産科医や小児科医の絶対数が足りない中、改革に乗り出した札幌市を取材しました。
受け入れる病院がないため、出産を控えた女性が命を失う悲劇が起きる中、産科医や小児科医の絶対数が足りない中で、今すぐにできる改革に乗り出した北海道・札幌市を取材しました。
妊婦の受け入れ先が見つからないという、医療機関の集中する東京が危機的な状況にある。
繰り返される悲劇を食い止める術はあるのか、産科救急の盲点を緊急検証した。
亡くなった妊婦の夫は「東京で、いくつも電話をかけても、なぜ受け入れてくれないのかという、やり切れない思いはありました」と話した。
10月4日、都内の妊婦が激しい頭痛を訴え、医師らが9つの病院に電話で搬送を依頼したが、受け入れ先はなかなか決まらず、3日後、妊婦は死亡した。
25年にわたり、産婦人科医療の最前線に立ってきた升田春夫医師は、妊婦の受け入れ先を医師が個別に探している現状に疑問を投げかける。
三枝産婦人科医院の升田春夫副院長は「1つの病院に電話をかけるのが数分だとしても、数カ所の病院にかければ、かなりの時間のロスになるわけです。こんなばかなことはないので、現場の医者は、現場をやらなくてはいけないんです。そういう仕事は、医者の仕事では、実はありません」と語った。
東京都が独自に運用する「周産期医療情報システム」は、リスクの高い妊婦の搬送について、各医療機関の受け入れ状況がリアルタイムで表示される。
妊婦の救急搬送は、基本的にNICU(新生児集中治療室)のベッドも同時に必要となる。
取材した当日、該当する都内24カ所の医療機関の大半が受け入れ不可の表示で、産科とNICU、両方のベッドが空いているのは、2カ所のみだった。
東京では、この情報システムを頼りに、医師が各医療機関に電話をかけて、受け入れを要請している。
三枝産婦人科医院の升田春夫副院長は「コンピューターで事足りているというふうに放ってあるわけですよ」、「この情報を使って、(搬送を)コントロールしていくということに関しては、別の誰かがしなくてはいけません」と話した。
人口およそ190万人の北海道・札幌市は、産科救急の危機を乗り切る対策を10月から始めた。
午後7時から翌午前7時まで、オペレーターを配置して、産科救急の受け入れ情報を集中管理する方式をとる。
助産師または看護師の資格を持つオペレーターが、医療機関とのホットラインで情報を確認し、夜間の受け入れ先を確保する。
これによって、医師が長い時間をかけて、自ら受け入れ先を探す状況は解消されたという。
市立札幌病院産婦人科の晴山仁志部長は「責任を持ったオペレーターが、ちゃんとした人がいてですね。きょうは、ここの病院が産科、それから新生児が受け入れ可能であると、ちゃんとわかっていれば、それは貴重なことだと思います」と語った。
またオペレーターは、妊婦からの相談電話も受けて、不必要な救急搬送を防止し、医療機関の負担軽減に効果をあげている。
10月だけで、181件の相談を受けた。
取材中、予測していなかった事態が起きた。
札幌市内の「NICU」がすべてふさがり、ハイリスクの妊婦を搬送する先がないという。
産科救急の中核施設である市立札幌病院では、9つあるNICUのベッドは、満床状態が続いている。
超未熟児が多く、体重が500グラムほどの子も珍しくないため、保育器で育てる期間は数カ月以上に及ぶ。
こうした事情から、NICUのベッドは慢性的にふさがっている。
オペレーターは、妊婦の搬送に備えて、NICUの空きを探し続けた。
札幌市保健福祉局医療政策課の田原伸一係長は「近隣でNICUを持っている苫小牧市立病院に相談しまして、お1人くらいであれば、何とか対応を。今のところはできると」と話した。
オペレーターが情報を管理することで、受け入れ先がすぐに決まる札幌方式は、医師は治療に集中でき、妊婦と赤ちゃんの体にとっても影響が少ない。
三枝産婦人科医院の升田春夫副院長は「その場、その場で現場の医者がやるのでは、あまりに無駄が多すぎます」、「ぜひ、その辺の認識を、行政側には変えてほしい」と語った。
東京は、現在も医師が個別に電話で受け入れを要請している。
オペレーターの導入も検討されているが、専門家の意見が分かれ、実施のめどはたっていない。
(11/14 00:22)