稼動するシステムだが、こう言ったシステムは取引量が少ない私設取引所では有効であっても、膨大な処理を行う東証のシステムにはとても採用できない

    しかも、パッケージというのは、基本的な機能は実装していても、取引所固有の機能の実装に非常に手間がかかる。現に、大前が例に出している、新生銀行で採用されたFlexcubeにしても、邦銀の勘定系パッケージでは通常ある、通帳や全銀との通信機能といった機能が実装されておらず、これらの追加に膨大な工数を必要とした。新生銀行の場合には、商業銀行で必要とされる業務をかなり絞って実装しているので、構築費用は安く済み、工数も比較的少なく済んでいるが、地銀や都銀で必要とされる業務をパッケージ上に実装するのは、途方もなく費用と工数を必要とする

    パッケージを採用する最大のメリットは、第一にゼロから構築するよりも出来合いのものを採用した方が安く済む場合であり、第二に業務をパッケージに合わせて最適化したい場合の二つである。前者は、これから取引所を開業する場合の話だろうが、東証はこれには当てはまらない。後者は、東証の取引慣行を海外に合わせることを意味する。では、東証の取引慣行というのは世界的に見てどの程度「特殊性」を有しているのだろうか?

    2)「板寄せ」「場立ち」といった制度は流動性を確保するための制度である
    東証は、80年代末から90年代にかけて場立ちの取引制度と、電子取引を融合させた取引制度に移行し、98年に売買系システムを更新した際に場立ちを完全廃止して、電子取引だけに絞った。大前が指摘する「場立ちを電子化しただけの取引システム」というのは、この90年代初頭に導入された日立製メインフレームで稼動するシステムのことで、現在の取引システムは富士通製メインフレームで稼動する第二世代のシステムになっている

    こういったシステム更新の際にも、東証の取引制度の中に板寄せの取引慣行は残っている。東証の取引制度は、オークション方式と板寄せ方式の二つを混合させた取引で、始値と終値の決定に、取引注文を積み上げて取引条件を合わせる板寄せ方式で値を付ける制度となっている。これは、商品取引所では一般的に行われている取引方法で、商品取引所では一定時間(大体は1時間)ごとに、板寄せで値を決めて取引を行う。東証の場合には、板寄せ取引は始値と終値だけで、場中はリアルタイムに取引を行うオークション方式(ザラバ方式)を取る

    こういった二つの取引方式を混合させている最大の理由は、日本株の流動性の低さが要因である。オークション方式が機能するためには、売り手と買い手の双方がある程度存在して、かつ取引数量の偏りが少なくなければならない。しかし、日本株(東証で上場されているものだけで約2300銘柄)の大半は、日経225に採用されている大型株の取引が中心で、その他の上場株の取引は日中でも非常に薄い。ただでさえ、取引が成立しない「値付かず」が多いのだが、始値や終値といった日中の取引の初期の段階で、ザラバ取引中の目安となる価格が決まらないと、なかなか取引がはじまらない

    そこで、始値と終値に限って、板寄席方式で価格を決定し、ザラバ取引を円滑に行うことを目的としたのが東証の板寄せ・オークション方式が混合した取引方法である。つまり、株取引というのは、取引システムや参加者が存在するだけではうまく機能せず、取引の方法を工夫することによって、適切な流動性や指数を与えて、取引を即す「流動性の提供」が非常に重要になる。

    なお、NASDAQでは、マーケットメーキング方式と呼ばれる、別の取引方法が採用されている。MM方式は、マーケットメーカーと呼ばれる証券会社が、特定の銘柄に対して流動性を供給する「義務」を負っている。取引者は、マーケットメーカーを通じて取引することで、連続的な価格指数と、いつでも取引できるという流動性を確保することができる。NASDAQでは、取引の多い銘柄ではマーケットメーカーではなく、直接売り手と買い手が売買する取引がほとんどだが、取引が少ない銘柄でも取引が必ず成立するという流動性の高さが、新興市場では必要なのである。なお、日本のJASDAQではMM方式とオークション方式の混合方式を取っている

    大前が東証の取引方式と同じように、時代遅れと強く非難しているNYSEの場立ち取引も、実は流動性の確保が目的である。NYSEでは、フロアトレイダーという仲買人が、かつての東証のように巨大な取引フロアの中で叫び声を上げながら取引しているという光景が今も一般的である。フロアトレイダーは、NYSEの会員権(立会所で直接注文を出す権利。かつては東証もNYSEも共同組織で、会員権は取引する権利と同時に株式会社における出資の双方を意味していた)を持っている。そして、フロアトレイダーは、取引をスペシャリストと呼ばれる特別の会員を通して売買を成立させる仕組みである

    スペシャリストとは、MM方式に少し似ていて、特定の株式の値付けを担当する会員のことである。スペシャリストは、フロアトレイダーや、売買システムを通じて出された注文を積み上げ、株式の値付けを行い、流動性を供給する役目を負っている。スペシャリストが存在することによって、株式に対して適切な流動性と指数性が確保されるわけで、NYSEではスペシャリストの存在なくしては株の取引ができないわけだ

    NYSEは、スペシャリストが流動性と指数性を提供するために、東証にあるようなストップ安やストップ高といった制度や、板寄せのような異なる売買方式ではなく、オークション方式だけで運用されている。スペシャリストが行っているのは、板寄せに近い作業ではあるが、小口の取引(1099株以下)は直接電子売買システムであるDirect+というシステムを介して取引される。NYSEで取引される9割の取引は、SuperDOTと呼ばれるシステムを会してスペシャリストにまとめて注文が転送されるか、大口取引の場合にはフロアトレイダーを通じて直接スペシャリストに注文が伝えられる

    ライブドアショック時に、NYSEのシステムの応答速度と東証のシステム応答速度の差について、いろいろと非難が集中したが(例えばここなんかがまとまっている)、NYSEのシステムとして例が挙げられたのは、実は2000年に稼動した小口取引を中心とするDirect+の取引応答速度のことで、NYSEの取引全体の速度が東証よりも早いわけではない。むしろ、NYSEで大口注文を出した場合には、必ずスペシャリストを通すので、売買速度が遅いことがここ10年ほど問題になっており、注文を小口に分けてDirect+経由で処理させるような注文を出したり、私設取引所を通した取引が急増する要因となっている。大前研一は、NYSEが私設取引所の買収に走っている理由を、私設取引所が導入したシステムが欲しいからだ、という実に馬鹿げた主張を行っているが、NYSEは速度の速い電子売買取引の拡大に脅威から、これらの買収を行っている訳で、システムが欲しいわけではない

    #関係ないが、先に挙げたtalogue.netの中の人も、同様な認識の根本的な間違いがある。約定件数がHDDに左右されるという認識だが、メインフレームではメモリーをストレージと呼び、固定記憶媒体としばしば混同されることがあるが、これらの問題の諸因となっているのは固定記憶媒体の容量ではない。また、メインフレームだろうが、NonstopだろうがSuperdome(Powerd by HP-UX/VMS/Windows Sever)だろうが、適切に設計されてないシステムならどうしようもない(前述した通りメインフレームのクラスタリング性能は非常に高い。お値段も高いケド)。前にも本日記で指摘したが、構築コストの面で言えばメインフレームとオープン系の価格差は、ハードウェアのイニシャルコストくらいの差しか出ず、構築工数は汎用の巨大なミドルウェアを使わない限り大して差ができない

    3)取引を処理をするのはコンピューターであっても、取引を行うのは人間である
    大前はさらに、東証のシステムに昼間の取引中断時間が存在するのは、場立ちの名残であり廃すべき取引慣行であると論ずる。しかし、取引が電子化されても、取引を行うのもまた人間である。大前は、トレーダーに昼飯も食わさないつもりか?

    #ボキュも大好きな、オリバー・ストーン監督『ウォール街』で、悪のブローカーにしてスーパースターのゲッコーは「昼飯を食うのは弱虫だけだ」と言わせたが、ボキュは弱虫なので昼飯はちゃんと食べます。それにしても、ゲッコーは最高にイカス野郎だ

    4)株式「取引」と「清算」は違う
    別のところで、大前は第三世代システムとは、取引とクリアリング処理を同時に行うシステムであると述べ、ライブドアショック時の問題点の指摘でも、取引システムと清算システムを混同して論じている。取引システムは、株式売買の仲介を処理するオンラインシステムのことであり、ライブドアショック時に問題になった清算システムとは異なる。清算システムは、株式の売り手と買い手が、売買した取引の対象となる株式の受け渡しと、代金の計算を行うバッチ系のシステムを言う

    このシステムは、日本クリアリング機構が運用しているシステムで、かつては東証の一部門として運用されていた。現在は、全国の取引所の売買清算を一手に引き受けており、90年代初頭に東証の売買システムが構築されたときに、売買システムと共に日立製作所がシステムの構築ベンダーに指定されている

    このシステムは、本来98年の売買システム更新時にシステムが更新されるはずだったが、予算の都合で更新が先送りされ、更新されたのはライブドアショック直後の今年1月末になってからだ。東証のシステム投資は、証券不況の影響で先送りされながらも、売買システムの能力増強は断続的に行われており、処理上限がまだまだあった清算系システムの更新が先延ばしにされてきたという事情がある。バッチ系である清算システムの規模が小さかったことが問題の背景であり、システム更新が遅れた責任は東証とクリアリング機構の双方にあることは確かだが、売買システムの問題に絡めて論じるのは少し違っていると思う

    さらに、「クリアリングシステム」というと、クリアリング機構が運用する清算システムだけを示すものでない。証券決済とは、清算系システムが処理した清算データを、「株式の受け渡し(証券決済)」と「代金の決済」の二つが行われて初めてクリアリングシステムと呼ぶ。証券決済を担当するのが、証券保管振替機構の口座振替簿システムであり、代金決済を行うのがクリアリング機構が指定する清算銀行と呼ばれる、七十七銀行(日本橋支店)、みずほコーポレート銀行(兜町証券営業部)、BTMUFJ、SMBC、りそな銀行の5行である。大前のいう第三世代のシステムとは、全く意味がわからない

    おそらく、大前が述べているのは証券取引のSTP化のことであろう。STPとは、取引の発注から、クリアリング処理やカストディアン業務までを、標準的な電子フォーマットによる通信で処理することで、取引システムやクリアリングシステムの単体の話ではない。STP化の話が話題になっているのは、海外の証券決済は、取引日から起算して5日目に受け渡し処理を行うT+5で処理されている場合が多く、米国では近年T+3化されたが、こういった証券決済の人為的なフェイル(決済不能)要因を回避するためにSTP化が叫ばれている

    しかし、わが国においては戦後直後からT+3で証券決済が行われており、その後の電子化の進展は欧米よりもはるかに早く、高度に進んでいた。むしろ、日本でSTP化の必要が叫ばれているのは、個々の金融機関やシステムで標準化されていないデータフォーマットを統一して、投資コストを削減するのと、将来的なT+1化(翌日決済)に向けた対応、そして増大するクロスボーダー取引(海外から、または海外での証券注文)の合理化に向けた要因が大きい

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    以上のように、日本の証券取引制度の抱える問題点は、株式取引の流動性を確保するために独自に発展してきた制度がネックになっており、流動性を確保しながら、高速で安定した売買システムを同構築するのかというきわめて深刻で大きな問題が存在する。大前が述べるように、海外の取引制度や技術的な解決という技術原理主義的な解決方法は取れないのは当然である

    東証の次期システム開発においては、こういった制度面の問題に関しては原則的に手をつけないようだが(一時は特別気配値や比例配分、板寄せなどの廃止も提言されたが、全くもって非現実的な話だ)、次期システムで採用が予定されているのは、fin-btが指摘しているように巨艦主義的な、巨大なミドルウェアと単一的な売買システムで構成されており、やはり大前とは違った意味での技術原理主義的な解決方法に思える。証券取引に限らず、社会システムの問題点を解決するのは、採取的にはシステムのボトルネックを探し出す社会工学的な立場と、テクノロジーの双方であって、他で成功しているテクノロジーを盲目的に導入する技術原理主義は極めて危険な結果をもたらす

    東証は、長い間行政の証券規制の中において、売買制度や取引情報システムの改良に対して自律的に判断する能力を持っていなかった。証券会社も、そういった東証や規制当局に依存して、取引システムを全面的に東証に依存する集中体制を許容してきた。NSAなどのネット証券が、東証や証券業界に反発して夜間取引などの私設取引所の開設を急いでいるが、それも東証一極体制に対する単純な反動にしか思えず、本当に流動性と価格的公平性を確保した第二市場を形成できるのか、いささか疑問に思っている

    ただ、こういった試行錯誤が結果的に証券市場の広がりを形成することは確かのような気がする。長い間放置されていた問題が、ジェイコムショックやライブドアショックで顕在化したからといって、盲目的な技術的な対応で、すぐに解決できるという性質の問題ではない。大前が絶賛する海外の事例にしても、各国で長い間試行錯誤を続けた結果、形成された制度であるのだから…。
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