政府の追加経済対策の目玉とされる総額二兆円の定額給付金について与党は、給付額を一人当たり一万二千円とし、所得制限を設けるかどうかは各市町村の判断に委ねることなどで合意した。名称は「定額給付金」とし、年度内実施を目指す。
合意した主な内容は、十八歳以下の子どもと六十五歳以上の高齢者には一人当たりの給付額に八千円を加算する。給付金に要する総額は国が各市町村に交付する。所得制限を設けるか否かは市町村が実情に応じて交付要綱で決める。制限を設ける場合は年間所得が千八百万円を下限とする。制限には法的拘束力を持たせず高額所得者に辞退を求めることも可能にすることなどである。
それにしても、迷走ぶりには開いた口がふさがらない。麻生太郎首相は十月三十日に追加経済対策を発表した際、定額給付金を「全世帯に支給する」と明言した。しかし、高額所得者を含めることへの疑問を呈されると一転して所得制限に理解を示した。その後、窓口となる市町村などから「事務が煩雑になる」との批判が出され、所得制限の有無や高額所得者の辞退論など内部で論議が錯綜(さくそう)した。
今回の与党合意について、河村建夫官房長官は「具体的な動きが出れば喜んでいただける」と自信を示す。だが、合意内容は各方面の批判への場当たり的対処の印象が否めない。すっきりした解決どころか、複雑さを増した感じだ。
最たるものが、所得制限の有無を市町村任せにした点だ。手間がかかるとの市町村側の反発と、制限をなくすことによる「ばらまき」批判への懸念を考えたのだろうが、市町村で判断が異なれば不公平感から住民の不満や混乱を招きかねない。責任逃れといわれても仕方あるまい。
一連の経緯からは、国民受けのすることを威勢よくぶち上げて衆院解散・総選挙を狙った首相の筋書きが崩れ、具体的な制度づくりが追いつかない状況をうかがわせる。
一体何を目指すのか政策の方向性が明確でなければ、効果はおぼつかない。政府は追加経済対策を「生活対策」と銘打っている。ならば生活支援にもっと軸足を置いた内容にすべきだろう。そのためには困窮している低所得層を重視するとか、検討される支給方法も容易に手元に届く仕組みにすることが求められる。
何よりも追加経済対策の裏付けとなる二〇〇八年度第二次補正予算案の提出が急がれる。早期に編成して示し、与野党が施策のあるべき姿をめぐり論議を深めなければならない。
建材用の亜鉛メッキ鋼板をめぐる価格カルテル事件で、公正取引委員会は、独禁法違反(不当な取引制限)の疑いで、日新製鋼など鋼板メーカー三社を刑事告発し、東京地検特捜部が本社などを家宅捜索した。
特捜部や公取委の調べによると、日新製鋼などは、二〇〇六年四月ごろ、商社経由で全国の問屋に販売する亜鉛メッキ鋼板を七月出荷分から一キロ当たり十円値上げするカルテルを結んだ疑いが持たれている。
各社は〇二年から〇六年まで五回にわたって、営業担当部長らでつくる「部長会」などで鋼板の値上げの幅や時期について事前に調整したことが分かっている。鋼板の安売りにも目を光らせたという。
特に後半の時期は北京五輪を控えた中国の需要増に加えて資源価格高騰を背景に、国内の鉄鋼業界の好景気が伝えられたころである。企業の好業績の裏に不正な商取引があったとしたら許すことはできない。
鉄鋼業界は、過去にもステンレス鋼板のカルテルなどで課徴金納付を命じられている。公取委が告発を決断したのは課徴金だけでは根深い不正体質の根絶は不十分と判断したためだろう。今後、全容解明は検察に移るが、業界のウミを出し切る徹底した捜査を望みたい。
今回の告発では、改正独禁法で導入された課徴金減免制度が大きな力となった。カルテルに参加したJFE鋼板は、自主申告し告発を免かれた。ほかの企業も課徴金の減額を意識し、公取委の調査などに協力姿勢を示している。もはや不正を隠し通すことはできない。
不公正な取引で利益を上げようとすれば、いずれ市場から退場を迫られることを肝に銘じ、会社を挙げて法令順守の徹底に取り組む必要がある。
(2008年11月13日掲載)