直木賞作家角田光代さんの小説「太陽と毒ぐも」は、恋人たちの日常と小さないさかいを軽妙なタッチで描いた恋愛短編集だ。作品にはさまざまな性癖をもつ人物が登場する。
その中の一編。罪悪感もなく万引を繰り返す女性と、同居する男性フリーターとの生活が紡ぎ出される。万引した日用雑貨や食品に囲まれて暮らす日々。男性には罪の意識があるが、女性は意に介さず、まるでゲーム感覚だ。
万引といえば、若者の犯罪といったイメージがつきまとう。しかし、最近は高齢者の万引が急増しているようだ。法務省がまとめた今年の犯罪白書によると、交通人身事故を除く一般刑法犯で検挙された六十五歳以上の高齢者は、昨年一年間で約四万八千六百人。この二十年で五倍も増えた。
最も多い犯罪が万引などの窃盗だ。全体の65%を占める。男性の場合は「生活困窮」が主な動機。切ない実態が透けて見えるようだ。女性は「盗んだものが欲しかった」「節約」などを理由に犯行に至る例が多い。
独り暮らしや、親族とも疎遠な高齢者が増える傾向にあるという。地域社会での人間関係が希薄になる中、孤立感を深める高齢者の姿が浮かび上がってくる。
高齢者を社会から孤立させないよう、物心両面で支援する地域の取り組みが問われている。