かけ声倒れにならぬことを切に望む。地方分権改革の当面の焦点である国の地方出先機関の見直しが近く山場にさしかかる。麻生太郎首相は政府の地方分権改革推進委員会に対し、国土交通省の地方整備局、農水省の地方農政局という大組織について廃止も含めた抜本見直しを指示、同委もこれに沿う調整を進めることを確認した。
麻生政権にとって年内の決着を迫られる重要案件だが、首相が音頭を取り作業が進むことになったのはひとまず前進と言える。ただ、各省の出先機関を単に統合する「衣替え」でお茶を濁すのであれば、ごまかしだ。国が握る事業や人員を自治体に移す分権の本筋を外れてはならない。
国家公務員32万人のうち出先機関の職員は21万人を占める。出先の業務は自治体と重複したり、国会や住民の監視が届きにくい。このため分権委は見直し作業を進めているが、身を削られることを拒む中央官庁は激しく抵抗している。
とりわけ国道、河川業務などを行う整備局は人員2万2000人、年間予算約8兆円、土地改良、農産物統計などを行う農政局は人員1万5000人、年間予算約1兆1500億円とそれぞれ規模が大きい。整備局は道路財源のムダ遣い、農政局は汚染米のずさん監督でそのあり方が厳しく問われた。両組織に照準を合わせることは正解だ。
とはいえ、実際に廃止するには大きな困難が伴う。政府がさきに決めた分権要綱では、国道の整備・管理を地方に移す割合は「15%以上」にとどまる。農水省が握る大規模農地を住宅地などに転用する許可権限の都道府県への移譲も、同省の抵抗で結論は先送りされた。事務・事業を飛躍的に上乗せして地方に移す道筋を描かなければ、とても廃止はおぼつかない。
一方で分権委には、出先機関を縮小したうえで地域ブロックごとに府省の壁を越えて統合し、新機関に衣替えする意見もある。徹底的な合理化を前提としなければ、北海道開発局のような国の巨大拠点を各地に新設する愚行となりかねない構想だ。首相の言う「統廃合」の検討がこれを意味するのなら、くれぐれも慎重に対応すべきである。
首相の決意が果たしてどこまで本物なのか、政府・与党や自治体には早くも冷ややかな受け止めもある。道路特定財源の地方への1兆円移譲をめぐる混乱も含め、結局は竜頭蛇尾に終わりかねないとの見方が地方側にはつきまとう。
分権委は来月上旬、出先機関見直しに関する勧告をまとめる。解体に本気で取り組めば、中央官庁のみならず、族議員がつぶしにかかることは確実だ。
そのときに分権委が孤立無援では、立ち往生しかねない。この改革についても、首相は自らの指示に責任を持たねばならない。
毎日新聞 2008年11月14日 東京朝刊